えんぶ編集長 坂口真人インタビュー「コロナ禍からユートピアへ」(後編)

9/25までモーションギャラリーにてクラウドファンディング中のプロジェクト「えんぶ☆TOWN」。それまでの道のりをプロジェクト主宰者でもあるえんぶ編集長 坂口にたっぷり聞いたロングインタビュー後編!(えんぶ2024年8月号に掲載された記事を2回に分けて掲載)

えんぶ編集長 坂口真人
雑誌えんぶ創刊35周年記念事業として計画していた「アートとエンタテインメントの街」づくり「えんぶ☆TOWN」設立でしたが、その予算をコロナ禍で傷んだ自社の修復に宛ててしまい(それでも全然足りませんでしたが)諦めかけていたところ紆余曲折!
まずは、理想と現実のギャップに翻弄されつつたどり着いた「えんぶ☆TOWN」第一段階の“混乱と希望”。
いまさらですが、街づくりの責任者坂口に編集部員たちの疑問が集中!今回の企画に関わりがありそうな歴史を探るような部分からインタビューを始めてみると。少しずつですが街作りの背景がみえてきたような……。

「えんぶ☆TOWN」の立ち上げに影響したこと、いくつか

――「えんぶ☆TOWN」を作るにあたって近々で影響を受けた出来事がいくつかあったと聞きましたが

はい。時期も理由もまちまちですがあります。

――教えてもらえますか

一つ目は劇団地蔵中毒という集団の変化です。
この集団は演劇とかいうカテゴリーを越えて、“劇団地蔵中毒”という新しいジャンルが生まれるのではと思うほど、ぼくにとってインパクトがありました。そのナンセンスぶりや反社会的ないい加減さなどが俳優たちの存在とあいまって、「なんだかよくわからないけど、おもしろいコント的なショートレンジが、最終的にひとつの物語に収斂していく様は、狂気に近く」、ちょっとやそっとでは味わえない体験でした、それが段々に普通に面白い演劇に変わっていきました。

えんぶ14号 地蔵中毒『つちふまず返却観音』の出演者全員インタビュー

――う~ん。でも演劇的に整理されてきて面白いんですよね。

う~ん。それのどこが悪いんだよと言われれば言い分はありません。

――その流れでどこが今回の企画に影響したのですか?

どこが今回の「えんぶ☆TOWN」の企画に影響したのかは自分でもよくわからないのですが、影響しました。変わらないものはこの世にないのだよと表現の神様がおっしゃっているのかもしれませんね。私は無神論者ですけど。

――……二つ目は

田中優子さんの『江戸の想像力』という単行本にとてつもなくインスパイアされています。
とくに「金唐革は世界をめぐる」という章では、イタリアのルネッサンスから始まり、アジアの貿易の流れや影絵劇の人形までからんできて、江戸中期に活動していた平賀源内によって勘案され(本来は革で作られる工芸品が紙でつくられるようにになった)、主に煙草入れの装飾などに用いられて大ヒット商品になったくだりは圧巻でした。

この絵は「清水の舞台から飛ぶ美人」鈴木春信作の東錦絵で、“恋の成就を願って清水の舞台から飛び降りる様子”を描いたものだそうです。(『江戸の想像力』の表紙に使われた東錦絵)

もう少し二つ目を。
「大江戸ボランティア事情」石川英輔・田中優子著 講談社文庫からの引用を少し。
「連はたのしい絡み合い」という田中優子さんが書かれた章で、天明年間の“連”(歌舞伎や狂歌などと縁があります)についての説明があった後、以下引用文です。

(前略)
 ボランティアもまた、社会的には確立していない関係を、人とのあいだで自主的に作っていくことである。誰かに手を貸すにしても、貸してもらうにしても、いっしょに何かをするにしても、そこに利害関係がまぎれこまず、それが賃金をともなう仕事ではなく、立場上強要されたものでも組織的に決まったことでもなく、政治運動や票のとりまとめでもなく、単に知り合うとか、食事するとか、一時的に遊びに行くとか、というほど刹那的なものでもなく、社会的組織の隙間において、互いに自ら起こす、いくらか継続性のある、喜びをともなった関わりのことである。
 もちろんそこには、強制されない金銭のやりとりも生じる。
 このように考えてみると、ボランティアは、連と同じようにさまざまな範囲と可能性を含んでいる。パトロネージという場合もあり、主張をもった運動の場合もあり、何かをともに作るグループの場合もあり、ともに遊ぶ仲間の場合もある。それがたまたま社会的な弱者を含んでいたり、誰かの緊急事態を皆で手助けするために集まれば、いかにもボランティアらしくなるが、そうでない水平的な関係だけの場合も、ボランティアであり、連なのである。
(以下略)

大江戸ボランティア事情 石川英輔・田中優子著 講談社文庫より引用

この文章は「えんぶ☆TOWN」を作っている途中で出会ったもので、著者には畏れ多いのですが「援軍がきた!」と思ってしまいました。

――三つ目はなんですか?

