シス・カンパニー公演『カラカラ天気と五人の紳士』いよいよ開幕! 高田聖子・中谷さとみ インタビューュー

シス・カンパニー公演『カラカラ天気と五人の紳士』が、4月6日にシアタートラムで東京公演の幕を開ける。(26日まで。そののち岡山、大阪、福岡にて上演) 

不条理劇の第一人者・別役実の世界を演出するのは、演劇はもちろん、映画、ドラマの脚本・演出など傑出した活躍で注目の加藤拓也。キャストには堤真一・溝端淳平・野間口徹・小手伸也・藤井隆、そして高田聖子・中谷さとみと錚々たる俳優たちが顔を揃えている。

物語のはじまりは、ある日、ある所に、「棺桶」を担いで五人の紳士たちがやってくる。どうやら、五人のうちのひとりが懸賞のハズレくじでもらった景品らしい。せっかくの景品を役立てるためには、仲間の一人が死んで棺桶の中に入らねば、と、五人の議論が始まった。

そこへショッピングバッグを抱えた女性二人が現れた。彼女たちは、同じ懸賞の当たりくじの当選者たちだったのだ。そして、その一等賞の景品とは・・・?

別役実ならではのシュールな設定と、登場人物たちのとりとめのないやり取りは、笑いの中にも「死」の気配が漂う。そんな「不条理劇」の世界に挑む高田聖子と中谷さとみ。ホームグランドの劇団☆新感線とはまた違った新たな取り組みとなる本作への抱負などを語ってもらった。

高田聖子 中谷さとみ

どこか自分たちと繋がっている 

──高田さんは、別役作品は劇壇ガルバ『森から来たカーニバル』(2018年)で経験済みですね。出演していかがでした?

高田 ガルバを主宰されている山崎一さんが、別役さんの作品に関しては専門家のような方でしたから、いろいろ教えていただけてありがたかったです。それに、やはり台詞が難しいというか伝わりにくいような部分もあるということで、関西出身の私と大石継太さんの台詞は大阪の方言にしてくださって、そのぶん楽しく会話できました。そういう意味ではスタンダードではなかったのですが、別役さんの不条理劇に初めて取り組むには良い経験だったと思います。

──中谷さんは別役作品は?

中谷 初めてです。本をいただいて最初に読んだときは単純に面白いなと思いました。でも実際に稽古が始まって本読みで読んでみたら、目で文字を追っていたときより難しいなと。ただ、そういう稽古の中で、演出の加藤拓也さんが「敬語にしてみましょう」とかおっしゃったり、それぞれの関係性などが見えてくると、いろいろわかってきて、今はとても楽しいです。

高田 そう、意外とわかりやすいよね(笑)。私も最初は「あ、不条理劇だ!」と思いながら読んだのですが、わりと近い話というか、どこにもないような話でありながら、どこか自分たちと繋がっている、そんな感じを受けました。

──お二人は女1、女2として中盤に登場しますが、台本を読ませていただいたら、高田さんと中谷さんがそのまま浮かんでくるような感じで、ぴったりだなと。

中谷 私たちのことを知っている方たちからは、そう言っていただいてます(笑)。コンビ感の強い役ですし、実際に同じ劇団ということでテンポなども一緒ですから気持ちいいし、つい楽しくなりすぎてしまって、加藤さんに「違います」と言われて(笑)、「そうですよね」みたいな。

高田 お互いの手の内がわかっているから、ついラクなほうにね(笑)。それにうちの劇団のお芝居はどうしても「お客さんに見せる」という感覚があって、もちろんその中でリアリティを持ちながらやっているんですけど、つい気持ちいいテンポになりがちなんです。今回はそれじゃないと思うのでいろいろ一緒に試しながら。お客さんから観たら「いつもと同じじゃないか」と言われるかもしれませんが(笑)。

中谷 言われそう(笑)。

楽しげな会話の中にドキッとするワードが

──中谷さんは不条理劇も初めてだそうですね。

中谷 そうなんです。ですからこのお話をいただいたとき「私?私なんですか?」と、びっくりしました(笑)。

高田 でも真逆な私たちがやるから面白いのかなと。活き活きしている人が死にたがっているってどういうことかなと。そこには、描かれていなかったり、生まれてなかったドラマがあるのかなとか、観ている方が思ってくだされば、私たちがキャスティングしていただいた意味があるんじゃないでしょうか。

中谷 そうですね!そうなったらいいですね。

──劇中では、男五人が棺桶を囲んで、どこか遊んでいるようにも見えます。稽古場でその様子をご覧になっていていかがですか?

