
矢田悠祐、山本一慶らが出演する楽劇『フィガロ』が、1月8日~18日まで、東京芸術劇場 シアターウエストにて上演中だ。 その開幕レポートと舞台写真が届いた。
本作は、オペラの原作となったボーマルシェの戯曲「フィガロの結婚」と「セビリアの理髪師」をもとに、荻田浩一による上演台本・演出で、モーツァルト、そしてロッシーニによるオペラの名曲を織り交ぜた作品となる。
主演のフィガロを演じるのは矢田悠祐、フィガロとの応酬を繰り広げるアルマヴィーヴァ伯爵は山本一慶が演じる。
そしてフィガロの婚約者・スザンナ役に皆本麻帆、伯爵夫人ロジーナ役に朝月希和、伯爵家の小姓・ケルビーノ役に谷山知宏、ロジーナの音楽教師ドン・バジリオ役に柴原直樹、フィガロに恨みを持つドン・バルトロ役には駒田 一、そして伯爵家の女執事マルチェリーナ役は霧矢大夢が務める。新春に相応しい華やかな顔ぶれとなり、どのような作品に仕上がるか、期待が高まる。

このたび初日に先立ち、舞台挨拶と公開ゲネプロが開催された。舞台挨拶には、矢田、山本、皆本、朝月、谷山、柴原、駒田、霧矢が登壇。初日を目前に控え矢田は「荻田さんの作品に出演させていただくのは8作目ぐらいになるかと思いますが、今回はコメディです。これまでにないポップな作品ですし、フィガロも今まであまりやったことがないタイプの役ですから、個人的にとても楽しみです」と意気込みを語った。
物語の見どころを問われると矢田は「皆本さんが演じるスザンナとの浮かれ具合ですね(笑)。以前、麻帆ちゃんとは荻田さんが演出された『ハムレット』で共演していますが、その時はハムレットとオフィーリア役でした。今回は真逆のキャラクターですし幸せになれるか見守ってほしいです」と笑顔をみせた。となりで矢田の話をニコニコ聞いている皆本の姿も印象的だった。
和気あいあいとした中、舞台挨拶の最後はキャストを代表して矢田が「2026年の幕開けに見ていただく作品としてすごく良いものになっています。オペラが原作ですが、肩の力を抜いて観られる作品ですので、気を張らずに気楽に観てください」と締めた。
ここからはゲネプロの模様をレポートしよう。

アルマヴィーヴァ伯爵のもとで使用人として働くフィガロと伯爵夫人ロジーナの小間使いとして働くスザンナは、結婚を約束している仲良しカップル。貧しいながらも幸せを謳歌していたが、浮気者として知られているアルマヴィーヴァ伯爵が、スザンナに色目を使うようになったことに気をもんでいる。
結婚後は屋敷に住むように言われている2人だが、穏やかな新婚生活を送りたいと考え、アルマヴィーヴァ伯爵家の女中頭・マルチェリーナから借金をして、家を借りることになる。こうした結婚に向けた一連の流れが、周囲を巻き込んだドタバタ劇になっていく…。

さまざまな人物が入り乱れ、次から次へと新たな出来事が起きるが、実はフィガロとスザンナのある1日を描いた作品だ。途中、アルマヴィーヴァ伯爵とロジーナが結婚した馴れ初めが回想シーンで登場するが、基本的に結婚に向けて濃密な1日を送るフィガロたちの様子を描いている。

フィガロを演じる矢田は、明るくはつらつとした青年で、セビリアで理髪師として働いていたものの、さまざまな仕事を経験してきた「なんでも屋」だ。幼い頃に両親からはぐれて以来、身元が分からない浮浪児として苦労してきたバックグラウンドがあるが、それを感じさせない天性の明るさがある。矢田はダークな部分を抱えた人物を演じると魅力を発揮する役者だと思っていたが、今回のフィガロで新たな魅力を見せつけてくれた。躍動感のある元気な役がここまで似合うとは…と驚く。

明るく能天気なプレイボーイ・アルマヴィーヴァ伯爵を演じる山本は、水を得た魚のように生き生きとしている。山本は数々のコメディ作品で実績があるだけに、細かい動き一つで笑いがとれてしまうが、スザンナに横恋慕する自分を棚に上げ、妻のロジーナが浮気をしているのでは…とあたふたする姿を面白おかしく演じている。プライベートでも仲の良い矢田とのやり取りも多く、さすがのコンビネーションをみせている。

