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歌舞伎座「四月大歌舞伎」「團菊祭五月大歌舞伎」八代目尾上菊五郎 取材会レポート

昨年5月、先代(七代目菊五郎)が健在のまま、歌舞伎の大名跡「尾上菊五郎」を八代目として継承したことでも大きな話題となった八代目尾上菊五郎。4月2日に初日を迎える歌舞伎座「四月大歌舞伎」では、仙台藩での御家騒動をモチーフとした名作『先代萩』を鬼才・鶴屋南北が書き換えた『裏表先代萩』では仁木弾正・乳人政岡・下男小助を初役でつとめる。また井上ひさし原作の『浮かれ心中』では、主人公の若旦那・栄次郎の妻おすずを再び演じる。
また、5月には歌舞伎の風物詩でもある「團菊祭五月大歌舞伎」で、約3年半ぶりに『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』で、市川團十郎演じる助六の恋人である三浦屋揚巻をつとめ、また三代目尾上辰之助襲名披露狂言でもある『寿曽我対面』では、左近改め辰之助演じる五郎の兄・十郎を演じるなど、菊五郎となってますます意欲的に舞台に取り組んでいる。

3月中旬、都内で八代目尾上菊五郎の取材会が行われた。菊五郎から挨拶のあとは、質疑応答に移った。襲名を経た今の心境、今回挑む役や家の芸、歴代菊五郎への思い、また新・辰之助となる左近や子息の菊之助のことなどを、真摯に語ってくれた。

【挨拶】
尾上菊五郎 4月は、三代目菊五郎が鶴屋南北と作り上げ、五代目菊五郎が河竹黙阿弥と磨き上げた『裏表先代萩』を、夜の部が井上ひさしさんと十八代目の(中村)勘三郎のお兄さんが作り上げられた『浮かれ心中』。5月が、昨年襲名させていただいて初めての「團菊祭」です。昼の部が『六歌仙』、舞踊の大曲ですがつとめさせていただき、そして(尾上)左近さんの辰之助襲名で、『対面』の十郎。夜の部が、團十郎さんの助六と私の揚巻で『助六由縁江戸桜』をつとめさせていただきます。これはとても嬉しく、團菊祭が左近さんの辰之助襲名とともに、華やぐ公演になれますよう、私もつとめてまいりたいと思います。

【質疑応答】
──襲名から1年経って、『裏表先代萩』を上演することについては?

やはり菊五郎の名前をお預かりしたので、歴代の菊五郎が大切にしてきたもの、時代物、世話物、舞踊と、菊之助の時にも勉強させていただきましたが、これからもっともっと、より深くその作品の魅力がお伝えできるように、どんどん菊五郎が大切にした演目をかけていきたいという思いでお願いしました。
この4月は奇しくも、「人としてどう生きるべきか」が、『裏表先代萩』でも『浮かれ心中』でも描かれていると思います。政岡は理想ですよね。子も犠牲にしながら主君に仕えるという高潔な武家の精神。片や仁木弾正は、欲望によって御家を乗っ取ろうとする闇ですよね。『裏表先代萩』の面白さは、武家のお話の後に世話物の小助という、良くもない悪くもない、普通の市井の人間を足すことで、よく南北さんはそういう描き方をされますが、「忠義のためなら何をやってもいいのかい。じゃああなたたちはどう生きたいですか」と、武家の世界を庶民の視点で斜めから見て、面白く観客に訴えてきた。小助も初めから悪(わる)じゃないんですよね。人を殺すことは、もちろん一線を超える大変なことですが、犯行動機としては特別なものではない。政岡の高潔さ、仁木弾正の闇、そして良くも悪くもない小助という三者三様を描き出すことで、お客様にどう生きるかと訴えかけているのが『裏表先代萩』だと思います。私も政岡のようには生きられないし、仁木弾正のようには悪くできないので、小助のような人生を送っています(笑)。

歌舞伎座『裏表先代萩』下男小助=八代目尾上菊五郎(C)松竹

井上ひさしさんの『浮かれ心中』も、人の性(さが)だと思います。自分が後世の人たちに何を残すのか、何を伝えるのかを、主人公は懸命に描いていて、それを献身的に支える妻としておすずが存在します。後に何を残すかと思うのは、ホモサピエンスだけと言われていますね。壁画とか、土器を作って残すのも、土器は生活のためかもしれませんが、ホモサピエンスならではの本能で、人が後に何を残すかを描いた本質を、庶民の娯楽として、井上ひさしさん、十八代目の勘三郎のお兄さんが作りあげられた作品にまた参加できるのは、とても嬉しく思っています。

歌舞伎座『裏表先代萩』仁木弾正=八代目尾上菊五郎_(C)松竹

──『裏表先代萩』に出演されるのは初めてですね。これまでで目に残っているものなどは?

