【小野寺ずるの女の平和 WEB】05 オーガナイザー・役者：hocoten

お役者/糞詩人である小野寺ずるが表現の世界で闘う女達にインタビュー。
彼女達の過去現在未来を聞きだし、想いを馳せながら
私たちの平和は、女の平和は、表現の世界に身を投じる我々の望む世界はなんなのか。を夢見る連載。

オーガナイザー　hocoten

19年秋。雨の八王子。とある学校の教室へ…。
妖しい名前のイベント”オルギア視聴覚室”を見た。
演劇、お笑い、音楽、その他。香ばしい人々が思い思い過ぎる作品を発表する混沌。
低気圧とヘロヘロの刺激が混ざる自由な空間。
そこにギラギラ重そうなワンピースに厚底ブーツをかます綺麗なネエちゃんがいた。色気も糞もない闊歩、黒板に団体名を黙々と書き殴 る彼女こそ、イベントオーガナイザー(そして役者)hocoten。目立ちたいのか慎ましいのか。少女なのかおじさんなのか。
そして初対面。目の周りが真っ黒の彼女は瞬きもせず「興味を持ってもらえて嬉しい」と呟き、口から食べ物を落とした。私は間違えたかもしれない…。
イビツの聖母・hocoten珍道中(仮)。はじまります。

(※2020年1月取材/撮影)

演劇の始まりと混沌の入り口

ずる　現在27歳、何歳から演劇を？
ホコ　小学校2年生の学芸会からです。私元々自分の考えてることや感じてることを伝えるのが苦手だったんですけど台本にあることなら言えるからノリノリでやったら楽しくて。その時は三枚目なキャラクターやってたんですけど。
ずる　具体的にどういう役だったの？
ホコ　ポンコツの狼。リーダー狼に「ちゃんと踊れよ」て言われても「なにしろ初めてなもんで」って言う役柄だったかな。
ずる　可愛い(笑) 。
ホコ　で、小中演劇部で、高校も演劇部入ったんだけど先輩とおりが合わなくて辞めちゃった。でも演劇やりたいから文化祭でやりたい人をポスターで募集して積極的にいきました。
ずる　プロデューサー、オーガナイザーの一歩感があるね。
ホコ　色んな人が混ざった方が楽しいっていう気持ちもあったから。一番最初のオルギアっぽいなって思ったやつは、高校の卒業パーティ。アメリカってプロムパーティがあるじゃないですか、あれに憧れて西麻布のクラブを借りたんですよ。
ずる　え！高三で？すごい！
ホコ　結構デカいハコ。知り合いのDJにクラブのオーナー紹介してもらって、mixiとか口コミで人も集まりました。ダンス部にはダンス、空手部には居合をさせて、ファッションショーしたり。あと、普段目立たない地味な子がめちゃめちゃ歌が上手かったから唄わせたりして。 そういう一芸あるけどあんまり知られてない、みたいな人を「この子面白いよ」って見せるのが好きだったんですよね。
ずる　その場で「うまいね！」とか周りの反応あるじゃない、それをはたで見てる時にはどんな気分？
ホコ　でしょ〜〜？？みたいな(笑)。「このバンド知ってる？」「良いよね〜」みたいな会話が好きだったからその延長なのかな。わかりやすく面白い人よりもそういう方が満たされるものがあるんですよね。
ずる　そのあとは？
ホコ　多摩美の映像演劇学科っていう夜間の大学に入りました。先輩に渋ハウスっていうシェアハウスに住んでる人がいて、そこはダンサーとかアニメ作ってる人とかがぐちゃぐちゃに住んでて、そこに入り浸っ て遊ぶようになりました。同じジャンルで固まるよりもミックスされてる方が好きだなっていうのを改めて自覚しましたね。結局、大学は2年で中退したんですけど。
ずる 　夜間は学校で、日中何してたの？
ホコ　バイトです。その時競馬の情報詐欺みたいな「この馬が当たるよ」っていう情報を売る会社があって。どうしてその馬が当たるのかっていうストーリーが書いてある手紙を封筒に入れて切手貼って送るんです。
ずる　それ嘘の情報なんでしょ？
ホコ　多分犯罪。
ずる　・・・。
ホコ　大学辞めたハタチは転換期で、15歳から付き合ってた彼氏と警察沙汰になる感じで別れたり。
ずる　警察沙汰？
ホコ　私が色々してたことがバレて、初めて殴られて、顎が折れちゃって手術したり鬱っぽくなっちゃって何も手つかないし「人間関係が腐ってる」ってお父さんに携帯取られてほぼ家に閉じこもるみたいな。
ずる　それが中退の理由？
ホコ　いや、授業出てなかったので単位。
ずる　何で授業行かなかったの？
ホコ　多摩美入ったら全然私より演劇詳しい人がいるしで萎縮しちゃったのと、作るの怖いってなっちゃったんですよ。何もかも作ってる人と欲しがってる人と…みたいな…見えない人間がいっぱい見えるみたいになって…。私シャイでカッコつけだから、何か作ったら自分のダメなところが出ちゃうんじゃないかって臆病になって。だからタバコ吸ってうろうろするだけの人みたいになってしまい…。
ずる　うろうろしてないで授業に出なさいよ。

