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4年ぶりに“故郷”浅草へ!「平成中村座 十月大歌舞伎」製作発表会見レポート

中村長三郎 中村七之助 中村勘九郎 中村勘太郎

江戸時代へタイムスリップできる芝居小屋が、4年ぶりに浅草へカムバック!
昔ながらの芝居町、浅草。江戸時代には歌舞伎の江戸三座がやぐらをあげ、現在ではお正月に「新春浅草歌舞伎」が街をあげて開催されるなど、歌舞伎とは縁の深い街だ。
2000(平成12)年に、今はなき十八代目中村勘三郎の念願がかなって、江戸の芝居小屋を模して期間限定で仮設されたのが「平成中村座」である。あれから26年。当時は隅田公園の一角に建てられていたが、近年では東京で上演がある場合には浅草寺の境内に場所をうつして、観光客でにぎわう浅草の街なかで、よりうきうきした雰囲気で公演が行われる。

この劇場が、「平成中村座 十月大歌舞伎」として、10月1日〜25日(8日・13日の第二部・19日休演)、4年ぶりに浅草寺境内に帰ってくる。
出演者は、中村勘九郎、中村七之助、勘九郎の息子の中村勘太郎と中村長三郎の4人を中心とする中村座一門はもちろん、平成中村座の歴史が始まってから苦楽をともにしてきた中村芝翫、中村扇雀といった常連メンバーに加えて、中村橋之助、中村福之助、中村歌之助らのフレッシュな若手や、中村鴈治郎、そして限られた公演だが片岡仁左衛門が参加するという豪華な顔ぶれだ。

演目は、第一部がまずは橋之助・福之助・歌之助の『初帆上成駒宝船(ほあげていおうたからぶね)』に、歌舞伎の三大名作として名高い『仮名手本忠臣蔵』から「九段目 山科閑居」。大星由良之助(モデルは大石内蔵助)に勘九郎が、女方のなかでも大役のひとつ戸無瀬に七之助が、それぞれ初役で挑む。そして、第一部の最後は勘九郎・勘太郎・長三郎による『連獅子』。勘九郎と勘太郎、勘九郎と長三郎のふたりずつで演じたことはあるが、中村屋の代名詞のひとつのような『連獅子』を初めて3人揃ってつとめる、注目の幕だ。
第二部は、『御存 鈴ヶ森』から。江戸の侠客・幡随院長兵衛が中村芝翫、若きお尋ね者・白井権八は勘太郎。祖父の勘三郎も得意とした権八に初役で挑む。最後の『助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)』の助六を勘九郎が初役でつとめる。助六の恋人・揚巻は七之助。助六の兄・白酒売新兵衛は中村扇雀で、公演最後の3日間のみ、今回勘九郎に助六を指導する片岡仁左衛門がつとめるスペシャルな回となっている。

この製作発表記者会見が7月下旬に都内で行われた。会見には、松竹株式会社取締役副社長演劇本部長山根茂之、中村勘九郎、中村七之助、中村勘太郎、中村長三郎が出席し、挨拶のあと質疑応答へ移った。

【挨拶】
中村勘九郎 4年ぶりに平成中村座が浅草・浅草寺境内に帰ってまいります。この平成中村座は一から建てるもので、昔と違って今は1ヶ月の興行だけするのが本当に難しいなか、皆様のご協力のもと、中村座ができるのを本当に嬉しく思います。父が遺してくれた財産の1つですし、私たちも中村座で芝居をすると本当に楽しい。お客様もわくわくできるような芝居を、役者陣もわくわくしながらつとめたいと思います。

中村七之助 4年ぶりに平成中村座が帰ってくることは本当に幸せですし、いろいろな方々のご協力のもと、中村座で芝居を1ヶ月間つとめさせていただけることを本当に嬉しく思います。「九段目」の戸無瀬、揚巻と、素晴らしい女方の大役をつとめさせていただきます。皆さんの期待をひしひしと感じております。それに応えられるよう、その倍、3倍、4倍超えられるように一生懸命つとめます。

中村勘太郎 僕も4年ぶりに中村座に出演できて、とても楽しみです。第二部の『鈴ヶ森』の白井権八に出演させていただきますが、とても憧れていた役で、小さい頃から立廻りをずっとやっていたので、とても嬉しい気持ちでいっぱいです。『連獅子』は3人で踊るのが初めてで、振りも違いますし、頑張りたい。

中村長三郎 4年ぶりの平成中村座に、再び僕も参加できることを嬉しく思います。祖父が残したこの大きな芝居小屋でまたできること、本当に嬉しいです…!

