歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」開幕!
歌舞伎座で12月3日に、歌舞伎座12公演「十二月大歌舞伎(じゅうにがつおおかぶき)」が初日の幕を開けた。師走を彩る豪華ラインナップで、歌舞伎の多彩な魅力を堪能できる。(26日まで。)
【第一部】
第一部は、『旅噂岡崎猫(たびのうわさおかざきのねこ)』で幕開き。
本作のもととなるのは、三代目市川猿之助(二世猿翁)が昭和56(1981)年、エンターテインメント性を取り入れて154年ぶりに復活上演して以来、人気作として上演を重ねてきた『獨道中五十三驛(ひとりたびごじゅうさんつぎ)』。当月、おさん実は猫の怪を勤める坂東巳之助は、平成28(2016)年の全国巡業公演にて、猫の怪を初役で勤めている。この内、今回は「岡崎無量寺」の場に新たな趣向を取り入れて楽しんでもらえるようになっている。
岡崎の無量寺にやって来たのは、由井民部之助(中村橋之助)と幼子を連れたお袖(坂東新悟)夫婦。二人は、主君の病平癒祈願のための道中でお袖の母親おさんがこの世を去ったことを知る。そんな中、日も暮れたために一夜の宿を求めてここへ辿り着くが、そこにはなんと死んだはずのお袖の母・おさん(坂東巳之助)の姿。無量寺に向かう道中には、民部之助とお袖が客席通路を練り歩く演出もあり、場内を盛り上げる。
いかにも怪しげな雰囲気に包まれる空間で、おさんが放つ只者ならぬ異様な佇まいに観客の視線が釘付けとなり、民部之助とお袖の端正な姿が対比として浮かび上がる。死から蘇ったと語るおさんだが、実はその正体は…。
次々現れる猫と戯れるなど、おさんが人間ならざる仕草を見せたのち、次第に本性を顕す様子は最大の見どころ。江戸時代から伝わる「日本三大怪猫伝」のひとつである「岡崎の猫」の怪奇譚をもとにした趣向に富んだ演出で歌舞伎ならではのケレン味を存分に堪能できる。
続いては、歌舞伎座初降臨となる超歌舞伎『 今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』。
歌舞伎の名作『義経千本桜』と、バーチャル・シンガー初音ミクの代表曲である「千本桜」の世界観に着想を得て書き下ろされた本作は、超歌舞伎の初演である「ニコニコ超会議 2016」で上演された
記念碑的な作品で、この度は獅童の次男・小川夏幹が初お目見得することでも話題の舞台。さらに、中村勘九郎と中村七之助が超歌舞伎に初出演。見どころ満載の一幕となる。
冒頭では、獅童に続いて、今回更なる進化を遂げた「獅童ツイン」が姿を現し、バイリンガルに獅童の同時通訳を務めて客席からは驚きの声が上がる。物語の幕が開くと、御神木の千本桜のもとで桜の節会が執り行われている。白狐の尊(中村獅童)、朱雀の尊(中村勘九郎)、舞鶴姫(中村七之助)、初音の前(中村蝶紫)らが居並ぶ華やかさ、満開に咲き誇る桜の美しさに目を奪われる。
ここへ千本桜を我が物にしようとする青龍が襲い掛かるが、白狐と初音の前の娘・美玖姫はそれぞれ狐と蝶に姿を変えて落ち延びていく…。物語は、それから千年後へ──。美玖姫と青龍の精(澤村國矢)、白狐の生まれ変わりである佐藤四郎兵衛忠信(獅童)と青龍による立廻りの場面は、客席も巻き込むような大迫力。陽櫻丸(小川陽喜)と夏櫻丸(小川夏幹)の二人が花道から元気いっぱいに登場する場面では、昨年 1 月に初お目見得して以来の歌舞伎座出演となる陽喜が、溌剌とした台詞で成長ぶりを見せ、夏幹は力強くも可愛らしい名乗りと見得で観客を魅了する。
クライマックスでの獅童とミクによる宙乗りでは、客席にペンライトが光り輝き、場内の盛り上がりも最高潮に。桜の花びらが降り注ぎ、熱気溢れる場内を上がっていく中、本舞台には朱雀の尊の勘九郎、舞鶴姫の七之助、陽櫻丸の小川陽喜と夏櫻丸の小川夏幹らがペンライトを手に並び、超歌舞伎ならではの高揚感に包まれた。最後には鳴りやまぬアンコールの声に応えて花道より獅童が登場。歌舞伎座での上演が実現したことについて、「ミクさんファンの皆様、超歌舞伎ファンの皆様がここに導いてくださいました。伝統を守りつつ、革新を追求する!これが中村獅童の生き方、これが超歌舞伎!!」と声を上げ、割れんばかりの拍手と熱狂に包まれる中、幕を閉じた。
古典歌舞伎と NTT の技術を始めとした最新のテクノロジーが融合した超歌舞伎。NTT の新たな技術・演出については、こちらを参照のこと。https://chokabuki.jp/kabukiza/
【第二部】
第二部は、『 爪王( つめおう) 』から。
動物文学の作家・戸川幸夫の感動作を平岩弓枝が脚色した中村屋所縁の舞踊劇。
雪が降り積もる角鷹森。「吹雪」と名付けた鷹(中村七之助)を飼う鷹匠(坂東彦三郎)のもとへ庄屋(中村橋之助)がやって来て、村で悪さをする狐の退治を頼む。やがて鷹匠と吹雪は山へ向かい、鋭く牙を剥き出す狐(中村勘九郎)と対峙。勘九郎の狐と七之助の鷹には、細かい仕草の隅々に生命力と闘志が漲り、幻想的な世界が広がる。緊張感漂う決闘の末、狐に破れてしまった鷹は、谷底へと消えていく…。
