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情報☆キック
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初演よりさらに熱く、さらに響く舞台に!『扉座版 二代目はクリスチャン』 横内謙介・伴美奈子・砂田桃子 インタビュー

劇団扉座が石田ひかりの客演で2021年に上演した『扉座版 二代目はクリスチャン』が、2年ぶりに再演され、本日11月26日に千葉市美浜文化ホール メインホールで開幕した。11月28日~12月3日には、 紀伊國屋ホールにて東京公演を行う。

つかこうへいの小説をもとにした原作は1985年に雑誌「野生時代」に発表され、映画版ではシスター姿のヒロインがドスを構える姿が衝撃を呼んだ。
反社会勢力として人権を奪われ、もはや絶滅寸前となったヤクザの世界へ、修道女でありながら極道の妻となった今日子が20年の服役を超えて帰って来る。そこに何故か木村伝兵衛まで登場して……という奇想天外な展開で現実の不条理に斬り込む、つか作品ならではの面白さが詰まった作品だ。
その公演を前に、脚本・演出の横内謙介、今回の今日子役の伴美奈子、そして扉座オリジナルキャラの花柳助桃子役を演じる砂田桃子が語り合った「えんぶ12月号」のインタビューを別バージョンの写真とともにご紹介する。

横内謙介 伴美奈子 砂田桃子

つか芝居の女性は、凜として強くてしなやか 

──今回は主人公の今日子役を伴美奈子さんが演じます。

横内 劇団が40周年を過ぎたことで、そろそろベテランの劇団員たちも自分の代表作と言えるものがないといけないなと考えて、今回、いわば「伴美奈子スペシャル」としてこの作品をフィーチャーしました。若い頃からたくさんの脇役を演じて、化ける力は絶大なので、今日子役にもそれを生かしてくれるんじゃないかと。

──伴さんは確かな演技力と華と色気のある女優さんで、今日子役にはぴったりですね。この話を聞いていかがでした?

 つかさんのお芝居の女性は、凜として強くてしなやかで、でも何より華がないといけないので、私に担えるのだろうかと心配だったのですが、今、華があると言っていただいてちょっと安心しました(笑)。劇団ではいつも「華がない」と言われているので。

横内 力はあるんだからもう少し華があれば、とかね(笑)。

──今回は見得を切ったり押し出しも必要ですね

 『つか版・忠臣蔵』(14年)にも出ていたので、面白がってやった経験はあるのですが、マジでやるのは初めてで、照れずにやりたいです。初演の石田(ひかり)さんの今日子は、組員への母性や引っ張っていく力が素晴らしかったので、私もそこは少しでも近づけるようにがんばります。

──この作品にはもう1人、カッコいい女性が出て来ます。砂田さんが演じる花柳助桃子で、扉座版のオリジナルキャラですね。 

横内 初演でとても評判がよくて砂田の当たり役になりました。本来はいなくても物語が成立する役で、あまり深いものを背負わないので気楽にできたのがよかったんでしょうね。砂田はよくも悪くも真面目で、真ん中を背負うと緊張するタイプなので。

砂田 なんでもありの役なのがよかったです。やんごとなき家柄の女性ですが、伝兵衛の助手のような役割をしたり、ヤクザに所作の指導をしたり、いろいろな面を出せる役だったので楽しく演じられました。

──式事の所作などがとても綺麗で、さすが時代劇も多い扉座の女優さんだなと。

砂田 いえ、そこは花柳輔蔵先生にきちんと所作指導していただきました。日本舞踊を踊るシーンもあって、それも一から教えていただきました。着物を着ることだけは劇団で慣れていたのでなんとかなりました。

横内 そこはうちの劇団力というか、伴も日本舞踊をずっとやっているし、若手たちもスーパー歌舞伎に出させてもらったりするので、着物はみんな着慣れているんです。

行き場のない人たちを掬い上げてきた

──この作品の内容ですが、伴さんは初演をご覧になったと思いますが?

 いろいろな場面で『熱海殺人事件』の台詞が出てくることに驚かされましたが、何よりも木村伝兵衛の死が衝撃的でした。今までも「昭和が終わった」という出来事はさまざまな局面でありましたが、伝兵衛さんが死んだというのは私の中でまさにそういう感覚でした。

横内 そもそも原作は、昭和のそれこそ戦後すぐにヤクザが進駐軍の防波堤になったところから始まっていて、権力がさんざん彼らを便利に使って、それが平和な時代になったからもうお前らは邪魔だと。つかさんはそれをヤクザ側からの視点で書いたわけです。そういう行き場のない人たちを、つかさんは作品の中で掬い上げてきた。だからこそ木村伝兵衛も、昭和の人間としてヤクザたちにシンパシーを持つわけですし、同じ昭和の遺物として滅んでいくんです。

