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花組ヌーベル ミュージカル『平家蟹』間もなく開幕! 加納幸和・丸川敬之・押田健史 インタビュー

花組芝居の新企画で、通常の劇団公演よりも少人数&小空間で実験的な作品を上演する〝花組ヌーベル″シリーズ。今回は岡本綺堂の新歌舞伎『平家蟹』のミュージカル化に挑戦。6月5日より下北沢・小劇場B1にて上演する。(11日まで)

『平家蟹』は、「平家物語」の中でも有名なエピソードをもとに書かれた作品で、源平の戦の中、源氏の若武者が平家の小舟の竿の先に据えられた扇を矢で射抜いたという、有名な「扇の的」の後日譚となっている。

平家滅亡となった壇ノ浦の合戦から数か月後。物語は、剥落した元平家の官女姉妹の家に、今は禅僧となった雨月が訪ねてくるところから始まる。夜な夜な平家の亡霊と語り合う姉、生活のために身を売る妹、その妹と恋仲になる源氏の若人…。

公演は《浦組》・《浜組》の2組で交互上演されるが、それぞれの組で源氏の若武者、那須与五郎を演じる丸川敬之と押田健史。そして両組で玉虫を演じ、脚本・演出を手掛ける加納幸和という3人に、この舞台への抱負を語ってもらった。

丸川敬之 加納幸和 押田健史

滅んだ平家と海の平家蟹を結び付けた物語

──『平家蟹』は昨年11月に上演された花組ペルメル『⾧崎蝗駆經』のモチーフとなった岡本綺堂の新歌舞伎ですが、今回、加納さんがあらためて上演しようと思ったのは?

加納 『⾧崎蝗駆經』は、あやめ十八番の堀越涼くんに脚本を書いてもらったのですが、そのときにモチーフとして歌舞伎の一幕物を候補にいくつか挙げた中で、彼が選んだのが『平家蟹』だったんです。岡本綺堂が書き下ろした新歌舞伎で、初演は明治45年で尾上梅幸(七代目)さんが、その後は中村歌右衛門(六代目)さんがよく演じ、演出もしてらしたのですが、最近はあまり上演されていなかった。だったら花組芝居の公演でやってみようと思ったんです。

──内容についてはどんなところが魅力でしたか?

加納 岡本綺堂さんという方は、昔の説話とか伝説とかそういうものを1幕の短い芝居の中に取り入れて、しかも近代的な解釈を入れて書くのですが、それが綺麗に成り立っているんです。たしかお父様が英国公使館に勤めていて、外国のものだけでなく歌舞伎など江戸文化にも通じていて、九代目團十郎とも昵懇で、演劇改良運動の会議に参加したりという方なんです。だから綺堂さんもその影響を受けて、17歳で新聞社に入って劇評担当になるんです。そこから戯曲を書きたいと思って書いてみたら大評判になったわけです。

──17歳で新聞記者になったという年齢にも驚きますが、記者でありながら劇作家にもなったわけで、すごい才能ですね。

加納 そうなんです。この『平家蟹』では、滅んだ平家と実際に海にいる平家蟹という不思議な生物を結びつけて、短い物語の中で見事に起承転結をつけています。ちょっと調べてみたところ元ネタがあって、那須与一の「扇の的」に出てくる玉虫という女官が熊本の八代で落人として暮らしていたところへ、那須与一の嫡男・小太郎が平家の落ち武者退治にやってくる。その小太郎と玉虫は恋仲になって、子どもが沢山できて、しかも村の子どもたちの乳母にもなって、村がたいへん栄えたという話が残っているんです。その伝説を、綺堂さんは玉虫と玉琴という姉妹の話に分けて、妹が源氏の武者との恋をして、姉は平家の怨みをはらそうとするという話に仕立てたわけです。

──歌舞伎らしい悲劇性を盛り込んだのですね。

加納 戯曲の最後の場面は、舞台を嵐の海に見立てて、その波間を玉虫が歩いて海に入っていくというラストになっていて、そのシーンがすごく印象に残っているんです。それもあって、堀越くんが『平家蟹』を選んで『⾧崎蝗駆經』を書いたとき、やっぱり『平家蟹』を上演しようと決めたんです。ただそのままでなく、思いきってミュージカルにしてみようと。新歌舞伎は下座の音楽などをあまり多用しないで、台詞と効果音だけでじっくりと観せていくものですから、観る人によっては暗くて辛気くさいと感じたりするんです。それをミュージカルにすることで、楽しく観ていただけるかなと思ったんです。

