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叔父への想いを胸に幸四郎の鬼平が歌舞伎座に初見参!「七月大歌舞伎」『鬼平犯科帳』松本幸四郎 取材会レポート

 
江戸時代に実在した火附盗賊改方長官の長谷川平蔵を主人公に、江戸の町を生きる人々を活写した池波正太郎の傑作時代小説『鬼平犯科帳』。凶悪犯たちにも一目置かれる鬼の平蔵(鬼平)の物語は超ベストセラーとなり、池波のたっての希望で1969年に初代松本白鸚(当時は八代目松本幸四郎)の主演で映像化され、翌年には帝劇で舞台化もされた。その後、1989年から2016年まで二代目中村吉右衛門が当り役として鬼平を演じ、ジプシー・キングスの名曲「インスピレイション」と共に多くの人々に愛されてきた。

二代目吉右衛門なき後、2024年からは、池波正太郎生誕100年記念の新シリーズとして松本幸四郎が鬼平をつとめ、ドラマ・映画版が公開。このたび満を持して、歌舞伎座の「七月大歌舞伎」(7月5日~26日まで、11日・18日休演)で、同じく幸四郎の長谷川平蔵で『鬼平犯科帳 血闘』が幕を開ける。

幸四郎平蔵のほかのキャストは、「本所の銕」と鳴らした青年時代の平蔵(長谷川銕三郎)をドラマ・映画版に続いて市川染五郎が演じ、幸四郎の父であり染五郎の祖父である松本白鸚が平蔵の父・宣雄をつとめ、久しぶりに高麗屋三代が共演する。また、市川中車、市川門之助、市川高麗蔵、中村又五郎、中村雀右衛門などのほか、『血闘』では欠かせない存在の密偵おまさを坂東新悟が、おまさの少女時代を市川ぼたんが演じるのも注目だ。

6月21日に行われた『鬼平犯科帳』音楽朗読劇から、6月30日放送のラジオドラマ『鬼平犯科帳 本所・桜屋敷』、今回の新作歌舞伎、歌舞伎座と同じ7月5日を初日に公開されるドラマシリーズ第6弾『鬼平犯科帳 暗剣白梅香』など、今年の夏はメディアを横断して「鬼平祭」が繰り広げられる。原作やテレビシリーズのファンのみならず、歌舞伎ファンにとっても楽しみな期間といえるだろう。

6月中旬、都内で松本幸四郎の取材会が行われた。幸四郎から簡単な挨拶の後、質疑応答に移った。

【質疑応答】
今回「二代目吉右衛門に捧ぐ」と大きく表題に出ていますが、そのお気持ちは?

まずは映像の『鬼平犯科帳』(以下『鬼平~』)をやらせていただくことになり、今までに5作品が出て、来月の歌舞伎座の初日には第6作品が上映されます。叔父が28年間映像でやってきた『鬼平~』をやらせていただくということでは、やはり特別な作品で、特別な覚悟があった作品だと思いました。歌舞伎化するにあたり、「二代目吉右衛門に捧ぐ」ということ、それからジプシー・キングスの「インスピレイション」を使うということでお話をいただきました。叔父も歌舞伎化しました。祖父(初代松本白鸚)も歌舞伎でしました。自分自身は、とにかくこれから1つでも多く作品が作れるようにという目標を掲げて、今、作っている最中ですが、お話をいただいて、すごくありがたいこと、幸せなことだと感じました。二代目吉右衛門に捧ぐということでは、プレッシャー以上のものはありませんが、映像の鬼平、長谷川平蔵からすると「今の鬼平は僕です!」という気持ちも含めて作っているところはあります。対して歌舞伎版の鬼平・長谷川平蔵を演じるにあたっては、十二分に二代目吉右衛門を思い出していただきたい。それを頭の真ん中に入れて、この鬼平を作っている最中です。

──既に歌舞伎化されているものもありますが、膨大な原作の中から(幸四郎が)最初に歌舞伎化するにあたりどの作品を選ぶか、そのへんのプロセスや、今回歌舞伎としてやるに当たって、こだわりやキャストなどの経緯は?

