劇団扉座第78回公演 『歓喜の歌』横内謙介・犬飼淳治・高木トモユキ インタビュー
立川志の輔の創作落語を原作に、横内謙介が2016年に扉座公演として上演した『歓喜の歌』が、8年ぶりに再演される。11月24日に海老名市文化会館 大ホールで幕を開け、11月26日から12月1日までは新宿・紀伊國屋ホールの開場60周年記念公演として上演される。
ずさんな会館職員のやらかした最悪のダブルブッキングが、一皿の餃子によって歓喜のコラボレーションへと変貌してゆく。まさに笑いと涙のミラクル人情噺で、最後には壮大な合唱もあり、初演では観客席が歓喜に包まれた。
この物語の舞台となる「みたま市民会館」でダブルブッキングにアタフタする2人。会館の主任・山村役を演じる高木トモユキと、勤続30年の施設職員・加藤はじめ役の犬飼淳治に、作・演出の横内謙介を囲んで語り合ってもらった。
志の輔落語の3作を三題噺のようにまとめる
──この作品は8年ぶりですね。
横内 初演のときはシアターΧで公演したんですが、劇場のキャパが小さかったことで、観られなかった人たちから、「再演してほしい」という声が多かったんです。それに原作者の(立川)志の輔師匠も公演を観てくださって、「毎年上演してください」とおっしゃったぐらい喜んでくださったので、本当はもっと早く再演したかったんです。ただ、初演でメインキャストだった六角精児と酒井敏也さんのスケジュールがなかなか合わなくて、ここまで時が過ぎちゃったというのはあるんです。でも、そもそも話の構成自体が面白いので、六角と酒井さんみたいに面白い人たちじゃなくてもいいんじゃないかと。地方公務員の話なので、どこにでもいそうな2人でやってみようと思って、犬飼と高木で再演ということになりました。犬飼は初演には魚勝という役で出ていましたが、高木は今回が初参加です。
──高木さんは初演はご覧になりましたか?
高木 もちろん観ました。千穐楽では合唱団で出ていました。
横内 歌えないのにね(笑)。
犬飼 ちゃんと覚えてなかったよね(笑)。
高木 顔で歌ってました(笑)。
──犬飼さんは初演の思い出などは?
犬飼 出演以外にも各地で参加する合唱団の方々をリハーサルする係みたいなことをやっていたことや、季節が冬だったこともあって、行く先々が雪だったことが印象に残っています。
横内 この作品は大震災後の東北地方を元気にしたいという演劇鑑賞会との連係で立ち上がった作品でしたから、地元の合唱団に参加していただく形で上演したんです。そのおかげで各地で盛り上がって喜んでもらいました。
──物語は、志の輔師匠の落語の中から3作、退職祝いの鹿の首の話、市民会館のダブルブッキングの話、そして商店会の福引きの話を、うまく繋いで1本の話にしてあります。
横内 志の輔師匠もそれについて、先日もラジオ番組にうちの劇団員の砂田桃子を呼んでくださったときに、「途中で鹿の首の呪いとか出てきたときはどうなるんだと思ったけど、うまくまとめてくれて面白かった」とおっしゃってくれたそうです。これは落語の三題噺の形をとって、師匠の「歓喜の歌」と「ディアファミリー」「ガラガラ」をまとめたんですが、3作品の使用を快く許可してくださったことが、何よりも有り難かったですね。
普通の市井の人が巻き込まれていく面白さ
──今回主役を務める高木さんと犬飼さんについて話していただけますか。
横内 高木は劇団の公演はすごく久しぶりで、僕の中ではずっと新人だと思っていたけど、外部でいろいろキャリアを積んで、とくに2.5の舞台では最早ベテランの域なんです。だからそろそろこういう普通の人の役でも生活者の味みたいなものを出せるんじゃないかと。
高木 劇団公演は3年ぶりです。今、劇団員のみんなと一緒に稽古しているんですが楽しくて、しかも今までにないような役なので、すごく有り難いです。ただ六角さんのやっていらした役ですから、僕バージョンに少し書き直してくださっているのですが、それでもたいへんな役です。先日、ちょうど六角さんとお会いする機会があって、「お前の好きなようにやればいいんだよ」と言ってくださったんですが。
横内 たいへんだよね。それこそ六角と酒井さんの幻影と闘うわけだから。
