トム・プロジェクト『かへり花』大和田獏・藤吉久美子・有森也実 インタビュー
きっと老後もバラ色な不思議で温かな不条理喜劇
トム・プロジェクトの30周年記念公演第一弾として、9月2日~9月8日に東京・六本木の俳優座劇場にて『かへり花』が上演される。
これまでも気鋭の作家をいち早く発見してきたトム・プロジェクトが新たに出会った作家、演劇企画体ツツガムシの日向十三が脚本を担当し、「ちびっこ広場」で遊ぶ老人たちを描いた不思議な物語となっている。
出演者の大和田獏、藤吉久美子、有森也実に、本作に挑む思いを聞いた「えんぶ8月号」のインタビューをご紹介する。
ベンチを囲んで一緒に過ごす老人3人の物語
──まずは脚本を読んだ感想から教えてください。
大和田 冒頭から引き込まれて、一気に読んじゃいました。シュールで不思議な作品なんだけど、一つひとつの言葉やシチュエーションが心にスッと入ってくるんです。3人の老人たちの話で、生きることとは何だろうとか、死ぬということは何だろうかとか考えさせられる作品だな、と思いました。
有森 会話がずれていく感じがとてもリアルで面白いなと思いました。それぞれのキャラクターがずっと一貫して持っている寂しさだったり、つらさだったりがそのずれに繋がっていて、でもそこには人間の温かさが描かれていて、現実世界でもこういう温かさの中にいられたらいいな、というふうに思いました。あと、ベンチが一つのテーマになっていて、「みんなのものって何なんだろうな」ということも考えさせられる本だと思います。別役実さんの不条理劇みたいな雰囲気もあって、それでいて笑える本だなと思います。
藤吉 すごく面白かったんですけど、ところどころ不思議な部分があって、ト書きで「やや沈黙」というのが何回も出てきて、あれは間とかテンポとかをどういう感じでやるのかな、とすごく気になりました。あと、私の役は73歳なんですが、この年齢の役は初めてなので……獏さんと有森さんの役は何歳ですか?
大和田 僕の役は年齢が出てこないんだよね。
有森 私は80すぎ、というセリフが出てくるんですけど、本当はどうなのかよくわからなくて。
大和田 僕はあんまり自分の歳を考えないでやろうと思っています。何歳にも見える、みたいな感じで。
藤吉 そうですね、実際に動いてみないとわからないから、何となくふわっとした感じで稽古に臨めばいいのかな。
──ご自分の役についてはいかがでしょうか。
大和田 まだ全然わかってないですね(笑)。もうちょっと読み込んでいかないと役をつかむのは難しいかなと思っています。僕の役は過去に何があったのか、どんな人生を送って来たのかわからないんです。脚本を読み込んで、手掛かりを探しながら自分の役のプロフィールを想像していくのが、これからやっていく作業だなと思うし、まだその答えは全く出ていないですし、出なくていいのかもしれないなとも思っています。
藤吉 私は初めての浮浪者役です。2日間何も食べてないというところから始まって、ベンチを「私の場所」と言っていたり、自分の普段の視点とは違う角度から見る必要があるのかな、と思っています。最初、新聞を読みながら登場するんですけど、前回トム・プロジェクトの『エル・スール』に出演したときも、よく新聞を読んでいる役でした。 〝新聞女優〟と思われているのかな (笑)。
有森 今回は老婆の役なんですけど、舞台でおばあさんってどうやるんだろう、と思っているところです。彼女は名前を忘れてしまった人なんですが、ちびっこ広場で3人でベンチを囲んで一緒に過ごすうちに、心の中の埋まらなかった何かを埋めてもらえて、自分を取り戻していく、そんな人なんじゃないかなと思います。
笑いの絶えない稽古場にしたい
──大和田さんと有森さんは今日が初対面だそうですね。
大和田 そうなんですよ。ドラマでもバラエティー番組でもご一緒する機会がなくて。
有森 なんで今までご一緒できなかったんだろう、って感じですよね(笑)。
大和田 有森さんのことは『キネマの天地』からずっと見ていたので、今回の初共演が楽しみです。
有森 あの頃のかわいかったときにお会いしたかったです(笑)。
大和田 何をおっしゃいます! 今も十分かわいいじゃないですか。藤吉さんともお芝居の掛け合いをしたことはなくて、でもプライベートも含めて何かしらお会いする機会がいろいろあって、非常に親しい感じはしています。今回初めて舞台でご一緒できるので嬉しいです。
藤吉 私は獏さんにずっと憧れていました。
大和田 よく言うよ(笑)。
藤吉 本当ですよ! さりげないお芝居が大好きで、獏さんと共演したいとずっと思っていました。
有森 私と藤吉さんは、ドラマで何度かご一緒しています。どんな役でも素敵に演じられる存在感のある役者さんで、でも素の藤吉さんはかわいくて。
藤吉 大体、サスペンスドラマで私が犯人役でしたよね(笑)。だから今回、喜劇で有森さんとご一緒できるのがとても嬉しいです。
大和田 今回の座組くらいの人数だとかなり密にできるので、チームワークよくやれるんじゃないかな。
有森 お稽古でどんな化学反応みたいなものが起きるのが楽しみです。
藤吉 お稽古楽しいですよね!
