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鏡花歌舞伎『陽炎座』 加納幸和・永澤 洋・武市佳久 インタビュー

永澤 洋・加納幸和・武市佳久

泉鏡花の幻想小説を、義太夫と黒御簾(くろみす)音楽による全編生演奏にて上演する花組芝居の新作『陽炎座』が11月11日から16日まで博品館劇場で上演される。
過去に『天守物語』『海神別荘』『夜叉ケ池』『婦系図』『草迷宮』『日本橋』など、数々の鏡花作品を手掛けてきた花組芝居にとって、約25年振りの鏡花の新作上演となる。

里神楽の座付き狂言方である松崎は、どこからともなく聞こえてくる鳴り物の音に導かれ、寂れた横町に入り込む。軒行灯を吊るした木賃宿街の奥、突如現れた大きな空き家では、不思議な素人芝居が行われていた。芝居はやがて、現実と幻想が曖昧に溶け合う世界へと松崎を誘い、観客席にいた美女が、思いがけないある告白をし始めた──。 

芝居小屋という空間、そこで演じられるある物語──現実と幻想を自由に行き来するこの物語で、桐生品子役の永澤洋と、実柴牧男と笹山お稲の二役を勤める武市佳久、そして雪女を演じる脚本・演出の加納幸和という3人に、この『陽炎座』の作品世界を語ってもらった。 
 
品子とお稲と雪女の物語

──まず加納さんがこの『陽炎座』を、今回上演しようと思ったあたりから伺いたいのですが。

加納 最初に今回は生演奏でいきたいなということがまずありました。昨年6月の『レッド・コメディ-赤姫祀り-』で、三味線の鶴澤津賀寿さんと杵屋邦寿さんに、そのときは録音でしたが参加していただいて、おふたりと打ち上げのときに、今度は生演奏でやりたいねという話をしたんです。そして生演奏だったらどんな演目がいいのか考えたのですが、古典だと決まった曲が中心になってしまいますから、できれば新作にしたい。『毛皮のマリー』とか『黒蜥蜴』で義太夫入り翻案は経験済みなんですが、やはり黒御簾(くろみす)音楽が似合う演目でと考えたら、現代と古典を行き来している鏡花がいいんじゃないかと。そして改めて鏡花をいろいろ読んでみた中に、「陽炎座」があったんです。1981年に上映された鈴木清順監督の映画も観ていて、映画は他の小説も取り入れていたので複雑怪奇なものになっていましたが、原作はとても簡潔に書かれているんです。ただ、鏡花の中では傑作とは言いにくいちょっと難点もある作品なので、だったら構成をちょっと変えてみたらどうかなと思って、手を加えました。

──台本を読ませていただいて、かなり現代的な作品になっているなと。

加納 女性が強くなっています(笑)。原作の最後は女性は負けているんですけど、うちの芝居では勝つ形にしようと思って(笑)。

──爽快感があります。その女性たち、品子とお稲と雪女が物語を動かしていきますが、まずは観客席の美女、桐生品子を演じる永澤さんは、この作品を読んでいかがでした?

永澤 僕は研修生のときに『婦系図』、初舞台で『天守物語』と、鏡花作品から花組に入ったのですが、今回は初めての新作で、しかも品子という大きな役をいただいて、嬉しさと同時にすごく緊張しています。品子をどう演じたらいいのだろうという不安もありますが、逆にそれを役に生かせるかなと。品子は気が強そうですが、ずっと自信満々ではなくて、芝居を観ながら、自分に降りかかってくる得体のしれない恐ろしさと戦っていて、そこは役者・永澤洋がこの作品に向き合う体感とどこかリンクするところがあるかなと思っています。

──武市さんは二役ですね。狂言方の実柴牧男と上演されている物語に出てくる笹山お稲を演じます。

武市 物語の構造が二重、三重になっているので、最初はわけがわからなくて(笑)、でも一度読んだあとは入りやすくなりました。ただ受け取る側のイメージでどうにでも想像できる部分がありますし、多次元的な物語なので、それを加納さんがどう演劇的に作るかが楽しみです。二役については、まず狂言方の実柴牧男ですが、かなり虚構と現実を行き来するいわゆる「道化」みたいなポジションで、今までやったことのない役どころでもあります。

加納 原作とは設定を相当変えているんです。小説では実柴は劇中劇に出てくる男の子で終わってしまうのですが、シアトリカルにするために虚構と現実のはざまにいる役にしてあります。

──お稲役のほうはいかがですか?

