ケムリ研究室『ベイジルタウンの女神』間もなく開幕! ケラリーノ・サンドロヴィッチ、緒川たまき、古田新太 インタビュー

「とても楽しい芝居だからね。またやりたい」
劇作家・演出家・音楽家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)と、俳優の緒川たまきによる演劇ユニット「ケムリ研究室」が、旗揚げ公演『ベイジルタウンの女神』を5年ぶりに再演します。
当時は新型コロナウイルス感染対策のため、客席を50%に制限して上演されたこともあり、ファン待望の再演となりました。
このページでは、ケムリ研究室主宰のKERA、緒川に加え、出演者の古田新太が登壇した合同取材の様子をレポートします。
初演時に「圧倒的多幸感・祝祭感に包まれた物語」と評された作品と改めて向き合う3名の心境とは!? 「えんぶ4月号」に掲載されたインタビューをご紹介!
もう一度じっくり向き合いたい
──この再演に至った意図・心情を教えて下さい。
KERA 『ベイジル〜』の初演はコロナ元年とも言える202年で、この年に予定していた4本の公演のうち、上演できた唯一の作品でした。ところが、皆さんご記憶だと思いますが(感染対策のため)客席の半分しかお客さんを入れることができず、見逃してしまった方や、配信でしか観られなかった方もきっと多いんです。
緒川 立ち上げからケムリ研究室を追いかけて下さり、観劇を計画して下さった方が結果的に観られなかったケースもありまして、再演すればきっと観にきて下さるだろうという願いも込めています。
KERA そして、コロナ対策に追われるバタバタの中で創ったこともあり、もう一度じっくり向き合いたい気持ちもあります。前回も出演してくれたキャストも、そう感じているのではないかと。
緒川 はい。あくせくしながらになってしまったので、落ち着いて再度取り組みたいですね。そもそもケムリ研究室の立ち上げは華やかなものにしたいとコロナに関する予感すらなかった前年に、祝祭感のあるテイストの作品を創ろうと二人で話していました。それが結果的にコロナ禍での制作になってしまった訳ですが、皆さまに明るい話題や前向きな気持ちを提供する意味で、ふさわしいものになったと考えています。
KERA ハッピーな気持ちになれる、とても楽しい芝居だからね。またやりたい。
緒川 そうなんです。またやりたい気持ちが一番強くて。
──古田さん、出演オファーを受けた心境はいかがですか?
古田 KERAっちとたまきちゃん、いきなり二人で来られて。
KERA (笑)。
古田 『ベイジル〜』再演するけど出ない? と。「(スケジュールが)空いてたらいいよ」と返したら、KERAっちが「ごめん、古ちんの嫌いないい話なんだ」みたいな。
緒川 有り難かったです。古田さんはいい話が嫌いだから断られるかも、とKERAさんから聞いていたので。
KERA その時の気分によるのかなぁ? と。
緒川 願うような気持ちでオファーしたので本当に嬉しかった。
古田 (今作で共演する)山内圭哉には「古田さん『ベイジル〜』出るんですか!?」と驚かれた。出るよーと返事したら「普通にいい話ですよ!?」と。
KERA 「普通」ではないと思うけどなぁ。僕と一緒にやる時はたまたまナンセンスなものが多かっただけで、オールラウンドな俳優さんですからね、古田新太は。
古田 この間DVDでちょっと見直したのですが、前半はひどい奴がいっぱい出てくる(笑)。最後がハートウォーミングで終わるから、そこに騙されてたけど。
緒川 そうなんです。「生きる為にはひどいこともする」が世界観の要素のひとつになっています。
古田 山内とか犬山(イヌコ)が演じてる役とか、結構ひどい奴なんだよね。
ものすごく素直なお芝居をする人
──緒川さんと古田さんの役どころを踏まえて、お二人の共演に期待することを教えて下さい。
緒川 私はマーガレットという役で、生まれも育ちも大変お金持ちで生活に困ったことがない。かたや「乞食の王様」と呼ばれる古田さんの役は、とりあえずその日一日を生きていれば……という生き方をしている。出自の全く異なる二人がほんのり恋をしていくのですが、その瞬間が今はまだ想像できなくて。稽古場でそれを実感する瞬間を想像すると、すごく楽しみになります。どんな二人になるのか。
古田 勝手なイメージだけど、たまきちゃんはものすごく素直なお芝居をする人だと思っていて。オイラの芝居はあまり素直じゃないから、そこは変にこねくり回さず、その素直さに乗っかっていこうかと。素直なお嬢様に乗っかって、振り回される王様になれればいいかな。
KERA なるほど。
古田 台本にはそこまで細かく書かれてないけれど、乞食ですから。純粋なお嬢様とは全然違う訳で。
──お二人は初共演ですか?
緒川 初めてです。
──ならば、尚更楽しみな共演ですね。
KERA 笑いに関して乱暴に二分すると、テクニカルに笑いをとれる人と、テクニックに転ばない方が面白い人に分類できます。緒川さんは明らかに後者。古ちんや(高田)聖子ちゃんは前者に属すると思うんですけど、テクニックはそれなりに駆使してもらいつつも、技術を過信し過ぎないよう意識したい。テクニックに寄りかかり過ぎると「そういうのはもう散々観たよ!」という印象になっちゃうからね。
もっとファンタジーに寄せられるのでは?
──再演に向けて、脚本の改稿プランはありますか?
