市川團子が祖父の当り役に挑戦!「立川立飛歌舞伎特別公演」製作発表レポート

獅子の勇壮な毛振り、両宙乗り、大雪――歌舞伎の楽しさが詰まった待望の公演「立川立飛歌舞伎特別公演」10月23日から幕を開ける(26日まで)。東京都の多摩地区初の民間運営ライブエンターテインメント空間「立川ステージガーデン」で2023年10月、第1回目が行われて、好評を博し、今回は第3回目で、立飛グループ創立100周年記念を締めくくる公演となっている。
演目は、『連獅子』と、二代目市川猿翁が復活上演した『當世流小栗判官』をベースに、藤間勘十郎が脚本・演出・振付を担当し、新たな作品とした『新説 小栗判官』の2作品。
キャストと配役は、『連獅子』では尾上右近が狂言師右近後に獅子の精を、勘十郎の子息・藤間康詞が狂言師左近後に仔獅子の精をつとめる。『新説 小栗判官』では、小栗判官と小栗家の忠臣・浪七の2役を市川團子が、判官の許嫁・照手姫を中村壱太郎が、判官に横恋慕する娘お駒と素戔嗚尊(の2役を右近が、常陸国を手中に収めようとする敵・横山大膳を市川中車が演じる。宙乗りなどのケレン味あふれる演出も大きな見どころだ。
7月下旬、都内でこの製作発表が行われた。会見には、市川中車、中村壱太郎、尾上右近、市川團子、藤間勘十郎のほか、株式会社立飛ホールディングス代表取締役社長の村山正道、松竹株式会社取締役副社長の山根成之も出席。それぞれから挨拶の後、質疑応答に移った。

【挨拶】

村山正道 「立川立飛歌舞伎」はまだ2年しか公演しておりませんが、非常に認知されています。立川ステージガーデンは、花道は長いし、空間が非常に広く、お客様にとっては楽しめるだけに逆に役者さんは大変だろうなと思います。特色ある内容で、去年は花道が2本でした。今年が3度目で、これまで桜吹雪、紅葉吹雪で、今年は雨かと思ったら雪だそうです。ぜひお楽しみいただければと思います。

山根茂之 3年連続出演の中車さん、壱太郎さん、2年ぶりの團子さん、初登場の右近さんと、非常に賑々しいメンバーです。ステージガーデン立川は本当にダイナミックで、古典的な劇場とはまた別の魅力がある劇場。その都度どういう歌舞伎ができあがるか、楽しみでしょうがありません。今回も非常に意欲的な作品を揃えることができ、皆様のご期待に沿える舞台になるのは請け合いです。

藤間勘十郎 昨年に引き続き演出・振付・脚本という大役を仰せつかり、身に余る光栄です。『連獅子』は、私たちの業界でも一つの教訓のようなもので、役者さんたちも一度はやりたいと思っている作品。日本のみならず、海外でも大変に高評価を受けています。うちの子ども(藤間康詞)が足を引っ張ってしまうかもしれませんが、右近さんの力を借りてつとめさせていただきます。
『新説 小栗判官』は、(二代目市川)猿翁さんが私の祖父・六世藤間勘十郎、私の演出の師匠・奈河彰輔氏と3人で作り上げた『(當世流)小栗判官』と、またその『小栗判官』の基になった、壱太郎さんのお祖父様の(四代目)坂田藤十郎さんがおやりになった『小栗判官車街道』という作品があります。両方のいいところをとって、私が脚本・演出・作曲させていただき、團子さんと私で上演しました。今回これを新たに歌舞伎の作品として、私が書き直して上演させていただきます。
父を殺された照手姫が許婚の小栗判官と共に仇討をする、その艱難辛苦を描く作品で、暴れ馬の曲(きょく)乗り、浪七を中心とする大立廻り、お駒という可憐な女性の怪談物語、小栗判官と照手姫の道行(舞踊)など、歌舞伎の要素がふんだんに詰まっています。先ほどお話もあったように、客席なのか舞台なのかわかりませんが、大量の雪をどさっと降らそうと考えています(笑)。
猿翁さんが作られた演出のひとつで、昔から天馬に乗って宙乗りをしますが、今度はそれと共に、右近さん演じる素戔嗚尊がこの劇場で初めて、上手(かみて)と下手(しもて)の客席の上を飛んでいく両宙乗りをご覧いただきます。歌舞伎の小屋(劇場)とは全然違うところで大歌舞伎を作らせていただくのは、大変なこともありますが、そこを楽しみながら、今回の小屋に合った形で上演できればいいのではと考えております。

