【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第156回「小劇場の楽屋」
今年はまだ沖縄地方以外は梅雨入りしていないというのに不安定な気候の日々ですが、皆様大丈夫でしょうか。暑いんだか寒いんだかよく判りませんので、どうぞ体調に気をつけてお過ごし下さいませ。
さて、前回は小劇場公演に於ける昼公演と夜公演の合間について書きましたね。本番中には神経を尖らせて集中しておりますから、公演の合間にはリラックスして夜の舞台で最高のパフォーマンスを発揮したい。そのためには休憩が必要だという話でした。
そんな昂ぶった身体と精神を整えながらノンビリした時間が過ごせるのが楽屋です。楽屋については以前にも書きましたが、今日は「小劇場の楽屋」についてご説明したいと思います。
劇場にはキャストやスタッフが準備をしたり寛いだりする楽屋が用意されています。まあ当然っちゃあ当然なのですが、その楽屋の状況は劇場によって違います。もちろん劇場のサイズによって大体決まってはくるのですが、その劇場の立地や構造、そして歴史や用途によって千差万別なのです。
大劇場の場合は出演者が多い場合が想定されているので当然ながら楽屋の数は多くなるのですが、用途によっては驚くほど楽屋が広い場合があります。私が体験した中では1991年に「仮名絵本西遊記」を上演した大阪の万国博ホールが凄かったですね。基本的にはコンサートホールでしたので、数多くのオーケストラやブラスバンドが待機できるようにとにかく広い楽屋がいくつも用意されていました。管楽器奏者が練習できるように机の天板がコの字型にえぐられた鏡前があったりしましてね。それはそれは余裕のある楽屋でした。
さすがにこれは特殊な例でしたが、大劇場では豊富な楽屋が用意されている場合がほとんどです。場合によっては私でも個室が頂けるほどの余裕があるのです。
しかし、小劇場の場合はそうはいきません。元々が《小さい》から小劇場なんです。となれば当然のことながら舞台裏も狭いので充実した楽屋が用意されていない場合も多いのです。もちろん劇場にもよりますが、楽屋が一つしか無い場合だってあって、男女含めたキャストが一部屋に集められたりします。まあその場合は着替え用のブースが用意されていたりパーテーションで仕切られていたりはするのですがね。
いずれにしても、小劇場の場合は楽屋が少なく狭めなのが基本です。よくあるのが楽屋が二部屋あって、男優と女優に割り当てられる場合ですかね。その場合、スタッフさんたちは客席やロビーが待機場所になってしまいます。心苦しい限りですがない袖は振れません。すみませんがよろしくお願いします。
でね、この「数人から十数人の俳優が大部屋にまとめられている」という状況がなんだか楽しいんだよって話を書きたいんですよ。そうなんです。意外とイヤじゃないんですよ。
それぞれ趣味趣向も色々だし年齢も幅広いし考え方も違うのですが、それがなんだか面白いんですよ。それぞれが準備をしながら、メイクをしながら、寛ぎながら、演技の相談をしたり提案をしたり、あるいは趣味の話をしたりバカ話をしたり。一つの作品を作り上げるために協力したり論争したりしながらの長い稽古期間を経て、緊張しながらも充実した本番期間を過ごしながら、なんとなく仲良くなった人々が長い時間を過ごす大部屋楽屋の時間が愛おしかったりするのですよ。
こんな感じでみんなが揃って一つの部屋で過ごすというのも中々に楽しい時間なのですよ。それぞれの距離感を保ちながらも、ちょっと踏み込んでみたりツッコんでみたりしながら、緊張感のある本番に備えていくのは貴重な時間なのです。
確かに一人部屋は自由だし気楽だし、また集中もできるのではあるのですけれども、ちょっと淋しかったりするのも事実です。だもんですから、用もないのに劇団員たちが集まっている大部屋に遊びにいったりしてしまうんですよね。そんでしばらくバカ話をした後、また一人で自分の楽屋に戻っていくのです。やっぱ寂しいんだよね。
ちなみに、2022年に上演した劇団☆新感線「薔薇とサムライ2」の新潟県民会館大ホールでは、大劇場でありながらも古めの建築だったこともあって楽屋の振り分けが難しく、結局のところ約30人の男優全員が巨大な一室にまとめて入れられるという事態が発生しました。そりゃもう、うるさいうるさい。しかも私は古田新太くんと生瀬勝久さんに挟まれていたので、ずっとツッコみ続けていました。大変でしたよ。
本文とは関係ありませんが、本所で見つけたピカチュウコラボ自動販売機。可愛いけどピカチュウが多すぎではありませんか。
プロフィール
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み
【出演予定】
劇団☆新感線「バサラオ」
7/7(日)〜8/2(金)博多座、その後大阪東京公演あり
http://www.vi-shinkansen.co.jp/basarao/