植本 今回は『唐揚満足の姉妹(きょうだい)』作新学院高等学校演劇部上演台本ということなんですが、
坂口 劇作家協会の戯曲デジタルアーカイブで見つけたんですよ。
植本 見つけるったって大変じゃないですか。
坂口 一応テーマを絞ってですね、
植本 高校演劇で?
坂口 いやいや、あの若い人のなんかすっきりした演劇を今回やりたいなと思って。最近、自己主張の塊みたいな宣伝が多いでしょ、 で、もうちょっとそういうのと離れたところで面白いのをね。
植本 まあ、みんな宣伝したいからね(笑)。
坂口 だからその戯曲デジタルアーカイブでね、若い人の作品をアトランダムに見ていくわけですよ。 3行か 4行ぐらいで宣伝文が出てるでしょ。
植本 はいはい。
坂口 あのショートコピーみたいなのを見ていって、あれって思って読んでみたらとても読みやすいし、内容も豊かでね。
植本 高校演劇だから上演時間が 1時間ぐらいですね。
坂口 そうですね。いろいろ詰め込んでるんですけどテンポがよくて、それでいて細やかでとても読みやすかった。一般の演劇もこのくらいがいいですね、後の時間はほとんどむだな時間ですもんね(笑)。
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植本 この作品は2024年の暮れに栃木で上演して、去年の 1月が関東大会だったのかな。高梨達也さんという顧問の先生の作品ですね。なのでそれなりのご年齢の方だと思いますけど、演じているのは高校生ですね。
坂口 高校生がやりやすい、自分たちの考えていること、身近にありそうなことを上手にアレンジしながら作っている作品です。
植本 第60回関東高等学校演劇研究大会(松本会場)優秀賞・創作脚本賞受賞です。
坂口 創作脚本賞?
植本 だからね、戯曲が賞を取ったんだって。
坂口 うん、僕は戯曲というか、作品全体のイベントとしてあの花巻高校の・・・、
植本 あっ、以前やった宮沢賢治の『飢餓陣営』ね。
坂口 あれを思い出しました。 あれも高校のイベントで先生が作って生徒が演じてるでしょ。前半はオペレッタでちょっと内容は違うけど、後半は生徒達が学校で習ってることや、興味があることを生徒と先生が上手にセッションできるようなっていて、観客も含めて参加者みんなが楽しめるような作りになってるなと思ったんですよ。
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植本 こちらは家庭劇で、三姉妹の成長物語でもありますね、時代が微妙に昔のことを書いてます。
坂口 そうですね。
植本 平成16年スタートで、途中 19年まで行くんですけど、そこからポーンと飛んで平成31年、令和に変わる時に終りますね。
坂口 テンポがよくて読んでてとても気持ちがいい。これ同じお芝居作ってる高校生が会場で見てるわけですよね。 どんだけワクワクしたか、自分たちに近い上手な話題のセレクトですよね。
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植本 高校生たちが抱えるであろう青春の悩みみたいな。ここから自分は何者になっていくんだろうっていう葛藤が書かれてます。
坂口 みんながちょっとの希望とたくさんの不安とを抱えて活動してますからね。
植本 何に自分が影響されて生きていくかっていうのがね、書かれてたりするじゃないですか。
坂口 そういう中でのいろいろな変化、変わってもいいんだっていう部分も含めて、見ている人が解放されるというか、あっ、こんな生き方もあるんだなって思ったりできる作品ですね。
植本 そうだね。変わること、変化を恐れずにみたいな感じはすごくいいですね。
坂口 失敗もしつつね。そんなにうまくいかないんだけどねって、自分の人生に置き換えてみて思ってしまうんだけど、これはお芝居だしね(笑)。
植本 未来ある高校生だしね。
坂口 それはどうかな?
