
植本 今回はピンク地底人3号さん、今大注目の作家さんですね。
坂口 僕はあまりわかってなかったです。
植本 関西の方ですね。
坂口 いしいひさいちって知ってます?
植本 漫画家の。
坂口 はい、僕は彼のマンガが大好きで、
植本 うん。
坂口 「地底人」っていう作品があるんですよ。
植本 うん。
坂口 で、それは彼の中ではあんまり面白くないのね。
植本 うん?
坂口 ほら、ピンク地底人3号でしょ、今回やる人。
植本 そうそう。
坂口 だから面白くないのかなって、こう繋がりが、
植本 どういう発想?
坂口 あって。
植本 うん。
坂口 なんかあんまり近づかなかったんです。
*
坂口 植本さんはこの人のお芝居を見たの?
植本 すみません、僕も全然。
植本 栗山民也さんが演出した『明日を落としても』の作者で鶴屋南北戯曲賞を受賞してますね。
坂口 おお。
植本 で、今回やる戯曲の『カンザキ』は『カンザキさん』というタイトルで小説化されていて。でも微妙に似てるような似てないような、似てないような似てるような・・・。
坂口 読んだの?
植本 読んだ。それは去年の野間文芸新人賞なんですって。
坂口 東宝の『町田くんの世界』の脚本も担当してますね。いろんな人が注目してるんですね。
*
植本 戯曲を読んでどうでしたか。
坂口 あの、最初読んだ時はね、なんか、こう暴力的なセリフがいっぱいあって。
植本 うん。
坂口 ちょっと嫌な気持ちになったんですよ。でもなんか引っかかるもんがあって。もう1回読んだら独特のユーモア感で、ジェンター的な要素などダイバーシティ満載でいろいろな感情が渦巻いていて、全体としては叙情があってね。とてもおもしろかったです。
植本 よかった。
坂口 その面白さが自分の感覚だけかな思うところもあるんだけど、とにかく面白くて。
植本 俺もとても面白くて、力のある作家さんだなって思いますね。 これ、欲張りな作品といえばそうじゃないですか。幽霊も出てくるし、未来人も出てくるのでね、小説と比べると全然ファンタジー色が戯曲の方が強くてね。
*
坂口 でもさ、これは複雑で内容はうまく伝えられないですね。
植本 これ2018年と2019年を話が行ったり来たりするんですよね。
坂口 だからお客さんはよくわかんないですね。台本には何年の何月何時っていうのが出てますけど、これは劇場では出るのかな。
植本 どうだろう。
坂口 どちらにしてもまあ意図的にこう、前後1年ごとに場面を入れ替えたりして作ってるわけでしょ。筋がダイレクトにはわかんないように作ってるわけですよね。
植本 面白いです。読んでいてあれ、これどっちの時間だ?って確認したりしましたけど、でも実際の舞台ではそうはできないですから。
坂口 わからなさをあえて作っているんですね。
*
植本 日本劇作家協会の戯曲デジタルアーカイブでぜひ読んでほしいですけど。
https://playtextdigitalarchive.com
坂口 ぜひ。
植本 まあそう言いつつ、内容をかいつまんで話すと、京都の外れのある家電の配送会社が舞台です。そこに新人くんが二人同時にやってきて苛めに近いしごきを受けて困惑しつつ馴染んでいこうとする様子が中心に描かれています。
坂口 「倉庫の裏側には金属工場があり、巨大クレーンによって廃棄物が四角い塊に圧縮されている。その時に火花を伴い発せられる極めて不快で不吉な音が四六時中、小屋前の空気を支配している」ってト書きにあります。こういうのちょっと好きです。
植本 「ギーガシャン、ギーガシャン……」という音がズーと聞こえているんですね。
【登場人物】
緑川 遥(りょう)
坂本 守
神崎純弥
神崎芳雄(よしお)
神崎京子
神崎りさ
神崎ひかる
武田昌美
田中拓次
植本 状況としては社長だったお父さんが亡くなって、今は奥さんが社長になっているけどその人も脳血栓後でリハビリ中です。で、全く性格の違う二人の息子がいて。 副社長の長男(神崎純弥)はわりとおっとりしているのですが、次男(神崎芳雄)が病的にエキセントリックで、
坂口 車で配送を担当している社員ですね。新人を同乗させて仕事を教えるんですが、直接暴力は振るわないのですが、圧倒的に暴力的な人でこの人が出来事のキーになります。
植本 乱暴者でね。彼のリアリティの作り方、彼のひねくれ方なんかも、よく考えられていますよね、EXILEの強烈なファンだったりしてね。この人がただのヒールではないので物語が膨らんできます。
坂口 ええ、その芳雄が指導という名のもとに新入社員を病的にいじめますよね。そこが強烈ないじめの場面として出てくるから、そこに読み手がフォーカスしてしまうとちょっとつらい。もっといろんなところに話のポイントがありますからね。
*
植本 そこに若者が2人が働きたいとやってくる。 全然経験がないから、とにかくもう全然務まらないみたいな。芳雄からしごきを受けて困惑しているというのがメインの話です。
坂口 はい。
植本 同時に入ってきたアルバイトの緑川遥君と坂本守君の苛められているもの同士の二人の関係も詰めていくと面白いですよね。緑川君はジェンダーとして悩んでいて、坂本君はえも言われぬコンプレックスがあって、弱いもの同士のなんとも言えないもどかしさを感じます。
坂口 あの、緑川君はもう自殺しちゃうんじゃないかって。
植本 途中でそう思うよね。
坂口 でも緑川君は事故で死んじゃいますね。
植本 ね。死んだっていう知らせの場面もおもしろいですね。警察から電話がかかってきて、