父が初演で、『裏表先代萩』を国立劇場で演じた時も、ずっと観ておりましたし、近年、少し父が作りかえて出した時も観ておりました。やはりこの作品の、通し狂言ならではの面白さ、それから1人の役者が政岡、小助、仁木弾正を演じ分ける面白さも、自分もいつか演じてみたいなと思っていたので、今回それが叶いました。『裏表先代萩』では「飯(まま)炊き」が難しいのですが、ギュッと凝縮した短い「飯炊き」を、玉三郎のお兄さんに相談させていただきました。やはり「飯炊き」があると、千松と鶴千代が食べられなくても健気に我慢しているという忠義の心が浮き立ってくると、前回の(『先代萩』で演じた)政岡で勉強させていただきました。時間的制約もありますので、各場面をギュッと凝縮した形で上演するべく、本はできあがりつつあります。

歌舞伎座『裏表先代萩』乳人政岡=八代目尾上菊五郎(C)松竹

──菊五郎さんと呼ばれることには慣れてきましたか?

いや、まだちょっと…時間がかかると思います。昨年、各劇場で私それから菊之助の襲名披露興行をさせていただき、お客様から非常に温かい声援をいただきました。その温かい声援が、いつまでも自分の心に残って日々過ごしているのが、菊五郎を襲名したという実感に繋がっている気がします。七代目も健在なので、七代目と八代目と並び立ち、歴代の音羽屋が大事にしてきた菊五郎という名前を磨き上げていくという気持ちです。

──八代目としての菊五郎像は見えてきている?

これからだと思います。『裏表先代萩』もそうですし、浮かれ心中、そして團菊祭でも歴代の菊五郎が大事にしてきた『六歌仙』や、祖父(七代目尾上)梅幸が何度もつとめていた揚巻で、そういう歴代の音羽屋がつとめてきた役を丁寧に、作品の魅力を伝えることが、自分も菊五郎として精一杯できること。芸を磨き上げることが菊五郎としてもっと太くなっていくということだと思います。
「口上」でも申し上げていますが、伝統と革新の連続が、尾上菊五郎という歴代の歌舞伎役者が成してきたことだと思います。何を守るべきなのか、何が変わってきたのかを知ることが伝統。革新とは何を大事に、何を変えていくべきなのかを同時に考える。学ぶことが伝統と革新の根本なので、初代から七代目まで何を大事にしてきたのか、人間として普遍的なものは何か、お客さまが世相として何を求めているのか改めて考えながら、古典歌舞伎、新作歌舞伎、また新古演劇十種(菊五郎家の芸)の復活も、菊五郎として成すべきことではないかと思います。

──同級生の團十郎さんと2人で『助六』をやるのはどういう気持ちですか?

演目が最初に決まってからもう一度、「その演目もいいけど、『助六』をやらないか?」と團十郎さんから電話がかかってきました。私も菊五郎になって、襲名が終わってから初めての「團菊祭」で、團十郎さんと組んで『助六』を出すというのは、今回は左近さんの辰之助襲名でもございますし、「團菊祭」をこれからもより盛り上げていこうという意味でも、同じ思いでお電話を受けました。これからも、團十郎・菊五郎というのは、初代菊五郎から連綿と続いてきた團十郎さん家のおかげで、尾上家が引き立てていただいた。引き立ててもらったおかげで江戸にも出てこられたし、五代目菊五郎・九代目團十郎という明治の團菊、そして十二代目(團十郎)のおじさまと父・七代目菊五郎の團菊として、ずっと引っ張ってきてくださった歴史を踏まえて、十三代目の團十郎さんと八代目の團菊として、古典をしっかりと継承して盛り上げていきたいと思います。

──『助六』での共演については?

團十郎さんご襲名の時に出させていただきました。今回菊五郎となって初めての揚巻ですので、今まで玉三郎のお兄さんに教えていただいたことも大事にしながら、やはり「型が動く」ということだと思います。同じ役を何度も重ねることで、最初は教えていただいた型に自分をはめて演じて、それを見ながら模写して、そしてお手本を見ないで自分の心から出た文字を描くということが、たぶん歌舞伎のなかで受け継がれてきたことだと思います。型の模倣をしてしまうと、それは模倣でしかない。やはりそれが伝統の厳しさでもあり、難しさでもあり、面白さでもあると思うんです。教えていただいたこと、勉強させていただいたことを胸に、また新たな気持ちで、型が動いていくような揚巻を演じたい。

『助六由縁江戸桜』三浦屋揚巻=八代目尾上菊五郎(当時五代目尾上菊之助)(R4.11歌舞伎座)_(C)松竹

──玉三郎さんのご指導で、一番印象的なことは?