植本 いやいや、何言ってんだこの人。
坂口 今の高校生に未来があるかどうかはね。
植本 本人たちが一番分かってるかもしれないですけどね。
坂口 まあ面白かったんです。
植本 はい。
【登場人物】
藤井弘治 弁当屋「唐揚満足」の主人
藤井宏美 三つ子姉妹の長女
藤井瑠美 三つ子姉妹の次女
藤井亜美 三つ子姉妹の三女
成瀬幸恵 唐揚満足に長く務めるバイト
車田大輔 唐揚満足の常連であるトラック運転手
永島美希 唐揚満足に迷い込んできた女の子
永島敦子 美希の母親
森 康秀 宏美の彼氏
小野佳菜子 近くの老人ホームに定期的に通う女性
溝島吾郎 弘治がかつて務めていた会社の同僚
【場所設定】
高速道路と国道が交わる、ある田舎町にある弁当屋である。
「唐揚満足」という名前の通り、からあげが自慢のお店である。
(『唐揚満足の姉妹』日本劇作家協会戯曲デジタルアーカイブより引用)
坂口 ちょっと最初から触れていくと、場面はお弁当屋さんの事務室、唐揚げ弁当を売っているお店です。
植本 お父さんが経営してるんですけど、お父さん元々建築会社に勤めていたんだけど、脱サラして。まあ奥さんがね、いなくなっちゃったっていうのもあるんだけど。男手一つで唐揚げ屋を営みながら三姉妹を育てている。
坂口 で、 三姉妹は三つ子で、高校生?
植本 最初は中学生かな、高校進学、受験から始まってるでしょ。
坂口 中学3年生か。高校を受験していてちょうどその発表の日から始まるんですね。
【平成16年3月9日】
幕が上がる。
ある田舎町にある弁当屋の、自宅兼事務所。
県立高校の合格発表の日の、夕方である。
同じ制服を着た三人の姉妹が、深刻な表情で、向かい合っている。亜美 ごめんなさい……
瑠美 わかったから、もう謝らないで。
宏美 そうよ、泣いたって結果は変わらないんだから。
瑠美 ちょっと、そういう言い方はなくない?
宏美 だってそうでしょ。じゃあ何、わんわん泣いてたら、不合格が合格になるっての?
瑠美 そうは言ってないけど。
亜美 本当にごめんなさい、三人で一緒の高校に行こうって、お姉ちゃんも、あんなに一生懸命やってたのに、私だけ……(泣きじゃくる)
(後略)(『唐揚満足の姉妹』日本劇作家協会戯曲デジタルアーカイブより引用)
植本 三人とも同じ公立高校を受けていて、上の二人が受かり、一番下の三女が落ちる。そこからスタートですね。
坂口 はい。
植本 なので、三女は滑り止めの私立に行くことになるんですけど、次女が卓球がやりたいので私立に行ってもいい? って言いだして、 三姉妹がそれぞれ違う高校に行くことになります。
坂口 いきなりで面白い出だしですね。
植本 (笑)。
坂口 ここではちょっと年上のアルバイトの女性が働いていて、その人のモノローグで状況と三姉妹のプロフィールを簡単に説明していきます。
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坂口 で、7月の 6日、夏になってます。
植本 次女は卓球部から演劇部に移ってます。
坂口 その 日に3人が告白するんですよ。それぞれの学校に入って私はこんな状態だっていうのをね。
植本 娘たちの重大発表があります。
坂口 で、いま植本さんが言ったように、卓球がやりたいからって言って私立に行った次女が卓球部から演劇部に移った。
植本 卓球を練習してる時に演劇部も同じ場所で練習していてね。それを見ていて、なんか訳の分かんないことをやってるところに惹かれたと。
坂口 観客はドキドキですね。
植本 会場にいる高校生たちもそれぞれ演劇部に入ったきっかけがあるだろうからね。
坂口 やりたいと思ったり、辞めたいと思ったりね。で、クラブを移っちゃったっていう報告が次女からありました。
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植本 長女もね。
坂口 長女は彼氏をゲットしました。これもみんな興味津々ですね。
植本 そうね。
坂口 もう高校生っていったらそれしかないって言っても過言ではない(笑)。
植本 (笑)。
坂口 どうやって彼氏を作ったのかっていうのが説明されます。
植本 古典的な方法でね。
坂口 図書館に行って。
植本 同じ本に同時に触れるやつでしょ。
坂口 そうそう。男子の趣味を見つけておいて、彼が本取りに行くところにいて。で、自分も興味あるふりをする。
植本 めちゃめちゃ難しい数学の本でしたっけ?