有森 はい、お稽古大好きです! 稽古では失敗してもいいし、いろいろ試せますから。
大和田 僕はとにかく、仕事は一生懸命真面目にやるけど、楽しまないとつまらないと思っています。芝居を作り出すのは苦しいですが、笑いの絶えない稽古場にしたいなと思っています。
──最後にメッセージをお願いします。
大和田 何の偏見も持たないで、何も期待しないで、ちょっと芝居見てくるわ、くらいの気持ちで来ていただくと、何かドンと響くものがあって、受け取れるものがいっぱいあるんじゃないかなと思います。
藤吉 見てよかった、と思えるようないいお芝居になりますので、ぜひお越しください。前回トム・プロジェクトに出演したときもおばあさんの役で、そのときに「やりがいがあって面白いな」と感じたので、今回のおばあさんぶりもぜひ見てもらいたいです。
有森 まず、チラシがとても素敵です。イラストも素敵だし、ちりばめられている言葉も素敵だし、これだけでも「見てみたいな」と思ってもらえる気がします。「きっと老後もバラ色なんだな」と思いたい方はぜひ見に来てください。
【プロフィール】
おおわだばく○福井県出身。1973年放送のテレビドラマ『こんまい女』への出演でデビュー。98年には平日昼の情報番組『ワイド!スクランブル』の司会となり11年間レギュラー出演。情報番組の司会を終えてからは精力的に舞台や映像の仕事に出演している。主な出演作はテレビ『二十一歳の父』『おんな太閤記』『渡る世間は鬼ばかり』など多数。第30回読売演劇大賞を受賞した作品の内の一つ『ガマ』に出演。
ふじよしくみこ○福岡県出身。1982年NHK朝ドラ『よーいドン』でデビュー。近年では舞台『めんたいぴりり』(博多座、明治座)『花トナレ』(すみだパークシアター)等。映画『太陽とボレロ』『われ弱ければ矢嶋楫子伝』『お終活熟春!人生、百年時代の過ごし方』テレビでは『警視庁強行犯係・樋口顕』(TX)『相棒』(テレビ朝日)『正体』(wowow)等に出演。CM「サントリーDHA+(プラス)セサミン」やバラエティなど幅広く活躍中。
ありもりなりみ○神奈川県出身。雑誌モデルとして活動後、86年に映画『星空のむこうの国』で映画デビュー。同年には映画『キネマの天地』(監督:山田洋次)のヒロイン役で、第29回ブルーリボン賞新人賞、第10回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。1991年のドラマ『東京ラブストーリー』で注目を浴びる。その後も、テレビ、映画、舞台、CMに出演。主な舞台には『放浪記』『頭痛肩こり樋口一葉』『ある八重子物語』『化粧二題』『フラガール-dance for smile-』がある。
【公演情報】
トム・プロジェクト30周年記念公演 第一弾
『かへり花』
作:日向十三
演出:小笠原響
出演:大和田獏 藤吉久美子 有森也実 /中嶋ベン 長野優華
9/2〜8◎俳優座劇場
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト 03-5371-1153(平日10時~18時)
HP:https://www.tomproject.com/peformance/hana.html
【インタビュー◇久田絢子 撮影◇田中亜紀】