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株式会社えんぶ が隔月で発行している演劇専門誌「えんぶ」から飛び出した新鮮な情報をお届け。
公演情報、宝塚レビュー、人気作優のコラム・エッセイ、インタビューなど、楽しくコアな情報記事が満載!
ミュージカルなどの大きな公演から小劇場の旬の公演までジャンルにとらわれない内容で、随時更新中です。

(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
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【小野寺ずるの女の平和 WEB】12 シャンソン歌手:MAKIKO

お役者/糞詩人である小野寺ずるが表現の世界で闘う女達にインタビュー。
彼女達の過去現在未来を聞きだし、想いを馳せながら
私たちの平和は、女の平和は、表現の世界に身を投じる我々の望む世界はなんなのか。を夢見る連載。

シャンソン歌手 MAKIKO

昭和33年生まれ67歳。気仙沼出身、気仙沼在住。
42歳でシャンソンを始め、60歳で全国大会グランプリ獲得、64歳でCDを発売しプロデビュー。
家業の水産加工会社で今も働く歌手の彼女は私の母です。
「まぁ母親だし」とのほほんと臨んだ取材が、まさかの「全アーティスト必読の書」になりました。
クレッシェンドすぎる魂の”ド天然”アーティスト・MAKIKOの話は止まらない!

(※2024年6月取材)

夢パトロンとカビだらけの楽譜

ず(ずる) 今日はシャンソン歌手MAKIKOさんに取材です。私のお母さんなんですけども…。
M(MAKIKO) はい、母です(笑)。
 なんでシャンソン始めようって思ったの?
 カラオケで『天城越え』歌ってたら、そこにいた歌手の方がそれを聴いて「すごい変わった声だからシャンソンコンクールに出てみな」って言ってくれて、それで。気仙沼でジャズ歌ったりしてて昔から歌は好きだったから。
 シャンソンに特別な思い入れはなかった?
 うん。でもやっていくうちに好きになった。
 シャンソン始めてから、人生も歌のように波瀾万丈ですね。
 今の夫・邦夫と出会ったのもシャンソン始めた頃だしね。
 53歳の時には東日本大震災がありましたね。家も会社もなくなったのに唄うことが途切れなかったのは、すごいよね。
 邦夫がね「歌手になるのが夢なんでしょ?お稽古もコンクールも休んじゃいけないよ」って震災の年にも歌わせてくれて。
 え?歌手になるのが夢だったの?
 なんかね、結婚した時に、邦夫に「夢は何?」ってふと聞かれた事があって「歌手かなぁ?」って答えたら、応援するって言われて。邦夫が「夢を叶えるために頑張ることは良いことだ」って人だからさ、あなたに役者やりなさいって言ったのもそういうことだろうし。
 じゃあある意味邦夫はマネージャー…。
 で、パトロン(笑)。ただの一主婦が歌手になるのは難しい。邦夫のおかげです。
 歌は身一つでできるから、震災の時も歌えたのかな。
 うーん、まぁ集めてた譜面は全部津波に流されちゃったけどね。でもある日さ、知り合いの大工さんが「これお宅の?」って泥だらけでカビが生えた譜面を届けてくれたんだよ。こんなの流れてきたよって。でっかい袋に入れてたいっぱいの譜面。
 よく手元に戻ってきたね!
 ね。嬉しかったなぁ、近所のコンビニで赤や緑のカビが生えてる譜面を夢中でコピーしたよ。ごそごそ砂が出てきて、コピー機を砂だらけにして悪かったけど、嬉しくて嬉しくて、コピーをしたなぁ。
 なんか涙出てきた。
 一枚譜面書いてもらうのにも苦労するからさ、10年くらい稽古しててさ、歌うために作るからさ。それが返ってきて「こんなときでも歌っていいんだな」って思えたのは、大きかったよね。