坂口 その本の選び方、テーマの選び方も上手です。
植本 シチュエーションが定番だからなおさらね。
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坂口 彼氏を作った理由っていうのも切実なんだよね。
植本 なんだっけ。
坂口 入学して3ヶ月、自分は楽勝で学んでいけると思っていたら、意外とついていけない。
植本 ああ、そうかそうか。
坂口 で、あんまついていけないんで、彼氏でも作るかっていう風になったって、本人が語っています。
植本 これも結構あるあるだよね。
坂口 三女は今は自分は何もまだそういうものがない。 でもなんとなく母の匂いが自分だけがわかるような気がするって言っています。
植本 彼女は母親が出ていく姿を覚えてるのね
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坂口 で、翌日ですね。 七夕 7月7日。
植本 同じ人を好きになっちゃうのは、まだ出てこないんだっけ?
坂口 それはまだ出てこない。
植本 もうちょっとか後か。
坂口 ここはさ、老人ホームにお弁当を(自分のおばあちゃんに)を届ける人とか、迷子の子が出てきて、ちょっとつらいシーンがあったりするでしょ。
植本 そうなの。 迷子が入ってきて、お腹すいてるかなと思って、唐揚げ食べさせて美味しいって言って帰るんだけど、その後母親が女の子を連れて文句を言いに来る。 「なんでそんなことをする? もしアレルギーがあったらどうする」って。
坂口 まあね、一応お店の人は唐揚げ食べたことある? みたいな話をして、大好きっていう話の後であげてるんだけど母親はそれはわかんないから。 でもまあ親切って難しいよね。 もうめちゃめちゃ親切なのにね。
植本 でもちゃんと対応してえらいですね。
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坂口 この日は長女が彼氏を連れてくる日なんですね。
植本 頭のいい彼氏ね。
坂口 そこでの妹同士のやりとりも面白いよね。連れてきてどんなことするの? って三女が聞くと、次女が二人で部屋に行ってなんかいちゃいちゃするんだ、みたいなことを言ってます。
植本 あんなことやこんなことって。
坂口 ここはもう会場全体が一つになりますね(笑)。
植本 で、長女が彼氏を連れてきて、そこで何が起こるかっていうと、長女が実はそんな頭が良くないってことがわかると、じゃあ僕が いちから教えるっていうことで、まあ普通だったらね、二人で部屋に入っていくと周りは気が揉めるところですけど、あ、数学を教えてくれるんだ、どうぞどうぞみたいな感じになってて。
坂口 面白いシチュエーションを次々に作りますよね。
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坂口 それで、次は11月2日になりますね。3人揃って違う地方の大学に行きたいっていう希望があって、お父さん大変です。
植本 それに伴ってお父さんが唐揚げ店をたたむって言い始めます。そうすると娘たちが帰るとこがなくなるじゃないって。自分達はね、好き勝手に出て行くのにね(笑)。
坂口 まあこれも似たようなことあると思います。で、この場面で次女と三女の好きな人がバッティングしちゃう。
植本 ここで出てくるのか。
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坂口 次女と三女が同じ人を好きになります。
植本 三女は彼と同じ学校で、次女は学校は違うけど演劇部繋がりで彼を好きになり、結局演劇部同士がくっつく。だから三女からすると失恋する。これで合ってます?
