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【小野寺ずるの女の平和 WEB】04 女優:佐藤みゆき

女優 佐藤みゆき

(※2019年8月取材/撮影)

「みゆきは優等生だから」

ずる 今日は同じ東北出身の先輩女優、佐藤みゆきさんにインタビューです。まずなぜ女優になったんですか?
佐藤 最初は学校の先生になりたかったの。自分がお世話になった先生が好きな人達ばかりで。演劇に触れたのは中学校。文化祭の出し物が演劇で。ヒロインのオーディション受けたんだけど落ちて演出助手になって。でも受かったヒロインの女の子が恥ずかしがって全然お芝居やらないの!それで「ちゃんとやって」って意見したら泣いて教室出てっちゃって。「あれはない」「みゆきが悪い」って言われたけど、私はちゃんとお芝居をして欲しかっただけで言ったのにおかしい、ってずっと思ってて。主役の男の子のことが好きだったからヒロインやりたかったってのもあったんだけど(笑)。そのあと高校で部活決めるときに勧誘がすごかったってのと何となくその未練があって演劇部に入ってって感じかな。
ずる それで進路を決めて行くわけですが、みゆきさんは栄養士さんとして働いていた経験もありますね。
佐藤 私ね、三者面談とかで将来について訊かれると未来への拒否反応で涙が止まらなくて(笑)。将来を考えるのがほんとーーに苦手なの。「私に時間割かないでください!〆切くれば決めるからほっといて!」みたいな(笑)。で、悩んでるときに栄養士さんって仕事があるんだって知って。実家が農業やっててご飯を作るのが私の仕事だったから「皆が美味しくて健康になったらハッピーじゃん」って思って。演劇ではご飯食べていけないだろうなってのと栄養士の仕事が先生に近いっていうのもあったし。それで進学して成島君(こゆび侍主宰)に出逢ってやっぱり演劇の道に進んだんだけどね。栄養士を3年務めて、辞めてからは朝4時に起きてバイト行って昼から稽古で夜お芝居の話し合いして終電で帰ってって生活がしばらく続いたなあ。一年に4日くらいしかオフがなかったかも(笑)。本当に0か100だった。
ずる 未来を拒否し続け、未練で演劇の入口に立つ…そして爆裂な生活、相当エモーショナルですね。みゆきさんのイメージはストレートなささくれひとつない美しく強い木!って感じなので意外です。今までお芝居を続けられてるきっかけはどこにあるんですかね。
佐藤 私ね、一番嫌だけどよく言われる自分を言い表す言葉が「優等生」だったの。昔からずっと「みゆきは優等生だから」って。私にとっては優等生なんて何の役にも立たない、悪口だ、って思ってて。でも部活で演劇をやったときに、観てた人達が泣きながら観てくれて。目の前の人の心を動かせる、涙を流してもらえるものを作れたっていう何物にも代え難い賞賛をもらったような気がしたの。それが続けるきっかけになってるのかもなあ。


もっと夢をみてもいいんじゃないか

ずる みゆきさんは10年間プロジェクトとして13年から『1/10 Fukushimaをきいてみる』という福島の被災地を映像に収めたドキュメンタリー作品にも参加していますね。拝見しましたが被災地の資料としてだけではなく、そこに生きている人々の精神的変化を捉えているようで、生きていく上で変化していく、人間の持つ原始的な強さを感じました。聞き手として毎年故郷をまわる映像活動で役者としての変化はありましたか?
佐藤 想いを馳せる家族が増えたような感じがする。福島と関係ない仕事をしてても、福島の皆が観たらどう思うかを考えるようになった。この『Fukushimaをきいてみる』は私を知ってる作り手全員に見てほしいと思ってる。なぜかというと直接関係ない、例えばただの珈琲のCMを作るにしても、”知ってる”のと”知らない”は違うと思うから。日本にそういう人がいるということを知ってるという土台があって物事に取り組むというのは”知らない”より何かが違うと思うから。
ずる なるほど。私は気仙沼出身で実家が被災しました。故郷がボロボロになっているのに自分はこの仕事でなんの役にも立ててない。という後ろめたさのような苦しい気持ちが去年位までありましたが、みゆきさんもそういう気持ちはありましたか?
佐藤 私は大河ドラマのレギュラーエキストラの仕事中、待機してるときに揺れてね。私の実家は直接被災はしてないんだけど、舞台の仕事が終わったら一旦実家に帰ろうと思ってたの。でもそのとき放射能のこともあって実家から「将来子供を産むかもしれないんだから帰ってこなくていい」って言われて帰れなかった。悶々としながら東京に残って。その辺り東京も麻痺してたし「こんなときに演劇なんて不謹慎だ」って色んな公演が中止になってた時期で。私がその辺りに出演したelePHANTMoon『劣る人』(3月16日開幕予定が震災の影響で3月18日〜開幕)は何ステージか中止になったけど開幕して。そしたら客席がパンパンで。皆お芝居を必要としてるんだなって。やってもいいのかもな、私にはこれしかできないしって思わされた。そのあと大河ドラマ観た地元の人達からも「元気もらった」「すごい勇気でる」って言ってもらえて。衣裳も髪型も同じで何人もいる内の一人みたいな感じで出てて、親でも私ってわからないような出番だったのに。それまでは映像でメインの大きな役をやらせてもらえることなんかないんじゃないか、演劇でしかしっかり人の人生を演じられないんじゃないかって思ってたんだけど「もっと夢をみてもいいんじゃないか」「無理って思わないで地元に届くメディア、映像を目指してもいいんじゃないか」って、震災をきっかけに後押しをされたような気がする。


