【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.126「円の縁」


 「えんぶ」が、「演劇ぶっく」という名前だった頃、養成所「ENBUゼミナール」が立ち上がり、私はその第一期生だった。
一年目の講師陣は、いのうえひでのり氏、加納幸和氏、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏、成井豊氏、平田オリザ氏、松尾スズキ氏、松本雄吉氏、安田雅弘氏。なんとも豪華すぎる面々である。
私は松尾スズキクラスを受験し、そこには本谷有希子さんもいた。
大学でしか演劇をやったことがなかった私からは、出会う人も授業も全てが刺激魅惑に溢れていて、あっという間の一年だった。
そんなENBUゼミでの秋頃だったか、松尾さんの舞台作品に、我々生徒約30人が全員出させていただけることになった。
一つの役をいただける生徒も多数いた。私もその1人だった。
稽古開始1週間くらいのタイミングだったろうか、みんなで大騒ぎする場面で、大いに大騒ぎしてたら、足元でパンって音がした。
なんの音だ?と思うと同時にすっ転んだ。
誰かとぶつかったか?と振り向くも誰とも接触していない。
足に力が入らず立ち上がれない。
病院でレントゲンを撮ってもらったら、足の甲の骨が一本、キレイにポッキリと折れていた。
泣いた。
いただいていた役は当然全てなくなった。
泣きに泣いた。
それほど私は、初のプロの大舞台で、本当に嬉しく、意気込み、興奮していた。
ギブスと松葉杖で歩けるようになると、稽古場に見学に通った。
ある日、松尾さんが、ギブズでも出れる役とセリフを作ってくださった。数多いる生徒のたった一人の、自ら負傷した二十歳そこそこのしょぼい坊主のためにわざわざだ。三度泣いた。
さらに意気込んだ私は、面白くしようとして、面白くないことをしてた気がする。ギブスの周りに手作りの蝿を無数集らせていた気がする。翌年旗揚げする「はえぎわ」の予兆はここから始まっていたのだろうか。一緒のシーンに出てたもう一人は、同じく生徒で一緒にはえぎわを立ち上げた井内ミワクだから、まんざら、ない話でもないかもしれない。
余談が長引きましたが、
その思い出深すぎる、初の大舞台の劇場が、世田谷パブリックシアターだった。
(当時の演目は、松尾さんの代表作の一つ「ふくすけ」の2回目。)
あれから、25年。
私は今、25年ぶりに、世田谷パブリックシアターに立たせていただいている。
Bunkamuraシアターコクーン主催公演での、(一度中止になってしまったので)記念すべき初の演出作品となる。
そして、そのシアターコクーンの芸術監督は、松尾スズキさんである。
円のように巡る縁を感じずにおれない。
縁というか、感謝しかない。
 
演目は、はえぎわの代表作の一つ「ガラパコスパコス 〜進化してんのかしてないのか〜」
私は、この25年、どれだけ進化してんのかしてないのか。
多くの高評価をいただいてきた今作であるが会場は全て小さな劇場だった。
今回、大きな劇場空間でいかなる力を発揮できるのか、非常に強い恐怖と武者震いに包まれた挑戦だったのだが、果たして・・?
この25年を思い起こしながら、日々、世田谷パブリックシアターの舞台の上を、踏みしめている。
東京公演は、残り日数わずかとなってきましたが、京都、岡山、新潟でもありますので、是非に是非に、観ていただきたいのであります。
 
著者プロフィール

ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。

【次回予定】
・COCOON PRODUCTION 2023
「ガラパコスパコス 〜進化してんのしてないのか〜」
2023年9月10日〜24日  @世田谷パブリックシアター
京都 9月30日(土)、10月1日(日) @京都劇場
岡山 10月11日(水)、12日(木) @岡山創造劇場ハレノワ中劇場
新潟 10月21日(土)、22日(日) @りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
脚本・演出:ノゾエ征爾
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/23_galapacospacos.html

▼▼前回の連載はこちら▼▼
https://enbutown.com/joho/2023/08/16/nozoe125/

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