作品は本当にたくさんありますが、まずは自分が映像でやらしていただいた作品のうちということで、その中で、銕三郎時代そして平蔵時代という2本の柱をすえることになりました。原作には、昔はこうだったという話で出てくるものはありますが、銕三郎をクローズアップした作品はありません。それをクローズアップして作るのは、今回の『鬼平~』の特徴ではないかと思います。

また、では作品として何をするか。やはり銕三郎時代に対する相手と、平蔵に対する相手なら「おまさ」という存在だと思い、『血闘』に決定しました。これは、過去の歴史がある平蔵とおまさの再会です。『鬼平~』は捕まる人が主人公で、平蔵がどうそれを解決していくか、導いていくかという作品ですが、銕三郎時代も含めて平蔵自身に対するということでは、おまさという存在が大きいのではないかと。あとは、時代劇であれば立廻りが大きいと思います。『鬼平~』としてはとても珍しい、とても感情的な立廻りがあるのは、『血闘』の平蔵ではないかなと思います。そういった「鬼平~といえば」というものを大事に取り入れて作っていくこと、あとは新作歌舞伎をどう捉えるかだと思います。

池波正太郎さんは、いわゆる世話物を書きたい思いがすごく強くて『鬼平~』を書いたと伺って、自分の心の中では、歌舞伎化するときは純世話物かと思っていましたが、実際やるとなったら、新作歌舞伎であれば、新しい突っ込んだ歌舞伎を作ろうと、心が変わりました。1つはやはり、『鬼平~』の登場人物は本当に有名人ばかり。平蔵・銕三郎、おまさだけでなく、彦十、久栄、佐嶋、忠吾…ぽっと浮かぶだけでもたくさんの登場人物がいて、また個々のキャラクターが強い。それに、本当にありがたいことに皆さんに出ていただいて、あまり人物紹介になってはいけませんが、キャラクターの個性を生かしていくには、やはりテンポ感が必要かなと思ったり。全体の音楽は、き乃はちさんに作っていただき、実は今日もレコーディングの真っ最中ですが、素敵な曲ができあがっています。
その意味では、「新しい歌舞伎」と「二代目吉右衛門」が自分の中でのキーワード。叔父が今鬼平はできませんので、叔父の鬼平を思い出してもらうような鬼平を作る。それを作っているのは今の鬼平だ、という思いを込めて作り上げていきたいと思います。

──今の質問とも関連しますが、松竹創業130周年で果敢にいろんなジャンルのものを歌舞伎に取り入れるという趣旨で、こういうものが企画されていると思います。新作歌舞伎では、1月は『大富豪同心』を隼人さんと幸四郎さんでやりました。そういう新作歌舞伎は、日頃歌舞伎に興味がない方に関心を持ってもらって、歌舞伎座に足を運んでもらうという意図もあると思いますが、一方で本当の歌舞伎を見たいと歌舞伎座に来る方も多いと思います。本当の歌舞伎好きの方にとってどういうところがアピールできますか?

新作歌舞伎には「これは歌舞伎なのか」「歌舞伎じゃない」「歌舞伎だ」みたいなことは必ずあります。僕個人としては、それは歌舞伎を楽しんでいただいている1つだと思います。歌舞伎に定義は1つもないです。よく男だけでやるものが歌舞伎だといいますが、最初は出雲の阿国、女性が始めました。白塗り…白塗りの人が出てこない歌舞伎もあります。見得をする…見得をしない歌舞伎もあります。音楽が入る…音楽が一切入らない歌舞伎もあります。定義がないのが歌舞伎だと思います。ならば何をもって歌舞伎化するのか。それは綱引きというか、「歌舞伎といえばこうでしょう」と、白塗りとか女方とか、歌舞伎を観たことがない方でも、イメージできるのは歌舞伎だと思うんです。その特徴を生かして、例えば平蔵がバシッと見得をして、そこに音楽が入るということだったり。花道や廻り舞台など、日常的に舞台機構を使うのはいまだに歌舞伎だけですが、それが1つの武器であり、歌舞伎だなと思っていただける部分ではないか。そういうものを生かしつつ、僕が『竜馬がゆく』で初めて出会って、それ以来本当に多くの作品に素敵な音楽をいただいた尺八演奏家のき乃はちさんの、陰影のある音楽に乗せて届けたい。

『鬼平~』はいわゆる捕物帳で、シリーズでも「今日は鬼平、死んだんだね」という回は絶対ないです(場内笑)。結末がわかった上で見ても楽しいというのは、善は白で悪が黒というだけじゃない。もちろん悪は悪ですが、善意も悪意も、その人がそうならざるを得なかった、そういうことでしか生きられなかったという、人間が描かれている気がする。その中心にいる平蔵は、悪い奴だからと先入観を持つのでなく、まずは人として相対する。それは平蔵の強いところではないか。私が構成・演出もさせていただきますが「鬼平を歌舞伎にするとこうなるんだ」と皆様に提示して、それが歌舞伎だ、歌舞伎じゃない、と存分に楽しんでいただければと思っています(笑)。

