青春のほろ苦さと人生の儚さを笑いと涙で描く名作、タクフェス『夕-ゆう-』開幕
宅間孝行の作・演出によるタクフェス第12弾『夕-ゆう-』が11月1日に、サンシャイン劇場で東京公演の幕を開けた。(10日まで。そののち大阪、福岡、名古屋、札幌公演あり)
本作は、宅間が主宰を務めた劇団・東京セレソンデラックスで2003年に初演。その後、再演を重ねてきた名作で、タクフェスとなってからは、2014年以来10年ぶりの上演となる。
ボディコン、DCブランド、校内暴力、そしておニャン子クラブ。好景気に沸いた1980年代の長崎から物語は始まる。
長崎のとある町にある海の家兼民宿「あいかわ」。そこに住むヤンキー兄弟、相川欣弥(住永侑太)、元弥(古屋敬多)、雅弥(久保田秀敏)の3人は地元では「長崎のキングギドラ」の異名で恐れられていた。その相川家の隣に住む三上家は一家ぐるみで相川家と仲が良く、なかでも長女の夕(矢島舞美)は幼馴染で底抜けに明るくておバカな次男坊・元弥こと「もっちゃん」に淡い恋心を寄せていた。だがそんな想いに気づかず、元弥は夕の親友である高橋薫(中村静香)に夢中。だが薫は元弥の親友の塩屋憲太郎(松本幸大)に恋をしていた。伝えたいけど伝えられない青春の甘酸っぱい想いを抱えたまま大人になっていく夕たち。それぞれの初恋はどんな結末を迎えるのか、伝えきれず言葉にできなかった想いの行方は……
今回はキャストを一新しての舞台で、これまで宅間孝行が演じてきた「もっちゃん」こと相川元弥を演じるのはダンスボーカルユニットLeadの古屋敬多。これまでミュージカルをはじめ洗練されたステージでの活躍が多かったが、今回は役作りで付けた筋肉で体が大きくなったこともあり、血の気は多いが情にもろい80年代の泥臭い青年役が嵌まって、役者として一回り大きくなった。
その友人で恋のライバルとなる憲太郎役の松本幸大は、おおらかな明るさの中にも、この役の根底にある友への心情を感じさせ、大人の男の陰影を見せた。ヒロインでタイトルロールの夕を演じる矢島舞美は、1人の女性の10代から30代への変化を動きや表情で見せながら、変わらぬ恋心を持て余す夕の哀しみを伝える。元弥と健太郎という2人に愛される薫役の中村静香は、女子高生時代から東京暮らしでの変貌、そして結婚を前に揺れる思いなどをメリハリのきいた演技で表現する。
ちなみに、元弥や憲太郎はもちろん、相川家の欣弥役・住永侑太と、雅弥役・久保田秀敏、そして西高の坂田役の大薮丘といったヤンキー役の面々が、いずれも筋トレの成果か腕っ節の強そうな体に作りあげていて、ちょっとした喧嘩のシーンでも迫力とリアリティを見せる。また、そんな男たちより強いのが女性たちというのもヤンキーあるあるで、とくに兄弟喧嘩を始めた欣弥と元弥が、一見やさしげな母・浩子(藤田朋子が好演)にビンタで張り倒される場面も見どころだ。
物語は1980年代後半から2000年代中盤までを描いていて、幼なじみゆえに元弥への思いを言い出せない夕の恋心の切なさや、薫をめぐる元弥と健太郎それぞれの立場とその変化がつむがれていく。その中で、昭和のテレビ番組や人気タレント、アイドルグループなどが背景として浮かびあがり、その時代の青春を彩る。そして今はもう遠く、だからこそ懐かしく、去っていく時代へのノスタルジーがそのまま元弥と夕の青春の儚さとなって、観ている者の胸に刺さるのだ。
もちろんタクフェスだから笑いどころも満載で、元弥の父・相川登に扮した宅間孝行と隣家の主人・三上操役の浜谷健司の掛け合いでは一気に客席をわかせる。また長男・相川欣弥が連れてきた恋人が宇津見緑(市島琳香)だったり、三男雅弥と家庭教師のシーンでは雅弥役の久保田秀敏とガリバー役の吉田英成のツッコミ合いも絶妙で、さらに大薮丘の登場時のヤンキーぶりや彼の妻・信子になる三戸なつめの振り切り方もみごと。また、夕の妹・三上波役を演じる吉川真世はガングロシーンで、夕の仕事仲間の徳永に扮する廣瀬智紀も信子に絡まれる役で笑いに参加、それぞれ存在感を見せている。
宅間による前説やカーテンコールのダンスタイムなど、観客サービスもふんだんに用意されていることもこの公演の楽しみの1つだが、なによりも、誰にでもある燦めくような”時”と移ろいやすい”青春”が、ラストシーンの光景とともに鮮やかに切なく胸に迫って、名作ならではの心に沁みる舞台となっている。
【公演情報】
タクフェス第12弾『夕 -ゆう-』
作・演出:宅間孝行
出演:矢島舞美 古屋敬多(Lead)/松本幸大 中村静香 久保田秀敏 三戸なつめ 浜谷健司 廣瀬智紀 大薮丘 吉田英成 住永侑太 吉川真世(劇団4ドル50セント) 市島琳香/藤田朋子/宅間孝行
●11/1~10◎東京 サンシャイン劇場
〈お問い合わせ〉東京公演 サンライズインフォメーション0570-00-3337(平日12:00-15:00)
●11/14~17◎大阪 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
●11/23◎福岡 キャナルシティ劇場
●11/29~12/1◎名古屋 ウインクあいち大ホール
●12/12◎札幌 カナモトホール(札幌市民ホール)
〈公式サイト〉https://takufes.jp/yuu2024/
《アフタートーク》
・11月7日(木)14:00公演後 登壇:宅間孝行、古屋敬多、松本幸大+スペシャルゲスト永井大(予定)
・11月9日(土)17:00公演後 登壇:宅間孝行、矢島舞美、中村静香、久保田秀敏、廣瀬智紀(予定)
【文/佐藤栄子 撮影/岩田えり】