佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ-Jonah』ルーマニア/ラドゥ・スタンカ国立劇場公演&ウォーク・オブ・フェイム授賞式レポート

東京芸術劇場×ルーマニア/ラドゥ・スタンカ国立劇場の国際共同製作による佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ-Jonah』が、東欧6都市ツアー成功をひっさげ、ヨーロッパ最大規模の国際舞台フェス「シビウ国際演劇祭」に登場した。美しく、力強い圧巻のパフォーマンスに会場総立ちのカーテンコールと ウォーク・オブ・フェイム授賞式の模様が届いた。
東京芸術劇場とルーマニア/ラドゥ・スタンカ国立劇場の共同製作による新作、佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナーJonah』のシビウ国際演劇祭公演が、現地時間6月26日15時/20時、ルーマニア・シビウ市のラドゥ・スタンカ国立劇場で行われ、満場の観客が総立ちのカーテンコールで惜しみない拍手を送った。
本作はルーマニアの国民的詩人マリン・ソレスク(1936-1996)の代表作で、旧約聖書の聖人ヨナの逸話を題材としている。ヨナは漁師で預言者。神に背いて、鯨に飲み込まれ3日の後にその腹から生還した人物だ。この戯曲を、現代ルーマニア演劇界の巨匠演出家で、ラドゥ・スタンカ国立劇場が毎年6月に開催するシビウ国際演劇祭で数々のヒット作を放つシルヴィウ・プルカレーテが演出した。
佐々木とプルカレーテは、2017『リチャード三世』、2022『守銭奴』(いずれも東京芸術劇場制作)でタッグを組み、人間の暗部に深く迫りつつもユーモアにあふれる優れた舞台成果を残した。佐々木はプルカレーテとの作業を「今までの演劇体験の中で最も楽しかった」と振り返り、プルカレーテも佐々木の発想の豊かさと身体能力の高さに大いに刺激を受けた。
東京芸術劇場とラドゥ・スタンカ国立劇場は、佐々木とプルカレーテの信頼関係をさらに発展させ、国際ツアーに出せる作品の共同制作に取り組むことで合意。日本、ルーマニア双方の国の戯曲を検討したところ、プルカレーテより、敬愛するソレスクの作品『ヨナ』の提案があったことにより、本作の上演が実現した。
佐々木は4月末シビウに単身乗り込んで4週間の稽古に臨み、これまでに経験したことのな
い詩的な戯曲に向き合った。名匠プルカレーテの手により、聖書のキャラクターの逸話が、絶望 的な状況に置かれた小さな個人が最後まで生き抜く道を探すというドラマに生まれ変わった。現 代世界で起こっている様々な困難の下で抑圧される個人へのエールともいえる本作を、佐々木は、ある時は静かに、ある時は激情を持って台詞を伝えた。
5月21日のシビウでの世界初演は、ルーマニアの人々にとって、日本人俳優が演じることにより、自分たちの民族史に新しい見方を発見する機会になったようで、感動で目を潤ませる観客の姿も見受けられた。カーテンコールは4回に及び、スタンディングオベーションで迎えられた。
続いて、プダペスト(ハンガリー)、クルージュ・ナポカ(ル-マニア)、ブカレスト(ルーマニア)キ シナウ(モルドバ)、ソフィア(ブルガリア)の東欧諸国の国立劇場でツアー公演を行った。各地売り切れの盛況で、前評判を耳にした観客の期待に応え、佐々木の演技も深みを増していった。
ソフィアでは、国を代表する俳優が観劇し「身体と内に纏うエネルギーを完全に支配しておられ、凄まじくとめどない時空が蔵之介さんの中に広がっていました。静寂でこれほど繊細な芝居をかつて観たことがありません。芸術は(世界を)もっと平和な方向へと変えることはできないけれど、考えることはできると、蔵之介さんのJonahは気づかせてくださいました。希望の光を与えて くださいました。光は闇を知らないと感じることはできません。海の底の魚たちの住まう闇に触れた者だけが光を探すことができる、そう教えて頂きました。幸せです。ありがとう。」との感想を寄せた。
ツアーの成功をひっさげ、いよいよハイライトであるシビウ国際演劇祭での上演となった。看板演出家プルカレーテの新作、佐々木の登場とあって、チケットは発売10分後にソールドアウトし、急遽追加公演を昼に行うことになった。5月の世界初演とヨーロッパツアーの絶賛を耳にした観客、世界から訪れている演劇関係者の熱い熱気に迎えられ、佐々木はさらに深みを増した演技で観客を虜にした。

満場の観客から大きな拍手を浴びた佐々木は 「『ヨナ』はシビウでの一か月の稽古を経て、5月21日にプレミア公演の初日を開け、その後、東欧5都市ツアーを経て、今日シビウ国際演劇祭での公演を行いました。国際フェスティバルはさまざまな演目に触れることができて本当に楽しいです。シビウ国際演劇祭には2回目の参加になりますが、今回は一か月現地で生活したので、前回とは全く違う経験になりました。家族のように迎えてもらい、送り出してもらったという感じです。不思議なことにプレミア公演初日の方が気楽な気分で、ツアー公演を経ての今日の公演の方がしっかり伝えなくてはという緊張感が高かったです。ツアーを通じて、声のトーンなど芝居や静寂な瞬間の生かし方等について試行錯誤を重ねました。お客様が、理解できない日本語に耳を澄ませ、音のない瞬間にも何かを聞き、闇に何かを見ようとしてくださる力を今日もとても強く感じました。お客様の集中力に支えられ、物語のうねりを作ることができたと思います。ヨーロッパツアーのしめくくりであるシビウ国際演劇祭公演を ルーマニアの仲間と祝福を分かち合えることを願っていましたが、無事に公演を終えていまは感謝しかありません。10~11月に日本公演を行いますが、どのように受け止めてもらえるかとドキドキしています。日本ではあまり出会わないような作品ですので、新鮮に楽しんでいただけると思います。どうぞご覧ください。」と述べている。
佐々木はこの舞台とこれまでのプルカレーテらとの舞台成果により、シビウ国際演劇祭が毎年世界を代表するアーティストを表彰している「ウォーク・オブ・フェイム」を、キャサリン・タ ーナーやビル・マーレイといった著名俳優と並んで今年受賞することが決定している。6月28 日にはその授賞式が行われ、佐々木の名前の刻まれた星が歩道に残されることになる。
日本公演は、舞台芸術祭「秋の隕石2025東京」芸劇オータムセレクションとして10月1日~13日まで東京芸術劇場 シアターウエストでの公演のあと、金沢・松本・水戸・山口・大阪をツアーする。
【関連データ】
佐々木蔵之介ひとり芝居『ヨナ-Jonah』
2025(令和7)年6月26日(木)
ルーマニア/ラドゥ・スタンカ国立劇場 2公演
ウォーク・オブ・フェイム授賞式
2025(令和7)年 6月28日(土)
主催 :ラドゥ・スタンカ国立劇場
共催 :東京芸術劇場
バートナー :シビウ国際演劇祭 舞台芸術祭「秋の隕石2025 東京」
ルーマニア学術会議舞台芸術研究所
企画制作 :ラドゥ・スタンカ国立劇場/東京芸術劇場