──『⾧崎蝗駆經』では音楽は琵琶でしたが、今回は星出尚志さんのオリジナル音楽になります。

加納 星出さんは吹奏楽やミュージカルなども手掛ける気鋭の作曲家で、花組芝居では『南北オペラ』や『鹿鳴館』でお世話になっており、クラシック調からチンドン屋風の音楽まで16曲ぐらい作っていただきました。もとの台本が短くて、音楽が入ったら少しは長くなるかなと思っていたのですが、台詞をそのまま歌詞にしたので、長さはそんなに変わらなくて(笑)。もしかしたら70分〜80分ぐらいで、花組芝居ではかつてない短い上演時間になるかもしれません。(最終的には60分になりました)

那須与五郎役は、歌える二枚目系の二人

──もう歌の稽古も始まっているそうですが、いかがですか。

押田 楽しいですね。明るい気持ちになるし。でもお話が進むと「騙された!」と思ったり(笑)、浮き沈みが激しいです。

丸川 曲はオリジナルの曲ならではの良さがあって、歌いやすいです。それにちょっと有名な曲へのオマージュ的な部分もあったりして。

加納 「タイガーマスク」に似ているところもあったよね?

押田 「暴れん坊将軍」みたいなところもあって、そうか!この感じで芝居してみようか、とか刺激されますね(笑)。

加納 星出さんは耳馴染みのいいメロディアスな曲を書かれるし、あ、ここに来るだろうなという心地いいものを書いてくださるんです。

──台詞と歌の声の切り換えとかいかがですか?

加納 やはり難しいです。直前の台詞はこうだけど歌はこのトーンだから、前の台詞のトーンも少し変えないととか。歌でいきなり違う人になっても困りますしね(笑)。ただ、今回やりやすいなと思ったのは、現代語のミュージカルは洋楽ですから、やはりヨーロッパの言語が合うんです。日本の音楽といえば雅楽とか民謡なので、そこに現代語は乗せにくいと思うんですけど、綺堂さんの台詞はどこか歌舞伎の七五調が入っているので乗せやすいし、受け渡ししやすいんです。本当なら新歌舞伎はもっと現代調でやらなくてはいけないのですが、うちの劇団は現代劇もやるから、新歌舞伎ではあえて歌舞伎調でやるのもいいんじゃないかと思っているんです。

──上演は《浦組》・《浜組》の2組で、それぞれ固定のキャスティングですが、色は違いますか?

加納 《浦組》はとくに歌が好きという人が多いかもしれません。《浜組》はやや年齢が高くて味で見せるという人たちです。

押田 僕も《浜組》です(笑)。

──丸川さんと押田さんはそれぞれの組で那須与五郎を演じますが、このお二人に決めたのは?

加納 二人とも花組芝居では二枚目系を演じる役者で、今回はミュージカルですから歌える人にしたいなと。丸川は外の舞台でもよく歌っているし、押田はうちの劇団に入る前はミュージカルばかり出ていたんです。洋舞も得意なので振付もやってもらっていますから、こういう公演にはぴったりだなと。

──与五郎のお二人にお互いについて語っていただきたいのですが。丸川さんのほうが年下ですが先輩になるのですね?

丸川 僕は劇団の20周年に入団して18年目です。

押田 僕は40歳で入団しましてちょうど10年目です。

──40歳だったのですね! 当時、若い二枚目役者さんが入団したと思いました。

押田 若者風な佇まいを出してました(笑)。僕は花組芝居に入る前に、加納さんの演出したシェイクスピア作品に出演していて、そこで丸川くんとも一緒でした。

加納 そう!あうるすぽっとの「子どもに見せたい舞台シリーズ」でした。コンドルズのスズキ拓朗くんが振付で参加していたので、ダンスで見せる舞台にしようということでダンサーの人にも出演してもらって、花組芝居からも美斉津(恵友)とか谷山(知宏)が出演して、7人ぐらいで『マクベス』を上演したんです。

押田 加納さんの演出は初めてだったので、全然わからなくて。そうしたらみんなが代わる代わる教えてくれて(笑)。

丸川 ここはこうしたらいいとか言いやすかったので。

加納 けっこうちゃんとやれてたよね。

押田 いや、本人はパニクってました(笑)。

──今、あらためて感じるお互いの魅力は? 

