タカハ劇団『帰還の虹』まもなく開幕! 高羽彩・田中亨・池岡亮介 インタビュー

田中亨・高羽彩・池岡亮介

自分が明日どう生きようかと考える作品に

戦争下での画家たちの生き方を描くタカハ劇団の傑作『帰還の虹』が、11年ぶりに再演される。(座・高円寺1にて8月7日〜13日)
1944年――太平洋戦争末期の日本。「戦意高揚画」で名声を博し、画壇の寵児となっていた画家とその仲間たち、そしてそこに訪れた一人の画学生。彼らの姿を通して、「戦争と芸術活動」の現実が浮かび上がる。

戦後80年となる年に、改めて突きつけられる表現の自由という問題を、鋭い人間考察で描いたこの作品について、作・演出家の高羽彩と出演者の田中亨と池岡亮介に話を聞いた。(えんぶ8月号より転載。)

画家という生態の特異性みたいなものを描きたかった 
 
──高羽さんは、2023年の『ヒトラーを画家にする話』もそうですが、戦争の時代を画家という切り口から表現していますね。

高羽 私は昔から作劇のインスピレーションを絵画や画家の生き方などから受けることが多かったんです。人生で自分のなすべきこと、やりたいことがある人って希有で、大体の人はそれを探しながら生きていく。でも画家はそれをすでに見つけている。その特異な部分を面白く描けたらと思っているんです。

──この作品も日本の戦争画をモチーフに、画家の内面を浮かび上がらせる内容になっています。そんな作品に出演するおふたりですが、田中さんは画学生の貞本役です。

田中 僕は2年前の『おわたり』でタカハ劇団に初めて出演させていただいて、今回は二度目なので、そのぶん成長を見せないといけないなと思っています。それに小さい頃から絵を描くのが好きだったので、ちょっと運命的なものを感じています。

高羽 今回はほとんどオーディションで出演者を決めたのですが、田中さんは絵を描くと知っていたので、この作品を上演するならぜひ出てほしいと思っていたんです。

──そして池岡さんはオーディションで選ばれました。

池岡 タカハ劇団さんから何度かオーディションの話をいただいていたのですが、うまくスケジュールが合わなくて、今回やっと参加できました。オーディションに参加するにあたってやりたい役を挙げるのですが、僕は2役挙げて、その1つの役がめちゃくちゃ倍率が高くて、オーディションでその役をやらせてもらえるかどうかわからない状態だったんです。それだけにその役に決まったときはとても嬉しかったです。

──それが孝則役で、画家たちが出てくる物語の中で1人だけ普通の青年ですね。だからこそ異色で印象に残ります。

高羽 この作品では、画家という生態の特異性みたいなものを描きたいと思ったんです。一般常識とはまた違う行動原理がある人たちを描く場合、それとの対比として当時一般的だったと思われる青年像が大事で。画家たちが画家たちにしかわからないことをずっと喋っていると観客を置き去りにしてしまう。そこで観客と物語を繋げるキャラクターとして登場してもらいました。

──作品の内容についてはおふたりはどんなふうに感じましたか? 

池岡 アーティストというか画家ならではの自分の作品に対する情熱とか欲望とか、そういうものが読み取れる本だなと。アーティスト同士としてぶつかる場面も、根底に熱があって、自分の情熱と言葉を持ってぶつかり合う。そういうことは今の時代にはあまりないので、そういうシーンは見ているだけでも楽しいし、ワクワクします。

田中 僕は今回初めて、戦争画というものを意識して見たのですが、劇中でも戦争画を描かなくてはいけないと主張する人と、自由に描いていいんだと言う人と両方出てきます。僕個人は戦争画を描くのは苦しく感じるのですが、それを描くことに意義を感じる人もいたわけで。そんなふうに戦争画というものをいろいろな視点で捉える舞台は、今まであまり観たことがなかった気がします。

──いわゆる戦争協力については、小説家や演劇人の中には戦後その反省を公表した人たちもいましたが、絵画の世界ではどうだったのでしょう?