犬飼 僕はとくにその公演に出ていただけに、イメージが強く残っているんですよね。でも劇団で先輩たちの役を再演で演じるという経験は何度もしていて、結局、同じようにはできないんだと悟ったので。
高木 それは僕も同じです。六角さんと僕では違いすぎるので、同じようにやろうとか考えないでいこうと。この脚本自体が面白いし、今回さらに横内さんが手を加えてくださっているので、僕が山村という役を一生懸命やれば、きっと面白くなるんじゃないかと思っているんです。
──志の輔師匠の原作もそうですが、出てくる人たちが普通の市井の人で、そのリアルさも含めて誰にでも「あるある」という面白さが詰まっていますね。
横内 山村や加藤だけじゃなく、会館で働く人たちもコーラスグループの女性たちもみんな生活があるし、出てくる人間たちがそれぞれ自分の中にある多様性というか、役割人格と本来の人格とがちょっと違ったりする。そういう人間の厚みみたいなものは、若い役者だとなかなか出せない。そういう意味では初演から8年経って、劇団員たちもそれなりの経験をしていますからね。高木なんて昔はパワー一辺倒で、大きい声さえ出していればいいと思ってたから(笑)。
高木・犬飼 (爆笑)。
横内 じゃあ力を抜いたらいいのかというと、抜いたら消えちゃうんだよね(笑)。居なくなっちゃう。でも今は抜いてもちゃんと居るから。
高木 よかった(笑)。
横内 犬飼にしても乱暴者とかアウトローが専門でもあるけど、本物のアウトローにもならず(笑)、生活者としてちゃんと生きてきた重みみたいなものがあるから、ちょっとヘンな人をやってもちゃんと人間の枠から崩れない。この作品は若い人だけでやると、登場人物のキャラが立ってるだけに記号化されちゃう。やっぱり普通の人が巻き込まれていかないと面白くない。志の輔さんはそういうところに目線の行く人だからね。そういう意味ではふたりとも変化があったから。
犬飼 この8年はコロナ禍もありましたから、言い方がヘンですけど人が恋しいというか愛しいというか、そういう気持ちになりましたね。
横内 幅広くなったよね。昔はアウトローを気どって破壊係になりたがるところがあったけど、今は自分たちのユニットもやってるし、築く人にもなっているから(笑)。
犬飼 そこはすごく良かったです。演劇を作るのってたいへんなんだなとしみじみわかりましたから。
扉座を40何年やってきて、一番誇れるのは「人」
──高木さんは外部での活躍が広がっていますが、やはり扉座というホームがあることは力になりますか?
高木 もちろんです。扉座があったから役者を続けてこられたので。今でも扉座公演に出るときは勉強をさせてもらってるという気持ちなんですよね。外ではもうベテランということで自由にやらせてもらえますし、少しでも評価されている部分があるとしたら、それは劇団のおかげですから。本当に育てていただきましたから、少しでも恩返ししたいですね。
──その高木さんが劇団ではまだ若手というぐらい、岡森諦さんや六角さんはじめベテランが沢山いて、若手もどんどん出てきています。扉座の層の厚さはすごいですね。
横内 劇団を作った頃は年齢の幅が狭くて、でも僕は親子の話なども書いていたから、若い人が老け役をやってたんです。でも今は実年齢でそういう役をできる劇団になっている。今回も下は20歳で上は63歳ですからね。お爺ちゃんと孫がそのまま出来ちゃう(笑)。
高木 それは本当に贅沢なことですよね。
横内 下手くそだった役者が10年、20年経つと、上手くなるというわけではないけれど、舞台の上にちゃんと居るということができるようになる。今年のスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』も劇団員が何人か出演していて、ツアー公演もあるから4ヵ月ぐらい歌舞伎の方々と一緒にいたわけです。そのおかげでどこか違ってきたというか舞台人として染みついたものがある。そういう経験の広がりも含めて劇団員たちもそれぞれに育ってくれている。扉座を40何年やってきて一番誇れるのは「人」で、人が財産なんです。
──俳優さんだけでなく演出の茅野イサムさんなども扉座出身で活躍していますね。
