【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第153回「小劇場での演劇」
dopeⒶdope step.9「バンピーラダーズ」もなんとか無事に終わり、4月中旬のブシプロ「BURAI3」へと準備を始めている粟根です。みなさま如何お過ごしでしょうか。まだまだ寒さの続く日々ですのでお気を付けてお過ごし下さいませ。
さて、その「バンピーラダーズ」はサンモールスタジオという小劇場での公演でした。「えんぶ」本誌の新春アンケートでも書いたのですが、今年の私は小劇場から中劇場、大劇場とキャパシティが順に大きくなっていく公演順でして、なんだか面白いコトになっております。毎年様々なサイズの劇場で公演をしておりますが、ここまで綺麗に順を追って大きくなるのも珍しいと思います。
サンモールスタジオのキャパシティは約110席。今回はスタッフスペースなどで削られて約90席でした。100席に満たない公演というのは決して珍しいものではなく、以前にゼータクチク「春宵・読ミビトツドイテ」で公演をした池袋・木星劇場はカフェでしたので40席ほどでした。
そもそも私が入団した頃の劇団☆新感線がホームとしていた扇町ミュージアムスクエアは180席ほど、初めての東京公演であったTHEATER/TOPSも150席ほどでしたから、元来の私は小劇場俳優なのです。
いや、別に小劇場がイヤだと言っている訳ではないのです。もちろん大劇場がイヤだという訳でもない。どっちも好きです。好き嫌いじゃなくて、劇場のサイズによって表現の仕方が変わってくるという話がしたいのですね。
同じ映像作品といえども映画やテレビ、YouTube、TikTokでは表現の仕方も撮影方法も異なるように、演劇の世界でも劇場のサイズによって様々な違いが発生します。むしろ物理的に空間を必要とする演劇の方がサイズ感による違いがハッキリしていると思います。
例えば声の響き方。小劇場ですからマイクは使いません。静かなシーンならばかなり小さな声でも客席に届きます。とはいえセリフは届けなければなりませんから滑舌も重要になります。生の声だからこそ気を使う必要もあるのです。
例えばちょっとした仕草。大劇場の場合は誰が喋っているのかを伝えるために動きを加える必要があります。相対的に人物が小さく見えてしまうので、大きめの動きを加えることで誰が誰に話しているのかを示さなければならないのです。しかし小劇場ならばちょっとした目線の動きなどでも細かな心情を伝えることができます。
例えば小道具の使い方。大劇場ならば小道具といえども少し大きめにしなければ見えにくかったりしますが、小劇場ならば小さいままでも伝わります。小道具を繊細に扱えば扱うほど細かなニュアンスを伝えることもできるのです。
例えば音の響き方。小劇場では生音が効果的に響きますから音の立て方にも気を使います。足音や衣裳の衣擦れの音など、演技の邪魔になりそうな音も巧く使えばインパクトのある効果音となります。
他にも色々とありますが、ことほど左様に小劇場ならではの表現というのは無限にありまして、だからこそ面白くもあり難しくもあるのです。もちろん大劇場ならではの面白さと難しさもあるわけですから、それがまた様々な劇場に立たせて頂く楽しさにも繋がっているのです。
舞台で演じるという一事に限定しても、劇場のサイズによってそれぞれに面白さと難しさがあるという事なのです。
また、劇場のサイズによって脚本も演出も変わってきます。dopeⒶdopeさんの作・演出家である広瀬格さんは小劇場ならではの表現に拘っていらっしゃる方で、小さくて客席と近い劇場ならではの脚本と演出を心がけていらっしゃいます。
繊細な心情変化やリアルな距離感など、息づかいまで伝わる小劇場の面白さを熟知しているからこその脚本と演出。ワンステージで見て頂けるお客様の数は少なくなりますが、小劇場ならではの作品というのはあるのです。
興行としてはキャパシティが大きい方が楽かもしれません。確かに大きな劇場でワンステージの客数が大きければそれだけ公演回数は少なくてすみますが、大劇場では伝わらない作品もあります。小さな劇場での濃密な劇空間でこそ面白さが発揮される作品もあるのです。
劇場のサイズに合った作品作り、あるいは作品の質による劇場選び。その辺りの見極めがクリエイターとしての矜持だったり得手不得手だったりもするのが面白い所です。
そんなこんなの劇場サイズ問題。私としては様々なサイズの劇場でやらせて頂いている現状が楽しくて仕方がないのです。人によってはこのサイズの劇場が得意だとか、あのサイズの劇場ではやりたくないとかあるとは思うのですが、私にしてみれば色々な劇場で楽しんで舞台に立てれば何の問題も無いのが嬉しいですねって話なのですよ。
本文とは関係ありませんが、以前から行ってみたかった駒沢給水塔。大正時代の建築です。
プロフィール
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み
【出演予定】
ブシプロ「BRAI3 -最終章-」
2024年4月17〜22日◎あうるすぽっと(池袋)
https://burai3.bushi51.com/