旅先の邦夫とMAKIKO

歌は彼らを裁かない

 シャンソンの魅力って?
 やっぱり経験できないことを歌で体験できることじゃない?
 ドロドロの恋愛の歌とか多いもんね(笑)。
 そう。心の葛藤とか、そういうのがシャンソンは多い。
 心の葛藤…。
 答えがない葛藤よ。『人々の言うように』っていう同性愛者の男性の歌とかも、自分は寝たきりのお母さんと古いアパートに二人暮らしで、ミシンもかけるしお花にお水もやって、猫と亀が友達なんだっていう歌詞でね。
 かわいいね。
 でも彼の本当の仕事は夜のキャバレーで女装してストリップ。毎晩男性に体を売っている。「オカマが騒いでる」って悪口言われながらもバーで飲む、帰り道はうっすら夜が明けてて、帰ると化粧も崩れて疲れ切った自分が鏡に映る、つけまつげとカツラをとってその顔を眺める。
 うんうん。
 (宙を見ながら夢中になってしゃべっている)そして一人で眠るんだけど、好きな男の人のことを思って悶えるの、好きな人は女の人しか好きじゃないから。誰もこの性(さが)を裁けない、みんな笑えばいいよ僕のこと。っていう終わりなの。手を差し伸べるでも、批判するでもない。そういう歌の作りが素敵だなって思うの。
 物語があるね。
 日常を淡々と描いて、はじっこの方にいる人達に光を当てるようで、イイなって思う。
 イイね。
 結論を出さない。突き放すわけでもない。逆にそういうのがあたたかさだったりしない?
 歌で裁かない。
 そう!すごく素敵だよ。
 その歌みたいに自分の日常と遠い世界を歌うときはやっぱり想像?
 うん。(また夢中になってしゃべりだす)自分がその人になって歌う時もあれば、自分は虚しい水夫を見ているお婆さんやお爺さんなのかもしれないし、高い所にいるキリストの磔(はりつけ)の目なのかもしれない。イメージよね。
 物語をお客様に見せるんだね?
 (聞いてない)みんなが大切なお祈りをしている昼間も疲れ果てて寝ている売春婦、そういう生活も愛しいよねって神様が見てるのかもしれない。なぜ一人なの、季節はいつ、暖炉の前で思い出してるの、そういうことを考えて歌うのが楽しい。それが聴いてる人に伝わったら、それはいい歌だと思うの(涙ぐんでいる)。
 う、うん、そうだね。

私たちアーティスト


 山本リンダの『狙いうち』が原点だと聞きましたが。
 思春期で中3で肥満の私が学校の謝恩会で歌う話ね。
 詳しくちょうだい。
 衣装は持ってないから白いシャツに空色のジャージズボンに裸足、60キロあるのにヘソ出してカセットテープ持参で「みんな机を片付けてください」って命令する山本リンダだよ。
 そして教室の真ん中で…。
 HEY!だよ!みんな爆笑してた。
 目立つような子じゃなかったんだよね?
 うん。全部平均。でも人前で何かをするのは好きだった。
 唄ってるときはどんな気持ち?
 イッてるの。
 どういうこと?
 なんかすごくイイ気持ちになってるの。やるまではドキドキ。でも始まってしまうとこの辺(後頭部)から湯気が出る感じ。そういうのみきちゃん(私の本名)もない?なんだかわからないけど楽しくなっちゃうこと。
 昔はあった気がするな。
 それだよ原点は!喜ばせたい!見て見て見て!がないと全然伝わらないじゃん。
 …関係ないんだけどさ、私よく思い出すの。私も学生の時に楽器と歌を真剣にやってて、でも一生懸命やっても音痴だし人間関係も下手で、大会に出れなくて、落ち込んでた時のこと。
 おかしい人はそういう目に合うんだよ。
 …。
 あまりに人とかけ離れすぎてると酷い目に合うよ!
 (無視して)そんな私を見かねたMAKIが学校を早退させて私を海に連れて行ってくれてさ、海を見ながら「お前は養殖のエビじゃねぇんだ」って突然言ってきて。
 え?覚えてない。
 お前は伊勢海老とかじゃないけど天然のエビで、海底でプルタブの穴をくぐってみたり、人間が撒いたエサじゃない自分の小さなハサミで切った藻を食べたりしてるから大丈夫だ、って。
 イイ事言うね。
 安全な海にいる養殖より天然のエビは美味しい!って。なんかわかんないけど元気出て。
 そうなんだ。
 今も演劇とかで落ち込むことあっても、それを思い出して励みにしてるんだよ。わかってもらえないかもしれないけどいいんだ、って。
 そうだよ!人にわかってもらえなくてもいいんだよ。自分で精一杯やってこれでよかったと思えればそれでイイじゃん。
 強いなぁ。
 強いっていうかそれが面白いんじゃん。人の評価なんて変わるんだから。そんなのに振り回されたらくだらないよ。
 かっこいい(泣)。
 当たり前じゃん、私たちアーティストだよ。

