愛され続ける傑作の令和版、遂に登場!舞台『西遊記』上演中!

日本テレビ開局70周年記念舞台『西遊記』東京公演が日本橋浜町の明治座で上演中だ(28日まで)。

『西遊記』は、16世紀“明”の時代に書かれた中国の小説を基に1978年「日本テレビ開局25年記念番組」として制作された大人気ドラマ。孫悟空を中心に、個性溢れる三蔵法師一行が天竺(てんじく)を目指す波乱万丈の冒険譚が一世を風靡した。
今回の舞台は、「日本テレビ開局70年記念舞台」として新たな令和版『西遊記』の創作が実現したもの。2023年11月に大阪で開幕した舞台は福岡・名古屋公演を終え、満を持しての東京公演が華やかに繰り広げられている。

【物語】
花果山の石の卵から生まれた孫悟空(片岡愛之助)は、天上界で大暴れをして、玉帝(曽田陵介)の怒りを買ったばかりか、その乱暴ぶりに業を煮やした釈迦如来(藤原紀香・映像出演)に戒めとして、五行山に封じ込められてしまう。
それから五百年。三蔵法師(小池徹平)に助けられた悟空は、仏教の奥義を記した経典を求めて遥か天竺まで旅をする、三蔵法師の供をすることに。そこから高伯欽(曽田陵介・二役)、高翠蘭(柳美稀)兄妹と知り合ったことから奇妙な縁がつながって、猪八戒(戸次重幸)、沙悟浄(加藤和樹)、玉竜(村井良大)が次々と一行に加わり、長い、長い旅がはじまった。
道のりは妖怪の金角(藤本隆宏)、銀角(山口馬木也)兄弟に襲われるなどをはじめ、波乱万丈のなか、この世の楽園と呼ばれる「是空国」に到着した一行は、虎力大仙(小宮璃央)、鹿力大仙(押田岳)、羊力大仙(桜庭大翔)を従えた国王・牛魔王(松平健)、その妃の鉄扇公主(中山美穂)、王子の紅孩児(藤岡真威人)から盛大な歓迎を受ける。
かつて天上界で悟空と深い絆で結ばれていた牛魔王は再会を喜ぶが、この世に楽園などあるはずがないと、夢の国を疑問視していた青年・鎮元子(田村心)が不穏な動きを見せはじめ……

天上界、地上、妖怪、人間が入り乱れるファンタジー要素満載の長大なストーリーを、休憩込み約3時間半の舞台にまとめあげたマキノノゾミ脚本と、堤幸彦演出によるエンターテインメントは、『真田十勇士』『魔界転生』と続いてきた、ここにしかないスペクタクルをこの作品でも縦横無尽に展開している。それはLEDによる映像技術、フライング、特殊効果をフルに活用しつつも、例えば悟空が乗る一気に十万八千里の飛行が叶う觔斗雲(きんとうん)での移動を、舞台袖から人力で引っ張って見せたり、華麗な殺陣のなかで悟空の髪が風を受けてなびく様を、大活躍のアンサンブルのなかにピンポイントで風を送れるブロアーを武器に紛れて持っている者が混ざっていたりと、人の力を駆使した手法が様々に使われてもいる。

このバランス感覚がどこかほのぼのとしたぬくもりを作品に与える源になっていて、おそらくいまの技術なら、もっと精巧に、どんな仕掛けが行われたのかわからない、というイル―ジョンを舞台に生み出すことも可能だろうが、敢えてそれをせず、堂々とアナログ感を醸し出すことで、目の前で人が生み出す舞台芸術のライブ感が失われない。あくまでもメインとなるのは技術でなく俳優とスタッフが結集した人の力、という目線が清々しい。作品のキャラクターと役者本人すれすれの完全アドリブによる場面があるのも、お茶の間に愛された原点であるテレビシリーズへのオマージュを感じさせて微笑ましかった。