市川中車 「立川立飛歌舞伎」は3回目の出演ですが、本当に環境もよく、歌舞伎役者としては本当に気持ちが良く、また今年も秋が来たなと思う公演に成長していっています。私自身は『小栗判官』の横山大膳という大敵の役をさせていただきます。父(猿翁)が1980年代にこれを復活させた時、碁盤の上の立廻りなどを父が汗水を流してつとめていました。僕はビデオでしか見たことはありませんが、それを息子の團子が、このような早い段階でやることになるとは思いもよりませんでした。今回は歌舞伎として浪七もつとめ、本当に大車輪の活躍をしなければならない。「立川立飛歌舞伎」に團子が2年ぶりに戻ってきて、この2役をつとめることに感無量です。立川ステージガーデンの劇場にいっぱいの雪が降ることを考えると、今から胸が躍ります。

中村壱太郎 「立川立飛歌舞伎」の秋が来たという思いです。お役は、「ご挨拶・解説」がなぜか毎年好評をいただいてありがたいですが、新しいことというよりも、やはりしっかりと歌舞伎の導入部分として、楽しくさせていただきたい。子どもの頃に猿翁のおじさまの『小栗判官』を映像で見て、その時は照手姫を笑也さんがおつとめでしたが、白馬に乗って男女ペアで宙乗りができる、こんなファンタジーはないと、すごく感動しました。いつか白馬に乗るという夢が、この公演でまたひとつ叶う。團子君と一緒に白馬に乗れるので、落ちないようにしたい。私は昨年この立川で初めて宙乗りをさせていただき、2回目がまた立川で、とても嬉しく思います。
3年目は、立川に歌舞伎をしに行くだけじゃなく、立川の地を僕らももっと知っていきたいし、よりお客様に立川の地を知っていただきたい。そこで、先日團子君とグリーンスプリングスあたりを歩き、歌舞伎への思いを語ったり、街にも出たり、ロケ番組を作りました。近々(8月27日)YouTubeで公開されます。ぜひ皆さんに立川の地を知っていただける3回目の公演になればと思うし、必ずや4年目5年目と続くように今からいろいろと考えて、3年目を成功させたい。

尾上右近 昨年、歌舞伎座の公演のスチール写真を撮りに立川に行き、その流れで「立川立飛歌舞伎」を拝見しました。以前から出させていただきたい思いもあり、お話もいただいてはいて、ご縁があってタイミングが合えばぜひと言っていたら、休憩中のロビーで今回の出演が決まりました(笑)。先輩方、皆さん、そして團子さんという素晴らしい後輩と歌舞伎を立川の地でできることが心から嬉しい。
『連獅子』は、私も仔獅子として4人の先輩方によんでいただき、4人の親獅子に育てられました。昨年の自主公演(研の會)で親獅子のデビューを果たし、その時の仔獅子は尾上眞秀さんでした。迎えるべき仔獅子が康詞さんということが、とても嬉しい。父(清元延寿太夫)は歌舞伎俳優ではなく、先輩たちに導いていただいて今の自分があり、誇りにも思っています。藤間勘十郎先生には本当に恩があり、僕が道を踏み外さずにここまでこられたのは、本当にご宗家のおかげ。親とも思える存在のおかげで自身が親獅子になれて、また新たな仔獅子に、僕なりに伝えられることがあるのではという希望、期待、喜びを持てることが、この歌舞伎の世界に身を置いていてよかったなと思う最大の理由です。勇猛果敢な獅子の表現は、歌舞伎ならでは。歌舞伎座で『春興鏡獅子』をさせていただいた時、神田伯山さんが「獅子の勇ましさはとてつもない芸の飛距離がある。東京ドームでもできるね」と言ってくださった。この会場の広さを埋め尽くす飛距離をご披露できるのではないかと思います。
『新説 小栗判官』は、ご宗家と團子君で作られたものが立川で歌舞伎として上演されると伺い、自分も参加できることを本当に嬉しい。歌舞伎座で4年前ぐらいに上演された際、私もお駒をさせていただきました。娘の可憐さから、内面的な執着や愛の裏返しみたいなものが存分に発揮され、照手姫とは違った女性の一面を感じていただける、魅力的な女方のひと役だと思います。素戔嗚尊は今回ご宗家がお作りになって、宙乗りもさせていただけるとのこと。去年壱太郎さんが宙を飛ぶ姿を拝見していたので、まさか自分がこの地で飛べるとは思いませんでした。お二方は馬に乗って、私は立った体勢…まさに立飛ということで(笑)、よろしくお願いいたします。