──また、夜の部の『蝶の道行』は歌舞伎ファンにとっては非常に楽しみだと思います。染五郎さん、團子さんの人気のお二人が出るので、幸四郎さんは出ませんが、アピールすることがあればお聞かせください。

『蝶の道行』は、私は大阪(松竹座)で(片岡)孝太郎さんとやらせていただいたことがあって、僕は川口秀子さんの振りで、実際に鎌倉の川口先生のところへ伺って稽古させていただき、本当にありがたい経験をさせていただきました。その情熱的な踊りを2人がどうつとめられるか。比較的、情感を発散できる踊りだと思うので、本当に熱い熱い舞台にしてほしい。幕が閉まった時には、本当に助国、小槇のように毎日ぶっ倒れてほしい、そういう『蝶の道行』を目指してほしいと思います。僕もまだできるつもりですが(笑)。

――歌舞伎を題材にした映画『国宝』がすごく話題です。歌舞伎に興味を持ち始めた人にとっても、『鬼平~』はおすすめでは?

『国宝』は本当に盛り上がっていて、それが歌舞伎の題材で、(中村)鴈治郎のおにいさんが出られていることもありますが、指導なのか、1年ぐらい楽屋に関係者の方が来られて、いろいろ勉強されたり、また協力されている作品。撮っている時に、僕も京都で『鬼平~』を撮っている時だったので、そんなことを聞いた上で、完成して披露して、これだけ注目されている作品なのは、素直に嬉しいですね。いろんなことで時代劇や歌舞伎を取り上げていただき、それを多くの人に喜んでいただけるのは、すごく嬉しい。その上で『鬼平~』がちょっとアンテナに引っかかってもらうと嬉しいですが、そういう時にやる新作歌舞伎だからこそ、しっかり作ってお見せすることを大事にしようと思います。

錚々たる方々に出ていただくのは本当に嬉しい限りで、実際『鬼平~』は映像でもやっていますから、鬼平歌舞伎を作るという気持ちで作りたい。その支えになるのは、映像で『鬼平~』をやらせていただいていること、それも叔父が28年間やってきたからこそ今の『鬼平~』が映像で誕生できたと思いますし、「二代目吉右衛門に捧ぐ」も、自分がこの『鬼平~』を作り上げるプレッシャーでなくエネルギーという気持ちで、まずは初日に向けて突進していきたい。

――配役に團十郎さんの名前がありますが、どういった感じの場面になるか?

去年の昼の部は團十郎さん、夜の部は私を中心にやらせていただき、一緒に出ることはなかったですが、今年は嬉しいことに共演できます。普賢の獅子蔵という役名も出ている。これは原作にない彼のために作った役で、それで想像していただければ…悪い人です(場内笑)。

──少女時代のおまさは(市川)ぼたんさんです。期待することは?

襲名の時は一緒ではありませんでしたが、踊っていて、本当にびっくりしました。今回やるにあたって、染五郎から出た名前だったんです。もちろん会社(松竹)が考えていたことですが、こちらとしてもイメージがあって、染五郎からぼたんちゃんの名前聞いた途端に、彼女しかいないと。昼の部も出ているのに大変ですが、それをわかった上でお話ししたら、興味を持ってくれました。少女時代のおまさは小刀のような、シャープな女性じゃないかと思いますので、彼女の大きな声を聞いていただきたい。そういう発散した空間に、彼女にとってもなればと思います。とてもとても楽しみです。

──(高麗屋の)親子三代で舞台に立つのは10ヶ月ぶりですが、特に白鸚さんに関して、舞台を通じての親子というものをお聞かせください。

『鬼平~』に出ていただけることになり、父の役は長谷川宣雄です。それこそ歌舞伎だからできることじゃないかと思うんですね、三代で。どういうふうに出るかまでお話ししないほうがいいと思いますが(笑)。銕三郎にとって父、もちろん平蔵にとっても父。銕三郎時代には父がいる時の親子関係で、平蔵になってからは、もう銕三郎時代にいろいろ教わって見守ってくれた存在だからこそ、長谷川平蔵は火付盗賊改方のお頭をする。実際の親子がやってきた、次に繋げる、次に教えるということが、舞台の上でも起こるのではないかと。ですので、虚実皮膜と言っていいかわかりませんが、『鬼平~』の言葉や平蔵・銕三郎の言葉に、白鸚・幸四郎・染五郎の心とともに乗っかる言葉ではないかなと。リアルなのか芝居なのかという、不思議な空間になればいいなと思います。そのためには、長谷川宣雄の役は父に出てほしいということがあります。