高木 そのおかげでミュージカル「刀剣乱舞」に今回のキャストの半分は出演してますから。
横内 そうだよ! そこは「刀剣乱舞」ファンの人たちにもっと宣伝しないとね(笑)。
──今回はその扉座の劇団員が、まさに総結集という舞台ですね。
横内 出演できる者は全員出してしまおうということで、30人近い劇団員が出ます。
高木 あとコーラス隊も出ますからすごい人数ですよね。
横内 コーラス隊はうちの研究生と大人演劇部(サチライト)の有志が出ます。それに海老名公演は、海老名市民の方々が夏から練習してくれていますので、素晴らしい合唱を聴かせてくれるはずです。
──紀伊國屋ホール公演でも、あの舞台にすごい人数の合唱団が登場するのですね。
横内 100人ぐらいになると思います。
高木 圧巻ですよね。
──その合唱団が、扉座公演では「歓喜の歌」だけでなくゴスペルの「ジョイフル・ジョイフル」も歌うので、さらに盛り上がりますね。
横内 原作は2つの合唱団が一緒に「歓喜の歌」を歌うんですが、舞台ではそれだけでは広がりがない気がして何か良い曲はないかなと。なんとなく「ジョイフル・ジョイフル」とかいいなと思って音楽監督に言ったら、「この2曲は同じだよ」と(笑)。
高木 無意識に選んでたんですね。面白い!(笑)
クリエーターとしての志の輔師匠のすごさが伝わる舞台
──今、稽古中ということで、おふたりの役作りも伺いたいのですが。
高木 僕の山村は会館の主任なんですが、望んでいないのに淳治さんの加藤に巻き込まれていく。でもそれによって山村も変わっていくんですが。そこをどう見せるかを丁寧に考えていかないといけないと思っています。
犬飼 加藤は勤続30年の施設職員ということで、まずは主任役の高木くんをはじめ周りの人との関係を大事にしながら、作っていけばいいかなと思っています。
横内 この話を成立させるためには、山村と加藤のちょっと凸凹コンビ風のコンビネーションが大事なんです。彼らをはじめ関係なかった人間の人生がふとしたことで重なり合うみたいな、そういう瞬間がお客さんの腑に落ちることが大事なので。
──おふたりとしては、コンビネーションはいかがですか?
高木 これ絶対言いたかったんですけど、淳治さんの隣にいると落ち着くんです。他の公演では最初はすごく緊張するんですけど、今回は淳治さんがいるから安心してます。
──おふたりは9年違いですね。犬飼さんから見て高木さんの成長ぶりは?
犬飼 去年、横内さんが演出した『隠し砦の三悪人』で一緒になったんです。そのときに明治座がすごい似合う役者になったなと。
横内 明治座がホーム(笑)。
高木 そんなわけないでしょ(笑)。
犬飼 すごく堂々としていて、外部で経験を積むってこういうことなんだなと。でも普段会うとなんにも変わってなくて。
高木 当たり前ですよ(笑)。
──犬飼さんも普段はあまり前に出ない感じですが、役で登場すると圧倒的な存在感を見せてくれますね。
横内 舞台人だよね。舞台に居るときが生きている人だから。その境地の俳優が扉座にも何人かいるけど、それは若い俳優では絶対に出せないもので、何かしないではいられない役者と何もしなくてもそこに居られる役者という違いなんです。それはたぶん何十年も舞台をやり続けて、その間に迷走したり失敗したりしながら身に付けていくものなんだと思う。そこをうまくメソッドにできないのが残念だけどね。
──おそらくそのメソッドみたいなものは、その個人個人の中には確立されているのでしょうね。そういう人が扉座には何人もいてそれが舞台の厚みになっているのを感じます。そんな扉座の方々が結集して送る『歓喜の歌』について、改めて観てくださる方へのアピールをお願いします。
犬飼 年末といえば「第九」ですから、それが聴けて、笑って泣いてという話なので、1年の終わりにふさわしい舞台だと思います。ぜひ観にいらしてください。
高木 有り難いことに初めていただくような役に挑戦しています。僕以外にも沢山面白い役者が出ています。八百屋さんじゃないですけど、それぞれキャラが立って味のある、個性豊かな役者が沢山いますので、ぜひ劇場に観にいらしていただければ嬉しいです。
