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株式会社えんぶ が隔月で発行している演劇専門誌「えんぶ」から飛び出した新鮮な情報をお届け。
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(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
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望海風斗が20世紀最大の歌姫マリア・カラスに挑む!『マスタークラス』徹底研究ガイド

望海風斗

20世紀最大の歌姫として世界中のオペラファンを虜にしたマリア・カラス。オペラ歌手引退後の彼女が、ニューヨークのジュリアード音楽院で若き歌手たちに実際に行った「マスタークラス(公開授業)」を題材に、芸術に生き、愛を求めたマリア・カラスの人生を描いたテレンス・マクナリーの傑作戯曲『マスタークラス』が3月~4月、東京、長野、愛知、大阪で上演される。1995年に世界初演され、翌年早くも黒柳徹子主演で日本初演以来の、実に約30年ぶりとなる上演に際し、この作品の魅力を徹底研究! 

まずは、主演のマリア・カラスを演じる望海風斗の演劇専門誌「えんぶ」2025年2月号掲載のインタビューから、舞台に臨む深い想いを聞いてみよう(抜粋・再構成)。

──初めに企画を聞かれた時にはいかがでしたか?

自分が演じるということを正直想像していなかった作品だったので、まず私にやれるのかな?という思いがあったんですよね。でも戯曲を読み進めるうちに、その素晴らしさに魅了されて。1幕ではお客様がマリア・カラスの『マスタークラス』を聴講しているというスタイルなのですが、2幕に入ると彼女が愛を求めては挫折し、芸術に身を捧げていく真実の声がどんどんこぼれ出てくる見事な構成に引き込まれて。いまこれを上演するのであれば是非やりたいな、という気持ちになっていきました。

──その主人公、20世紀最高のソプラノ歌手と称えられるマリア・カラスについてはどうですか?

これまでは、ちょうどいま言われた偉大な歌手の方という程度の知識しかなかったのですが、オペラに対して、歌うことに対しての人一倍の努力、ここにしか自分が存在する道はないと思う場所に向かってただ突き進んでいく情熱の注ぎ方に圧倒されました。その一方で実生活での恋愛、家族や家庭の問題などが根底にあるからこそ、卓越した表現力につながっていったんだろうなと思うと、勉強にもなりますし、考えさせられもします。「マスタークラス」をやろうと思ったのも、どれほど厳しい世界かを身をもって体験しているからこそだったでしょうし、作品のなかでもユーモアを交えながら、本当に辛辣なことも言いますが、それはある種の優しさでもあると思うんでよね。並大抵のことでは通用しないよと、後進に伝えようとしているわけですから。そうした歌やオペラ、芸術に対する彼女の深い愛情も、きちんと台詞に乗せられたらいいなと思っています。

──『マスタークラス』出演をきっかけにオペラアリアに取り組まれたりも?

実は少しだけ習ったんですが、すごく楽しくて!オペラは全く違う世界だと思っていましたが、やっぱりクラシックの発声って一番の基礎なんだなと感じていて、発声の仕組みが改めてわかってきたりもしているんです。それにミュージカルだと、お稽古の段階では70%で作ったものに、その日の相手からもらって感じるものが加わって歌い方が変わっていったりするのですが、マイクなしで歌うクラシックのアリアは、ブレスひとつにしても正確にここでなければいけないという厳しさがあるんです。それを知っているのと知らないのとでは、マリア・カラスを演じる上で全く違ってきますから、趣味としてアリアのレッスンも続けたいなと。

──望海さんに歌って欲しいアリアはいくつもありますから、いずれオペラアリアのコーナーがあるコンサートも期待しますが、そうした出会いにもつながったこの作品『マスタークラス』を楽しみにしている方たちにメッセージを是非。

自分が今まで続けてきた舞台、そしてこれからも続けていく舞台のなかで根底にある大事なことを、マリア・カラスを通して私も学びましたし、皆さんにも人生に大切なものを色々受け取っていただける作品だと思います。お客様が入らないと完成しない作品なので、是非この公開授業を受けに来ていただきたいです。お待ちしています!

『マスタークラス』メインビジュアル

そんな望海の意気込みを受けて、『マスタークラス』という作品の戯曲としての素晴らしさをお伝えすべく、「えんぶ☆TOWN 情報キック」で、俳優の植本純米とえんぶ編集長坂口真人が、古今東西の戯曲について語り合う人気連載【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】2020年5月4日掲載の、テレンス・マクナリー『マスタークラス』回を抜粋、再構成してお届けする。当然今回の上演を知る由もなかった二人が、長期連載企画の中でも稀な大絶賛を繰り広げた対談を通じて、作品の傑出した面白さを感じて欲しい。