スザンナを演じる皆本は、コロコロ変わる表情がかわいらしい。フィガロが好きでたまらず、それを隠そうとしないキュートさがある一方で、アルマヴィーヴァ伯爵に言い寄られて心の底から迷惑そうな表情をする。そのギャップが魅力的で、かつ芯の強い女性を思わせる。ステージをところ狭しと動きまわるパワーにも注目だ。

伯爵夫人ロジーナを演じる朝月は、可憐なドレスに身を包みながらもアルマヴィーヴァ伯爵の心が自分に向いていないことを嘆き悲しむ。普通であれば、夫の心が離れてしまうと卑屈になってしまうが、ロジーナはそういうところがない。誰に対しても優しく接する女神のような存在だ。時折夫の浮気癖を思い出し怒るところがあるものの、クスッと笑ってしまうかわいらしさがある。長い手を大きく広げながら演じる朝月にコメディエンヌの素質を見た。さらに独唱では透明感溢れる美しい歌声と、情感豊かな表現力が心に深く響く。

ケルビーノ役の谷山は、独特の声が印象的だ。舞台挨拶でマルチェリーナ役の霧矢が「私が今まで会ったことがないタイプの俳優さん」と絶賛していたとおり、舞台に登場すると強烈な存在感がある。彼が歌う曲はオペラ『フィガロの結婚』でもよく知られているナンバーからのバリエーションである点にも注目したい。

ロジーナの音楽教師ドン・バジリオ役の柴原は、お金を渡されたら自分の考えをコロッと変えてしまうお調子者。スザンナの従兄弟として、結婚を邪魔する態度を取る。登場人物の中では少しだけ嫌われ者の要素がある人物ではあるが、なぜか憎めない。それは柴原の柔らかい雰囲気がなせるわざだろう。のびやかで爽やかな歌声に今後の活躍を期待してしまう。

そしてドン・バルトロ役の駒田は、さすがの迫力だ。かつてロジーナとの結婚をフィガロに阻止され恨みに思っている彼は、復讐をするべくフィガロの前に姿を現すが、登場から面白い。エキセントリックな役なので、終始顔を真っ赤にしながらの熱演から目が離せない。稽古場で出し切ったという体当たりのバルトロはぜひ劇場で。

マルチェリーナ役の霧矢は、しっとりとした大人の女性と思いきや、結婚に浮かれるスザンナにやきもちを焼くなど、女性にありがちな2面性を高い演技力で見せた。宝塚時代から演技に定評のある彼女だが、霧矢が演じるマルチェリーナの説得力のあること! 終盤驚きの事実が判明するが、その際の変わり身の早さがとても上手い。さらにバルトロとの大人のカップル感も見どころ。

今作で特筆したいのは、音楽監督・編曲・歌唱指導の福井小百合が手掛けた楽曲の数々だ。
荻田の意向もあり、福井はオペラをそのまま演奏するのではなくオリジナルのメロディーを加えた個性的な楽曲に仕上げた。一つひとつが素晴らしく、作品を美しく彩っている。
中でも矢田が歌う楽曲『セビリアの理髪師』より「町の何でも屋」からのバリエーションは、複雑なリズムで非常に難易度が高い。舞台を動き回りながら歌いこなす矢田に驚きを隠せないし、かなり聴き応えがあるので期待してほしい。
「音楽劇なので、ミュージカルほどは歌っていない」と演出を手掛けた荻田は語っているが、登場人物それぞれが歌う楽曲はどれも印象に残る名曲ばかりだ。福井のピアノ、佐藤誠のギターの生演奏で繰り広げられる舞台は、とても贅沢な空間。ぜひ音楽にも集中して耳を傾けてほしい。

【公演情報】
楽劇『フィガロ』 ~「フィガロの結婚」より~
上演台本・演出:荻田浩一
音楽監督・編曲・歌唱指導:福井小百合
出演:
フィガロ:矢田悠祐
アルマヴィーヴァ伯爵:山本一慶
スザンナ:皆本麻帆
ロジーナ:朝月希和
ケルビーノ:谷山知宏
ドン・バジリオ:柴原直樹
ドン・バルトロ:駒田一
マルチェリーナ:霧矢大夢
●1/8〜18◎東京芸術劇場 シアターウエスト
〈公式サイト〉https://artistjapan.co.jp/figaro2026/
〈公式X〉@aj_figaro2026
【カメラ:山副圭吾(C)2026.楽劇『フィガロ』】