特にその様々な先端技術と、とことんアナログという両極の演出がしっくりきた大きな要因のひとつに、主演の孫悟空を歌舞伎俳優の片岡愛之助が演じていることがあげられる。近年歌舞伎自体もずいぶん新しい題材、手法を取り入れているものの、やはり歌舞伎表現の王道は、芝居のサポートとして役者に小道具を渡したり、蝶々を飛ばしたりなど堂々と舞台の真ん中で活躍しつつ、顔まで隠した真っ黒な衣装の黒衣は「見えない」という約束ごとのなかで、舞台も観客もその謂わば大きな嘘を共有していることに象徴される、フィクションを極めた果てに生まれるリアルを求めた表現にある。その世界で活躍している愛之助とこの『孫悟空』の目指すところの相性が非常に良く、殺陣のいちいちで切る見栄や、宙乗り(フライング)や、前述の觔斗雲でひとっ飛びの表現を、華麗なケレンに変換してくれる力になった。演じぶりもおおらかで、自分の感情に正直な悟空が、三蔵法師一行との旅で成長していく様がよく伝わる、愛すべき悟空を表出していた。

三蔵法師の小池徹平は、これまで登場人物のほとんどが妖怪なことから、人である三蔵法師の差異を明確にする意図だったのだろう女優が多く演じてきた役柄に、小池が扮していること自体に「令和の西遊記」の意図が感じられるキャスティングに応えて、ひたすら修行に熱心だが非力で、はんなりとしているものの、心には熱いものを持っている新たな三蔵法師像を構築。悟空を戒める金冠として有名な金箍呪(きんこじゅ)を扱う様にもどこか可笑しみがあり、直面する事態に対して真摯に対応しつつ、突如沸点を越える意外性でも魅了してくれた。

猪八戒の戸次重幸は、食べることも綺麗な女人も大好きというこの作品のなかではそこまで強調されてはいない猪八戒の個性を、きちんと根底に感じさせながら磊落に舞台を闊歩しているのが、戸次の芝居力を感じさせる。とことん突き抜けた演技も楽々と披露できる人が、終始鷹揚な雰囲気を醸し出し、ことに当たって大騒ぎしたかと思うと、腹を決めて殺陣、また殺陣を果敢にこなす、演技表現の幅広さと身体能力の高さを共に披露して高い存在感を放った。

沙悟浄の加藤和樹は、役柄自体の個性がこれも「令和の西遊記」を象徴していると感じさせるし、俳優・加藤和樹のキャリアのなかでもあまり当たっていない設定ではないか?と感じさせるが、力みなくナチュラルに演じただけでなく、何よりもその個性で笑いをとることをいっさいしていないのが、非常にクレバーで好感が持てる。与えられたキャラクターに対して常に真摯な加藤ならではの沙悟浄になっていて、胸のすく殺陣では常の美丈夫ぶりも発揮して痛快だった。

白馬で竜の化身でもある玉竜の村井良大は、衣装と言っていいのだろうか?と若干惑うほどストレートな白馬の装束を身にまとって、おそらくかなり動きにくいのでは……と想像されることをものともせず、舞台を駈ける姿に心和む。もちろん場面によって多彩に変化するが、基本の表情が満面の笑みなのも玉竜のキャラクターをよく表していて、「乗らせてよ」「いやいや壊れるから」といった謂わばぶっちゃけ系アドリブ会話も、村井から発せられるとどこか品が残り、刹那的にならないのに感心した。

こうしたそれぞれが看板を張れる主演クラスの面々で三蔵法師一行が結成されているのもなんとも贅沢だが、その他のメンバーも非常に贅沢で、次第に愛に目覚めてゆく大富豪や、幕末維新の立役者などの役柄を立派に造形する藤本隆宏と、新選組で一、二を争う剣豪や、独占欲の強い富裕層の夫などエッジの効いたキャラクターを鋭く表現する山口馬木也が、頭の回転は決して早くない妖怪・金角と銀角を体当たりで演じているのも捧腹絶倒。
如何にも高慢ちきな天界の玉帝と、現状認識力に長けた高伯欽を演じ分けた曽田陵介、これも令和の香りが強い、欲望に忠実な高翠蘭の柳美稀の直截な物言いが笑いどころ。兄妹に大きく関係してくる鎮元子の田村心の、視線を集める求心力の高さには目を瞠るものがあって、役柄のインパクトを増大させる効果をあげていた。