高田 最初はあまりのバカバカしさに、「ウソじゃない?」と思いながら見ていたんですけど(笑)。

中谷 私もです(笑)。

高田 でもこの人たちはこうやってずっと時間を潰しているんだなと。そしてその時間は、たぶんもっと前からながーく続いているその一部でしかない。その彼らのながーい日常を覗いているような感覚で見ています。それだけに、その遊んでいるところに私たち女二人が出て行くのが、ちょっと申し訳ないみたいな感じです(笑)。「せっかく俺たち楽しくやってたのに」と(笑)。

中谷 でも、話している内容はいろいろ恐いですよね。

高田 すごく楽しげなんだけど、その会話の中に「棺桶」とか「青酸カリ」とか「死ぬ」とかドキッとするようなワードが出てくる。しかも忘れた頃にサラッとさりげなく言わせているところが、この作品の恐さだなと思います。

──しかも男五人は、「死」について逡巡しているというか、いろいろ迷ったり決めかねているようにも見えます。一方の女性二人は、登場から最後まで、現実的かつ決断の早さがあって面白いですね。そういう男女の違いについても別役さんは描きたかったのでしょうか?

高田 確かにその違いは面白いんですけど、そこに意味を感じていらしたのかどうか、そういうふうに受け取ること自体ナンセンスだと思っていらしたのかもしれないし、そこはわからないですね。

中谷 私も男五人と女二人の違いについては、たぶんいろいろな受け止め方があると思いますし、それでいいのかなと思っています。

不条理劇でも突き放さない

──加藤拓也さんの作品は、お二人はご覧になっていますか?

中谷 『いつぞやは』(2023年 シス・カンパニー)は拝見しました。

高田 私も。それに『ザ・ウェルキン』(2022年 シス・カンパニー)も観ています。

──『いつぞやは』は加藤さんが脚本も書かれた作品ですが、いかがでした?

高田 すごかったです。その場に自分がいるような気がしました。それから加藤さんて優しい人なのかなと。自分からは手を差し伸べないんですが、そこで起きている問題やその中にいる人をすごくちゃんと見ているんですよね。

中谷 私は、とても面白かったです。出演者の方もそれぞれ映像などでよく観ている方ばかりなのに、匿名性を感じるというか、その役の人に見えてすごいなと。

高田 起きていることが自分のことのように思えるし、私だったらどうしてるだろうとか、考えてしまう、そういうリアルさがあって衝撃的でした。

──そして今回、演出を初めて受けていかがですか?

高田 一言でいうと、匂いがないというか無臭というか、すごく不思議な人だなと。

中谷 体温とか熱がない感じですよね。

高田 でも役者ひとりひとりのことをすごく見ていらっしゃるんです。本読みからすでにそうで、読んでいるその人をロックオンしている感じで。

──演出は具体的なのですか?

高田 そうですね。これは有り、これは要らないというのがはっきりしていて、ここへ行くのはやめましょうとか。観たいものがすごくはっきりしているというか。

中谷 たぶんお客さんに観てほしいものがすごくクリアなんでしょうね。

高田 そう。別役さんの戯曲をすごく読み込んでいらっしゃって、ご自分の視点をしっかり持っていらっしゃるんです。不条理劇は、私は観客として何作か観ているのですが、途中でその世界からふっと突き放されることがあるんです。そしてそこからまた引き込まれる場合もあれば、諦めてしまう場合もあって(笑)。でもこの作品は突き放されないし、加藤さんはそうさせないように作ろうとしているのを感じます。 