丸川 押田さんは人柄が良いんです。イケメンで良い人って最高ですから。

押田 丸川くんは、とにかくインプットが早い。そしてすぐ形にする。僕が2日かけて覚えることを10分ぐらいで覚えちゃうんです。他の先輩たちもそうなんですが、加納さんのメソッドが染み込んでいる。すごすぎる!といつも思ってます。

丸川 いや、僕なんかまだまだです。とにかく先輩に突っ込まれて怒られたくないというところから始まって、今やっとなんとかなっているという状態ですから。

花組芝居で得たものは他の舞台でも生かせる

──加納さんについても話していただきたいのですが。

押田 とにかく作品1つ1つの情報量が半端ないですよね。掘り下げ方とか、どこから何を持って来たらいいか。例えば岡本綺堂さんの背景を全部調べてきて説明してくれる。その言葉が明確でわかりやすいんです。

丸川 外部でもいろいろ演出されてますが、そこで良いなと思ったことをすぐに持って帰って取り入れる。その柔軟性とか、プレイヤーでもあるので、僕がやったあとに加納さんがやって見せてくれると、それだ!と納得するんです。それに劇団で得たもの、知識とか技術とかで、他の舞台で生かせることがいっぱいあるんです。歌舞伎と現代劇って違うようで実は共通することが多いので、そういうものを詳しく教えてくださるので、そこは自分の力になっていると思います。

──花組芝居の表現は特殊なようで、実は基本的なことなのですね。

加納 僕自身が最初に役者としてどう生きていこうかと考えたとき、わりと色がなくて表現者として足らない部分があったので、思いきって女形という表現でやってみたらいいんじゃないかと。そこから花組芝居が生まれたわけですが、どんどん若い人が入ってくるようになって、彼らに付いていかなくてはとなったとき、自分の引き出しを増やすしかないなと。それでどんな演出家の方でも、言われたことはとにかくやってみようと決めたんです。そしてそれを劇団に戻ってきたときに試してみると、なるほどなと思うことも多かった。そういう中で、役者って気持ちも大事だけど究極は形だなと。形といってもフォルムではなくてテクニックというか、力点はどこなのか、呼吸はどうしたらいいか、そういうことが大事だなと思ったんです。

──基本をちゃんと知ることで、応用できるようになるということでしょうか。

加納 そうです。形は大事なんです。若い方の中には身体が馴れてしまっているなと思う人がいて、歌舞伎用語で言うと「芸が止まってしまう」。見ていて次に何をやるかがわかってしまうんです。僕の世代の新劇の凄い俳優さんたちは、次に何をやるかわからない人ばかりでしたから。たとえば市原悦子さんとか原田芳雄さんとか樹木希林さんとか、とにかく個性的な方ばかりで、ああいうふうになるためにきっとたいへんな苦労をしてきたと思います。

恐くて楽しい!?ミュージカルに

──最後に改めて、この作品を観てくださる方へのアピールをいただけますか。

押田 20歳の那須与五郎を演じます(笑)。源氏の若武者ですが、平家の落人となった女性を哀れんで恋に落ちます。相手役の玉琴を演じる永澤洋くんが可愛いです。キャッキャしてます(笑)。彼をさらに伸ばしてあげられるようにがんばります。物語はジェットコースターのような展開で進んでいきますが、自分なりに丁寧に演じたいと思っています。

丸川 そうなんです! 20歳の役なんです(笑)。でも40歳で20歳の役をできるというのは楽しいです。僕が出る《浦組》で玉琴を演じるのは武市(佳久)くんで、これまで僕は永澤くんと組むことが多かったので、今回は新鮮です。タイトルからはちょっと難しい話にも思われそうですが、ミュージカルですから気軽に観にきていただければと思っています。