【質疑応答】
──勘九郎さんが今回『助六』を選ばれた理由や、役への思い入れは?

勘九郎 やるとは思っていなかったです(笑)。でもやはり『助六』は華やかで、芝居自体も、古風ですが新しく見える、とても不思議な感覚に誘ってくれる舞台です。各お家で、外題が違うだけでやっていることは同じという演出も面白いなと、子どもの頃から思っていました。やりたいと思ったのは、仁左衛門のおじ様が父(十八代目勘三郎)の追善で『助六』を歌舞伎座で出されて、白酒売で出演させていただいた。(七之助に向かって)揚巻は初役だったね? その時に「あぁ、やはりかっこいいな」と思ってからです。あとは、父が中村座で『助六』をやるのが夢の1つだったので、できなかった悔しい思いを、僕の肉体を通してぶつけることができたらいいなと思いました。

──すごく色気のある、かっこいいお役ですが、気負うものはありますか?

勘九郎 もちろんありますが、中村座を出て100m歩けば花川戸(地名)ですから、花川戸の助六にとって大きな力になっています。中村座もそうですし、仲見世のメンバー、江戸の気風のいい人たちの空気感を町全体がまとっているので、気負わずとも『助六』という空間に入っていけば大丈夫なんじゃないかなと思います。

──七之助さんは揚巻を演じられた経験がありますが、前回感じられたことや、今回の意気込みは?

七之助 大役中の大役です。私は歌舞伎座で2度ほどつとめさせていただいていますが、やはり中村座で『助六』を観るのは特別なこと。中村座は何でも合いますが、私もここで『助六』をやったら楽しいだろうなと心から思います。兄は(助六を)絶対やらないだろうなと思っていたので、私は半ば諦めておりました。父が生きている時に「お前、俺が助六をやるから揚巻をできるようにしておきなよ」と言ったのをずっと胸に秘めていて、仁左衛門のおじ様に揚巻に大抜擢していただきました。兄とやりたいけど、もしかしたら中村座では違う方に出ていただいて…と思ったら、兄が手を挙げたので、最高の『助六』をお見せできるのでは。仁左衛門のおじ様に数日出ていただけるなんて、盆と正月がいっぺんにきちゃったスペシャルな『助六』になったのでは(笑)。

──ポスター撮影では仁左衛門さんが立ち会われたそうですが、その時のエピソードは? また、助六を演じるにあたって聞かれたことは?

勘九郎 今月(7月)、『綱豊卿』が終わって1時間後ぐらいにわざわざ来てくださり、見てくださいました。この黒羽二重の衣裳はおじさまのものをお借りしました。帯も刀も印籠も傘も、全部自分のお家のものなんですね。今、帯は製作中で、撮影の時はおじさまの帯を締めさせていただいて、これはCGです(場内笑い)。助六はそれだけ大変なんですよ。刀も印籠も、小道具さんで一から作っています。おじさまの型でやらせていただきますが、祖父(十七代目勘三郎)が何度もつとめていた時は音羽屋の型なので、「ええのか?初花桜(仁左衛門が演じる場合の題名)で」と言われました。でも、父が「お兄ちゃん(仁左衛門)に教わってやりたい」と言っていたので、その遺志を伝えたら、それならと、傘と着物を貸してくれました。だから、紋は杏葉桜(ぎょようざくら、仁左衛門が演じる場合の紋)です。小道具さんと話し合って、鍔(つば)の形をどうしようとか、紋をどこに入れようとかを話し合いながら作っていく作業も、とても楽しい。撮影中は「ええ男の気分で!」とか言ってくれました。やはりあの助六役者に褒められたら、それは気分が良くなりますよね(笑)。

──勘太郎さん、長三郎さんは、『連獅子』をそれぞれお父様とつとめていますが、その時の思い出などをふまえて、今回どういうふうに演じたいですか?