──初演のときに横内さんは、つかさんが原作を書いた時代よりさらに生きにくい世の中になって、その歪みを象徴しているのがヤクザという存在だと。

横内 上演のために資料を調べたり、映画やドキュメンタリーを観て、もちろん反社なので裁かれるべきところは裁かれるべきですが、同情すべきところも多々あって。もともとはこの社会が生んでしまった存在なわけですから。そういう意味では、初演からまた2年経った今は、より響くんじゃないかと。というのは、昨日までとルールが違うとなったときの世の中の振れ方の凄まじさで。「これが正義」となったときに、それまでの恩も義理も捨てて一色に染まっていく様子は、いったいどこに筋を通してるやつがいるんだ?という状態で。それだけ世の中の変わり方が激しくて、しかも何かあると雪崩を打ってその対象を叩きのめしたりする。そんな世の中で自分の信念みたいなものを貫くには、もはや法律に抵触せずにはやれないということもあったりする。でも正義という言葉に絡め取られてしまわないためには、筋を通していくしかないので。

──この作品もいってみればコンプライアンスなどとは馴染みませんね。

横内 つかさんの芝居は差別語も多いし、そういう人たちを虐めるんですが、でもどこかでちゃんと花を持たせている。ただ、そこにユーモアとか知性がないと下品になってしまう。どんどん寛容でなくなっていく時代のなかで、つか作品が時代を超えて生き抜いていくためにも、作る側がそういう本質をきちんと伝えていかないといけないんです。

「燃える!泣ける!! キマる!!!」という言葉通りに 

──最後に改めてこの作品を観てくださる方へメッセージをいただけますか。

砂田 台本を読み直したとき、助桃子の台詞で、「くたばれ新型コロナウィルス!」という言葉が最初に出てくるんです。2021年は演劇界が本当に苦しい時期で、そのときに「これが演劇だ!」というこの作品で、思い切り笑って泣いていただけたのは本当によかったなと。でも今もコロナ禍は続いていますので、さらに熱く演劇のパワーを届けたいと思っています。

 今回からの参加ですが、セットもない舞台でジャージ姿の役者が全身で勝負するのがつか芝居なので、私も遠慮せずに前に出ていって、チラシにある「燃える! 泣ける!! キマる!!!」という言葉通りになるようにがんばります。ぜひ皆様にもつか芝居を体験していただきたいです。

横内 初演よりさらに熱くやろうと思っています。演劇人と演劇ファンでコロナ禍で落ち込んだ分を取り返しましょう! それからぜひ若い演劇ファンに観てほしいので、今回も「無謀ナイト」という学生さんが無料で観られる回があります。ぜひ皆さん観に来てください。

■PROFILE■

伴美奈子 横内謙介 砂田桃子

よこうちけんすけ○東京都出身。82年「善人会議」(現・扉座)を旗揚げ。外部でも作・演出家として活躍中。92年に岸田國士戯曲賞受賞。近年の扉座以外の作品は、スーパー歌舞伎II『ワンピース』(脚本・演出)、スーパー歌舞伎II『オグリ』(脚本)、パルコ・プロデュース『モダンボーイズ』(脚本)、坊っちゃん劇場『ジョンマイラブージョン万次郎と鉄の7年ー』(脚本)、歌舞伎『日蓮』(脚本・演出)、歌舞伎『新・三国志』(脚本・演出)、歌舞伎『新・水滸伝』(脚本・演出)、明治座『隠し砦の三悪人』(脚本)など。

ばんみなこ○神奈川県出身。桐朋学園卒業、俳優座養成所を経て、89年「善人会議」(現・扉座)入団。近年の劇団作品は、『ホテルカリフォルニア−私戯曲 県立厚木高校物語−』、『神遊―馬琴と崋山―』、『最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-』。外部出演は、パルコ・プロデュース『モダンボーイズ』、ブレイヴステップ『私の下町-母の写真』、座・高円寺『ほおずきの家』、劇団トローチ『熱く、沼る』。

すなたももこ○富山県出身。金沢大学工学部を卒業後、12年扉座研究所入所、14年扉座入団。近年の劇団作品は、『解体青茶婆』、『扉座版 二代目はクリスチャン−ALL YOU NEED IS PASSION−』、『ホテルカリフォルニア−私戯曲 県立厚木高校物語−』、『神遊―馬琴と崋山―』、『最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-』など。外部作品は東京夜光『BLACK OUT』、マコンドープロデュース『平山建設』、タカハ劇団『 ヒトラーを画家にする話』。

【公演情報】
幻冬舎Presents 劇団扉座第76回公演
『扉座版 二代目はクリスチャン―ALL YOU NEED IS PASSION 2023―』
原作:つかこうへい
脚本・演出:横内謙介
出演:岡森 諦  有馬自由 犬飼淳治 鈴木利典 新原武 松原海児 野田翔太 早川佳祐 三浦修平 紺崎真紀  小川 蓮 翁長志樹/伴美奈子 砂田桃子 大川亜耶
●11/28~12/3◎東京公演 紀伊國屋ホール
〈お問い合わせ〉劇団扉座 03-3221-0530 (平日12:00~17:00 土・日・祝休・公演中12:00~15:00 11/30休)
〈公式サイト〉https://tobiraza.co.jp/second-christian-202311

【構成・文:宮田華子 撮影:友澤綾乃】

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