舞台『サザエさん』藤原紀香・葛山信吾・高橋惠子・松平健 インタビュー

昭和、平成、令和と三つの時代を駆け抜けて長く愛され続けている国民的人気作品「サザエさん」の舞台版が6月に明治座、7月に新歌舞伎座にて上演される。
この舞台は、アニメ放送で描かれた時代から10年後の磯野家を舞台に、少しずつ変化のあった一家の日常を描いている。初演は2019年、さらに2022年に第二弾の上演を経て、今回は初演版の再演となる。
本作について合同取材会が行われ、サザエ役の藤原紀香、マスオ役の葛山信吾、フネ役の高橋惠子、波平役の松平健が出席し、意気込みを語った。
サザエさんで泣かされると思わなかった
──今回3回目の上演となる舞台『サザエさん』ですが、こうして繰り返し上演される魅力はどんなところにあると感じていらっしゃいますか。
藤原 本作は10年後というちょっぴり未来の様子を描いていて、家族の危機とか人生の岐路とか、多くの人が経験する家族についての問題もちょっとずつ盛り込まれています。古き良き家族像がある中で、現代の価値観とぶつかり合う瞬間というのも描かれているので、よりリアルに感じていただけるんじゃないかなと思います。田村孝裕さんの演出が、ほっこり楽しい中にも人と人との在り方が描かれているので、演じている私たちも考えさせられる部分がとても多いですし、初演や第二弾をご覧になったお客様からも「サザエさんで泣かされると思わなかった」と言っていただきました。
葛山 4コマ漫画やアニメでクスッと笑える短いストーリーとして親しまれてきた「サザエさん」とは違う、舞台ならではの描き方や表現をしていて、親子だったり兄弟だったり、サザエさん一家を中心とした人間関係がより深く描かれているところが魅力かなと思います。
高橋 「サザエさん」は昭和に描かれた話には珍しく、サザエは結婚してマスオさんのところに嫁いだけれど、自分の実家で親と一緒に暮らしているんですよね。だから嫁姑問題みたいなものはなくて、サザエがすごくのびのびとしているところが、今の時代でも違和感なく受け入れられる理由なのかな、と思います。
松平 今回の舞台のストーリーでいえば、親離れしていく子どもの成長を心配したり不安に思ったり、そういった親の感情というのは時代を超えても変わらないもので、今に通じるところが多くて共感できる舞台ではないかと思います。
──藤原さん演じるサザエの魅力をどのように感じているか教えてください。
葛山 本当にエネルギッシュな方で、サザエさんのイメージ通りですね。
藤原 恥ずかしい……ドジなんです……(笑)。
葛山 ドジってご本人はおっしゃいますけど、そういうところも含めて非常に笑いをもたらしてくださるといいますか(笑)。稽古の段階から、本番に入ってもみんなに笑いを提供してくださるので、そこにそのままついていけばいいという感じで、非常に楽しくやらせていただいてます。何でこんなに元気なんだろう、と思うぐらいのサービス精神とエネルギッシュさを見習いたいです。
高橋 天真爛漫なんだけど、すごく細やかに周りに気を配られていて、すごいなと思います。初演の稽古では、演出の田村(孝裕)さんが結構厳しかったんです。でもそれにめげずに明るさを発揮しながらちゃんと応えて、強靭な精神の持ち主だな、と思いました。
松平 本当にテレビのサザエさんのイメージぴったりでとにかく明るくて、彼女の明るさですごく雰囲気良く稽古することができました。
──今のお三方のお話しを聞いて、藤原さんはどんなふうに受け取りましたか。
藤原 皆さんにそうおっしゃっていただけてありがたいです。稽古初日に本読みをしたとき、皆さんがびっくりするくらいテレビで見ていたサザエさん一家の印象そのままだったんです。やっぱり皆さん、役を愛してここに集結されているんだ、ということをまざまざと思い知らされたので、そのときから「皆さんがいればサザエになれる」と思うことができました。
酒井敏也さんのタマは愛おしい家族
──先日、本作について酒井敏也さんにお話しを聞く機会がありまして、そのときに藤原さんが開演前に猫の鳴き声を客席にも聞こえる声量で真似していたとうかがいました。それはなぜやっていたのでしょうか。
藤原 開演10分ぐらい前にスタンバイするのですが、舞台上が迷路みたいになっていて、慣れるまではどこに何があるのかわからなくて本当に大変だったんです(笑)。それで、スタンバイ中を楽しく過ごすために、舞台上で猫が鳴いてもタマがいるからおかしくないよね、と思って、わかる人だけのサービスバージョンとして、スタンバイしながらお客さんに聞こえるように「ニャアン」と鳴くことにしたんです。
高橋 そうやって思いつきでやっちゃうところが、天真爛漫なサザエなんですよね(笑)。
──タマが非常に存在感のある本作ですが、酒井さんのタマの印象はいかがですか。
高橋 酒井さんならではのタマだと思います。他の方では出せないあの雰囲気が、何とも愛おしさを感じますよね。
藤原 10年経っているということで、サザエさん一家と一緒にタマも年を取っているんですよね。そう思うと何だかしみじみしますし、バーッと走ったりしないでゆっくりしているところも愛らしいです。
葛山 アニメのイメージだと、まさか酒井さんのようなタマだとは全然思わなかったんですが、もう僕らの中では“酒井さんのタマ”が定着しちゃいましたね。声が小さくて、ちょっとスローで、ちょっと哀愁漂うというか……。
藤原・高橋 そうそう!哀愁!