そして季節が過ぎた頃、吹雪は再び狐と対峙するため、果敢に大空を舞っていく。そしてついに狐を討ち負かす吹雪は、誇らしげに鷹匠のもとへと戻ってくるのだった。
ダイナミックな舞踊で表現される狐と鷹の激しい闘い、鷹と人間の絆が胸に染み入る一幕に、大きな拍手が送られた。
続いては、この度が初演となる『俵星玄蕃(たわらぼしげんば)』。
人間国宝の講談師・神田松鯉の脚本協力、昨年好評を博した『荒川十太夫』のスタッフにより、新たな舞台が誕生した。時は元禄15年12月13日、槍の名手・俵星玄蕃(尾上松緑)の道場に、玄蕃が贔屓にする夜鳴きそば屋の十助(坂東亀蔵)が訪ねて来る。二人で酒を酌み交わすうち、赤穂義士の討入りが噂される吉良邸に用心棒の仕官を誘われていることを話す玄蕃。実は十助は、そば屋に身をやつして吉良邸の動向を探る赤穂義士の一人、杉野十平次で…。
義士たちが素性を隠し、虎視眈々と吉良邸討入りの準備を進めるなかで登場する槍の名手・俵星玄蕃は、講談や浪曲でも有名な人物。玄蕃を慕うも、正体を明かせぬ杉野との交流を織り交ぜながら、討入り前夜から当日までを情感豊かに描く物語。
筋書のインタビューで「歌舞伎のセオリーに則して、歌舞伎ならではの『俵星玄蕃』をお見せしたいと思います」と語った松緑。槍の名手としての見せ場を勇ましい立廻りで表し、義に生きる玄蕃の姿が胸に響く。
歌舞伎座では、尾上松緑主演による「赤穂義士外伝」を2カ月連続上演する。赤穂義士が討入りを果たした当月には討入り前夜と当日を描く本作を初演、そして新年 1 月には、討入りの後日譚を描き好評を博した『荒川十太夫』を再演する。それぞれ義を貫く男の生き様、赤穂義士との交流が胸を打つ、講談から生まれた二つの物語に期待が高まる。
【第三部】
第三部は、『猩々(しょうじょう)』で幕を開ける。
猩々とは古くから中国に伝わる水中に棲む霊獣で、酒を好み、無邪気に舞い戯れる妖精のような存在。酒に酔った猩々が水上での戯れを見せる猩々舞がみどころで、酒好きの霊獣からはあふれる愛嬌と品格が漂う。今回猩々を勤めるのは、尾上松緑と中村勘九郎。壺から酒を酌む仕草や、盃を傾けて嬉しそうに酒を飲む仕草など随所に施される細かい振付が見どころ。
中国・揚子江のほとり。ふたりの猩々(尾上松緑、中村勘九郎)は酒売り(中村種之助)に勧められるままに大好きな酒を飲むと、酒の徳を謳いながら、上機嫌に舞って見せる。やがて、酒売りに酒壺を与えて猩々は打ち寄せる波間に姿を消すが、その酒壺は…。格調高く朗らかな舞台に客席には自然と笑顔が広がった。
続いては、この度が初演となる『 天守物語( てんしゅものがたり)』。
今年、生誕150年を迎えた泉鏡花の戯曲のなかでも屈指の名作とされる本作は、姫路城(白鷺城)の天守に隠れ住む姫の伝説を題材に、鏡花ならではの幻想的な世界を織り込んだ至上の恋の物語。歌舞伎では、昭和30(1955)年に六世中村歌右衛門の富姫で初演し、近年では坂東玉三郎が昭和52(11977)年に富姫を初演して以来、自身が演出も勤めながら大切に上演を重ねてきた。今回は、中村七之助が富姫を勤め、演出の玉三郎が富姫の妹分・亀姫を初役で勤めることでも話題の物語。
播磨国姫路にある白鷺城の天守閣。ここは、人間たちが近づくことのない、美しい異界の者たちが暮らす別世界。この世界の主こそ、美しく気高い富姫(中村七之助)。そこへ富姫を姉と慕う亀姫(坂東玉三郎)が訪れると、富姫は久しぶりの再会を喜び、土産として白い鷹を与える。玉三郎の亀姫は可憐で可愛らしく、妹分の亀姫を可愛がる七之助の富姫には貫禄ある美貌が漂う。美しい二人が生首を手に微笑みあう場面は、鏡花ならではの妖しい魅力に満ち溢れる。
亀姫に仕える朱の盤坊(中村獅童)、舌長姥(中村勘九郎)なども奇怪な存在として作品の世界観に深みを持たせる。その夜、行方知れずとなった城主播磨守の白鷹を探しにやって来たのは、播磨守に仕える姫川図書之助(中村虎之介)。そこで富姫と図書之助が運命的な出会いを果たし…。
美しい異形の世界の住人と、この世の人間とが織りなす幻想的で詩情豊かな物語で観客を魅了した。
【公演情報】
歌舞伎座新開場十周年
「十二月大歌舞伎」
2023年12月3日~26日◎歌舞伎座
【休演】11日(月)、19日(火)
【貸切】第一部:15日(金)、24日(日)※幕見席は営業
第一部 午前11時~
第二部 午後2時45分~
第三部 午後5時45分~
〈お問い合わせ〉
チケットホン松竹 0570-000-489(午前10時~午後5時)
チケットWeb松竹(24時間受付)
〈公式サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/846