できる範囲で最大の


 歌に大切なことは?
 うーん、謙虚さとか真摯な気持ち?あとやっぱり何も持たない裸の気持ちで唄う歌には心打たれるよね。
 そういう歌を唄えたなって思えたことはある?
 グランプリ獲った時の歌、なのかな?予選、本戦、決勝、で同じ歌を3回唄わなきゃいけないのね。
 うんうん。
 それで2回目の時に声をどう出そうかな、ウケるかなって考えながら歌ったら、審査員の一人、今は亡きアン・あんどうさんに「お前今日上手く唄おうとしたろ、そんなの客は聴きたくねぇんだよ、決勝は客を泣かせろ」って喝を入れられて。
 え、それでどうしたの?
 考えたよね。その時歌った『灰色の途(みち)』って歌は悲しい歌でさ、この曲を作った男性は孤児院で育った人で、大好きな恋人とドライブしてたら事故に遭って恋人だけ死んじゃったんだよ。そういう人が「僕も死んじゃいたい」って作った歌なんだよ。
 辛いね。
 そんな歌をどう歌えばいいんだって考えてる時に、決勝の神戸に向かう電車の中で、応援についてきてくれてた邦夫がね、隣の席で疲れ果てて苦しそうに口を開けて寝てたの。それを眺めながら「死んだらこういう顔になるのかな、この人死んだら悲しいな」って思ったの。だから決勝はその邦夫の寝顔を思いながら「死んだらやだ!」って歌ったの。
 ひどい(笑)!
 その時の歌を後で録音で聴いてみたら技術的には穴だらけ。でもゲスト審査員のフランスのミュージカルスターが、歌い終わった休憩時間に「あなたが獲るよ」って私を指さしてきたの。だからさ、自分ではわからないけど、その時の歌には人を圧倒する何かがあったんだね。
 愛の力だね。
 悲しかったな。人の心に入り込める歌っていうのは、自分も心に入り込んでる歌なんだろうね。
 これからどんな歌を唄いたい?
 え?家業もあるし家族の生活が一番大事だから、自分のそのときの状況でできる範囲で、最大の歌を唄えばいいと思ってる。
 気持ちいいね。
 歌はその時その時の気持ちだからさ。その時の自分の心とか季節で歌いたい。ああ夏いいな〜とか。だから面白いんだね、歌は!

MAKIKO

MAKIKOの平和

家族のみんなそれぞれがこうゆう人生でよかったって思うような人生を歩めること。


【MAKIKO出演情報】
日本訳詩家協会コンサート2025 in TOKYO
=言葉の壁を越えて=


2025年9/23(火・祝)15:30開場/16:00開演
@銀座ブロッサムホール

【出演】加藤登紀子、クミコ、髙汐巴、奥野秀樹、高野ピエール、深江ゆか、水織ゆみ タマーラ、いさらい香奈子、イジス、ウェイン・シュー、貝山幸子、川島豊、金子睦、佐竹律香、唯文、つづら薫、BAN-RI、MAKIKO、水麗、吉永修子、レジョン・ルイ
【ゲスト】鬼無里まり、タブレット純、野坂暘子
[解説]大野修平
【演奏】藤原昌生グループ < Pf藤原昌生、bass和田弘志 dr八木秀樹 acc 桑山哲也 >
https://sunrisetokyo.com/detail/31437/

プロフィール

左:ずる 右:MAKIKO

MAKIKO
まきこ○気仙沼出身。2002年よりシャンソンを始め広瀬敏郎氏に師事。情熱的かつ包容力溢れる確かな歌唱力により、2018年全日本シャンソンポピュレールコンクールのグランプリ獲得をはじめ数々のコンクールで実績を残す。シャンソン、カンツォーネを中心に宮城や東京でコンサート出演を続け、2023年にはパリ祭(TOKYO DOME CITY HALL)に出演を果たす。2024年からは自身が主催する「MAKIKOと唄おう会」を仙台の喫茶店、ライブハウスなどで定期開催。

著者プロフィール

小野寺ずる
おのでらずる◯気仙沼生まれのお役者、ド腐れ漫画家、脚本演出。
個人表現研究所・ZURULABO所長。パンクバンド・ダイナマイトアナルズのドラム兼座付き作家。
【SNS】X@zuruart / Instagram@zuru_onodera
【漫画連載】日刊SPA!『小野寺ずるのド腐れ漫画帝国
【出演】映画『風のマジム』2025年9月12日全国公開
ドラマ『愛の、がっこう。』毎週木曜22:00〜放送

構成・文◇小野寺ずる  

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