勘九郎 これは補足で、3人で『連獅子』をやるのは初めてですが、中村座で『連獅子』がかかるのは初めてなので、これも楽しみですね。あの狭い空間で、3人が、さて毛を振れるのか?というね。

勘太郎 前回は「連獅子5箇条」をおーわん(勘九郎)が作ってくれて、それと映像を見ながら踊ったのがすごく記憶に残っています。

長三郎 僕は3年ぶりの『連獅子』で、しかも祖父と父と叔父がやっていた『三人連獅子』がこんなにも早くできるのは驚きです。 一生懸命やりたいです。

──『連獅子』は、親から子へ受け継がれる演目で、特に中村屋では大切にされていますが、今回の舞台を通して勘太郎さんと長三郎さんに受け継いでほしいことは?

勘九郎 『連獅子』は、私が多分一番やっている演目だと思います。父と踊っていますし、やはり父から『連獅子』を通して、仔獅子の踊りもそうですが、歌舞伎の踊り、目上の人と踊る時にはどうしたらいいかという、踊りの礼儀も教わった作品なので、それを伝えていきたいですし、今回、勘太郎に背を抜かれたので(場内笑い)、父の気持ちもまたちょっとわかる。不思議な感覚で、お客様も観てくださるんじゃないかなと思います。

──勘九郎さんと七之助さん、おふたりのパートナーが、中村屋にとっても平成中村座にとっても、観客にとってもすごく楽しみだと思います。お互いについて思うことは?

勘九郎 本当に頼もしいし、彼は、もちろん古典もそうですが、新しい作品の読解力、演出方法とか、人をまとめたり、リーダーではないけど引っ張っていく力がすごいので、その点は憧れでもあり、誇らしいと思っています。子どもの頃から、お互い意見を言い合わなくても、何がしたいかとか、どこに行きたいか意思疎通ができていて、2人で新しいものを作り上げられることが楽しいし、嬉しい。父が言っていた、これは祖父の遺言ですが「兄弟仲良く」というのはこういうところに生きてくるんだなと思いますね。

七之助 私も誇らしいですし、舞台で共演したら一番安心でき、私の芝居を引っ張ってくれる。私も芝居を見ていて思いますが、盟友といわれる人は、自分だけじゃなく周りのみんなも自分で引っ張っていく力が凄まじい。そこは兄はピカイチなので、私は乗っかっていけばいい。負けないように、互いに高め合っていかないといけないし、中村座で、助六と揚巻で舞台上で会う(共演する)ことはなかなかない。これは、自分を自分で褒めたいです。

──勘九郎さんは助六が初役です。その意味では七之助さんは先輩ですが、勘九郎さんに期待されていることは?

七之助 テレビで知ったのですが、私が揚巻の初役の時、兄が白酒売で、モニターで、私が花道を出た時に、父の写真を出して「揚巻が出てきたよ」と言っていました。私もそんな気持ちです。揚巻は(出が)終わったら一休みしたいのですが、やはり初日は袖に行って、花道から傘をさして出てくる兄の助六を目に焼き付けたいなと思います。

──『鈴ヶ森』のお話をいただいたときの気持ちや、やりたいこと、頑張りどころは?

勘太郎 だんまりでの立廻りが初めてなので、そこが大変かなと思っています。立廻りのお芝居をすることがあまりなかったので、頑張りたい。お話を聞いた時は、家族がじじちゃま(十八代目勘三郎)の権八、(二代目中村)吉右衛門のおじ様の長兵衛の話をよくしていて、観たかったなと思っていたので、それをやれるのがすごく嬉しかったです。

──一気に身長が伸びて、感覚が変わったりすることは?

