
竹生企画、約7年半ぶりの新作公演は、倉持裕が真骨頂を発揮した心理劇。竹中直人と生瀬勝久による巧妙な表現と、多彩なゲスト出演陣の際立つ個性で、観客の気持ちを揺さぶり、引き込み、笑わせる。
屈指の個性派俳優でありクリエイターの竹中直人と生瀬勝久が、作・演出に倉持裕を、ゲストに竹中と生瀬が舞台共演を望む旬の俳優たちを迎えて創作する演劇ユニット・竹生企画。7年半ぶりの公演となる第四弾『マイクロバスと安定』が、11 月8 日に東京・下北沢の本多劇場で開幕した。
舞台演出家・成清圭吾(竹中直人)の自宅兼稽古場に、疎遠だった旧知の戸張修一郎(生瀬勝久)とその娘・早帆(飯豊まりえ)が訪ねるところから物語は始まる。成清のもとで演出助手を務める井岡(戸塚純貴)、一人芝居の稽古をしている女優の真咲(サリngROCK)、隣に住む山野辺(浜野謙太)に怜奈(松浦りょう)と、人物が登場するたびに彼らが置かれている状況や立場、それぞれが抱える事情や心情、価値観の違いによる摩擦などが徐々に浮き彫りになっていく。
まさに心理サスペンス劇を得意とする倉持の真骨頂、一つひとつ何かが明らかになるたびに心が動く。登場人物たちの心情が揺れるたび、観ている側の感情も揺さぶられる。現実的でもありSF要素もある本作、日常と非日常の狭間が絶妙だからこそ観る者を引き込むのだろう。台詞の言葉選びも巧みで、ふとしたひと言に心を掴まれる。ズレの可笑しさや笑いも清々しい。その倉持が描く巧妙な世界を7名の出演者が丁寧に立ち上げたことにより、実に味わい深い絶品となった。

ユニット誕生のきっかけとなった「竹中さんと二人芝居がしたい」という生瀬の願いを実現化した竹中と生瀬のシーンは、いつまでも観ていたいと思わせるほど心が躍り、多幸感に満たされる。役の心情を瞬間瞬間に目まぐるしく表現する竹中からはとにかく目が離せない。生瀬の重厚な演技からは時間の経過や関係性の変化など物語全体の動きまでもが伝わってくる。凜と立つ飯豊は実に鮮やか、場の空気をつくる。戸塚の映画やドラマとは趣の異なる繊細な演技は、観客に寄り添っているように感じられる。サリngROCKが演じる女優が放つ違和感が物語の中でスパイスとなり、観る者をより集中させる。ひときわ異彩を放つ松浦は目を引き、惹きつけられる。倉持作品を熟知している浜野は、物語に変化を与える重要な役割を軽やかに担っていて見事だ。


倉持の演出のもと、美術、照明、音響、衣裳、ヘアメイクをはじめとするスタッフワークで物語のリアルさが引き立つ。対して、時おり入る栗コーダーカルテットの音楽は現実と非現実の境を明確してくれるようで心地良く効果的。
2011年、2015年、2018年の東京公演は華やかな日比谷に位置するシアタークリエでの上演だったが、今回は下北沢にある本多劇場に移った。同じく「演劇の街」での上演ではあるが、場の変化が作品にも影響を与えたのかもしれない。竹生企画の公演を待ち望んでいた観客の期待に応えながら、今後のさらなる展開も予感させるような秀作。3週間の東京公演を経て、12月には兵庫・広島・熊本・盛岡・久慈・青森・長岡の7都市を巡演。緻密且つ観客の反応ひとつで変化する柔軟な本作は、上演を重ね、また劇場が変わることによって、生の舞台ならではの熟成や変容も楽しめるに違いない。
【コメント】
作・演出:倉持裕
旗揚げ公演から14年。竹中さん生瀬さんとの関係性やこの間に起きた社会的な出来事も含
めて、これだけの年月を経なければ生まれなかった芝居を、その機を逃さず作ることが出来たという思いがあります。さらにこれから本番を重ねることで作品がどうなっていくのか、僕自身楽しみです。
竹中直人
ものすごく緊張しました。
でもお客様がとても優しかったです。
もうジジイですが、未だに舞台の初日前日はほぼ眠れません。
一体誰のために演劇をやるのか…。
ずっと普遍的に劇作家を愛する気持ちだけです。
生瀬勝久
初日が開け、お客様が入って観ていただいて、色々な発見がありましたので、現状に慢
心せず千秋楽までよりクオリティーを上げていけるように頑張りたいです。
飯豊まりえ
初⽇を無事に迎えることができました。
初⽇の舞台には、緊張と喜びが⼊り混じる特別な空気があって、その中でカンパニー全
員が、倉持さんの⾔葉を丁寧に受け取り合いながら呼吸を合わせていけたように感じ
ます。
⽵中さん、⽣瀬さんをはじめ、温かくて頼もしい共演者のみなさん、そして⽀えてくだ
さるスタッフの⽅々と⼀緒に、この作品への愛情をお客様へ届けられるよう、⼼を込め
て演じ続けていきたいと思います。
戸塚純貴
5 年後に小惑星の衝突によって地球が滅亡すると発表されてから約2 年と重いテーマ
ではありますが、そこには普通の日常があります。
ただ残り3 年というだけ、そこに生きる全員の日常を感情の機微を見ていただけます
ように。
サリngROCK
初日の開演前、生瀬さんと話したあと、まだ台本を開こうとする私に「台本はもう見な
くていいから」とお言葉をもらいました。同じ楽屋のまりえちゃん、りょうちゃんと指
でグッドサインをしあいました。竹中さんに笑顔で「よろしくお願いします」をもらっ
て、ハマケンさん、J(戸塚くん)に力強い頷きをもらいました。素敵すぎる作品に参
加させてもらってます。明日からもめちゃんこ楽しみます!
松浦りょう
この日をずっと心待ちにしていたけれど、少し寂しい気もする。
なぜなら、始まりがあれば終わりがあるから。
そう感じてしまうほど、私にとってかけがえのない作品です。
皆さまにとっても、この観劇がかけがえのないひとときとなりますように。
浜野謙太
今回の脚本が好きすぎて、未だ袖でずっとみんなのお芝居をみちゃいます。緊張感も伝
わるし、流石だなぁて思ったり、これからいろんな形に変化してって変態して、これは
飽きないと思います。

【公演情報】
竹生企画第四弾 『マイクロバスと安定』
作・演出:倉持 裕
出演:竹中直人 生瀬勝久 飯豊まりえ 戸塚純貴 サリngROCK 松浦りょう 浜野謙太
●11/8〜30◎東京 下北沢 本多劇場
●12/5〜7◎兵庫 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
●12/10◎広島 JMSアステールプラザ 大ホール
●12/13◎熊本 市民会館シアーズホーム夢ホール
●12/19◎盛岡 トーサイクラシックホール岩手 大ホール
●12/21◎久慈 久慈市文化会館アンバーホール 大ホール
●12/23◎1青森 リンクステーションホール青森 大ホール
●12/27◎長岡 長岡市立劇場 大ホール
〈公式サイト〉https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/takenama-4
〈公式X〉https://x.com/cube_stage
【撮影/桜井隆幸】



