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(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第百七十五回「附け打ち」

 新年明けましておめでとうございます。まさかの元旦からお邪魔致します。昨年は色々とお世話になりました。本年もどんどん未確認なヒコーを舞台していきたいと思いますよ。
 昨年は年末まで劇団☆新感線「爆烈忠臣蔵」を上演しておりましたので、なんだかバタバタとした年の瀬でした。松本、大阪、東京と三都市を巡りましたが、東京では新橋演舞場という普段から歌舞伎を上演している劇場で公演ができたことは感慨深かったですね。

 今回上演した「爆烈忠臣蔵」は、江戸後期における天保の改革の真っ最中に忠臣蔵を上演しようとする歌舞伎役者たちの話です。そして劇中の所々に「仮名手本忠臣蔵」を始めとした歌舞伎っぽいシーンがあります。もちろん我々は歌舞伎役者ではないので真似事ではありますが、ご指導も頂きまして「ああ、なんか歌舞伎っぽい感じにしたいんだな」くらいのシーンにはなったと思います。
 そして、それに大いに貢献して下さったのが「附け打ち」さんなのです。今回は、歌舞伎ならではの、この「附け打ち」についてご説明したいと思います。

 では附け打ちとは何か。今回の「爆烈忠臣蔵」で、そしてもちろん通常の歌舞伎公演で、舞台の上手(客席から見て右側)の端っこに陣取って、木の板を拍子木のような木片で叩くコトで「バタバタッ」という音を出している人、あれが附け打ちさんです。
 歌舞伎には三味線や笛、太鼓といった鳴り物に加え、義太夫さんや長唄さんなどの人声による歌声や調子はありますが、それらはいわゆる劇伴というかBGMに当たります。それに対して、効果音やSEを担当するのが附け打ちさんなのです。
 附ける対象は実に様々です。まずは役者の動きやしぐさに音を附けます。見得を切ったり走ったり注目したり、何か重要な動作をした時のしぐさに音を附けるのです。芝居に音を附けるので「附け」という訳です。
 さらに剣戟などのアクションの音、大道具の転換の音、馬などの足音や鳴き声、雨などの自然の音などの様々な効果音を、舞台を見ながらピタリと合わせて附けていくのです。それらの「附け」を打つのが「附け打ち」さんという訳です。

 今作で附けを打って下さったのは山﨑徹さんと大谷琢人さん。山﨑さんはいのうえひでのり演出の歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」でも附けを打って頂いているので、そのご縁で今回お願いすることになったのだと思います。もちろん、新感線公演で附け打ちが付くのは初めてです。その山﨑さんに附け打ちの事をいくつか伺ってみました。
 かつては役者さんに付いているお弟子さんが附けを打っていたそうですが、戦後くらいから大道具さんが担当するようになり、それぞれの劇場に大道具部の附け打ちさんがいるそうです。
 ですが、大道具の仕事が細分化されて行くに随って附け打ちさんも専門化が進み、最近では山﨑さんが中心となって附け打ち専門家の集まりもできているようです。

 舞台上に布を敷いて置いている平たい板を「附け板(つけいた)」といい、主に欅(けやき)が用いられます。その響きは地舞台や客席、劇場の構造によって左右されるので、様々に試して使用する附け板などを決めるのだそうです。
 そして両手に持って打つ二本の棒が「附け木(つけぎ)」です。白樫などの堅い木で作るのだそうです。打つ面は厳密に平らでなくてはならず、お尻の部分(底面の手前側)を丸く落とすことで軽快に打てるようになります。
 附け打ちさんは、基本的にはこの附け板、附け木だけで様々な音を出します。ですが、今回のようなイレギュラーな公演や演出家の希望があれば、附け以外にも様々な打ち物を使う時もあります。例えば今作では、本来の歌舞伎では鳴り物さんが鳴らす「板木(ばんぎ)」という中が空洞になった板も使用しています。寺院によくある魚の形をしたものと基本は同じなんですって。板木を撞木で叩くと丸みのある低めの音が出ますが、歌舞伎界では少し不吉の前触れのような場合に打つのだそうです。
 他にも、今回のような珍しい演目の場合には鈴だとかタライだとか、とにかく音のするモノを色々と試してみるそうです。通常の歌舞伎ではない時には、自分で工夫を凝らして試したりもするそうですよ。

 今作では附け打ちさんが入ることによって、グッと歌舞伎っぽさが増しています。ただ、本物の歌舞伎ではこれほどに全篇にわたって附けが多用されはしないのだそうです。なにしろ新感線では音数がやたらと多いのです。稽古中に、いのうえさんの要求で次々と増えていきました。
 もちろん最初に打ち合わせはあるのですが、稽古中にいのうえさんが「ここで附けを」とか「ここでバチバチ、ここでバーッタリ」とか増やしていくんですよね。誠に申し訳ありません。
 で、この稽古しながらドンドン決めていく(というか増やしていく)感じってのが、音効スタッフの効果音(サンプラー)担当さんに「ここでドコドン、ここでシャキーン」とかいうのと似ているのです。そこで思ったのです。附け打ちというのは現代演劇に於ける「サンプラー」に該当するのではないかと。

 サンプラーというのは40年程前から演劇などの音響効果(音効)の現場に導入された機械でして、様々な音の波形を記憶して、トリガー(例えば楽器のキーボード)を押すことでその音を再生させる楽器です。本来はピアノやストリングスなどのリアルな音を出すために開発された楽器なのですが、「取り入れた音を再生する」のならば単発の効果音を鳴らすのにも最適だろうということで、演劇音効の現場に取り入れられました。何を隠そう、いや隠しませんが、新感線の音効にサンプラーを取り入れたのは私です。もっとも、今では楽器のサンプラーではなくてコンピューターによるソフトウェアを使用していますけれども。
 まあとにかく、舞台上の演技を見ながらリアルタイムでその場に適した音を入れていくことができる画期的なマシンなのです。

 で、その「舞台の動きを見ながらリアルタイムで単発の音を附けていく」という所が、附け打ちとサンプラーに共通するのだなとか思ってしまったのですよ。時代と共に進化してきた当時の最新技術と、今の最新技術。アナログとデジタルの違いこそあれ、演者の動きを見つめ、呼吸をはかりながら音を出していくのは昔も今も同じなのです。そこには綿密な稽古と閃きのセンス、そしてお互いの信頼感があるのです。ありがとうございます。
 ただ、その音を出すキッカケが多すぎるのが新感線の大変さではあるのですけれどもね。

手前の大きな板が附け板、その手前に二本あるのが附け木、奥にあるのが板木です。

PROFILE

粟根まこと
あわねまこと│64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。

【出演予定】
劇団ホチキス 第52回本公「ベイビーブラフ」
【東京公演】
1/28〜2/1◎本多劇場
【長岡公演】
2/7・8◎長岡リリックホール シアター
【名古屋公演】
2/14・15◎メニコンシアターAoi

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