やはり「命がけ」だということ。揚巻が(助六の)おふくろ様からの手紙をもらって、「お袋様は助六さんゆえ子ゆえの闇、わしはまた助六さんゆえ恋路の闇」という台詞がありますが、母親は助六を心配して紙衣を持ってくるし、揚巻の「悪態の初音」は、間夫(まぶ)のために、意休の持っている刀が友切丸だとなんとなくわかっていて、それを抜かせたい一心で言うんですよね。揚巻は、張りと意気地のなかで生きていて、とにかく助六のために命がけの女性像。それが、役が貫いているものだと私は思っています。それもお兄さんが演じていらっしゃることから感じ取ったことです。

──『六歌仙』と『対面』の十郎についてはいかがですか?

『六歌仙』は四苦八苦ですね。以前も舞踊会で一度させていただきましたが、年齢も違う、身分も違う五役を踊り分けることは、やはり大変でした。調べてみると、四苦八苦は、生きる苦しみ、老いる苦しみ、病になる恐れ、死に向かっていく人間の恐れと同時に、愛する人と別れなければいけないということ、欲しいものが手に入らない、憎い人と会わなければならない、心身が思うままにならないということだそうです。まさに演じ手が四苦八苦して六歌仙を演じることと、小町への思いの叶わない人たちの四苦八苦が描かれていて、それを演者の四苦八苦とともにかけているのが『六歌仙』だと感じています。今回も、踊るだけでも手に余る大変な演目ですし、自分がどこまで稽古を積んで役に肉薄できるのか挑戦ですが、四苦八苦して役に近づいていくことが、この『六歌仙』という演目に近づいていくことではないかと感じております。
『対面』の十郎は、まさに辰之助さんのお祝いの大舞台です。お父様の松緑さんとも『対面』をさせていただきましたし、今回ご襲名で十郎をさせていただけることがとてもありがたく、 門出をお祝いする気持ちで、血気に逸る五郎とそれを理性で止める自分の十郎という、兄弟の絆を演じられれば。

『六歌仙容彩 喜撰』喜撰法師=八代目尾上菊五郎(当時五代目尾上菊之助)(H30.5歌舞伎座)4(C)松竹

──左近さんの役者としての魅力は?

紀尾井町(尾上松緑家)の家として大事にされているものを大事にされたいと仰っているし、立役と女方を両方やってみたいと仰っている。本当に勉強熱心で、一緒に舞台に立ち、世代はもちろん全然違いますが、歌舞伎を一緒に盛り上げていきたいと思っています。

──ご子息の菊之助さんの成長ぶりはいかがですか?

3月に6年生を卒業して、次は中学です。 去年1年、学校の先生方にもご理解いただいて、ほとんど学校に行くことができませんでしたが、本人も襲名の大役をさせていただくことと学校の両立を非常に頑張っていたのが印象的でした。それを頑張ったことが大きな成長ではないかと思います。6月の博多座が大きな劇場では(襲名披露の)最後ですので、それに向けて、今は勉学にひたすら励んでいます。4月ぐらいから、もう一度稽古し直して舞台に立ってもらおうと思います。

──菊之助さんご自身は非常に襲名興行を楽しんでいらっしゃった?

いや、大変だったと思います。父から、菊之助を同時に継がないかと言われて、家族でそれに向けて行きましたが やはり大人がやっても難しいような役を、菊之助という名前だからこそ演じさせていただけたありがたさ。本人も大変だったと思いますが、父も丑之助に菊之助を継がせるという責任を持たせる、その責任を感じたからこそ、本人も父のようになりたい、岳父・吉右衛門のようになりたいというのが本人の一番のモチベーションです。それを父もわかって言ってくれたと思うので、父の言葉を大事に、私も彼の成長を、歌舞伎が好きだというモチベーションを削がないように厳しくやっていきたい。

──團十郎さんは、自分の相手役はぜひ八代目にと仰っていました。

立役と女方、そして立役と立役としてぶつかる時もありますし、きっとこれから何十年もかけて團菊として磨き上げていくと思うので、2人のことを見守っていただければと思います。

──最後にお客様へのメッセージをお願いします。

菊五郎 4月は『裏表先代萩』と、『浮かれ心中』ではまた(中村)勘九郎さん・七之助さんのお2人とご一緒できることがとても楽しみです。「人としてどう生きるべきか」を問われているような作品ですが、そういうことをお考えにならずに、作品さえご覧いただければ、きっと何かをお感じいただける舞台に仕上げていきたいと思っております。
また5月「團菊祭」は、毎年恒例のように團十郎家・菊五郎家、それから今年は辰之助さん襲名という、本当に華やかな舞台です。ぜひお祝いに来ていただきたいですし、歌舞伎の魅力を存分に楽しんでいただけるよう精一杯つとめたいと思っております。

【公演情報】
歌舞伎座 「四月大歌舞伎」
2026年4月2日(木)~27日(月)
【休演】10日(金)、20日(月)
歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」
2026年5月3日(日・祝)~27日(水)
【休演】11日(月)、19日(火)
〈公式サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/

【取材・文/内河 文 写真提供(C)松竹】