花組芝居『レッド・コメディ─赤姫祀り─』加納幸和・八代進一・丸川敬之 インタビュー

丸川敬之 加納幸和 八代進一
丸川敬之 加納幸和 八代進一
花組芝居が6月21日から30日まで、シアタートラムにて『レッド・コメディ─赤姫祀り─』を上演する。今回、花組芝居座長の加納幸和が脚本を依頼したのは、演劇集団「西瓜糖」の主宰として全作品の脚本を担当し、外部への書き下ろしも数多く手掛けるなど幅広い活躍をみせる秋之桜子で、加納は演出家としても出演者としてもこれまで何度も秋之作品に携わっている。花組芝居としては2014年の『夢邪想』以来となる、脚本・秋之桜子×演出・加納幸和のタッグによる本作はどのような公演になるのか。構成・演出・出演の加納と、出演者の八代進一、丸川敬之に話を聞いた。

昭和初期の文壇に女形が絡むストーリー

──本作はどういったところから立ち上がった企画なのでしょうか。

加納 本当は僕が還暦を迎えた2020年に、赤い衣裳を着る作品をやってみようかなと思って、小さな空間で赤姫(歌舞伎に登場するお姫様役のこと)が登場する古典作品をオムニバスみたいにやろうかな、というのが最初だったんです。鈴木忠志さんがかつて『夏芝居ホワイト・コメディ』というタイトルで、鶴屋南北原作の古典をオムニバス形式で上演されたことがあったと知って、それでタイトルを『レッド・コメディ』にしよう、と思っていたらコロナ禍になってしまい、企画が流れてしまったんです。そうこうしているうちに還暦も過ぎてしまったのですが、2024年に花組芝居で何か新しいことしたいな、となったときに「あ、あれをやってみよう」と思いました。

──脚本を秋之桜子さんに依頼しようと思われたのはなぜでしょうか。

加納 本公演なので、歌舞伎の場面がところどころに入ってくるドラマ仕立てで、赤姫の役を中心に女形の裏の部分とか闇の部分とかを表現できたら面白いんじゃないかと思って、秋之さんはそういうドロドロしたものをお書きになるのが得意ですからお願いしました。ただ、歌舞伎界のいわゆるバックステージものは『かぶき座の怪人』という作品でやったことがあったので、それとは違う形で作って欲しい、と注文を出したら、昭和初期の文壇に女形が絡んでくるような話を書いてくれて、これは面白いということで、僕が構成をいじったりしながら一緒に作って行ったら、何だかすごい作品になっちゃいました(笑)。

──そんな台本を読んだ感想はいかがでしたか。

丸川 確かにすごいことになっている作品です(笑)。以前秋之さんが花組に書いてくださった『夢邪想』ともまたちょっと違う感じで、僕はこういう感じの作品はそんなにやったことがないので、面白いなと思いながら読みました。

八代 最初にざっと読んだときに「これ、どうやって書いたんだろう?」とまずびっくりしました。今みたいに加納から話を聞いたり、稽古場で作る過程に入ったりすると、こうやって書かれたんだな、とロジックとしてはわかるんだけど、簡単にできるものではないし、今回も秋之桜子ワールド全開で、この世に二つとない戯曲ですよね(笑)。

秋之桜子作品といえば“ドロドロの情念”

──本作に取り組んでみて、改めて秋之作品はどんなところが魅力だと感じていますか。

丸川 僕の印象としては、「人間がどういうものか」ということを描くのがさすがだなと思います。人間のドロドロしたところや、各々がどういう思いでいるのかというところがしっかりと立ち上がってくるので、今回はそんな秋之作品をやる側として、ドロドロ感を自分でどういうふうに消化して思いを表現していくのか、まだ全然模索中ですが課題だなと思っています。

八代 秋之さんは昭和の初期とか大正とか、僕もとてもドラマチックな時代だと思うのですが、あのあたりの話がすごく好きなんだろうな、というのがまずありますね。秋之作品は“ドロドロの情念”みたいなものが強く印象に残ると思いますが、「恥」というか、「隠したいこと」みたいなものがテーマとしてあるから自然とドロドロとした情念が出てくるし、人間の色気とかエロスとかにも繋がっていくのかなと思います。

