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情報☆キック
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熊林弘高・演出による注目作『インヘリタンス-継承-』に出演! 麻実れいインタビュー 

 
気鋭の演出家として注目を集める熊林弘高の演出による『インヘリタンス─継承─』が、2024年2月、東京芸術劇場プレイハウスにて上演される。2010年に演出した『おそるべき親たち』以降、東京芸術劇場と数々のクリエイションを重ねて来た熊林が今回挑むのは、ブロードウェイとウエストエンドで上演された話題作で、ニューヨークを舞台にゲイの人々の姿が描かれている。

自身が納得した作品を1~2年に1本選び抜いて演出する、寡作の演出家としても知られる熊林が上演を切望したという今作は前後篇6時間半の大作となっており、出演者も実力派が揃った。後篇のみの出演ではあるが、「田舎の家」でHIVに感染した男たちの最期を看取る女性・マーガレットという重要な役で出演する麻実れいに、今作への思いを聞いた。

演出家と俳優を超えた関係性で取り組めた

──今作の演出家、熊林さんにはどのような印象をお持ちですか。

演出家としての熊林さんとは、2010年の『おそるべき親たち』で初めてご一緒しました。ただ、熊林さんはTPTのメンバーでしたから、『おそるべき親たち』より以前に、私がTPTに出演したときにスタッフとして現場にいらしたんです。それで彼が『おそるべき親たち』の演出をするときに呼んでいただいたんです。その初演はTPT制作で、出演者も佐藤オリエさんや中嶋しゅうさんといったTPTの仲間が多くて、和気あいあいとした空気が流れている稽古場でしたが、一つの作品に向かういい緊張感はありましたね。その後、2014年の再演を経て、2020年に日生劇場で上演した『班女』で熊林さんとまたご一緒しました。『班女』は本当に面白かったです。彼のことは仲間だと思っているので、演出家と俳優という間柄ではなくて、好きなようにやらせていただいて、でも決してなあなあにはならず、2人の間の梁が伸びたり縮んだりしながらバランスを取っているような、そういう関係性を築きながら作品に取り組むことができました。

──『班女』の公演前に行われた合同取材会で、麻実さんが「芝居をしているとすごく大変だけど、なんて幸せだろう、なんて演劇って素敵なんだろう、という幸福感でいっぱいになる」とおっしゃった言葉が非常に印象的でした。

稽古場で短時間で作り上げて、日生劇場の舞台に立たせていただいたとき、舞台空間の中でフッと感じたのは、「なんて幸せだろう」ということでした。私は元々、別に役者になりたくてなったわけではないし、なんだか流れに乗って、わけもわからずここまで来てしまったという感じなんです。役者は、一つの作品の中に入って自分を痛めつけて役を作っていくので、「あぁ、嫌だ」と思うけれど、同時に「あぁ、素敵だな」とも思うんです。実生活ではできないけれども、役者だったら他の人になれるし、時代もどこでも飛べるじゃないですか。それは面白いし、怖いし、嬉しいし、楽しいし、幸せだな、と思います。

ジャンルは問わずやりたいものをやる

──麻実さんは、ミュージカル、音楽劇、ストレートプレイと幅広いジャンルの舞台に出演されてきましたが、出演する作品を決めるときに、ジャンルのバランスはお考えになるものなのでしょうか。

考えないです。私の中にはジャンルの垣根がなくて、「やりたいわ」と思ったら手を伸ばすけど、やりたくないものはやらない(笑)。私は、自分の全部を注ぎ込まないとできないタイプなので、やりたくない作品だと没頭できないんです。

──今回、この『インヘリタンス─継承─』に出演しようと思われた決め手は何だったのでしょうか。

前後篇で6時間半の大作なので、まずは自分が出演するところとその前後を読んでみたら、マーガレットと息子マイケルの母子の関係性、そして人間として一番大切な尊厳がしっかりと描かれていました。自分の関係のあるところだけ取り出してみても非常に深いものがある作品なので、私でよければ、とお受けしました。

──麻実さんがこれまで舞台で演じてきた役は、強さや逞しさを感じるものが多い印象があります。

やはり宝塚時代に男役をやっていたからというのもあるのでしょうね。宝塚を退団した後は男に近いような幹の太い女性を演じることも多かったですし、男役を経て今に至ったことがよかったのかな、とも思います。私が『班女』で演じた実子は、女だけど男性的な面も持っている役でしたが、私自身が自分の中で性差を超えて自由に行き来ができる感覚を持っているので、自分自身のことを「女」と思っていないし、じゃあ「男」かというとそれも思ってないし、それが自分にとっての普通で、それこそ先ほどのジャンルの話ではないですけど、いろいろな意味で「性別の差」という垣根が自分の中にはないんです。

──今回の作品ですが、共演者の方たちは、若手の方からベテラン方まで幅広いメンバーです。

ビジュアル撮影のときに何人かお会いできましたが、「こんなに若い男の子って美しいんだ」と思うような人ばかりでした。テーマがどうしても厳しい現実を描いているので、その中でキャストの人たちの美しさが空気をちょっと柔らかくしてくれて、ひたすらに現実を見せられるよりも、こんな美しい人がこうなっていくのか、という感じでお客様も舞台に入りやすいんじゃないかな、と思いました。「よくこれだけ綺麗で素敵な人たちを見つけたわね」と言ったら、熊林さんは笑っていましたけどね(笑)。

──やはりそこは、熊林さんの美的センスの高さが表れていますね。

キャストもそうですしスタッフも、最高の人たちが「やるよ」と言って今作に参加してくださっていて、それは熊林さんの力だなと思います。私は熊林さんを尊敬しているので、今回もご一緒できて幸せです。

■PROFILE■
あさみれい○東京都出身。1970年、宝塚歌劇団入団。雪組男役トップスターとして活躍し、85年に退団。以降、ミュージカル、古典、翻訳劇、など多くの話題作や海外公演にも多数出演し活躍している。06年に紫綬褒章、20年に旭日小綬章を受章。2023年3月1日より日本芸術院会員となる。その他、数多くの演劇賞を受賞。最近の主な出演舞台は、ミュージカル『アナスタシア』『精霊の守り人』『バイオーム』『ガラスの動物園』『森 フォレ』『ドクター・ブルー~いのちの距離~』『MISHIMA 班女』『炎 アンサンディ』など。

公演情報】


『インヘリタンス-継承-』
作:マシュー・ロペス
演出:熊林弘高
出演:福士誠治 田中俊介 新原泰佑 
柾木玲弥 百瀬 朔 野村祐希 佐藤峻輔 
久具巨林 山本直寛 山森大輔 岩瀬 亮
篠井英介 山路和弘 麻実れい(後篇のみ)
●2024/2/11~24◎東京芸術劇場 プレイハウス
●2024/3/2◎大阪 森ノ宮ピロティホール
●2024/3/9◎J:COM 北九州芸術劇場 中劇場 
〈お問い合わせ〉東京芸術劇場ボックスオフィス 0570-010-296 (休館日を除く 10:00~19:00)
〈公式サイト〉https://www.inheritance-stage.jp

 
【取材・文/久田絢子 撮影/中村嘉昭】

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