横内 年齢や性別関係なくいろいろな方たちに観にきていただきたいのですが、とくに志の輔師匠のファンの方に来ていただきたいですね。あの落語がこうなったんだと。市民会館の話なんか師匠の体験から出てきた話だし、「ガラガラ」なんて今話題の隠蔽工作ですからね(笑)。そういうクリエーターとしての志の輔師匠のすごさも伝わる舞台になっていますので、ぜひ師匠や落語を好きな方にも観てもらいたいです。
■プロフィール
よこうちけんすけ○東京都出身。82年「善人会議」(現・扉座)東京都出身。1982年「善人会議」(現・扉座)を旗揚げ。以来オリジナル作品を発表し続け、スーパー歌舞伎や21世紀歌舞伎組の脚本をはじめ外部でも作・演出家として活躍。92年に岸田國士戯曲賞受賞。扉座以外は、スーパー歌舞伎II『ワンピース』(脚本・演出)、スーパー歌舞伎II『オグリ』(脚本)、パルコ・プロデュース『モダンボーイズ』(脚本)、坊っちゃん劇場『ジョンマイラブージョン万次郎と鉄の7年ー』、歌舞伎『日蓮』(脚本・演出)歌舞伎『新・三国志』(脚本・演出)、『スマホを落としただけなのに』(脚本・演出)、明治座『隠し砦の三悪人』(脚本)、新橋演舞場『トンカツロック』(脚本・演出)、新橋演舞場『劇走江戸鴉~チャリンコ傾奇組~』など。
いぬかいじゅんじ○北海道出身。1995年劇団扉座入団。俳優として舞台・ドラマ・映画などに出演、劇団公演以外でも活躍中。ドラマ『水戸黄門』(TBS)『相棒IV』(テレビ朝日)、映画『ハナミズキ』、外部舞台「椿組・新宿花園野外劇」、ミュージカル「刀剣乱舞」~江水散花雪~、『隠し砦の三悪人』など。最近の扉座作品は、『ドリル魂2024』、『扉座版 二代目はクリスチャン−ALL YOU NEED IS PASSION−』、『最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-』、『ホテルカリフォルニア −私戯曲 県立厚木高校物語−』、『神遊―馬琴と崋山―』、『解体青茶婆』など。ユニット「道産子男闘呼倶楽部」でも活動中。
たかぎともゆき○静岡県出身、2004年劇団扉座入団。劇団公演以外でも舞台・ドラマ・映画に出演、活躍中。ミュージカル「刀剣乱舞」シリーズに土方歳三役で出演中。劇団以外の最近の出演舞台は、ミュージカル『七色いんこ』、舞台『銭湯来人』、剣劇『三國志演技〜孫呉』、舞台『ブラッディ+メアリー』、『隠し砦の三悪人』、アグレッシブ ダンス ステージ『DEAR BOYS』、『あたっく No.1』、『25Magic』、明治座 坂本冬美特別公演中村雅俊特別出演『いくじなし』、荒牧慶彦プロデュース『演劇ドラフトグランプリ』、『淡海乃海』など。
【公演情報】
紀伊國屋ホール開場60周年記念公演・劇団扉座第78回公演
『歓喜の歌』
原作:立川志の輔
脚本・演出:横内謙介
音楽監督・作曲:深沢桂子
出演:岡森 諦 有馬自由 犬飼淳治 累央 鈴木利典 上原健太 高木トモユキ 新原 武 松原海児 野田翔太 山川大貴 小川 蓮 翁長志樹
中原三千代 伴 美奈子 鈴木里沙 藤田直美 砂田桃子 小笠原 彩 北村由海 菊地 歩 佐々木このみ 大川亜耶 他
●11/24◎海老名市文化会館 大ホール
〈料金〉前売・当日共5,000円 学生券2,000円[海老名市文化会館でのみ取り扱い・当日学生証持参](全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉海老名市文化会館 046-232-3231、扉座 03-3221-0530
●11/26~12/1◎紀伊國屋ホール
〈料金〉前売5,500円 当日6,000円 学生券3,000円[25歳以下、扉座でのみ取り扱い・当日学生証持参](全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈チケット問い合わせ〉扉座 03-3221-0530
〈扉座公式サイト〉https://tobiraza.co.jp/kannkinouta2024
【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】