坂口 今回は『マスタークラス』、植本さんの推薦の本です。
植本 テレンス・マクナリーさんが書いてます。(2020年)3月24日にコロナで亡くなってしまって。
坂口 ええーー!それはものすごく残念ですね。
植本 はい、それもあってこの作品を選びました。マリア・カラスの話なんですけど、書いている彼自身がマリア・カラスのことが大好きだから、大好きな人がシニカルなこととか、批評、皮肉を込めて書いてたりするからいいんだと思うんですよね。
坂口 しかも、マリア・カラス自身の力が落ちて、スターじゃなくなった時期の話ですもんね。
植本 高音が出せなくなってね。
坂口 その後で、ちょっとだけ先生をやったんですね、ニューヨークの有名な音楽学校で。
植本 ジュリアード音楽院ですね。
坂口 そこで行った授業の様子を元ネタにしている。だからフィクションとはいえ、リアリティもあります。
植本 タイトルになってますけど「マスタークラス」っていうね、きっと生徒の中でも限りなくプロに近い人のためのクラスですよね。公開リハーサルみたいなスタイルになっています。
坂口 公開授業だから実際にお客さんも入ってるという設定で、公演を観に来たお客さんを授業のお客さんとして見立ててる。
植本 客いじりもあって。
坂口 素敵ですね。僕がいうのもアレだけど・・・100点。
植本 (笑)それはよかった(拍手)。
坂口 素晴らしいね! 表現について語りつつ、素敵なエンターテインメントになっていて、人物評にもなっている。大好きな本になりました!
植本 そうね、評伝にもなっている。
坂口 下手な自伝とか読むよりもコレ読めば・・・
植本 どこまで本当かわからないけど(笑)。
坂口 だからこそ彼女の内面というか、これまで生きてきた軌跡がよくわかる。多分、自叙伝とかだとこんな風には書けない。ちゃんと批判的な目がありつつ、彼女の行動を、彼女になった役者さんに言わせてるから客観性もある。
植本 彼女は50年代に活躍して、なんか活動期間が短いんだよね。
坂口 一番良いときは10年位って言ってましたよね。だからびっくりしました。一人の表現者、歌い手をネタに、こんなに表現の面白さ大変さなどの様々な要素がちりばめられている戯曲はそんなにないかな、と僕は思います。本当にこれは良かった。
    ♪
植本 内容を話すと、一人目の授業を受けに来る生徒が一幕を占めるんですけど、二幕になると男の人と女の人が順番に生徒として現れます。マリアが「なにを歌ってくださるの?」って言うと「私はこれを歌います」「僕はこれを歌います」そうすると歌う前に彼女がすごい喋りますよね。「そんなものを歌うの?身の程知らずね」みたいな。
坂口 服装から、出てくる時の態度からね。なにからなにまで言うんだけど、彼女なりのユーモアがちりばめられて、色んな悪口言って最後に透明人間になる(笑)。
植本 あ、「私のこと、ここにはいないと思ってください、パッ、透明人間」
坂口 そうそう。そんなこと言われたら客席はたまんない。
植本 生徒に対して「これからあなたのことで意地悪なことを言うからちょっと耳をふさいでてください」みたいなこともね(笑)。
坂口 お客さんにも静かにしてだけじゃなくて、「あなたの服装はここにくる服装じゃない」とか言ったりするでしょ。
植本 「あなたパッとしないわね」とか言ってその周りの人が笑ってると「後ろの人もそうよ」って。
坂口 演芸場の客いじりみたいなことをマリア・カラスがやってるんだよね。それがなんていうか授業の厳しさとかも含めてすごくバランスが上手に作られてますね。
植本 マリア・カラスの役をやる人の負担って言ったら、とてつもないけれど(笑)。他にも、授業受けに来る3人の生徒。女2人と男1人に、道具係と、あとピアノの伴奏者がでてきますけど。負担はやっぱり、9割位はマリア・カラス役の人にきますね。
坂口 うまい具合に無理のない一人芝居みたいな作りになってますよね。
植本 しかも、マリア・カラスがこの戯曲の中で言ってることは芸術論ですもんね。
坂口 そうですよね。全部が全部肯定するかはともかくとして、一回聞いてみる価値は充分にあると思うな。彼女がどんな気持ちで、舞台に立って作品を作ってたかっていうのは、この本一冊でよくわかります。素晴らしく示唆に富んでいてびっくりしました。
植本 生徒とのレッスンの中で、時々自分自身を回想するシーンがあるじゃないですか。生い立ちっていうか、最初の旦那さんの話、その後の恋人の話とかが出てくる。あれって、マリア・カラスの役の人が旦那さんも恋人の役もやるってことですよね。
坂口 全部一人でやってんじゃないですか?  生徒が歌い始めて、それまでが大変なんですけど(笑)、歌い始めてそれがフェードアウトして、マリア・カラスの録音されていた音源が会場に流れて、そこで自叙伝的なというか、苦労したとか自分のことをね。
植本 そうそう。子どもの頃からのことを話しますよね。
坂口 それがすごく印象的です。
植本 そこは割と史実にのっとってる(笑)。
坂口 うん。多分史実どころか、作家がそれを増幅・整理してマリア・カラスらしい話にして提供してくれてるから、よりリアリティがある。この作家本当にすごいと思う。彼女の音源を流しながら自分の過去を語らせる。作劇がうまい。
植本 それもただ語らせるのではなく、授業の進行と絡めながらね。
坂口 子どもの頃音楽を習っていてそこに可愛い子がいてね、その子ばっかりに良い役がいっちゃって、「私はその復讐のためにずっと音楽をやってきたのかもしれない」。彼女は大きい舞台で成功するわけですよね。その時にやっと復讐が出来たというふうに言う。その暗い、妬みとかそういう影の部分をずーっと背負いながらやってきたんだなって。とてもいい話です。
    ♪
植本 厳しい部分がいっぱい書かれてるけどその根底にはマリア・カラスがピュアっていうのがあるんだよね(笑)。
坂口 少なくてもこの本に関してはマリア・カラスに親しみというか好きになっちゃう。実際近くにいたら大変だろうけど、そういう書かれ方でいて芸術論にもなっている。
植本 すごいなって思ったのがこれ、テレンス・マクナリーさん書いたのが1995年初演なんですけど、翌年には黒柳徹子さんの主演でやってるんですよ。
坂口 当時あった銀座セゾン劇場ですね。
植本 ドラマ化もされててそれだとメリル・ストリープがやってるのかな。
坂口 ああ〜そういった、それなりの方がやらないと、ちょっと収まりがつかないかな〜。
植本 貫禄ね。そしてなんていうの、ダブルミーニングで、マリア・カラスも有名だけど、それやってる人もある程度有名な方が効果的な気はしますね。
坂口 実際やるとなったら難易度高いよね。本人の音源とかも使わなきゃいけないし。最後もすごくいいですね。教えていた生徒に悪口言われて、
植本 「こんなとこに来なければよかった。あんたなんか嫌いよ、自分が歌えなくなったもんだから若い芽を潰そうとしてんでしょ」みたいに言われちゃう。
坂口 その後マリアは言い訳せずに「傷つきました」みたいなことを言いながら、オペラが少しは世の中的に役に立ってんじゃないのかって語って終わるんですけど。
植本 「本当はオペラなんかなくてもいいのよ、でもオペラがあると少し賢くなったり、心が豊かになったりするでしょ?」と。
坂口 自分の力が落ちてしまったときの発言だけに身に染みる気がしますよね。背表紙にキャッチコピーがあって、彼女の衝撃的な過去がわかる、女としての幸せをなげうって芸術にすべてを捧げたマリア・カラスって書いてあるんですけど、ここだけは違うと思うんですよ。彼女は女としても、人間としても、幸せは投げうってないと思うんです。自分の人生と芸術をごじゃごじゃにして、でも素晴らしい表現をした人なので。それがこの本の一番の魅力なのでね。
植本 読み物として、面白いですね。
坂口 本当にありがとうございました! こんなものに出逢えるとは。
植本 (笑)編集長とは長くやってるけど、こんなに感謝されたことないわ〜。
坂口 (笑)いろんな表現としての要素がちりばめられていて、こんなエンターテインメントが作れるんだっていうのにはビックリしました。この本に出逢えて本当に嬉しかった。
植本 皆さんに読んでいただいて、上演を待ちましょう。
坂口 テレンス・マクナリーさんありがとうございました! ブラヴォー!