青空文庫です。ここに行くと清々しい気持ちになれます。
あのうっとうしいネット広告もありません。ここではあなたの一生分の文芸作品を無料で読むことができます。
どうやったらこんなに落ち着いた運営ができるのか……、特別な仕掛けはないようですので、センスの良さと誠実な仕事ぶりなのでしょうか?
見習おうにもちょっと清々しさのレベルが違います。

――以前、このサイトで宮沢賢治の面白い戯曲をみつけたと言ってましたね。

はい。
宮沢賢治の一幕戯曲『飢餓陣営(きがじんえい)』です。
賢治が岩手の農学校教師時代に作って、生徒たちと演じたコミックオペレッタです。たぶん彼の生涯で一番たのしい時間を過ごしたと思われます。宮沢賢治がすごくたのしそうにみえます。
「えんぶ☆TOWN」で第二、第三の“宮沢賢治”に出会いたいですね。

――以下に、植本純米vs坂口真人の『飢餓陣営(きがじんえい)』についての対談が掲載されています。ぜひ読んでみてください。

植本純米×坂口真人 (連載)『過剰な人々』を巡るいささかな冒険 ▶ http://blog.livedoor.jp/nikkann-kajo/archives/37436765.html

もちろん戯曲は青空文庫で読めます。せっかくの機会ですのでご自分でいって探してみてください。

――では「えんぶ☆TOWN」について

すみませんもう一つだけ。とても日常的に影響されている言葉があって。井上ひさしさんの「ゆれる自戒」というメッセージで、昔どなたかからいただいたクリアファイルに書かれていました。

「えんぶ☆TOWN」ってなに?

えんぶ☆TOWNは、情報コーナー「情報☆キック」を軸に
・「クラウドファンディング☆ファーム」
・「マッチング☆フリーダム」
・「電子版☆ミュージアム」
・「パブリッシング☆えんぶ」
・「えんぶ☆ショップ」などのコンテンツが “作り手”と“観客” という共通項で結ばれています。

えんぶ☆TOWNをみる ▶ https://enbutown.com/

――「えんぶ☆TOWN」ってひとことで言うとどんな所ですか?

「えんぶ☆TOWN」は“作る人”と“観る人”が自由闊達に行き交うアートとエンタテインメントの街です。参加者のみなさんと一緒に新しい仕組みやサービスを開発して“楽しみながら得をする場所”をつくり出そうという実験都市です。

――わかりにくい所もあるので、楽しみ方のヒントをください。

まずは街のコンテンツを見ていただき、楽しめそうな場所を見付けて参加してください。使い方はいろいろですが、それぞれの立場からの活用例を、ほんとにごく一部ですが下記してみました。

アーティストからみた活用例
・自身のPRや募集記事を投稿して、同行の友を探す。
・仲間ができたらイベントなどを計画。
・「クラウドファンディング」を利用して一部運営費を確保。
・「情報☆キック」など各所でイベント情報をPR。
・チケットの一部は「えんぶ☆ショップ」で販売することもできる。

主催者からみた活用例
・イベントの募集情報を投稿して人材を募る。
・アーティストページを見て必要な人材を探す。
・イベントの支援金を「クラウドファンディング」で募る。
・イベントを「情報☆キック」などでPR。
・チケットの一部は「えんぶ☆ショップ」で販売することもできる。

観客からみた活用例
・各所でコアな最新情報を楽しむ。
・応援したい企画を「クラウドファンディング」で支援する。
・一般参加オーディション情報などもあるのでチャレンジ!
・「えんぶ☆ショップ」で特選公演の割引チケットが買える。
・(準備中)「参加者同士の交流 観賞ログサイト」を開設して、イベントの感想・批評を投稿
・(準備中)専門イベント以外のタグで課外活動を楽しむ(ex.動物・スポーツ・登山・甘味・旅行・料理・サウナ・銭湯・恋愛・etc.)

