九月に松本で幕を開けた劇団☆新感線の「爆烈忠臣蔵」は、これから大阪、東京とツアーを巡って参ります。松本ではどうやらお楽しみ頂けたようですが、この先はまだまだ長いので気をつけて進めていきたいと思います。
そうなのです。今作の三都市ツアーは松本から始まりました。つまり本拠地である東京では無く旅公演から始まったのです。大抵のプロデュース公演では本拠地から始まり、その後に様々な地方を巡るというのが基本です。ですが、劇団公演だと地元では無い旅公演から始まることもあって、なかなかに大変なのです。
というようなことを先日、自分のBlogでチラッと書いたのですが、もう少し詳しくご説明したくなったのでこちらにまとめておきましょう。
本拠地から始まる場合はなにかと好都合なのです。大道具や小道具が足りなかったり不具合があったとしても、工房や倉庫が近所にあるので修整するのが早く済みます。人員も多いので修理してもらったり持ってきてもらったりもできます。照明や音響の機材に不具合があっても、替わりの機材を早く調達できます。
もちろん、旅公演から始まる場合でも多めに資材を持っていくなどの万全の準備はしています。実際、「爆烈忠臣蔵」の松本公演でも舞台稽古中に演出プランの変更が出て、かなり長くて頑丈な台を作らなければならなくなったのですが、大道具さんが僅か数時間で作ってくれて事なきを得ました。備えあれば嬉しいな。いや、備えあれば憂い無し。このようにちゃんと準備しているのです。
ただ、やはり本拠地から始まる方が何かと気が楽なのも本当です。いざという時の対処が楽なのですね。
このようにスタッフさんたちも大変ですが、我々俳優部だって同じです。ただでさえ幕開けとなるツアーの初日には不安になるのです。初めてお客様に見て頂くのですからね、どのような反応が返ってくるか判りません。ちゃんとウケるのか、楽しんで頂けるのか。その辺りはどうしても心配になります。
また、どれだけ稽古をしていても初日には不安になるモノなのです。セリフは覚えているか、段取りはちゃんとできるのか。本番用のセットや衣裳にまだ慣れておりませんから、どんなトラブルが起こるかも判りません。早替えの段取りや小道具の置き場などをまだ覚えきっていない時だってあります。色々と不安の要素が待ち構えているのです。
それが旅先から始まるとなるとさらに色々と不確定な要素があって、さらに不安になってしまうのです。
あとね、持っていく荷物にも不安があるのですよ。楽屋で使う道具たちに加えてホテルで暮らすための荷物も持っていかなくてはならないのです。もちろん長い俳優生活ですから、いつも持っていく「旅公演セット」みたいなのはあるのですが、それで足りているかどうかがいつも心配になるのですよ。
メイク道具などに加えて、常備薬や舞台用下着、トレーニンググッズやケア用具も必要です。楽屋で使うモノ達だけでなく、宿で使う目覚まし時計や夜具も用意しなくてはなりません。着替えだってたくさん必要です。一応現地の気温なども調べてからいきますが、長い期間になると季節が変わっちゃったりして困るので、なんだか多めに持って行ってしまいます。
これが本拠地から始まる公演だと、足りないモノがあっても翌日に家から持っていけば良いだけだし、いつも買うお店に行くのも楽です。最近では通販が充実していてどこでもなんでも手に入りますが、ちょっと変わったモノだとよく知っている専門店の方が楽だし、掛かり付けの病院から薬をもらったりするのも手軽です。
これが旅先だとお店や病院を探すのが大変だったりするので面倒なんですよね。地元には何かと利便性があるのです。そして、その後に旅ツアーが始まるのならば、それらをそのまま持っていけば良いので気が楽です。気がかりはできるだけ少ない方が気持ちの軽さが違います。
そして、そういった物質的な面でも不安があるのですが、それよりも深刻なのは精神的な面かもしれません。長いホテル暮らしになりますので、部屋の居心地やベッドや枕によっては生活しにくい場合があります。灯りの具合やテーブルの高さなんてのも重要だったりします。
私は一人暮らしなので比較的ましなのですが、ご家族がいらっしゃる場合はさらに心配な点も多いでしょう。愛する家族と離れて暮らす不安というのは大きいと思います。小さなお子さんが心配になったりしてね。あるいはペットの世話が気がかりだとか。そういう不安があるのは当然でしょう。それが舞台のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性だってあるのです。
ただ、中には家族としばし離れることでちょっと気が楽になる人もいるようです。残された家族にとっては大変でしょうが、気遣いの多いお子さんのケアとか煩わしい家事からの解放とか、人によっては羽を伸ばす良い機会になっている場合もあるようです。まあね、人それぞれ。
コトほど左様に大変なホテル暮らし、特にツアー最初の旅公演というのは色々と心配事が多いという話です。まあ、どうせ大変なのは判っているので、できる限り心配の種は少ない方が良いのです。気をつけながら乗り越えていきましょう。

松本の劇場そばで見つけた味噌蔵の直売所。ここの味噌あられが味わい深くて美味しかったのよ。こういうのも旅の醍醐味ですよね。

粟根まこと
あわねまこと│64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。
【出演予定】
劇団☆新感線「爆烈忠臣蔵」
【松本公演】
2025年9月19日(金)〜23日(火祝) まつもと市民芸術館
【大阪公演】
2025年10月9日(木)〜23日(木) フェスティバルホール
【東京公演】
2025年11月9(日)〜12月26日(金) 新橋演舞場