高羽 小説家にせよ演劇人にせよ、戦争中の反省をきちんと清算している人は、実はすごく少ないんです。この作品は戦時下の画家の話ですが、現代においても表現者、広い意味で表現する人たちがいかに社会というものとコミットしているかという、その普遍的な課題の話だと思っています。そこの責任を問うということは現代でもあまりなくて、最近やっと放送の世界でそのことに触れだした。まさに今の話でもあると思います。

オーディションのときに「演劇大好きっす」と

──田中さんと池岡さんの俳優として魅力についても話していただけますか。

高羽 田中さんは俳優としての才能だけでなく、その場の状況をまるごとスッと受け入れる底知れない度量の大きさがあって。本人はそのつもりはなくても居ずまいにそういうものがあるので、『おわたり』のような、人とそうでないもののあわいに居る役とか、今回の貞本のように、学生なのか画家なのか、戦争に行くべきなのか絵を続けるべきなのか揺れている役が似合うんです。それも普通に演じたらただ葛藤している人になるところを、田中さんはまるごと抱えたままそこにいる。そこが魅力だと思います。

──たしかに、若いのに物事に動じない感がありますね。 

高羽 池岡さんはオーディションで初めて会ったのですが、ずらっと並んでいる中でテカッと光っていて、生命力を感じる俳優さんだなと。それとすごく印象に残っているのは、そのオーディションのときに「演劇大好きっす」って(笑)。

全員 (爆笑)。

高羽 そうだとしても普通は口に出して言わないですよね。しかもオーディションのような周りの出方なども気になるような場で。たぶん私が、池岡さんは出演歴がすごいし映像にも出ているのにうちみたいな小劇場でいいんですか? と聞いたからだと思うんですけど。そしたら「演劇大好きっす」「演劇がやりたいんです」って。それに感激しましたし、その胆力とか真っ直ぐな生命力が孝則役にぴったりだったんです。

池岡 そのオーディションがすごく楽しかったんです。雰囲気がいいというか、参加している方たちもみんな生き生きしていて、それぞれの演技も面白くて。

高羽 オーディションらしくなかったんですよね。台本を読んできてもらって、シーン稽古に近い感じでやってもらったんです。そうすると作品に対する向き合い方などもわかるので。そういう点も含めて今回の公演は信頼できる役者の方々が集まってくださいました。

──そんな皆さんで作る舞台が楽しみです。改めて公演のアピールをいただけますか。

池岡 演劇も捉え方は自由ですが、それよりさらに絵という捉えづらいものが題材なので、この作品をどう観るかということは自分自身への気づきにもなると思います。ぜひ劇場へ足を運んでください。

田中 ビジュアル撮影の最中にやったカードゲームの盛り上がりにすごい団結力を見たので(笑)、絶対にいい作品になると思います。ぜひ観ていただきたいです。

高羽 『ヒトラーを画家にする話』と『他者の国』に続いてこの『帰還の虹』で、はからずも戦争を捉えるシリーズのような流れになりました。戦後80年という年に、自分が明日どう生きようかと考えるきっかけにしていただけたら嬉しいです。

【プロフィール】
たかはあや〇静岡県出身。脚本家・演出家・役者。早稲田大学の学生劇団「てあとろ50`」を経て、2005年にプロデュースユニット「タカハ劇団」を旗揚げ。以降、全ての主宰公演で脚本・演出を務める。近年はアニメ・実写ドラマ・ゲームシナリオなど活躍の場を広げている。主な脚本作品にNHKよるドラ『ここは今から倫理です。』、連続ドラマW-30『東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思っていた-』など。タカハ劇団の最近の作品は、『他者の国』、『ヒトラーを画家にする話』、『おわたり』など。

たなかとおる〇大阪府出身。2015年「第4回劇団Patchオーディション」でグランプリを受賞し、16年ドラマデビュー。最近の出演舞台は、『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY/レイジ RAGE』、『Touching the Void タッチング・ザ・ヴォイド〜虚空に触れて〜』、『神話、夜の果ての』、『デカローグ5・6』、『パートタイマー・秋子』、『ロミオとジュリエット』、『おわたり』、『BREAKING THE CODE』、『レオポルトシュタット』など。 

いけおかりょうすけ〇愛知県出身。2009年第6回D-BOYSオーディションにて準グランプリを獲得、芸能界デビュー。最近の出演舞台は、『クレイジーレイン』、『世界のすべては、ひとつの舞台~シェイクスピアの旅芸人』、『白衛軍 The White Guard』、『みわこまとめ』、舞台『刀剣乱舞』心伝 つけたり奇譚の走馬灯、『イノセント・ピープル~原爆を作った男たちの65年~』、『スーパーふぃクション ふぉーエヴァー』など。

【公演情報】
タカハ劇団 第21回公演『帰還の虹』
脚本・演出:高羽彩
出演:古河耕史 田中亨 護あさな 吉田亮 津村知与支 久下恵 池岡亮介 神保良介 
●8/7〜13◎座・高円寺1  
〈チケット取扱〉座・高円寺チケットボックス
(月曜定休)03-3223-7300(10:00~18:00)
https://za-koenji.jp/(無休24H受付) 
〈お問い合わせ〉タカハ劇団  info@takaha-gekidan.net
〈公演サイト〉https://takaha-gekidan.net/2025/05/24/帰還の虹/

【インタビュー/宮田華子 撮影/中田智章】

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