二代目中村吉右衛門主演「隔週刊 鬼平犯科帳DVDコレクション 再刊行版」好評発売中 HDリマスター版で、全シリーズ・スペシャルを完全網羅 ⓒ松竹株式会社/フジテレビジョン

――吉右衛門さんに捧げるということ以上に、幸四郎さんにとって鬼平という役、作品に取り組む意味は?

長谷川平蔵は人間という感じがするんですね。比較的どの作品でも、平蔵が焦るというか、突撃したり、ある時は騙されたり、時には間に合わなかったり、1つは起こるんですよね。完全無欠のヒーローと違うのが平蔵らしさ。でもそれが決して欠点短所ではなく、もちろん過去の銕三郎時代は本当に暴れまくって、悪い奴ということで名が売れていた男がお頭になる。悪いことをしてきたから悪い奴の匂いを嗅ぎつけやすくなると、実際に『鬼平~』の中でも言われたり思われたりするし、そういう見方はできると思いますが、平蔵はその過去を隠していない。やっぱりどの悪人でも善人でも、相対して接すると、本当に強くないと吸い込まれてしまうでしょうし、わからなくなってしまったりするでしょうから、しっかりと受け止めるだけの強さ。鬼になった時の強さもそうですが、危機に直面した時でも下がらない強さ、手を差し伸べる勇気という強さ、いろんな強さがあると思うので、そういう人間長谷川平蔵とが描けたらと思います。

江戸時代ですので、対面しなきゃ全て始まらない。悪人も、実際に会わないと(平蔵の)顔がわからない。鬼平だと名乗って、「お前があの鬼平か」と驚くことはありますが、相対しないと何も情報を得られない。常に人と人が絡み合って、繋がって、生きていっている世界だと思います。今の時代はもう個々で、情報も人に聞かなくてもというところもあって、それは便利ですが、やっぱり対面して、そこで自分が刺激を受けたり、知らないこともあるということはある。それが『鬼平~』が今上演される意味かなと思います。

──バックパネルを撮った時のエピソードは?

映像の新作かと思われてはいけないということで、歌舞伎座をバックに撮ったのですが、鬼平が歌舞伎座に来たぞと言っても、お客さんが誰もいない…(笑)。早く来すぎたのかな? この写真1枚にもいろんなドラマを想像できますが、この客席がいっぱいになることを目指して。これも叔父が着ていた衣裳などを使わせていただいて、そういうものがあるからこそ、今自分が平蔵の格好をしてここに立てる。いろんなものを背負うとプレッシャーに感じざるを得ませんが、それを力にして「また歌舞伎座で鬼平が観られるようになりました、皆さんぜひ来てください」という思いです。

【公演情報】
令和7年7月歌舞伎座松竹創業百三十周年「七月大歌舞伎」
日程:7月5日(土)~26日(土)[休演]11日(金)、18日(金)
会場:歌舞伎座

池波正太郎 作
松本幸四郎 構成・演出
戸部和久 脚本・演出

二代目中村吉右衛門に捧ぐ――
『鬼平犯科帳 血闘』
序幕 駿河町両替商老松屋より夢現まで
大詰 長谷川平蔵役宅より大川の土手まで

長谷川平蔵 松本幸四郎
普賢の獅子蔵 市川團十郎
同心小柳安五郎 市川中車
日置玄蕃 坂東巳之助
おまさ 坂東新悟
長谷川銕三郎 市川染五郎
少女のおまさ 市川ぼたん
閻魔の伴五郎 市川猿弥
三次郎妻おたね 市川笑也
夜鷹おもん 市川笑三郎
五鉄亭主助次郎 市川寿猿
無宿人相模の彦十 市川青虎
同心木村忠吾 中村吉之丞
夜鷹おこま 澤村宗之助
吉間の仁三郎 大谷廣太郎
四之菱の九兵衛 松本錦吾
たずがねの忠助 市川門之助
与力佐嶋忠介 市川高麗蔵
相模の彦十 中村又五郎
平蔵妻久栄 中村雀右衛門
長谷川宣雄 松本白鸚
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/935

【取材・文/内河 文 写真提供(C)松竹】

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