あらゆる意味で必見の舞台『マスタークラス』是非演劇的興奮と刺激に満ちたこの作品を、多くの人に劇場で体感して欲しい。

■PROFILE■
のぞみふうと〇神奈川県出身。2003年宝塚歌劇団に入団。17年雪組トップスターに就任。退団後の主な出演作に『next to normal』『ガイズ&ドールズ』『DREAMGIRLS』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』『イザボー』など。第30回読売演劇大賞 優秀女優賞、第48回菊田一夫演劇賞受賞。メジャー1stアルバム「笑顔の場所」発売中。

うえもとじゅんまい○岩手県出身。早稲田大学第一文学部演劇専修入学後、演劇活動を開始。1989年より2023年まで劇団花組芝居に在籍。シェイクスピア作品やミュージカル、和物芝居など様々な作品に出演。現代劇の女方としても活動し、その可憐さには定評がある。2009年には演劇ユニット四獣(スーショウ)を結成、不定期で公演を行っている。

さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。現在、“作り手”と“観客”が自由闊達に行き交うアートとエンターテインメントの街を旗頭に「えんぶ☆TOWN」としてウエブサイトの更なる充実を模索中。

【植本純米vsえんぶ編集長、戯曲についての対談】
https://enbutown.com/joho/category/column-essay/uemoto-sakaguchi/

【「マスタークラス」についての対談回】
http://enbu.co.jp/nikkanenbu/uemoto2020-5-24/ 

【公演情報】
『マスタークラス』
作:テレンス・マクナリー
翻訳:黒田絵美子
演出:森新太郎
出演:望海風斗 ほか
3/14~23◎東京・世田谷パブリックシアター
3/29~30◎長野・まつもと市民芸術館 主ホール
4/5~6◎愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール
4/12~20◎大阪・サンケイホールブリーゼ
〈お問い合わせ〉ワタナベエンターテインメント 03-5410-1885(11時~18時・土日祝休み)
〈公式サイト〉https://masterclass.westage.jp/

(構成・文/橘涼香 写真提供/ワタナベエンターテインメント)
 

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