虎力大仙の小宮璃央)、鹿力大仙の押田岳、羊力大仙の桜庭大翔の三人組もそれぞれ個性を発揮。休憩半ばからは彼らによる舞台でのフリートークも展開されているので、少し早めに客席に戻ることもお勧めしたい。

そんな舞台の贅沢感を極めているのが牛魔王に扮した松平健。幕開きすぐに非常に意外な形で登場してきて、悟空と義兄弟の関係になるが、繰り広げる殺陣の迫力は言うまでもなく、「是空国」の王として登場する後半の展開は、争いのない国を作るという理想の難しさと、尚愛することの大切さという、作品が持つ大きなテーマを双肩に担い、何度も場を浚う大活躍を見せて、この役柄に松平が求められたことの答えを見る思いだった。

その松平に対峙する妃・鉄扇公主の中山美穂は、映像を中心に歌手として、俳優として大きなキャリアを積み重ねてきた人で、多彩なキャスティングが組まれた作品を象徴する一人。舞台で松平と同等の格が要求される役柄は大きな挑戦だったと思うが、松平の大舞台を掌握する芝居に呼応した表現に果敢に応え、引き出されるものも多くあったのだろう。二人が互いの本音を吐露するシーンの緊迫感が特に印象的で、おおいに気を吐いている。

二人の息子である王子・紅孩児の藤岡真威人は今後の活躍が期待されているホープの一人で、今回はとことん両親を尊敬し、愛する心根の優しい王子を全身で体現。「是空国」国歌斉唱場面での爽やかな歌とダンスも目を引いて、何よりこれだけのキャリアを持つキャストが揃った舞台、しかも長丁場の公演を経験したことは何より大きな財産になることだろう。また、映像出演で釈迦如来を演じる藤原紀香は、舞台いっぱいに広がるLEDのアップにたえる変わらぬチャーミングさを存分に披露。物語を進めるナレーションを、講釈師の神田伯山が務めているのも、作品のスケール感をあげる効果になっていた。

そんなあらゆる要素が詰まった舞台は、前述した通りその日、その日で自由度の高い場面も数々あり、舞台と客席の一期一会で、全く違うその日だけの完成度を見せることだろう。是非そのスベクタルでアナログな破天荒な魅力を堪能して欲しい。

また、初日を前にした囲み会見にはキャストを代表して片岡愛之助、小池徹平、戸次重幸、加藤和樹、村井良大、藤岡真威人、中山美穂、松平健と、演出の堤幸彦が登壇した。

片岡愛之助

まず孫悟空の片岡愛之助が、元旦に発生した能登半島地震の折には名古屋公演のカーテンコール中だった、と明かしながら「お正月から色々なことがありました」とまず様々な出来事で被災された方たちへ思いを馳せつつ「私たちにできることはお芝居でございます。いつも以上に精いっぱいお芝居を頑張って皆様に元気になっていただく。私たちには本当にそれしかできないので全力で務めさせていただきたいと思います」との挨拶ののち「日替わりネタ、ご当地ネタも多い公演なので、是非二度、三度足をお運びください」と力を込めた。

小池徹平

そこから登壇者ひとりづつが挨拶し、三蔵法師の小池鉄平は「年が明けていよいよ東京に帰ってきたなという感じですが、あと35公演、愛之助さんがおっしゃった通りお客様に笑顔を届けるという気持ちを改めて大事にして、色々な仕掛けが散りばめられた作品を東京の皆さんにもお見せできる嬉しさと共に、最後まで頑張りたいと思います」。