坂口 はい。それで三女がショックでトイレに閉じこもったりしてますよね。
植本 傷ついてね。
坂口 閉じこもった三女とそのアルバイトの女性が、
植本 ノックで会話しますね。
坂口 最後に「ゆっくりうんこしてなさい」とか言ったりしてね(笑)。
植本 小中高生みんなうんこの話は大好きだからね(笑)。
*
坂口 まあそんなこんながあって、次は店の存続。父の就職の話です。
植本 昔の同僚が会社に誘ってくれて、まあその方がお金も入っいて娘達の学費も稼げるしっていうのでやろうとするんだけど、娘たちは反対です。
坂口 ここでみんなのモノローグがあります。
植本 うん。あのアルバイトの女性の幸恵さんもね。
坂口 幸恵さんが自分の過去をね。
植本 阪神淡路の震災で家族がみんな亡くなって、一人になって。
坂口 やさぐれてたら、ここで、
植本 唐揚げを食べたのかな。おいしかった。
坂口 で、働くようになったっていう話をして。
植本 三姉妹も。数学が大の苦手だった長女が数学の教師になり、次女は震災絡みでボランティアをやって、食べ物が行き渡らない人に食事を届けるっていう仕事をしてNPOに所属します。
坂口 三女は学校の先輩がニューヨークで働いていて、
植本 文化事業関係で日本人の枠が一つ空いてるから来ない?って誘われて、これだと思って行きます。
坂口 そこまでは結構就職失敗したりしてましたけどね。
植本 そこって高校生から見るとちょっと先の未来じゃないですか。それも面白いよね。
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植本 で、お父さんは、会社の仕事と唐揚げ屋の両方やってる。東京と栃木でね。
坂口 そうですね。
植本 娘たちはお父さんありがとうって感謝してますけど。
坂口 そうね。で、これバイトの幸恵さんとお父さんはどうなんだろう。
植本 自分でもね、幸恵さんはお母さんには全然なれないけど、お姉さんぐらいにはなれたらいいのになって言ってますね。
坂口 この二人の話はスピンオフ的な展開も出来そうですね。まあ、ここで大人の話は野暮ですね。で、平成最後の年、
植本 31年令和になる時ですね。
坂口 平成31年4月30日に外国に行ってた三女が帰ってきます。
植本 空港で娘たちが再会してます。
坂口 ここは、店の常連客で所々に出てきておもしろいアクセントになっていた運転手のおじさんの車で迎えに来てるんですね。彼がここにいい感じで入ってますね。
植本 このおじさんにしてもお父さんにしても高校生が演じるんですもんね。
坂口 なんとなく似合わない感じが高校演劇の醍醐味のひとつですね(笑)。
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植本 で、空港からお店に戻ってくると、
坂口 お父さんはいびきをかいて寝てて。幸恵さんが迎えて再会を喜び合い、
植本 あと何分で平成も終わりってラジオから流れてきます。
坂口 それでおしまいかな?
植本 最後サイレントで彼氏ができてた三女が婚約指輪を見せるっていうシーンがマイムで行われますね。(台本にはセリフが書かれています)
坂口 三女は前に失恋してますからね。
植本 三女が婚約指輪をしている。そこで終わりますね。
坂口 上手に計算されたお芝居ですね。
植本 ちょっと向田邦子のような(笑)。
坂口 (笑)。繰り返すけど作者は素敵ですね。そしてしたたかかですね。 生徒(キャスト)とうまくセッションして、しかも観客を上手に巻き込んで、会場全体がライブ感で満たされてますよね。
植本 ぜひ、劇作家協会の戯曲デジタルアーカイブで読んで見てください。https://playtextdigitalarchive.com/public/
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注:髙橋辰也さんが代表者の「トッコ演劇工房」のブログがこちらでご覧いただけます。
https://stagemaker.exblog.jp/#google_vignette
プロフィール

植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に入座。2023年の退座まで、女形を中心に老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。外部出演も多く、ミュージカル、シェイクスピア劇、和物など多彩に活躍。09年、同期入座の4人でユニット四獣(スーショウ)を結成、作・演出のわかぎゑふと共に公演を重ねている。
坂口真人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。