加納 僕が演出するときは、秋之さんが「演出でどうとでもしてくれるだろう」という書き方をするんですよ。でも、なんだか試されている感じがして「よし、どうにかしてやろう」と逆に燃えるんですよね。花組芝居に書いてもらうときはこちらから題材を提案するんですけど、秋之さんはそこからさらにもう一つ飛んで想定外のものを書いてくれるので、いい刺激になります。あと、今回はワンシチュエーションで淡々と会話する、というシーンが多いのですが、そういう芝居は花組でほとんどやったことがないので、役者たちは大変だろうなと思います。

丸川 (大きくうなずく)

──丸川さんが大きくうなずいていますが、やはり大変だと感じていますか。

丸川 日常会話みたいな会話劇の場合、あまりナチュラルにやりすぎても良くないのかなと思いますし、どのくらいのさじ加減で芝居をしたらいいのか悩んでいるところなんです。稽古中の動画を撮っているんですけど、後で見返したときに「声ちっちゃいな」とか「俺ってこんなに感情出てないのか」とか、へこむことが多くてお腹痛くなっちゃったりして(苦笑)。

八代 でも、まだみんな試している最中だよね、いろんなことを。どうやって会話を成立させていくか、ということがまず今の段階だと思いますし、いろいろやりながら探っていくのがお稽古の楽しいところなのかなと思います。

花組芝居としての経験があるからできる作品

──加納さんは女形の柊木葵という役で、赤姫の恰好でのご出演です。

加納 秋之さんの初稿だと、劇中劇と本編での演技っていうのが完全に分離しているというか、「芝居するよ」と宣言してから劇中劇が始まるというような段取りだったんです。でも、劇中劇が始まったんだかよくわからない状態の方がいいかな、と思って役の設定を少し変えさせてもらいました。役作りについては、僕は演出のときも出演のときも、この役は何歳だからどうだ、とかあまり役柄について考えないで入っていくタイプなんです。秋之さんも、以前台本で年齢を指定したら、役者が「その年齢になろう」という演技をしてしまっていて、それ以来台本には年齢を書かないようにしたとおっしゃっていて、すごく共感しました。年齢がいくつかというのは後でいいんですよ、まずセリフを言葉として発するということをやっていけばいいと思います。

──丸川さんは、乾という作家の役です。

丸川 ちょうど中堅どころの作家で、鳴かず飛ばずで酷評もされ、先輩にも後輩にもいい作家がいるからどうしたらいいか悩んでいる、という感じですね。そういう意味では、今の自分とすごく重なるというか、先輩にも後輩にもいい役者がいるし、うまいことやっていきたいけど、これからどうしよう、とちょうど揺れている感じで。

八代 ドンピシャだな(笑)。

丸川 ドンピシャですね(笑)。だから、すごいその気持ちわかる! という感じでした。

──八代さんは、西村という編集者の役です。

八代 どういう人なのか秋之さんに聞いてみたところ、西村は出版社には所属せず、フリーランスの編集として作家と出版社との間に立って原稿を売り込んで本を出してもらうという立場なんだそうです。だからある程度目も利かなきゃいけないし、プロデューサー的な役割として文学のことを作家以上に知っていなければいけないところもあるだろうし、とても面白い役だなと思いました。実は、配役がまだ決まっていない状態で台本を読んだ時点で「この役はやりたいな」と思ったんです。

丸川 僕もそうなんですよ。最初読んだときに、乾を「この役いいな」と思っていて。

八代 僕も読んだときに、乾の役は丸川だと思いました(笑)。

加納 今回、秋之さんはこの世界を表現するのに精一杯で、当て書きしなかったそうです。だから配役にものすごく悩みましたが、今の話を聞いていても、これでよかったような感じはしています。

