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「MoN歌舞伎舞踊公演」尾上菊五郎インタビュー

美しい修行僧・安珍に出会い、清姫は一目惚れ。再会を誓って安珍は去るが、いつになっても戻らない。裏切られた清姫は大蛇となって安珍を追いかけ、道成寺の鐘の中に逃げ込んだ安珍を鐘ごと焼き殺す…。有名な「安珍・清姫伝説」がモチーフの『京鹿子娘道成寺』は、歌舞伎舞踊の名曲である。
この『道成寺』を、TAKANAWA GATEWAY CITYに開場した文化施設MoN Takanawa: The Museum of Narratives の開館記念プログラム「MoN歌舞伎舞踊公演」(7月2日〜5日)で、尾上菊五郎が踊る。
今回は『道成寺』のほか、「口上」や解説 歌舞伎のみかた、ドキュメンタリー映像などを、LEDビジョンを活用した演出で届ける挑戦的なプログラムだ。菊五郎に、『道成寺』と音羽屋との縁、その魅力、また襲名や子息のこと、そして公演への意気込みなどを語ってもらった。

――今回上演される『道成寺』は、昨年のご自身の襲名披露でも選ばれた演目ですね。その理由を伺えますか?

音羽屋にとりまして、『道成寺』はとてもゆかりのある演目です。六代目菊五郎以降、祖父(七代目尾上)梅幸、父(七代目)菊五郎もたびたび演じております。私も十代の頃に、まだ力は至らなかったのですが、祖父・梅幸が父と私と三人で『道成寺』をしようと仰って、『三人道成寺』を上演いたしました。当時、私はまだ若くて、女方の舞踊というものが全然手に入っていなかったのですが、祖父が厳しく稽古をつけてくれました。父と祖父と三人で『道成寺』をさせていただくことで、自分の至らなさや、音羽屋に生まれたという自覚を持たせてくれた演目でした。
襲名というものは、名前を継ぐのと同時に、先人たちからの型や心情、そして魂を受け継ぐことです。それを受け継いだ上で、後世に伝えていくのが、襲名の役目だと思っております。私は『道成寺』で、音羽屋に生まれたという思いを強く自覚しましたので、せがれ(六代目菊之助)にもその思いを同じように持ってもらいたくて、『道成寺』を選びました。

――『道成寺』は、数ある舞踊のなかでも古い作品かと思います。その魅力はどういうところでしょうか? また、菊五郎さんはどんなお気持ちで花子をつとめられていますか?

祖父、父との『三人道成寺』のあとも、『男女(めおと)道成寺』や『二人(ににん)道成寺』など、さまざまな『道成寺』を踊らせていただきました。そのなかで、型の大切さや、花子が持つ心情を学ばせていただきました。花子の心情というのは、「女方百態」といいましょうか、あどけない少女から壮年、恋を知った女性までの女心を、衣裳を変えつつ、様々な道具を使いながら描き、その恋心のなかに、鐘に対する想いや女の情念、執念が出てきます。
私の考えですが、花子の魂は、輪廻転生をして、それでも安珍に対する思いが捨てきれずに、何代目かはわかりませんが、また蘇って、花子という白拍子(平安末期から出てきた歌舞をする女性の芸能者)の形をして出てきます。最初の「金冠」のところでは、能の『三井(みい)寺』から詞章が取られているように、人生の移ろいの儚さ、そして過ぎたものはもう戻らないという儚さが語られます。
これは、私が『道成寺』を演じる時は最初に必ず思うことですが、きっと花子も解脱したいんです。「真如(しんにょ)の月を眺め明かさん」という詞章――あの月のように、心が晴れわたれば、どんなに情念や安珍のことを忘れられるだろうという思いで、烏帽子のところは終わります。ですが、やはり鐘に未練があって、解脱したいけれども解脱できない、人間の業ですね。それから吉原の話になったり、あどけない少女や女性の様々な恋心を語っていきます。解脱したいという花子自身の思い、執念、恋心、その三つがこの舞台に絡み合っているのが、『道成寺』の面白いところだと思います。

――お話を伺うなかで、先代の方々のお名前が出てきました。菊五郎さんにとって「伝統」とは? また、それを継承することへの思いとは?

歌舞伎が始まって以来、およそ400年が経ちます。初代菊五郎は1717(享保2)年に生まれていますから、300年ぐらい(音羽屋が)続いてまいりました。その代々が芸を磨いて、二代目、三代目…と、次の世代にその芸の型や魂を渡してきました。「伝統」とは、カチッとした固まったものではありません。守るべきものを守りながら、時代によって、代々が非常に工夫を凝らしています。その伝統をいただいた上で、次の世代が、脚本やその役の心情を深く捉え、自分なりの型を大事にし、型をやり込んだ上で生まれてくる自然的な表現をしていくことが、継承する者の役目だと思います。そうして、守るべきものを守り、変化を恐れず、ただ本質を変えずに、それをお客様にお伝えすることが「かぶく」ということだと思います。

――大切なものを守りながらも変化を恐れないという言葉が、とても響きました。お話のなかで「次の世代」というキーワードが出ました。また、菊五郎さんは「伝統と革新」ということを「口上」でも仰っていました。今回の公演では、LEDビジョンの映像などの新しいテクノロジーを使って、古典を新演出する予定です。菊五郎さんは、伝統と現代、伝統と新しい技術を組み合わせることについてはどう思われていますか?