武市 お稲は芝居小屋で演じられる物語の中に出てくる女性なのですが、ある種、神話的といいますか、何かの象徴だったり、人間を超越した存在という印象を受けます。

──お稲は、兄の出世欲によって恋人と引き裂かれたうえ、その恋人にも捨てられて狂い死にしてしまう。悲劇的な女性ですね。そして、加納さんが演じる雪女も実はお稲なのですね。

加納 小説ではお稲はあの世の人なので劇中劇では雪女のままなのですが、生前のお稲の話がわりと多く出てくるので、この芝居ではそこを分離してお稲として劇中劇にも出してしまおうと。でも出し方が難しいので、狂言方がお稲を演じるという形にしたらいいんじゃないか。そして死んで雪女になったお稲は僕が演じて、二人一役にすれば面白いんじゃないかと思ったんです。

頭に入ってきやすい美しい鏡花の言葉

──永澤さんと武市さんは、それぞれ鏡花作品には何作か出演していますが、鏡花の言葉はいかがですか?

永澤 覚えやすいなというのがあります。頭に入ってきやすいし、美しい言葉だなと。読み物としてだけでなく、口に出して、自然とリズムが出てきますし、イメージが湧きやすいので、覚えていて楽しい。僕は泉鏡花は好きです。

武市 同じですね。美しい日本語だなと思います。

加納 小説の場合は、地の文のほうに力を入れていてイメージがすごく広がる感じなのですが、会話はわりと現代風なんです。でも戯曲は台詞が命ですから、小説で駆使するようなテクニックを台詞に込めるので、戯曲の台詞のほうがより美しいし難しいですね。

──今回は小説が原作ですから、台本化する作業はたいへんだったのでは?

加納 僕の創作部分がけっこうあるので、そこを鏡花らしくするのがちょっとたいへんでした。楽しいんですけどね(笑)。言葉のチョイスを気にしないと鏡花らしくならないので。それと義太夫と長唄が入りますから、そこに合わせることも考えながら。

──花組の俳優さんはその義太夫や長唄に合わせる技量も必要ですが、おふたりはいかがですか?

永澤 最近なんとなくわかってきたというか、少し慣れてきた感じです。最初の頃はきちんと曲の節目節目に合わせることができなくて(笑)。

武市 加納さんが「ここの三味線の音」とか教えてくれても、「どれ?」みたいな(笑)。

永澤 それに台詞を喋りながら音も聞くということは、僕は今までのお芝居ではやってこなかったので、台詞を喋っているだけで頭がいっぱいになっているところに、音も聞いて芝居をするなんて頭がパンク状態になるんです(笑)。というのを繰り返しているうちに、少しだけ慣れてきたというか、出来ないけれどわかるようにはなってきました。

加納 「この曲のムード合わせて」と要求する一方、「聞いているけど乗らないで」とか言うからね。バックに流れている曲にその人物が乗っちゃダメ、とか(笑)。

武市 僕もやっと最近、加納さんの言ってることが少し理解できるようになった感じですね。それまでは自分が出来ているのか出来ていないかもわからない、という状態でしたから。

演技の方向性とか色が全然違う二人

──今回ダブルヒロインを演じる永澤さんと武市さんですが、同期で、今年で7年目ですね。加納さんから見たその成長ぶりは?

加納 だいぶ慣れてきましたね。最初は右手と左手がバラバラに動くみたいな。

永澤 その通りです(笑)。

──前作『平家蟹』ではダブルキャストで玉琴を演じていました。それぞれの持ち味とか良さなどは?

加納 演技の方向性とか色が全然違うんです。今回はそれを踏まえてキャスティングしました。品子は強い女性ではっきり主張する役で、永澤は声が通るし、その強さは品子だなと。お稲はまったく主張できないまま死んでしまう女性で、武市は男の役をやるときと違って女形だとつつましいんです。

武市 儚いんです(笑)。

永澤 儚い女性似合うよね。

──お互いについてはいかがですか?