市川團子 2023年に初めて出演し、『吉野山』で忠信をつとめさせていただきました。今年3年目の「立川立飛歌舞伎特別公演」に参加させていただけて、ありがたく思います。『新説 小栗判官』は、今年6月に春秋座で舞踊公演として上演し、その際に小栗判断をつとめさせていただきました。今回は浪七もつとめさせていただきます。小栗判官は二枚目で、6月が初めての挑戦でした。浪七は忠臣で勇猛ですが、こういう役も初めてで、自分の役柄の幅を少しでも広げたい。
『新説 小栗判官』のもとになった『當世流小栗判官』は、祖父が制定した「猿之助四十八撰」の1つで、説経節や歌舞伎の昔からある作品のエッセンスを取り入れながら祖父が再構成した演目です。そういう再構成して復活させる演目は何作か作っていますが、その中でも『當世流小栗判官』は3本の指に入るだろうと祖父が資料で書いていました。未熟な自分で、こんな身に余る大役をつとめさせていただく覚悟をしっかりもち、舞台を盛り上げられるように誠心誠意つとめたいです。
2年前、立川の幼稚園の皆様が舞台稽古を見に来てくださり、その後に少しお話ししたり、花束をいただいたり、一緒に写真を撮る時間がありました。今年も幼稚園の方が舞台稽古の時に来てくださいます。もちろん全世代の方に観ていただきたいですが、これから文化に触れていく若い世代の方に、少しでも歌舞伎の面白さを届けられるよう、立川の活性化に繋がるよう、精一杯お役をつとめていきたいと思います。
【質疑応答】

──今回大きな役、ゆかりの役をつとめますが、どんなところが魅力の役ですか?
團子 小栗判官は、最初の暴れ馬を手なずける場面では勇猛果敢ですが、実はガンガン進んでいく立役ではなく、どちらかというと儚さ、哀れさをもった男性像として描かれています。最後のほうで、お駒の恨みで小栗判官の足が立たなくなり、顔がただれたりし、哀れな道中を進みますが、その時も小栗判官が頑張るよりは、照手姫に助けてもらって進む、実は受身の男性像。そこが個人的にはすごく魅力だと思います。
──『小栗判官』でそれぞれ演じられる女性像は全くタイプが違いますが、演じるにあたり、この女性に対して感じる魅力は?
壱太郎 お駒は、どちらかというと右近君の言うように、執着。照手姫は父の仇(討ち)があるので、とにかく一心に駆け抜ける。歌舞伎に赤姫という役柄がありますが、今回もただ赤姫で(スチールを)撮るのがいやで、照手姫は小栗判官が歩けなくなった時に車を曳くのですが、その時につけるものを纏いました。これは照手姫の象徴という気がします。右近さんどうですか。
右近 そうですね。いわゆる男性に尽くすタイプが照手姫で、お駒は直情型。どちらも情熱は溢れると思いますが、情熱の出力の仕方が違うタイプの女性だなと。歌舞伎は基本的に、男性の理想の女性像を女方のお役として作り上げることが多く、どちらかというと照手姫のような役が多い気がします。お駒は結構現代的で、自己本位の部分で情熱を燃やす描写があるので、わりと女性からはお駒が共感性の高い部分はあったりするのかな。これは女性が愛情や気持ちをどう表現しているのかを感じる上でも、男性として非常に勉強になるタイプではないでしょうか、壱太郎さん。
壱太郎 物語の結末は別としても、右近と女方でこういった形になることはないので、團子くんが最終的にどちらの演じる女性がタイプか伺いたいと思います。

──團子さん、受け止める側の覚悟は?
團子 そうですね。お駒は確かに現代的な女方像かもしれません。今聞いていて思ったのが、少し『ヤマトタケル』のみやず姫に近いなと…。
右近 男性としては、ついてきてくれると楽かもしれませんが、愛情の裏返しのような表現をどういうふうに受け止めるかも、今後の男性像にとっては大事なことですよね、團子さん(笑)。
團子 そうですね…(笑)。
右近 もうやめておきますか(笑)。

──壱太郎さんは高所恐怖症とのことですが、昨年初めての宙乗りをされました。改めて宙乗りに臨むにあたり、何か新たに発見はありましたか?
壱太郎 本当に怖かったのですが、お客様が入ると本当に自分のテンションが高ぶって、怖さや不安がどこか消えていくのを感じました。これはやはり舞台の力であり、飛ばしていただけたことで、初めて感じられたと思います。今年はとにかく團子君にしがみついていれば落ちる時は一緒なので、安心して飛ばしていただきます(笑)。
團子 しっかり、がっつり、絶対に落ちないようにロマンチックにいきたいと思います。

【公演情報】
立飛グループ創立100周年記念事業
『立川立飛歌舞伎特別公演』
「ご挨拶・解説」
ご挨拶 市川中車
解説 中村壱太郎・市川團子
河竹黙阿弥作
「連獅子」
狂言師右近後に親獅子の精 尾上右近
狂言師左近後に仔獅子の精 藤間康詞
法華の僧蓮念 市川青虎
浄土の僧遍念 市川猿弥
「當世流小栗判官」より
藤間勘十郎脚本・演出・振付
「新説 小栗判官」
小栗判官・浪七 市川團子
照手姫 中村壱太郎
鬼瓦の胴八 市川猿弥
遊行上人 市川青虎
万長後家お槇 市川笑三郎
浪七女房お藤 市川笑也
万長娘お駒・素戔嗚尊 尾上右近
横山大膳 市川中車
●10/23~26◎立川ステージガーデン
〈公式サイト〉https://tachihi100.jp/kabuki2025/
【取材・文/内河 文 写真提供/株式会社ウインダム】