ティーファクトリー『不思議の国のマーヤ』阿岐之将一×高木珠里インタビュー
チラシには「あらあらあら、猫ちゃんを追って穴の中にスッテンコロリン 目の前の世界はナンデモアリ!?」と、楽しげなコピー。「歌あり踊りありの不思議世界を存分にご堪能ください!」と書かれていますが、同時に、作・演出の川村毅のメッセージには「『ノート』(2019年)、『カミの森』(2023年)と、宗教、神について書いてきました。日本人にとって創唱宗教は必要か否か。自然宗教でいることが健全だろうかといったことを考えてきました。今回の舞台は、私にとって新たな視点でこれらのことに取り組んだつもりです。」ともあります。
『不思議の国のマーヤ』は、どんな世界?
上記の<日本人と宗教>をテーマにした作品群にも出演している阿岐之将一さんと高木珠里さんに聞いてみました。
——阿岐之さんは『ノート』『カミの森』に続く出演作となりますが、3作品間にどのような繋がりを感じていますか?
阿岐之将一: 川村さんの宗教論とまで構えずとも共通しているのは「社会から少し外れた人々」の視点ですね。ただ今回は古代インドの神々の世界、輪をかけて不思議じゃないですか。ただでさえ不思議と言われている川村さんの世界に、『不思議の国のマーヤ』、「不思議×不思議」なんで、2作に比べて不思議さがすごいことになっている(笑)。
——「不思議」といっても「わからない」ということではないんですよね?
阿岐之将一: 古代インド哲学、経典の引用もあり、セリフが不思議なリズムや言葉遣いで、戯曲を一読したときはわからないことも多かったです。ただ、観客の皆さんには演出された形で伝わるので、「わからない」というより「感じていただける作品」だと思います。
——高木さんは『カミの森』に続いての出演ですが、『不思議の国のマーヤ』の特に印象的な魅力はどんなところにありますか?
高木珠里: 『カミの森』は、架空の新興宗教団体を舞台にSFや現実とフィクションを行き来したのに対して、今回は実際に信仰されてきた古代インドの神々の世界なのに、さらにフィクションが加速して、デタラメでやりたい放題。ナンセンスで不条理な漫画のような世界観が強いです。その違いがとても面白いですね。
——「カミの森」のほかにも色々なタイプの川村作品にご出演されていますが、川村さんの作品の魅力はどんなところですか?
高木珠里: そうですね、川村さんの作品は一つ一つテイストが違うんだけど、嘘やデタラメを許される環境が、私はやりやすくて、自由に演じられることがとても心地よいですね。デタラメな部分が逆に面白くて、それがいいんです。
——なるほど、カワムラワールドはナンデモアリ感が魅力なんですね。
高木珠里: そうですね、今回もそうですけど、はみ出してる人たちが描かれていて、彼らに対して優しさがあって、同時に人間の愚かさが表現されているところが共通しているなと思います。今、世界が本当にめちゃくちゃなので、川村さんもよく「絶望」というセリフを使っていますし、自分的にも絶望的な気持ちがあるんですけど、突き放したり冷笑したりするわけではなく、甘い優しさでもなく、最後には必ず「未来に希望を持とう」とか「諦めないでいこう」というメッセージがあるのが、すごくいいなと思っています。鼓舞する感じではなくて、温かい温度感や距離感がちょうど良いなと。
——川村作品は難しいのではないかと思っているお客様もいらっしゃるようですが…?
高木珠里: 稽古の中でも川村さんに「わからなくていいんだよ」って言われることが多いです。わかった方がいい部分もありますけど、逆に「ここはわからなくていい」と思える部分もあります。わからないままでいいというのも、一つの魅力なんじゃないかなと思います。
——阿岐之さんは、別のカンパニーでシャーロック・ホームズ役を務められたばかりですね。全く違う劇世界のように見受けられますが、切り替えは大変ですか?
阿岐之将一: はい、難しいですね。前の作品では「シャーロック・ホームズ」がすでに完璧に世界中でイメージされています。だから、それをただ再現するのではなく、どうやってそれを崩して、自分のものにしていくかを考えていました。制限の中でどう自由にしていくかが課題でしたが、川村さんの作品では、大きくドーンとした世界観のなかで、俳優が自由に生き生きとやることを求められます。セリフを頭でわかろうとすると、逆にドツボにハマってしまうんです。どうやって自由に俳優が劇世界を構築していくかがより求められている感じがします。
——最後に『不思議の国のマーヤ』を観てくださる方へのメッセージをお願いします。
阿岐之将一: 「わかろう」と思いすぎず、ただそのまま楽しんでほしいですね。不思議な世界に身を任せていただければと思います。お子さんも楽しめるシーンがたくさんありますし、ぜひご家族で気軽に足を運んでほしいです。
高木珠里: 演劇が初めての方でも楽しめる内容です。稽古中でも「あれ、もう終わり?」と思うほどテンポが良いです。サクッと観られるけど、しっかり心に残るのがこの作品の良さだと思います。観たあとはカレーでも食べながら感想を話してもらえたら嬉しいですね。
阿岐之将一 あきの・まさかず
11月20日生まれ、広島県出身。新国立劇場演劇研修所10期生。近年の主な出演に、舞台サルメカンパニー『ベイカーストリートの犬』、『BIRTHDAY』 、『イノセント・ピープル~原爆を作った男たちの65年~』、『死ねばいいのに』、『悼むば尊し』、こまつ座『闇に咲く花』、NHK『ちむどんどん』、ドラマ『未満警察 ミッドナイトランナー』、映画『ミッシング』など。4~5月舞台『「エドモン~『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男~」に出演。
高木珠里 たかぎ・じゅり
9月18日生まれ、愛知県出身。大学在学中より舞台、映像に出演。2003年より劇団宝船旗揚げに参加。以降全作品に出演。劇団★新感線、ピチチ5、ポツドール、近年ではティーファクトリー、明日のアー、スヌーヌー等幅広い分野での客演も多数。NHK「虎に翼」等の映像出演の他、一人芝居シリーズ、100人の俳優たちとエチュード(即興芝居)し続ける「高木珠里の演劇100人組手」などの自主公演も行っている。
【公演情報】
ティーファクトリー
『不思議の国のマーヤ』
作・演出◇川村毅
振付◇中村蓉
出演◇阿岐之将一 酒井美来 鉾久奈緒美(大駱駝艦) 吉原シュート
小林彩 佐織迅 千田美智子(文学座) 佐々木優樹 星野李奈(アマヤドリ)
阿比留丈智(劇団チャリT企画) 鈴木彩葉 青木素姫 山崎愛弓 鶴家一仁
β(WAHAHA本舗) 三浦純子(文学座) 高木珠里(劇団宝船) のぐち和美(青蛾館)
2/15~24◎吉祥寺シアター