武市 今、加納さんが言ったように、お互いに持ってないものをそれぞれが持っているので、稽古中も補い合いながら生きていて。

永澤 ほんとそうだね。

武市 お芝居以外でも僕が苦手なことは洋がやってくれて、洋が苦手な部分は俺がやっておくねとか、そういう関係で。

永澤 それも最近は言わなくてもやっちゃうことが多いよね。入座当初は先輩方に、顔も似ているから見分けにくいとよく言われていたんです。でも花組にいることで2人とも大役をいただくことが多くて、そのおかげで個性が出てきて、僕は女形をやらせていただくことが多いけれど、与作(武市)はマルチにいろいろやるというように、入座5年目あたりから個性が分かれてきた気がします。だから同じ役をやるときでも、「そうやるんだね、じゃ俺こっちでやろうかな」みたいな感じでやれるし、いい刺激のし合い方をしています。

友だち感覚で接することができる座長

──女形の先輩としての加納さんを語っていただけますか。

永澤 まず女形として大きいです。今回、品子役は大きな役なので加納さんが演じると思っていたのですが、僕が演じると知って、これをできるようにならなくてはいけないのか!とプレッシャーがありました。読み合わせでも加納さんが読むと人としての大きさがドーンとくる。女形には儚さと同時に太さも必要だなと最近思っていて、加納さんはそれを自在に配分できる。そういうところは自分も持ちたいし、背中をしっかり追いかけていきたいと思っています。

武市 僕はこれまでずっと台詞での表現にとらわれていたんですけど、加納さんは身体性も大事にしていて、いつもやってみせてくださるんです。だから女形に関してはまず加納さんを観察しますし、もっと観察眼を磨きたいです。重心がどこにあるのか、背中がどういう角度になっているのか、そういうところを意識して真似したいと思っています。

加納 テクニックだけではすまない雰囲気というもの、それは見ないとわからないですからね。

──座長として、また1人の人としての加納さんは?

永澤 可愛いです。わざと意地悪してくる時もあるのですがその意地悪も可愛い(笑)。こんなに同年代っぽく、友だち感覚で接することができる座長っていないんじゃないかと。飲み会とかでも、「座長だからこれは言えない」とかいうこともないし、芝居の話から昨日なにを食べたとかいう話までフランクに話せる方なので、面白いし素敵だなと。流行りものとかも好きだし、若いです。

武市 なんなら作品に入れちゃったりするし(笑)。僕は師匠であり友人だと思っていて、すごくいろんな話ができるし、ずっと喋っていられるんです。

──加納さんは精神がずっと若いですね。とくに最近の花組は、ミュージカルを上演したり、かなり冒険的な作品作りをしています。

加納 今まではただただ遊ぶ芝居ばかり作っていたのですが、60歳を越えましたのでちょっと大人になって、まともなことをやろうかなと(笑)。

永澤 僕は最近のことしか知りませんが、どんどん新しいことをしているし、どんどん世界が広がっていっているのを感じます。

武市 僕らが入座した頃と比べても、作品への向き合い方とか稽古場の感じとかずいぶん変わった気がします。自分の成長とか変化もあるかもしれませんが、先輩たちも加納さんもなんとなく素直になっている感じがするんです。それは僕が馴染んできたからかもしれないし、単純にそれなりの年齢になったからかもしれませんけど(笑)。とにかくすごくリラックスしています。

──若手の方たちの成長もあると思いますが、花組の揺るぎないフォーマットができているからこそ、実験的なこともできるのでしょうね。

加納 40年近くやってきてある意味やり尽くした感があるんです。今はそれを踏まえて、更にこちらへ行ってみようとかあっちに行ってみようとか、毎回考えていますね。そういえば、今年は歌舞伎座が三大名作を上演しているので、花組でも昔のそういう作品をYouTubeで配信していて、僕も観ているんですけど、よくこんなバカやってるな、よく恥ずかしくなかったなと(笑)。もっとちゃんとしなくちゃいけないと思っています。

──そういう様々な挑戦があったからこそ、今回のような新鮮な発想も生まれるのだと思います。その『陽炎座』を観にいらっしゃる方へのメッセージを。

武市 今回、僕らもあまりやったことのないものをやっている感覚ですので、お客さまにとっても、あまり観たことのないものが生まれるのではないかと思っています。ぜひ観にいらしてください。

永澤 主役をやらせていただきます。そしてずっと舞台上にいると思いますので、僕をずっと観ていてください(笑)。観てもらえるようにがんばります。

加納 原作の雪女は男の子が真っ裸で鬘をかぶって出てくるんです。その感じをどう表現しようかと考えたら、ふっと「鷺娘」が浮かんだんです。その後に映画の『国宝』を観たら、まるで「鷺娘」がテーマみたいな作品で、よし僕も「鷺娘」をがんばろうと思っています。