勘太郎 今は177㎝くらいあるので、踊りとかでもっと腰を折らなければいけないところとかが変わってきていて、そこが難しいなあと思っています。

──他の演目についても見どころを教えてください。

勘九郎 最初の『初帆上成駒宝船』は、三兄弟が橋之助・福之助・歌之助になった時にお作りになった舞踊です。とても面白い。

七之助 最初に観た時から、僕は「やりなよ。なんでやらないの?」とずっと言っていたぐらい、洒落ている踊りです。今回それ以来なのでもったいない。彼らのための踊りなので、すごく楽しみにしています。

勘九郎 どうなるかわかりませんが、中村座の演出で後ろ(舞台裏の背景の壁)を開けるというものがありますが、この十月の狂言で唯一開けられるのはこれだけです。

七之助 「九段目」は大作ですが、『忠臣蔵』の通しのスタンダードだと、どうしても時間の問題で八段目・九段目・十段目が入りません。その3つのなかで僕が一番好きな、素晴らしい作品だと思っています。父も中村座で、初役で戸無瀬をやりました。(七代目中村)芝翫の祖父に、神谷町の家に一緒に習いにいった時、全役を、義太夫まで祖父が口で全部やってくれました。本当にびっくりしました。DVD、ビデオがない時代の役者の底力を見た。父と帰りのタクシーで「すごいね…」と言った思い出のある「九段目」を、また中村座でやらせていただけるのは本当に嬉しく、一生懸命つとめたい。

──平成中村座は、勘三郎さんが26年前に相当苦労して作られました。以前とは経済状況が全然違うなか、お金をかけて小屋を作って歌舞伎公演をする意義は?

勘九郎 (頷きながら)本当に大変だと思います。資材の価格が全然違うので、作り上げて1ヶ月の興行というのがこれからもちょっと難しくなってくるのではと思います。物価がそれほどでもない時でも、(収支が)トントンかというなかでやらせていただいた。そこは本当に皆様方の力、心意気ですね。中村座は江戸時代にタイムスリップできるような小屋で、お客様をそこに誘い、演劇、文化に触れていただく。父の財産だからでなく、みんなが1人でも多くのお客様にそれを感じていただきたいと思ってやっていることなので、ありがたいです。

七之助 大人の事情を考えると、絶対的にやらないであろう興行ですが、松竹の皆様をはじめ、私たち歌舞伎役者、それに携わるいろいろな人たちが、楽しむことが好きなんじゃないですかね。「これをやろう」と1つのことを成し遂げようという力がすごく強い。何よりもお客様に楽しんでもらおうという精神が、公演をやる意義ではないでしょうか。

──通常の劇場と中村座では、やっていて違いがありますか?

勘九郎 もうねえ…やってみて?(場内笑い) たまらないですよ。歌舞伎をいつも公演している大きな劇場でかかる古典の作品を、同じ演出で中村座で上演すると、同じものを観ている知り合いから「やっぱり中村座仕様で、わかりやすく演出してくれているんだね」という話を本当によくします。こっちは何もしない。ただただお客様の「観よう、楽しもう」という感覚で、歌舞伎は昔の言葉だから聞き取りづらいというのが多分吹っ飛んじゃうんです。だからわかるし、面白い。役者は、中村座で芝居したらたまらないですよ。

七之助 最高の空間ですね。今想像して、揚巻で花道でふっと振り返ったときの中村座はしびれるだろうなと。1日1日本当に大切に、もちろん毎回そうですが、演じなくてはいけない。楽屋はやはり歌舞伎座とかに比べればとても不便ですが、1つのことをみんなで作り上げる空間、気持ちが楽屋じゅうから出ています。よく父は、駄目出しがしやすいと言っていました。わざわざその部屋に行かなくても「おいっ」という声が聞こえるので。その意味で、楽屋も舞台も1つになって「家族」という感じになれるのが中村座ですし、お客様も家族みたいになります。(公演の)1日を、1ヶ月を、楽しんでいただきたい。

【公演情報】
「平成中村座 十月大歌舞伎」
■日程:10月1日(木)~25日(日)[休演]8日(木)、13日(火)第二部、19日(月)
■会場:平成中村座 浅草寺境内・仮設劇場
■演目:第一部『初帆上成駒宝船』、『仮名手本忠臣蔵 九段目 山科閑居』、『連獅子』
第二部『御存 鈴ヶ森』、『助六曲輪初花桜』
〈「平成中村座 十月大歌舞伎」情報ページ〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/play/982

【文/内河 文 写真(C)松竹】