【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.127「暗いマッチ」

尊敬してたアーティストから天才と評されて、一瞬だけいい気分になっているノゾエです。
「ガラパコスパコス」も、おかげさまで東京公演をなんとか無事に完走できまして、地方公演の真っ最中であります。一発目の京都公演は一人欠けましたが、私が代役も兼任する形でなんとか上演できました。
そんな私は、実は東京公演直前の時期にコロナになりましたし(たった一人だけ)、最近はインフルエンザ注意報みたいなのが出てるし、もう、ヒヤヒヤです。
そういう流れでは、どうしても、免疫力というものを考えてしまう。
 
ところで、免疫強化とは関係ないのだろうが、最近、身近な界隈で、マッチョ化する人が増えてきている。
単純に、体の厚みが何倍にもなっている(ように見える)と、少し離れた距離ではそれが誰だか一瞬判別がつかなかったりする。
顔はまさしく友人のそれなんだけど、いやでも、体のサイズがまるで・・みたいな感じで、顔と体を何往復も目が行き来して、目の前に来て、ようやくそれが本人だと判定が下る。
巨大な筋肉の塊の上に乗っかる旧知の友人の顔に、既知の情報とのズレに少々脳がテンパるというか、マルチバースに迷い込んだような気持ちになる。
でもそうしてマッチョになったみんなが、誰もがとても気分が良さそうにしているのが、なんとも気持ちがいいというか、ああ良かったなと思える。
思えるのだが、どうしてそうなった?という思いが残るのも正直なところ。
脂肪を絞ってスリムになるのなら全然理解が及ぶのだが、すごくパンプアップして大きなマッチョになるというその、とても急な選択と、とても急なキャラ変換に、驚いてしまうばかりなのである。なるのも大変そうだし、着る服も全部入れ替えなきゃいけなそうだし、何よりも別キャラになるし、なぜ?と。
おもしろを追求してのことなのだろうか?おもしろだけでそんなに頑張れるのか?
筋肉にハマるというのはよく聞くから、単純にハマったということなのだろうか?
でもまあいいのだ。何せ、そうなったみんなはとてもいい顔をしているのだ。
この歳になって、いい顔になれる姿になれるのは、とてもいいことだし、なんだかとても羨ましく思える。
想像してみた、自分がマッチョになっている姿を。
似合わない。中身から丸っと似合わない。
やめておこう。なろうとしてもなれる自信もないし、暗いマッチョになるだけだ。
自分に似合うマッチョ。それはどんなだろう。

 
著者プロフィール

ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。

【次回予定】
・COCOON PRODUCTION 2023
「ガラパコスパコス 〜進化してんのしてないのか〜」
2023年9月10日〜24日  @世田谷パブリックシアター ※終了
京都 9月30日(土)、10月1日(日) @京都劇場 ※終了
岡山 10月11日(水)、12日(木) @岡山創造劇場ハレノワ中劇場 ※終了
新潟 10月21日(土)、22日(日) @りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
脚本・演出:ノゾエ征爾
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/23_galapacospacos.html

▼▼前回の連載はこちら▼▼
https://enbutown.com/joho/2023/09/20/nozoe126/

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