肛門、悲鳴、感涙。オルギア視聴覚室

ホコ　そんな感じで色々詰んで大学辞めて。で、レコード屋さんでバイトしてる時に渋ハウスの人に劇団旗揚げするから出てほしいと誘われました。でも結局その主宰の人が忙しくなって本番一ヶ月前に解散しちゃったんです。それで、劇場キャンセルしちゃ勿体ない、私に劇場でイベントやらせてって、そこでオルギア視聴覚室を始めました。24歳とかですね。面白いと思ってたコンプソンズと地蔵中毒って劇団を呼びました。
ずる　一ヶ月前に声をかけたのか。事情が事情だけどすごいな。
ホコ　自分はノリノリだから告知動画とか作って。今思うと何やってんだって感じなんだけど、まだ返事もらってないのにコンプソンズ(仮)って付ければいいやって名前あげちゃったら「名前まで出されたら出るしかない」って言われて(笑)。地蔵中毒も色んな団体を呼んでくれて。
ずる　そこから定期的にオルギアを 。
ホコ　はい。でもその初めてのオルギアは自分が至らなかったなって悔しかった。もっと出来たって気持ちが強かったから、終わった二日後とかに安くて広い所を探してそこで2回目をやりました。半年間準備すればできるだろうと友達に協力してもらってスタッフさん雇ったり、募集をかけたり色んな団体に出てほしいって交渉もして。で、ゴキブリコンビナートもサイト見たら「誰でも声かけてください」って書いてあったので、勇気が出て連絡しました。あと殺陣系のツムラ組も呼んだら全然毛色の違う団体が集まって当日見たらそのピンからきり感が面白かったです。
ずる　ちなみにゴキコンは何をしたの？
ホコ　『秘儀アナルバレエ』っていう作品で、最初女の人が裸ん坊で出てきて「イカないわ〜あなたのチンポじゃイカないわ〜」って唄い出すんですけど、漁師が後ろから大漁網を持ってきてお客さんにバァーーって網かけて壇上に上がって「もう女はいらねえ」って女をボコボコに蹴って舞台上から下ろす。で「男だけで充分だ」って男だけでまさぐり合って、漁師がアナルビーズを自分の肛門に抜き差しして振り回して踊る。
ずる　めっちゃやだ(笑)。客席はどんな反応？
ホコ　あ、もう、悲鳴と「おお〜〜」が入り混じってる感じでしたね。結構皆笑ってるんですよ。盛り上がった時間でした。毒にも薬にもならないのは嫌だなっていうのがあるから、やっちゃいけないことやって盛り上がって楽しんでるのが「すごい今いい世界だな」って、 感動しちゃって涙も出ちゃった。

