『おばぁとラッパのサンマ裁判』大和田獏インタビュー
沖縄で実際にあった「サンマ裁判」を描く舞台『おばぁとラッパのサンマ裁判』が、2月3日~9日に、新宿・紀伊國屋ホールで上演される。(そののち地方公演あり)
1960年代、アメリカの支配下にあった琉球(沖縄)。そのアメリカに法廷闘争を挑んだ魚屋の「おばぁ」と通称「ラッパ」と呼ばれる弁護士がいた。彼らが求めたのは大衆魚サンマへの不当な関税の撤廃だった…。
当時の沖縄返還運動に火を付けたとも言える「サンマ裁判」を描く舞台『おばぁとラッパのサンマ裁判』は、作・古川健、演出・日澤雄介、出演は柴田理恵、太川陽介、鳥山昌克、森川由樹、大和田獏という5人で演じる。この作品で琉球巡回裁判所の裁判官、新垣正敏役で出演する大和田獏に役柄や内容を語ってもらった「えんぶ2月号」のインタビューを公開する。
サンマになぜ物品税がかかっているのか
──本作は、実際にあった裁判を描いた作品で時代は1960年代ですね。
まだ本土復帰前で、琉球政府には施政権がない状態で、そこでサンマへの課税について裁判を起こす人たちの闘いを描いています。贅沢品でもないサンマになぜ物品税がかかっているのか、米軍側の不手際もあってそういうことになったんだと思いますが、その裁判に勝っていくことで、沖縄の人たちが他のことでも声を挙げる勇気を持つきっかけになるんです。
僕は2年前に古川さんと日澤さんの舞台『ガマ』に出演して、戦争中に沖縄で沢山の人たちが戦火の犠牲になり、その後も米軍に統治されてどれだけ苦労されたか、そして今もまだ沖縄に負担をかけている。それは日本人全体が知らなくてはいけないことだと思いますし、この作品で、当時の沖縄の人たちの闘いや勇気が伝わればいいなと思っています。
──古川さんと日澤さんの作品への出演は3作目になりますが、その作品作りをどんなふうに捉えていますか。
彼らは歴史の中で埋もれていってはいけないもの、ちゃんと知らなくてはいけないものを掘り起こしてきて、資料に基づいて丁寧に作っているなと。内容もわりとストレートな主張なんですが、それが押しつけがましくなく、素直に伝わってくるのが素敵だなと思っています。作品作りも柔軟で、稽古で僕たちの意見も聞いてくれるのでやりやすいんです。劇団チョコレートケーキ自体が、みんなで意見を出し合いながら作っていくという姿勢なので、『ガマ』のときも1日1日がとても楽しい稽古でした。
米軍統治下での裁判官たちの忸怩たる思い
──この作品で大和田さんの役柄は巡回裁判所の裁判官です。
物語の中で柴田理恵さんが演じる「おばぁ」と太川陽介さんが演じる弁護士「ラッパ」にはモデルがいるのですが、僕が演じる新垣はモデルはいなくて、当時の沖縄の裁判官たちを総合したイメージかなと思っています。この裁判が沖縄からアメリカに移されるとなったとき、琉球の裁判官36名が連名で声明を出して抵抗したんです。それが沖縄の人たちの復帰運動を大きく後押ししたと言われています。それはかなり勇気のいることで、職を失う可能性もあったわけですから。でもここは声を挙げなくてはいけないという裁判官たちの強い思いがあったのだと思います。
──裁判官という公職に就いている人たちが、米軍当局と正面きって闘ったわけですからすごいことですね。
おそらくそれまでに沢山の思いがあったのだと思います。米軍の施政下で、琉球の人たちのために思うように裁けないことに忸怩たるものがあっただろうなと。
──現在も返還されて50年以上経ちますが、まだ治外法権の部分もあります。
だからこそこの作品が、沖縄にちゃんと目を向けることにも少しでも繋がればいいなと思っています。
──今回の共演の方々はいかがですか?
太川くんは、かなり前にドラマで一緒になったことはあるのですが、舞台では初めてなんですよ。トム・プロジェクトの舞台『風を打つ』で、元アイドルだったとは思えない渋い芝居をしていたので、共演が楽しみです。柴田さんは、一度舞台で共演していて、エネルギッシュな人ですから「おばぁ」役にぴったりです(笑)。「おばぁ」の親族になる鳥山昌克くんや森川由樹さんも芝居好きで達者な人たちなので、また一緒にやれて嬉しいです。
──裁判用語を含めてすごい台詞量ですが、それをたった5人で演じるので大変だと思いますが、期待しています。
裁判の話なのですが、観る方たちはあまり肩に力を入れないで来ていただきたいですね。笑いもいっぱいあると思いますし、「サンマの話か」(笑)ぐらいの気持ちで観にきていただいて、観終わって「こんなこともあったんだ」と思っていただければいいですね。
■PROFILE■
おおわだばく○福井県出身。1973年、ドラマで俳優デビュー。舞台や映像で活躍中。98年〜09年、平日昼の情報番組『ワイド!スクランブル』の司会として出演。トム・プロジェクトの作品は『萩咲く頃に』『Sing a Song』『モンテンルパ』に出演。また、第30回読売演劇大賞『大賞』『最優秀作品賞』「生き残った子孫たちへ 戦争六篇」(劇団チョコレートケーキ)の中の『ガマ』に出演した。
【公演情報】
トム・プロジェクト プロデュース
『おばぁとラッパのサンマ裁判』
作:古川健
演出:日澤雄介
出演:柴田理恵 太川陽介 鳥山昌克 森川由樹 大和田獏
●2/3~9◎紀伊國屋ホール
〈お問い合わせ〉トム・プロジェクト 03-5371-1153(平日10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.tomproject.com/peformance/sanma.html
《地方公演》(問い合わせは各地域主催へ)
●2/13◎千葉県野田市 野田ガスホール、
●2/15◎長野県上田市 上田市丸子文化会館、
●2/19◎茨城県つくば市 つくばカピオホール、
●2/22◎福井県越前市 越前市いまだて芸術館、
●2/24◎和歌山県有田市 有田市民会館 紀文ホール、
●3/2◎大阪府富田林市 すばるホール
【インタビュー/宮田華子 撮影/田中亜紀】