──本作の見どころを教えてください。

加納 成り立ちの違う演劇のジャンルが一つの作品の中に混ぜこぜになっていて、それを花組がやる、というところですね。手前味噌ですけど、花組だからできるというか、歌舞伎寄りに作った作品も、会話劇も作ってきたという経験があるからできるものなので、本作は歌舞伎がよくわからない方も、前後に挟み込まれている会話劇の人間ドラマからの流れがあるので、わかりやすくなっているんじゃないかなと思います。時代背景に戦争がひたひたと迫りくるというのは現状とリンクするところもあると思いますし、劇場で現実とおさらばして楽しい時間を過ごしましょう、というだけじゃないものにしたいと思っています。

八代 このタイトルですから、見どころはそりゃもう「赤姫祀り」ですよ! タイトルを見た人たちから「赤姫がいっぱい出てくるんでしょう?」とわくわくした様子で聞かれるんです。出てきます! 赤姫がぞろぞろ出てくるところ、僕も見たいですもん(笑)。

丸川 コメディ、というタイトルがついていますが、果たしてコメディなのかどうか、というところですかね。皆さんがコメディに対して持っている印象と、本作のコメディとはどう違うのか。そこに注目してもらえると面白いと思います。

加納 あと、丸川敬之の魅力を見に来てください!

丸川 うわぁ、恥ずかしい(笑)!

加納 右往左往している丸川敬之が見られます、いろんな意味で(笑)。

丸川敬之 加納幸和 八代進一

【プロフィール】
かのうゆきかず○兵庫県出身。87年に花組芝居を旗揚げ、ほとんどの作品の脚本・演出を手掛け、劇団外の演出も多数。俳優、脚本提供、講師、解説など多方面で活躍中。西瓜糖『ご馳走』花組芝居『毛皮のマリー』で、2019年前期の読売演劇賞演出家賞にノミネート。劇団以外の近年の主な舞台は、『ドレッサー』、ミュージカル『刀剣乱舞』髭切膝丸双騎出陣、パルコ・プロデュース2022『桜文』、『鹿鳴館』、『演劇調異譚「xxxHOLiC」―續―』、結城座『荒御霊新田神徳』、こまつ座『連鎖街のひとびと』など。

やしろしんいち○新潟県出身。劇団公演では常に中心的配役を演じており、昆虫からセレブ、老人、インテリヤクザまで演じる幅の広さで客演も多数。近年の主な舞台は、ウォーキング・スタッフ プロデュース『三億円事件』、明治座『京の蛍火』、シアター・オルト『わが友ヒットラー』、『想稿・銀河鉄道の夜』、西瓜糖『刺繍』など。今年8月、西瓜糖『かえる』に出演予定。

まるかわたかゆき○広島県出身。2006年花組芝居に入座。高音の声を生かし歌も披露、ライブ活動も続けている。2013年、愛媛の坊ちゃん劇場で半年に渡り『げんない』に出演。2015年、NHK木曜時代劇『ぼんくら2』に、下っぴきの杢太郎役でレギュラー出演。近年の主な舞台は、舞台版「黒子のバスケ」、ミュージカル『刀剣乱舞』髭切膝丸双騎出陣、あやめ十八番『空蝉』、ホリプロステージ『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』など。

公演情報

花組芝居『レッド・コメディ─赤姫祀り─』
脚本:秋之桜子(西瓜糖)
構成・演出:加納幸和(花組芝居)
出演:加納幸和 山下禎啓 桂 憲一
八代進一  北沢 洋 横道 毅 秋葉陽司
磯村智彦 小林大介 丸川敬之  押田健史 
永澤 洋 武市佳久/
佐藤俊彦(花組男子)
●6/21~30◎シアタートラム
〈料金〉前売/一般7,000 円  U-25[25 歳以下]2,500 円 O-70 [70 歳以上]4,000 円 高校生以下1,000 円 当日は各 400 円増(全席指定・税込・未就学児童入場不可 ※各割引は要身分証提示) 
〈チケット取扱〉各プレイガイド
花組芝居 03-3709-9430   https://hanagumishibai.com
世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515(10:00~19:00)
世田谷パブリックシアターオンラインチケット(24 時間受付・要事前登録)
https://setagaya-pt.jp/
〈一般発売日〉4 月27 日(土)
〈公演サイト〉https://hanagumishibai.com/stage-2406/

【取材・文/久田絢子 撮影/中村嘉昭】

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