【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.149「骨が折れる」

酷暑よりもクマが心配だ。クマに襲われるニュースを毎日のように目にする。クマからすれば森の先住民なわけで、なんとも簡単には発言できない問題だ。
そういえば、7月に日本に大災難が起こるという予言もあったっけ。
本気で信じている友人もいたが、大災害はいつ起きてもおかしくないわけだし、備えをきちんとするという意味では、信じるというのもいいのかもしれない。程度にもよるけど。ちなみに、その友人は7月になる直前に東京から脱出していた。

個人的な災難は、少しあった。
波のプールで、大波の時間帯にサーフィン教室が開かれていた。ぼうやを体験させたのだが、人数が少ないのでお父さんもどうぞ!と言われて、急遽やることに。
ぼうやはすぐに悠々と立って見せていたので、親父も多少はできるのではないかとのぞんだ。ボードにうつ伏せになって、波に合わせて両手でパドルする、そしてすぐに立つ!立てるかあ!己の体幹の衰えにもショックを受けた。
しかし何度かやっているうちに、ようやくギリギリ立てるようになっていった。
できるようになってくるとまあ嬉しいもので、もう一回やっていいですか?もう一回やっていいですか?とちょっと調子に乗り始めた矢先、うっ!右アバラに嫌な痛みが走った。
あーこれやっちまったな。すぐにわかった。アバラ骨は簡単にヒビが入ると言われるが、まあ、入った感じかなこれは。1ミリにも満たないちーさいのだろうが、痛いものは痛い。静かにサーフィンから身を引いた。
 
それから数日後、家の廊下を慌てていたところ、ぐう!閉まり損ねていた扉に足の小指をぶつけた。ダッシュに近い勢いで激しくぶつけた。動けなかった。小指ぶつけ史上最大の痛みだった。左足に体重をかけられなくなった。その痛みが数日経っても治まる気配がなかったので、あーこれはやっちまったな。折れていることを確信した。
私には10年に一度骨折するという骨折スパイラルなるものがあった。
3歳、13歳、23歳、32歳。32歳の時は、一年早まったことに焦った。次でも一年縮まったら8年後40歳か。身構えたが40では折れなかった。41歳か、42歳か。折れなかった。そのまま40代をノー骨折で通り過ぎた。
なるほど、それでか。それで今、50になった途端、2本まとめて折れたというわけか。
そんなことを考えながら病院に行き、足の小指のレントゲンを撮ってもらった。
医者が言った「骨はキレイですね」。
マジ? 折れてなくてもこんなずっと痛いことってあります?
ありますね、強くぶつければ。強い打撲ということで。
アバラのことは触れずにいた。アバラもきっと無傷なのだろう。
 
次回の原稿の頃は夏も終わって行っているのかと思うと少々寂しいです。
まだまだ激暑。みなさま、お大事に。

著者プロフィール

ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。

今後の活動
舞台出演
「シッダールタ」
HP:https://setagaya-pt.jp/stage/25224/
 
原作:ヘルマン・ヘッセ 「シッダールタ」「デーミアン」(光文社 酒寄進一訳)
作:長田育恵
演出:白井晃
 
<東京公演>
公演日程:11月15日(土)〜12月27日(土)
会場:世田谷パブリックシアター
 
<兵庫公演>
公演日程:2026年1月上旬予定
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

▼▼前回の連載はこちら▼▼
https://enbutown.com/joho/2025/07/16/nozoe-148/

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