武市佳久・加納幸和・永澤 洋

(プロフィール)
かのうゆきかず○兵庫県出身。日本大学藝術学部卒業。1987年、『ザ・隅田川』にて「花組芝居」を旗揚げ。かぶきの復権を目標にした男性だけの劇団として活動を開始。小劇場ブームの終焉期に登場した個性派劇団として注目を集める。今年創立38周年を迎えた劇団の座長として、脚本・演出を手掛け、自らも女形で出演。西瓜糖『ご馳走』、花組芝居『毛皮のマリー』で、2019年前期の読売演劇賞 演出家賞にノミネート。座外への客演・演出・脚本提供や、映像にも進出。女形指導、母校の日藝・カルチャースクールでの講師、NHK歌舞伎生中継の解説も務めるなど、多方面で活躍。最近の主な舞台に、『ドレッサー』、ミュージカル『刀剣乱舞』髭切膝丸双騎出陣、こまつ座『連鎖街のひとびと』、演劇調異譚「xxxHOLiC」 -續・再-(以上、出演)西瓜糖『いちご』、博多座『新生!熱血ブラバン少女。』(以上、演出)花組芝居『鹿鳴館』(演出、出演)、結城座『荒御霊新田神徳』(脚本、演出、出演) など。

ながさわひろし○宮城県出身。国際基督教大学中退、新国立劇場演劇研修所第8期生修了。2015年より(株)スーパーエキセントリックシアター映画放送部所属。17年、花組芝居30周年BOYとして『いろは四谷怪談』『黒蜥蜴』に出演。その後研修生として参加し、18年『婦系図』を経て、正座員として花組芝居に入座。入座後初の『天守物語』では、新人公演で主役の一人、富姫を演じた。その後、『義経千本桜』の静御前役、『地獄變』露艸役、『盟三五大切』小万役、『仮名手本忠臣蔵』お軽役など主に女形を担う。最近の外部舞台は、CCCreationPresents舞台『桜姫東文章』、日本の劇団『第一七捕虜収容所』、ホリプロステージ『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』など。

たけいちよしひさ○徳島県出身。玉川大学芸術学部卒業後、小劇場に客演。2017年に花組芝居30周年BOYとして『いろは四谷怪談』『黒蜥蜴』に出演。18年『婦系図』を経て正座員として入座。入座後初の『天守物語』では新人公演で主役の1人、姫川図書之助を演じた。『地獄變』では初の女形に挑戦、23年の『泉鏡花の夜叉ケ池』では百合を演じた。最近の外部舞台は、『新生!熱血ブラバン少女。』、劇団ZERO-ICH
『隧道』、わ芝居 ~その参『サヨウナラバ』、あやめ十八番 音楽劇『金鶏 二番花』など。

【公演情報】
鏡花歌舞伎『陽炎座』
原作:泉鏡花
脚本・演出:加納幸和 出演:加納幸和 原川浩明 山下禎啓 桂 憲一 北沢 洋 横道 毅 磯村智彦 小林大介 丸川敬之 押田健史 永澤 洋 武市佳久 /神田友博/【花組男子(客演)】黒澤風太 髙橋 凜(TEAM LRINE) 義太夫:浄瑠璃/竹本京之助 三味線/鶴澤津賀寿 長唄:唄(日替り)/杵屋勝眞規 安岡麻里子 三味線/杵屋邦寿 松永忠史朗 囃子:打物/梅屋 巴 望月太左幹 笛/鳳聲千晴

●11/11〜16◎博品館劇場
〈料金/全席指定・税込〉一般:7,000円 U-25:3,000円[25歳以下、要身分証提示]O-70:4,500円[70歳以上、要身分証提示] 高校生以下:1,000円[要身分証提示]障がい者割引:6,300円[ご本人様と介助者1 名まで同額、要障害者手帳等提示]
〈チケット取扱い〉各プレイガイド
花組芝居 https://hanagumi.ne.jp  03-3709-9430
博品館1F TICKET PARK  03-3571-1003
〈公式サイト〉https://hanagumi.ne.jp/stage-2511/

  
【構成・文/榊原和子 撮影/中村嘉昭】

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