あるがままをゆるしてほしい

ずる　現実は路上でアナルビーズ振り回してたら怒られちゃうもんなぁ。オルギアは日常では非難されるようなもので面白いとか刺激的っていうプラスの感情が生まれるから楽しいね。
ホコ　楽しいし、自分は人に受け入れてもらえないって思いがあるから、自分とか自分の好きなものが受け入れられて、面白になってるのが嬉しい。これを面白いって思ってる人達がこんなにいるんだ、あれも好きならこれも！みたいな受け入れ合いがあって、認め合える仲間になれたし、自分だけじゃないんだって感じ(笑)。
ずる　自分はどういうことで人に受け入れてもらえてないって思ってたの？
ホコ　気持ちを伝えるのが苦手でいじられタイプだったんですよね。昔は眼鏡でぽっちゃりだったし笑い声とかもキモかったんですよ。塾通ってても大ゴリラってあだ名をいつの間にかつけられてたり。あと、ウィダーインゼリーにハマってて小学生の時2、3個食べてたら「アイツあればっか食ってる」みたいになって…。
ずる　3つも。
ホコ　自分が自然にやってたことを笑われるので「私は人にクスクス笑われちゃう子なんだな」ってコンプレックスになって。
ずる　辛いね。でも少し憧れる。私はアウトサイダーに憧れてたけどなれなかったから…。笑い声が意図せずキモくて、バカにされてもウィダーインゼリーを3つも食べたい。本物のアウトサイダーだよ。
ホコ　(笑)。あと高校の時は”鋼鉄のお肉”ってあだ名をつけられてました。男子と傘で遊んでたら傘が私の顔に当たっちゃって。でも私は怪我しないで傘が折れちゃった。だから鋼鉄。
ずる　かっこいいね。
ホコ　でもそれで萎縮するよりも「私は鋼鉄のお肉。ぶよんぶよん」ってしてたら面白い奴になって勝ちになるじゃないですか。そう思えたのは5、6年生位になってからかな。あと鼻炎なのでめちゃくちゃ鼻かむから好きな人から「はなかみさん」ってあだ名つけられて…両思いになりたいモテたいって気持ちがあったのに…。だからそのままでモテたい。人からは「そのままでなんて無理。皆努力してるんだ」って言われたけど、納得いかない。そのままでモテたいってずっと思ってます。
ずる　ウィダーインを3つも食べてた当時のhocoさんの理想形は「それうまいよね」って周りと…。
ホコ　「私も好き」「一個じゃもの足りないよね」ってなる(笑)。
ずる　そう考えるとオルギアはhocoさんの理想郷だね。次が6回目。何か今後の目標はあるの？
ホコ　鶯谷にある元々キャバレーだった東京キネマ倶楽部でやれたらなって。飲食もできるし広くて見栄えもいい。オルギアは4、5時間観続けた方がカタルシスがある気がするからお客さんが自由に観たい時に観て食べたい時に食べてほしい。私も自由な方が好きなので皆が自由に楽しめたらなって。オルギアってディオニュソスって神様を祀ってる祭りの名前なんですけど、ニイチェが『悲劇の誕生』って本の中で芸術をアポロン的とディオニュソス的に分けてて、アポロンは調和が取れた見やすい芸術、ディオニュソスは激情的、破壊的な芸術。ディオニュソスな人達の祭典になったらいいなって。紅白のMISIAじゃないけど、色んな大勢の人が「わー！」ってなってるのが見れたらもう、ゴール、ですね。
ずる　自由に「わー」かぁ。
ホコ　我慢しないで欲しいんですよね。我慢しないでほしいし我慢させないでほしい。汚いも楽しめる余裕があるともっと皆豊かになれるんじゃないかな。暴力的なんですけどね。あるがままをみんなあきらめてゆるしてほしい。だから、そのままでモテたい。
ずる　なるほど。これからもぜひ、”そのまま”で(笑)。

プロフィール

hocoten(写真左)
ほこてん○hocoten(ほこてん)/ 久田紫萌子(ひさだしほこ)
1992年生まれ、墨田区出身。 多摩美術大学映像演劇学科在学中から俳優として活動をスタート。「オルギア視聴覚室」主催。 劇団「地蔵中毒」よく出るメンバー。 YouTube「バキ童チャンネル」にときどき出演中。
【SNS】
X＠hocoten▶︎https://twitter.com/HOCOTEN
YouTube▶︎https://www.youtube.com/playlist?list=PLtpWhzU6yE7SyYkr3rQN511-8X7s8K_yV

【活動予定】hocoten主催イベント
『オルギア視聴覚室 Vol.6』
11/18(土)／19(日)＠蒲田温泉
詳細▶︎https://twitter.com/orgiaAVR

著者プロフィール

小野寺ずる(写真右)
◯おのでらずる◯気仙沼生まれの脚本演出、お役者、糞詩人、ド腐れ漫画家。
個人表現研究所・ZURULABO所長。
【SNS】X＠zuruart▶︎https://twitter.com/zuruart

【舞台予定】ZURULABO『SUZUKA博士の異常な』(脚本演出出演)
12/23(土)～25(月)＠中野テルプシコール
詳細▶︎http://zurulabo.oops.jp/zurulabofile05suzuka/
【漫画連載】日刊SPA!『小野寺ずるのド腐れ漫画帝国』
https://nikkan-spa.jp/spa_comment_people/小野寺ずる?cx_clicks_article=1_backnumber

構成・文◇小野寺ずる　撮影◇柏崎絵美子