坂口 その時、緑川君は副社長と話をしているんですが、ここは幽霊として出てるんですよね。
植本 そうなんですよ。
坂口 電話を受けた副社長が「(警察が事故死したと言っている)本人ならここにいる」っていうんですけど、
植本 ね。幽霊と会話していたんです。
坂口 で、緑川君はその後はずっと幽霊として舞台にいるんですよね。
植本 他の人には見えないけどいます。
*
坂口 そんななかで、社員の田中拓次さんっていう人が地味だけど中和剤っぽい役割でいいですね。
植本 はい。
坂口 この会社に勤めているベテランの運転手ですね。
植本 そう、みんなから慕われていて。
坂口 車椅子に乗った社長でもあるお母さんが家から事務所の方に出てきていて、そこでの彼との会話とか、なんか、ああ、ここは見てみたいなって思いました。三日月の夜なんですけどね。
植本 神崎純也と拓次の間柄も意味深ですね。
坂口 そうですね。最初の方のシーンでね、
植本 そう、暗転直前にね。
坂口 純也が拓次の肩に頭を乗せて、暗転っていう、思わせぶりな、そういう暗転がね。
植本 その思わせぶりはラストにつながっていきますからね。本当にね、えーって思ってね。
*
坂口 すごいですよね。それぞれの家族の問題などひとつひとつ言ってたらキリがない。
植本 意外な展開もしますしね。あ、そっち、そっち行くんだって。
坂口 そうですよね。もう本当に読んでくだされば分かりやすいんだけど、みんながみんな悩んでいて。
植本 あの、すごく安っぽい言い方ですけど、みんな不器用でね。
坂口 そうですよね。足が地に着いている不器用さですね。
植本 ま、それを実直といえばいい感じになりますけど。
*
植本 しかもそれが。えーと、思い出した。最後さ、ものすごく時間飛ぶでしょ。
坂口 30年。
植本 30年後だからもう未来の話だよね。
坂口 そうですよね。で、あれはなんかカート・ヴォガネットの引用だと。
植本 あ、そこがそう。「スローターハウス」。そうなのか。
坂口 引用してるって書いてありましたね。
植本 未来で、しかも未来人が出てくるっていうところで終わるからね。すごいんだよこの話。
坂口 しかもあの赤ん坊のひかるが。
植本 30歳になってて。
坂口 でも彼は向こうにいて見せないで。
植本 拓次が、
坂口 結婚するって言ってますよね。
植本 そうなんですよ。
坂口 ひかるくんは男。
植本 そうです。
坂口 だからこう30年後にはそうなってるのかな。
植本 だから、その世界から2018年、2019年にやってきてるっていう。すごくないですか?この設定。
*
坂口 この人腹くくってますよね。誠実でカッコいいです。
植本 なんかね、とても丁寧だから、シーン、シーンの温度感?空気感がちゃんと伝わってくる。
坂口 そうそうそうそう。 だからこそ最後に言うと、やっぱり役者さんっていうか、その現場の作り方がすごく難しい作品なのかなって思うんですよ。
植本 でもとても良い作品に出会えたかなって思いますけどね。
※坂口注:以下、最後のシーンの引用(『カンザキ』ピンク地底人3号著より)です。くどいですがぜひ戯曲を読んでみてください。
【ト書き】
遥は己の身体の奥で蹲る、本当の男としての自分自身を純弥が見てくれている……その事をはっきりと感じ取る。生温い風が吹く。
ゆっくりと空を覆っていた雲が流れていく……
満月が、現れる。
意を決した遥は作業着をゆっくりと脱いでい……
サラシを巻いた遥の体が露わになる……
彼の美しく、逞しい背中が、月の光に照らされて……
暗転。
☆
ギーガシャン、ギーガシャン……やがてその音が単音に変化していく……
ギーガシャン、ギーガシャン、ギーガシャン、ギーガシャン……ピ、ピ、ピ、ピー、ピ、ピ、ピ、ピ……
☆
●2049年7月(※1)
13:00
30年後。
病室。
カーテンが微かに揺れている。
下手より男(拓次に似ている)が入ってくる。
男はサイドテーブルに持ってきた虫かごを置き、蓋を開ける。
男は椅子に座り、ベッドで眠る純弥を見つめる。男 初めまして……なかなか来れずにすいません……ひかるは見てられないって外にいます……30にもなって弱虫なんですよ。
純弥 ……
男 凄い、外、暑いです。
純弥 ……
男 そこの公園にね。クヌギの木があるんです。ご存知ですか?
純弥 ……
男 捕まえてきました。カブトムシ。
純弥 ……
男 お義父さん、ひかると結婚しようと思ってます。
純弥 ……
男 ……許して、いただけますか?
虫かごの中のカブトムシが、羽を広げて……
終わり
参考文献:『スローターハウス5』(カート・ヴォガネット・ジュニア著)
(※1)夢か現かわからないラストシーンのみ、病室へと変わる構成は『スローターハウス5』からの引用。
プロフィール

植本純米
うえもとじゅんまい○岩手県出身。89年「花組芝居」に入座。2023年の退座まで、女形を中心に老若男女を問わない幅広い役柄をつとめる。外部出演も多く、ミュージカル、シェイクスピア劇、和物など多彩に活躍。09年、同期入座の4人でユニット四獣(スーショウ)を結成、作・演出のわかぎゑふと共に公演を重ねている。
坂口真人(文責)
さかぐちまさと○84年に雑誌「演劇ぶっく」を創刊、編集長に就任。以降ほぼ通年「演劇ぶっく」編集長を続けている。16年9月に雑誌名を「えんぶ」と改題。09年にウェブサイト「演劇キック」をたちあげる。