加納 原作は怨念漂う暗いお話なのですが、今回はミュージカルという様式ですし、僕の役の玉虫という人も怨念というより怒りが強く出て、けっこうポジティブなんです。「怨んでるから殺してやるぞー!」とか「源氏は三代先まで絶対呪い殺すからね!」とか、すごくアクティブで、最後は「海の底にも都はあるからね。行くよー!」と行っちゃう(笑)。歴史上でも実際に源氏は三代で終わってますから、海の底で‘「バンザイ!バンザイ!」で大宴会してるんじゃないかと(笑)。そう考えると望み通りに生ききった人なんですよね。ですから冷たい炎と言われた歌右衛門さんのパワーと発散型の僕の芝居をうまく融合させながら、岡本綺堂のミュージカルとして、恐くて楽しいという舞台にしたいと思っています。

■PROFILE■
かのうゆきかず○兵庫県出身。87年に花組芝居を旗揚げ、ほとんどの作品の脚本・演出を手掛け、劇団外の演出も多数。俳優としても映像から舞台まで幅広い。また、女形指導、母校の日藝・カルチャースクールでの講師、NHK歌舞伎生中継の解説も務めるなど、多方面で活躍。劇団以外の最近の主な舞台は、【出演】加藤健一事務所『ドレッサー』、ミュージカル『刀剣乱舞』髭切膝丸双騎出陣、『十二夜 Twelfth Night』、PARCO PRODUCE『桜文』、江戸糸あやつり人形結城座『荒御霊新田神徳』、『演劇調異譚「xxxHOLiC」-續-』、こまつ座『連鎖街のひとびと』、あやめ十八番『雑種 小夜の月』(日替わりゲスト)、『演劇調異譚「xxxHOLiC」-續・再-』など。【演出】江戸糸あやつり人形 結城座『荒御霊新田神徳』(脚本•演出)、『新生!熱血ブラバン少女。』。西瓜糖『ご馳走』(演出)花組芝居ヌーベル『毛皮のマリー』(脚本・演出)で2019年前期の読売演劇賞演出家賞にノミネートされた。

まるかわたかゆき○広島県出身。2006年に花組芝居に入座。07年3月公演『かぶき座の怪人』では、新進の新劇俳優の役で加納の相手役を勤めた。劇団以外での最近の主な出演作品は、ミュージカル『刀剣乱舞』髭切膝丸 双騎出陣、装束meetsミュージカル『不思議の国のひなまつり』、あやめ十八番『空蝉』、ホリプロステージ『中村仲蔵 ~歌舞伎王国 下剋上異聞~』など。

おしだたけし○富山県出身。三鷹ワークスプロデュース「GOMI」にて初舞台を踏み、「神雄二ダンスミッション」にて数々のインプロヴィゼイションの舞台作品に参加。ダンスパフォーマンス「躍動塾」、「air:man」、舞踏「salvanilla」のメンバーを経て、2015年『毛皮のマリー』に入座。劇団以外での最近の主な出演作品は、装束meetsミュージカル『不思議の国のひなまつり』、カートエンターテイメント『帰って来た蛍~令和への伝承~』、路地裏ナキムシ楽団『青空荘の紙飛行機』、アート&朗読ライブ『鏡花VS花組芝居!!』など。 

 
【公演情報】
花組ヌーベル 
ミュージカル『平家蟹』
原作:岡本綺堂
脚本・演出:加納幸和
音楽:星出尚志
出演:《Wキャスト 浦組・浜組》
玉虫……………加納幸和・加納幸和
玉琴……………武市佳久・永澤 洋
那須与五郎……丸川敬之・押田健史
雨月……………八代進一・桂 憲一
おしお…………秋葉陽司・山下禎啓
平家蟹…………山下禎啓・八代進一
       桂 憲一・丸川敬之
       押田健史・武市佳久
       永澤 洋・髙橋 凜(TEAM LRINE)
●6/5〜11◎小劇場B1(東京・下北沢)
〈前売料金〉平日 一般5,000円 U-25/2,000円/土日 一般5,500円 U-25/2,500円/1日通し券 6日=9,000円 7日・8日=10,000円(税込・整理番号付・自由席)
※当日/各400円増し
※1日通し券/数量限定・劇団のみの取り扱い
〈チケット取扱〉花組芝居 03-3709-9430
https://hanagumi.ne.jp「チケット」ページ参照 
カンフェティ 050-3092-0051(営業時間:平日10:00~17:00)
https://www.confetti-web.com/
〈公式サイト〉https://hanagumi.ne.jp/stage-2506/
 
 

【構成・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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