「私に」って。私に役が来た。生きててよかったって。

ずる 18年6月に出産をされて現在2年ぶりとなる舞台復帰作の稽古中ですね。ご出産をされて何かお芝居に変化はありましたか?
佐藤 お仕事が来たとき100でいけるようになるべく空っぽで楽しくお酒飲んだりな日々を過ごしてたけど(笑)、子どもができてからそれができなくなったから、これまでの作り方ができなくなった。でも私いつもお芝居やる度に「今までどうやってやってたんだっけ?」っていうタイプだから一緒といえば一緒なのかな。ただ一つ、「出産したんだよな」って事実はあるんだな、と思う。「こんなに我が子って可愛いんだ」って発見もあったし、子どもや家族、その生活から色んなものをもらってる。だからこれまで想像で埋めてたことが実感として観てる人にも伝わればいいな、と思ってる。今の稽古は旦那の全面的な協力があって行けてるから本当にありがたい。
ずる そうなんですね。お子さんを産む前からお母さん役が多いですね。私がみゆきさんと共演したときの役も私の母でした。出産される前の舞台やCMなど観ててもすごく素敵なお母さんに見えます。
佐藤 仕事がすごく好きだからね。役の方が幸せだから。
ずる 役の方が幸せ?
佐藤 現状の佐藤みゆきより役の方が幸せだったからそれを演じられるっていうのは嬉しいよね。綺麗にしてもらって、いい服着せてもらって、心意気のいい人達とお仕事ができるし、幸せ。嬉しくて仕方ない。幸せだから幸せに見える。だからその時はピカって。それだけじゃないかな?
ずる 面白い。やっぱりこれからも、おばあちゃんになっても女優を続けたい?
佐藤 そうだね。いつまでできるのかな、とか思ったりはするけど。待機の生活だからね、基本。役がくるのを待つ。役がくるそのためだけに明日まで生きてるような気がする。「生きるの下手だな、間違ってんだろうな」って生きてるけど、辛い悩みや現状が、役が来たときにそれも認めてもらえるような気がする。その私に、誰かが「この役、佐藤さんやってください」ってくる、それまで、そのためだけに生きてる。「私に」って。私に役が来た。生きててよかったって。たまにそういうのがくるからやめられないんだよね(笑)。

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佐藤みゆきの平和

結婚しようがしまいが
子どもがいようがいまいが関係なく
誰もがフラットに創作現場に行ける世界

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佐藤みゆき(写真左)
○さとうみゆき○福島県出身。
映画初主演作品「真白の恋」で第32回高崎映画祭の最優秀新進女優賞を受賞。
近作はドラマ「おかえりモネ」、舞台「ビショップ・マーダー・ケース」など。
2013年より故郷である福島の今を10年間記録するドキュメンタリー「1/10(じゅうぶんのいち)Fukushimaをきいてみる」の製作に聞き手として参加、
現在もライフワークとなっている。
Twitter@satoukichiyome

【上映】
『1/10 Fukushimaをきいてみる 2022』新宿無料上映会
2022年12/29,30
サンモールスタジオにて(+オンライン上映)
https://fukushima-ask.info

小野寺ずる(写真右)
○おのでらずる○
89年気仙沼生まれのお役者、糞詩人、ド腐れ漫画家。
【漫画】日刊SPA!『小野寺ずるのド腐れ漫画帝国
Twitter@zuruart

取材・構成・文◇小野寺ずる 撮影◇加藤チエ

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