中谷 私も今回出演するにあたって、不条理劇を何本か、映像ですが観させてもらいました。なかには不思議な世界を見ている感じで、入っていけない作品もありました。でもこの作品にはその感じがまったくないです。男五人の俳優さんたちのキャラクターが、それぞれ閉じてないというか、開かれているのを感じます。それがあるのかなと思っています。

高田 不条理劇の世界って、どこかファンタジー的な受け取り方もできるんですけど、今回、とても生々しいんですよね。でも考えてみると、例えば電車の中で聞こえてくる会話なんかも、話があちこち飛んだりしますよね。これが別役さんの世界なのかもと。そういうふうに考えたら、不条理劇も身近に思えますよね。

全編ギャグ、そして余韻はものすごい

──そんな作品を観ていただく方たちにアピールをいただけますか。

中谷 私はこの本を読んだとき、30年も前に書かれた戯曲ですけど、コロナ禍以来、死がすごく身近になっている今の時代の社会風刺になっているなと思ったんです。ですからお客さんがどう思われるかとても興味があります。そして私自身は、シス・カンパニーさんの作品に出演させていただけるなんて、とドキドキしていますが、先輩の聖子さんが一緒なのでめちゃくちゃ心強いです。

高田 ほんまかいな(笑)。

中谷 楽しみながら、一生懸命がんばりますので、ぜひご覧になっていただければ嬉しいです。

高田 言ってみればこの作品は全編ギャグです(笑)。笑えるお芝居だと思って観ていただいて、ギャグだと思って笑っているうちに、ときどきドキッとしたり、自分のことと重なったり、という瞬間を楽しんでいただけるんじゃないかと。そして余韻はものすごいと思います。沢山笑ったぶんだけ、私はあんなことで笑っちゃったなとか、でも笑えるよなとか、いろんな感情を持ち帰れる、そういう余韻が残るお芝居です。ぜひ笑いにきてください。

  高田聖子・中谷さとみ 

たかだしょうこ○奈良県出身。1987年『阿修羅城の瞳』より劇団☆新感線に参加。劇団公演だけでなく、外部公演の出演も多岐に渡っている。95年に自身が立ち上げたプロデュースユニット「月影十番勝負」「月影番外地」で定期的に公演し、16 年『どどめ雪』で第 51 回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。最近の劇団以外の出演舞台は『ベイジルタウンの女神』『アンチボデス』『THE PRICE』。ドラマ『うちの弁護士は手がかかる』『元彼の遺言状』『拾われた男』。映画『四月になれば彼女は』『罪の声』『アイアム・まきもと』『嘘八百 浪花夢の陣』。6月~7月、新国立劇場公演『デカローグ8 ある過去に関する物語』に出演予定。

なかたにさとみ○奈良県出身。1997年『髑髏城の七人』より劇団☆新感線に参加。以降、ほぼ全ての公演に出演する劇団の主要メンバー。劇団以外で主な出演舞台は、ロック☆オペラ『サイケデリック・ペイン』デス電所『ヌンチャクトカレフ鉈鉄球』赤坂RED/THEATERプロデュース『絢爛とか爛漫とか』月影十番勝負第九番『猫と庄造と二人のおんな』など。7月~10月、劇団☆新感線『バサラオ』に出演予定。

【公演情報】 

『カラカラ天気と五人の紳士』 

作:別役実  

演出:加藤拓也

出演:堤真一 溝端淳平 野間口徹 小手伸也/高田聖子 中谷さとみ/藤井隆 

ヴィオラ演奏:徳高真奈美

●4/6~26◎東京公演 シアタートラム

●5/2~4◎岡山公演 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場

●5/7~11◎大阪公演 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

●5/15・16◎福岡公演 キャナルシティ劇場

〈お問い合わせ〉シス・カンパニー 03-5423-5906(平日11:00~19:00)

〈公式サイト〉https://www.siscompany.com/karakara/ 

※小学生未満のお子様はご入場いただけません。

※当日券販売については、公式サイトでご確認ください。

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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