KERA 緒川さんと二人で何度か初演映像を見直したのですが、見直すと反省点が目につきます。やはり(初演は)台本を書きながら稽古を同時進行させて、目指すゴールは明確にあったものの、どんな肌触りの芝居になるか絞りきれないまま書き進めていたので。いま改めて観ると、ファンタジーと言いつつも割と様々な要素が混ざっている。再演ではもっとずっとファンタジーに寄せた方が、作品のもつ世界観はくっきりするのではないかと考えています。あとは、古ちんが王様役をやるので(初演の配役と)ちょっとイメージが変わるんですよ。妹役の水野(美紀)とのバランスも、改めて調整した方が面白くなりそう。
──KERA×古田新太のタッグに期待するファンも多いと思います。
KERA 古ちんとはナンセンスを3本やりまして(※『犯さん哉』07年、『奥様お尻をどうぞ』11年、『ヒトラー、最後の20000年〜ほとんど、何もない〜』16年)、『欲望のみ』というブラックコメディでまったく違った方向性を探ろうとしていたんだけれど、コロナ禍で中止になってしまった。『ベイジル〜』の初演直前のことです。『欲望のみ』は沢山人が死ぬ、かなり陰惨な作品として構想していました。その反動で『ベイジル〜』では温かみのある作品をやりたくなるに違いない……という予測だったんです。今度の再演では、僕の作品ではこれまで見ることのできなかった古ちんを見ることができると思います。
──緒川さん、再演に向けていかがでしょう?
緒川 ケムリ研究室では、出演者としてだけではなく、キャストやスタッフを繋ぐ役割を担っていて、旗揚げの時は全てが手探りすぎて、本来私が立ち回るべきことを充分にできなかった。演じるマーガレットさんは人の善意にすがって生きているキャラクターで、誰かを引っ張っていく立場とは異なるのですが、ケムリ研究室として皆さんをお招きしている以上、役の持ち味を大切にしつつ皆さんをどう引っ張っていくか、それらを両立させたいと目論んでいます。出演者でありながら常にもうひとつの目線を持っていることが楽しい現場なので。
予備知識ゼロで観ていただいて心から楽しめる作品
──KERAさん、今作を一言で表現すると?
KERA そうですね、極めつけのファンタジー。誰が観ても楽しめる、誰でも観に来られる芝居、でしょうか。
──最後に。今作で初めてKERA作品に触れる方もいらっしゃると思います。その方たちの背中を押すようなコメントを頂戴できたら。
KERA この作品は入門編として抜群です。近年のナイロン(100℃)作品を一本目に選んじゃうと、僕の芝居を二度と観てくれない人が現れてもおかしくないから(苦笑)。
緒川 入門にも最適だし、色々観て疲れている方にも。
KERA ああ、たしかにそうだね。重い芝居や難解な芝居を続けて観て、少し息抜きしたい方にも最適です。
緒川 色々観て考え過ぎてしまった方が一旦リセットするのに丁度良いかも。難しい気持ちにはならず、それでいて心を揉みほぐすような本当に素敵な作品です。
古田 観劇は敷居が高いといまだに勘違いしている人たちが多くて、実は敷居が低いものだということを、この作品で思い知らせてやりたい。
KERA まさに!
緒川 あと、前もって知識を得ていないと楽しめない作品もあるなかで、この作品は事前に知っておかないといけないことが何もない。
KERA 予習の必要なし!
緒川 予備知識ゼロで観ていただいて心から楽しめる作品です。
【プロフィール】
けらりーの・さんどろゔぃっち◯劇作家、演出家、映画監督、音楽家。ナイロン100℃主宰。82年、ニューウェイヴバンド「有頂天」を結成。85年に「劇団健康」を旗揚げし、音楽活動と並行して演劇活動を開始する。劇団健康解散後の93年には「ナイロン100℃」を旗揚げした。近年は多くの演劇賞を受賞するなど国内演劇シーンを牽引し、ソロをはじめ、再結成した有頂天や「KERA&Broken Flowers」、鈴木慶一とのユニット「No Lie-Sense(ノーライセンス)」など、音楽活動も精力的に行っている。
おがわたまき◯女優。映画『PU プ』にてデビュー。97年に舞台『広島に原爆を落とす日』にてゴールデンアロー賞演劇新人賞を受賞するなど、数多くの舞台作品、映像作品に出演し、幅広く活躍する。ケラリーノ・サンドロヴィッチ、岩松了など、気鋭の演出家が手掛ける舞台公演への出演歴も豊富。
ふるたあらた◯俳優。劇団☆新感線所属。84年、大学の先輩に誘われるかたちで劇団☆新感線に出演。以降新感線作品への出演を続け、劇団を代表する看板俳優となる。舞台出演と並行して、映画、TVドラマ、ラジオなど多方面で活躍。9〜12月には2025年劇団☆新感線45周年興行・秋冬公演 いのうえ歌舞伎への出演も控える。
ケムリ研究室
けむりけんきゅうしつ◯20年、劇作家・演出家・音楽家のケラリーノ・サンドロヴィッチと俳優・緒川たまきにより結成された演劇ユニット。これまでに『ベイジルタウンの女神』(20年)、『砂の女』(21年)、『眠くなっちゃった』(23年)を上演。今作が第4回公演にあたる。

〈公演情報〉
ケムリ研究室 no.4『ベイジルタウンの女神』
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:緒川たまき 古田新太 水野美紀 山内圭哉 坂東龍汰 藤間爽子
小園茉奈 後東ようこ 斉藤悠 依田朋子 中上サツキ 秋元龍太朗
尾方宣久 菅原永二 植本純米 温水洋一 犬山イヌコ 高田聖子
●5/6〜18◎世田谷パブリックシアター、
●5/22〜25◎兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、
●5/29〜30◎久留米シティプラザ ザ・グランドホール、
●6/6〜8◎穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール、
●6/14〜15◎りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
〈お問い合わせ〉キューブ 03-5485-2252(平日12:00〜17:00)
https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/kemuri-no4
【インタビュー◇園田喬し 撮影◇中村嘉昭】