特別枠の方たちからみた活用例
・(準備中) アーティストではないけど表現と関わりの深い人たちとの関係づくりを応援&お手伝い(ex..ライター、デザイナー、ファッション、スタッフ、業界関連のすべての方たち)できる形を模索中。

Q.どうして「えんぶ☆TOWN」は演劇だけでなく全てジャンルを扱うのですか?
A.ぼくにとってはその形がオーソドックスなんです。“オール表現界”といった大きな固まりのほうが自由で強靱ですよね。
全てジャンル(舞台、映像、音楽、美術、文芸、アニメ、芸能など)の人たちが境目無く交流することで、無限大で刺激し合える場所をつくり出したいと考えています。
もともと“舞台”ってそれらの要素満杯ですよね。それとフォーマットをひとつ作れば、あとは各ジャンルに流用できるのでコスパもいいです。

Q.運営する資金はどうするのですか?
A.ほんとにたいへんですね(笑)。まずは現在実施中のチケット広告(広告の料金をチケットで払っていただき弊社ショップで販売する)システムを充実することから始めます。それと大きな企画では、表現にかかわる全産業の人たちが参加できるマーケットの構築を計画中です。

Q.クラウドファンディングでの展開は考えていますか?
A.もちろん考えています。この街はみなさんと一緒に作っていくという自立の精神で運営されユートピアを目指す、という企画です。
「群衆(クラウド)」と「資金調達(ファンディング)」まさにドンピシャだと思います。ただ日常的な運営資金の確保がポイントなので、色々と考えなければですね。

Q.具体的なアイディアが足りないような気もしますが……
A.そのとおりですね(笑)。そこは進行しながらみなさんの力をかりて、より良い方法をみつけるしかないですね。情報通信技術(ICT)と街のコンセプトの組み合わせで、今までに無い展開ができるとおもしろいですけど。
どちらにしても“神風”は吹かないので、ここは地道に進めながらマネタイズの鉱脈を探していきます。

Q.いま一番の街の課題は何ですか?
A.サイトの使い勝手を良くすることに尽きると思います。
ここまでは形を作ることを最優先して作ってきましたが、ここからは参加してくれる人たちのストレスをどれだけ減らせるかにかかっていると言っても過言ではありません。不便なところに人は来てくれませんものね。

Q.フレンドリーな視点が足りないという指摘もありますが。
A.そうですね。現状は気負いすぎな部分もありますよね。ふらっと遊びに来てくれた人が楽しんでもらえるような仕組みは必要ですよね。ここもみなさんの力をかりて、より良い方法をみつけるしかないですね。

Q.コロナ禍からの流れで一言あるようですが
A.はい。コロナ禍で感じたのは一時的な援助だけではダメで、自分たちが自主的に恒久的な仕組みをつくらねば、ということでした。
世の中もうこれ以上良くなることもなく、表現の世界だけがよい状況になっていくとも思えません。
天災も人災もまだまだありそうです。平常時だけではなく、パンデミック時の対応のためにも(コロナ禍ではひどい目に遭いました)一過性のものではない、自主的にお互いを支え合える「持続可能なかたまり」が必要だと思いました。

Q.「えんぶ☆TOWNとは」の最後にあるAspiration(アスピレーション)ってどんな意味ですか
A.「熱望」「野望」「大志」という意味があるそうです。日本語にしてしまうとちょっとショボいですね。
以下がわたしたちのAspiration(アスピレーション)です。

  • ジャンルを超え!国境も越えて、世界的な規模の情報が載っている、たのしい街にしたいです!
  • サグラダ・ファミリアみたいに様々な困難を乗り越えて、変化しながら成長し続けることができたら嬉しいです!
  • 表現に関わる全ての人たちが、貧富の差・有名無名・男女差別・雇用関係などの様々な関係から起きるハラスメントのない自由で平等な街にしたいです。
  • 中野の掘っ立て小屋での蝶の羽ばたきが表現の社会でトルネードを引き起こし、そして、そこがユートピアとなることを夢見て!
  • 決して低いハードルではありませんが、志を高く持って進めてまいります!
坂口の「えんぶ☆TOWN」脳内イメージ その①

えんぶ最新号(2024年10月号)発売中!

9/25(水)まで(株)えんぶ、クラファンに初めて挑戦しています!

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