戸次重幸

猪八戒役の戸次重幸は「我々舞台役者は大千秋楽のことを天竺に例えて『天竺はまだ遠いね』などと言いますが、今回はしっかりと明治座の天竺までたどり着けるように、毎公演コンディションを整えて臨みたいと思っています」。

加藤和樹

沙悟浄役の加藤和樹は「ようやく半分ということで、ここからが本当の戦いだと思っています。我々役者もそうですが、スタッフさんは本当に休んでいないので、とにかく怪我には気をつけて、これまで以上にグッと団結して、この最高に素晴らしく、楽しく、笑顔になれる作品を1人でも多くの方に届けていきたいと思っています」。

村井良大

玉竜を演じる村井良大は「今年は辰年ということで私が演じる玉龍は竜の役、しかも自分も辰年の年男ということで、この役に出会えたことに運命を感じております。まあとはいえ、ご覧になっておわかりの通り、格好は馬なんです、尻尾も動きます」と装束の全貌を見せて場を和ませた。

藤岡真威人

是空国の王子・紅孩児役の藤岡真威人は「全75公演のうち大きな怪我無く、病気もなく無事にここまで走り抜けられたこと、本当に奇跡だと思っておりす。僕は座組で一番若く二十歳になったのですが、皆様の熱量を身近で感じてすごいなと思っているので、僕も成人して一層頑張りたいです」と語り「是空国の国歌斉唱シーンが華やかで、勢ぞろいして歌って踊ります。稽古がはじまった当初は表情が固くなりがちでしたが、最近は本当に楽しく、心からの笑顔でバリバリ踊っているので楽しみにしていてください」と見どころも。

中山美穂

牛魔王の妃・鉄扇公主役の中山美穂は「すべてにおいて細かな演出がちりばめられていて、何度観ても楽しめる作品です。個人的には、松平さんと夫婦で対峙するという責任のある役を務めています。本当に気迫ある素晴らしいお芝居を見ながら、私もそれを受けてお芝居をしていくことを、とてもとても光栄だと思っています」。

松平健

その牛魔王役の松平健は「ここまで全国での公演で、芝居も練れて良い作品に仕上がっております。今までに観たことがない舞台機構が楽しめますので、1人でも多くの方にご覧いただきたい」と話した。

堤幸彦

演出の堤幸彦は「信じる道を進むという人間的なテーマと、妖怪の面白さが混じり合った物語です。演出面では、LEDを中心とした技術と、舞台を作る皆様の人間力、生身の人間の発するパワーの対決をお楽しみいただきたい」と演出が目指したものを解説してくれた。

最後に愛之助が「字幕が付けば必ず海外でも楽しんでいただける作品ですので、海外公演をしたいと思っています」との大きな抱負と共に「『西遊記』をご存じの方は、多くのオマージュに懐かしさを感じていただけると思いますし、『西遊記』をご存じない方には、笑いあり、涙あり、歌あり、ダンスあり、殺陣ありとすべてが詰まった舞台を、新しく楽しんでいただけると思います。良い意味で皆様の期待を裏切る作品になっていますので、ぜひ足をお運びください」と語り、明治座公演への期待を高めていた。

【公演情報】
日本テレビ開局70年記念舞台『西遊記』
脚本:マキノノゾミ
演出:堤幸彦
出演:片岡愛之助 小池徹平 戸次重幸 加藤和樹 村井良大 藤岡真威人 田村心 曽田陵介 小宮璃央 柳美稀 押田岳 桜庭大翔 山口馬木也 藤本隆宏 中山美穂 松平 健
●1/6~28◎明治座
〈料金〉S席(1階席・2階席) 15,000円 A席(3階席) 9,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666(10:00~17:00)
〈公式サイト〉https://saiyuki-ntv.jp/

【取材・文・撮影/橘涼香】

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!