歌舞伎の作品が本来持っているのは、とても深くて、染み入るような感動や心情です。それは、単なる興奮や、浅い感動ではありません。我々が本質的に守ってきたものを、あくまでもテクノロジーの力をお借りして、いかにお客様にお伝えできるか。お客様に技術をお伝えすることが目的になってはならないと思います。
ですが、伝統と革新、伝統とテクノロジーは、決して対立するものではありません。それぞれが同じ軸に乗ることによって、どちらかに偏ることなく、歌舞伎の本質や魅力をより深くお客様にお伝えする力になってくださればいいなと思います。
歌舞伎で、今は当たり前になっている廻り舞台や宙乗りなども、いわばテクノロジーですよね。廻り舞台であれば、場面転換をスピーディーにすることによってお客様を飽きさせない工夫ですし、宙乗りであれば、お客様との役者の距離を縮めるものです。宙乗りすることで、お客様がより役の心情に寄り添えることが、歌舞伎とテクノロジーとの本来の融合だと思います。
今回の『道成寺』では、LEDビジョンを使っていただけるので、花子の心情や、『道成寺』の詞章、また道成寺の景色に、よりお客様が近づいていただけるような工夫・演出ができれば、さらに演目の魅力を感じていただけると思っています。

――菊五郎さんには、TAKANAWA GATEWAY CITYが開幕した時などにもご出演されました。今回の上演にあたり、菊五郎さんがMoN Takanawaや、TAKANAWA GATEWAY CITYそのものに期待されていることや、印象などは?

伝統と最先端が自然と共存している空間ではないかと感じています。これから、様々な取り組みができるのではないでしょうか。歌舞伎というものは、お客様が客席に座られて、役者が板(舞台)の上にあがって、その表現を観ていただく劇空間です。伝統とテクノロジーの融合によって、お客様がより歌舞伎に没入できるような体験ができるといいなと思います。
TAKANAWA GATEWAY CITYはまさに駅直結の街ですし、「高輪」はやはり伝統のある街です。我々が『忠臣蔵』を上演する時に必ずお参りして、赤穂浪士の魂に手をあわせにいく泉岳寺もございますので、ぜひMoN Takanawaで『忠臣蔵』をやってみたいですね。『忠臣蔵』そのものができないとしても、新作歌舞伎のような形で、何かできたらと思います。
今は「忠臣蔵」といってもおわかりにならない世代の方がたくさんいらっしゃいます。主君の仇討(あだうち)という意味では、「武士道」というものは現代から少し離れているかもしれません。ですが、忠義ということでなく「人をいかに想うか」ということから考えれば、当時も現代も、その心は変わらないと思います。日本人の美意識や、日本人が大切にした「人を想う心」を、古典作品を通じて、TAKANAWA GATEWAY CITYを通じて、テクノロジーの力を通じて、お伝えできるような舞台作りができればと考えています。

――菊五郎さんご自身が、ご子息やお弟子さんに日本人の心を継承されようとする場合に、伝えたいことや、心がけていらっしゃることはありますか?

歌舞伎の脚本を深く読むことですね。名作といわれる古典歌舞伎には、深く読み込めば読み込むほど、人を想う心とはどういうことかが残っています。歌舞伎に触れていただくこと、それから歌舞伎作品をお読みいただくことが、人を思いやる心に繋がっていくと感じております。

――歌舞伎は、例えば菊之助さんの代、あるいはその次の代…と、代々続いていくと思います。歌舞伎界の未来に期待されることなどは?

これまでのお話と重なるかもしれませんが、やはり本質を守りながら、歌舞伎の脚本に書かれている深い心情を一人ひとりの役者が読み解き、かぶいていく。そして、それをお客様に感じていただくということでしょうか。表現方法を、変えていくのではなく自然と変わっていく、作者によって自分が磨かれていくという感覚ですかね。型を受け継ぎつつ、心情で、お客様とより良い日本をつくることを、せがれにも期待したいと思います。
やはり、日本人の美意識や人を思いやる心は、日本人にとって大切なものです。歌舞伎は400年以上続いてきていますが、現代に生きているお客様も、我々も、それから江戸時代に生きていたお客様も、役者も、大切にしているものは変わらないと思います。それを、歌舞伎作品を通してお客様と共有することで、日本をより豊かな国にするというのが、これからの目標であり、歌舞伎が今までもやってきたことだと思います。

――最後に、お客様へ向けて、今回の抱負などをあらためてお聞かせください。

『道成寺』を一題踊るということは、何回やっても自分の納得できるものはできませんし、大曲ですので、体力的にも精神的にも、非常にきついものです。ですが、先人たちが大事にしてきた『道成寺』を、今の等身大の私が、花子の心情を思ってどういうふうに表現できるのか、その舞台に何が生まれてくるのか。それは、舞台に立ってみなければ、自分でもわからないことが多いんですよね。稽古を重ねて、今回はテクノロジーを使いながら、お客様により『道成寺』の世界に没入していただいて、自分もまた新しい花子に出会うことができるように、日々精進、日々努力して舞台に向かいたいと思います。

文/内河 文

公演情報

MoN Takanawa: The Museum of Narratives 開館記念プログラム
「MoN歌舞伎舞踊公演ー京鹿子娘道成寺ー」 他

出演◇尾上菊五郎

7/2〜5◎MoN Takanawa: The Museum of Narratives Box1000(JR東日本 高輪ゲートウェイ駅直結)
〈料金〉一般SS席15,000円 一般S席12,500円 一般A席9,500円 一般B席7,000円
U25-SS席11,000円 U25-S席9,000円 U25-A席7,000円 U25-B席5,000円(全席指定・税込)
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〈公演サイト〉https://montakanawa.jp/programs/takanawa-kabuki/