葛山 なんかそんなところが非常に愛おしい家族だな、と思っています。
何気ない日常こそがドラマティックと気づかせてくれる
──明治座の印象を教えてください。
藤原 私自身よく明治座にお芝居を観に行くので、ここで上演される作品ならきっと面白い、という安心感はすごくあります。様々な舞台機構が備わっていたり、カフェとか美味しいお弁当とか、いろんなところにお客様が喜ばれるような工夫がされていたり、やっぱり150年という歴史があるからこそだと思います。
葛山 明治座にお芝居を観に行くと、お客さんが「お芝居を観て終わり」ではなくて、その日1日を楽しみに来ていらっしゃるというのをいつも感じるんです。休憩時間に美味しいお弁当を食べたり、売店でお土産を見たり、お友達と感想を言い合ったり、観劇を含めた明治座での時間をすごく楽しまれているといいますか、皆さんの思い出として大きく残るんだろうな、という雰囲気がすごく好きです。
高橋 廻り舞台とか、緞帳の厚さとか、伝統ある劇場だということをすごく感じますね。とても懐の深い劇場だからこそ、こうした日常を描いている作品の情感を伝えることができている部分もあると思うので、また明治座に出られることを嬉しく思います。
松平 やっぱり芝居小屋という雰囲気ですからね、客席との距離感も近いというか、上の階のお客様の反応もわかりやすくて、出演する側としても使い勝手のいい劇場だな、という印象です。
──公演へ向けての意気込みをお願いします。
松平 お子さんからご年配の方まで来られると思いますが、皆さんにわかりやすく、楽しんでもらえる作品になっていますので、笑いと少しの涙、とにかくほっこりとした気持ちを持ち帰っていただきたいと思います。
高橋 コロナ禍を経験したこともあって、前回と今回では同じセリフでも何か違った捉え方ができるかもしれませんし、今回新たに加わってくれる若い世代の方々に新しい風を吹き込んでもらいながら、また新しい『サザエさん』を作っていくという楽しみがあります。前にご覧になった方も、初演のときと同じセリフかもしれないけれども、また違うものになると思いますので、ぜひいらしていただきたいです。
葛山 またこうやって皆さんとご一緒させていただけることが本当に嬉しく、また、演出の田村さんを先頭に稽古場で作り上げていくことが非常に楽しみです。幅広い年齢層のいろんな方に楽しんでいただける作品だと思うので、ぜひ劇場に足を運んでください。
藤原 誰もが知る「サザエさん」の10年後ということで、家族にもちょっとした危機が訪れます。そんなとき、どのようにこの危機を乗り切っていくのか、すれ違いながらも心を寄り添わせていく彼らの姿が、何気ない日常こそがドラマティックなんだと気づかせてくれる、そんな作品になるようにみんなで力を合わせていきたいと思います。

【公演情報】
舞台『サザエさん』
原作:長谷川町子
脚本・演出:田村孝裕
出演:藤原紀香 葛山信吾
草川直弥(ONE N’ONLY)[Wキャスト] 佐藤友祐(lol))[Wキャスト] 平尾帆夏(日向坂46)
藤代翔真(wink first/TRAINEE))[Wキャスト] 松﨑光(wink first/TRAINEE))[Wキャスト] 酒井敏也
高橋惠子 松平健 ほか
●6/5~17◎明治座
〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666(10:00~17:00)
〈劇場公式サイト〉https://www.meijiza.co.jp/
7/5~8◎新歌舞伎座
〈お問い合わせ〉新歌舞伎座テレホン予約センター 06-7730-2222(10:00~16:00)
〈劇場公式サイト〉https://www.shinkabukiza.co.jp/
【取材・文/久田綾子 写真提供/明治座】