
シェイクスピアの不朽の悲劇『ハムレット』と、シューベルト最晩年の傑作歌曲集『冬の旅』。時代もジャンルも異なる二つの名作を重ね合わせ、人間の「喪失」と「彷徨」を描く舞台『ハムレット、冬の旅 HAMLET’S WINTER』が、本年11月20日〜30日に東京・新国立劇場 小劇場、12月12日〜13日に大阪・サンケイホールブリーゼにて上演されることが決まった。
ハムレット役には、年初に上演された『サド侯爵夫人』に次いで本年二度目の舞台出演となる東出昌大。シューベルトの『冬の旅』を体現する現代の「作曲家」役にミュージカル界の重鎮、栗原英雄。そして、この二人とともに物語を語るダンサーとして元東京バレエ団のプリンシパル渡辺理恵らが出演する。
演出・振付を担当するのはダンサー、俳優としても活躍する首藤康之。台本監修をシェイクスピア研究者・河合祥一郎、音楽監督・演奏をピアニストの斎藤龍が務める。さらに、『冬の旅』を本作で日本語の「ことば」として響かせるのは、日本を代表する作詞家松本隆による訳詞。シューベルトの旋律とシェイクスピアの言葉が交錯する、新たな劇空間を立ち上げる。
1827年、フランツ・シューベルトが作曲した歌曲集『冬の旅(Winterreise)』。ヴィルヘルム・ミュラーの詩によるこの作品では、愛を失った一人の男が町を捨て、凍てつく冬の荒野をさまよう姿と、その孤独な精神世界が描かれる。一方、『ハムレット』のデンマーク王子ハムレットもまた、父王の死と母の再婚によって、それまで信じていた世界を失った男。亡き父の復讐という運命を背負いながら、「To be, or not to be」と問い続け、生と死、現実と幻影の境界をさまよう。失恋によって居場所を失った『冬の旅』の旅人。父の死によって世界とのつながりを失ったハムレット。異なる時代、異なる物語を生きる二人を深く見つめると、そこには社会からの疎外、喪失、孤独、死への誘惑、そして自らの内面へと沈んでいく姿という、いくつもの共通点が浮かび上がる。本作では、その二つの“さまよえる魂”を、時も場所も自在に行き来することのできる「舞台」で出会わせる。
通常ドイツ語で歌われるシューベルトの『冬の旅』を、本作では松本隆による日本語訳詞で紡ぐ。
歌われる言葉は、ある時はハムレットの心の声となり、ある時は荒野をさまよう旅人の呟きとなる――。
シェイクスピアの戯曲とシューベルトの歌曲を単に並置するのではなく、言葉、音楽、身体を通して二つの作品の精神世界を重ね合わせる『HAMLET’S WINTER〜冬の旅〜』。すべてを失った者は、彷徨の果てにどこへ辿り着くのか。二つの古典から、現代を生きる人間の孤独を見つめる。
《舞台イメージ》
舞台に広がるのは荒野。そこに、父の死と復讐という運命を背負うハムレットと、愛する人を失い、生きる意味を見失いかけた一人の「作曲家」が現れる。
異なる時代を生きる二人を結ぶのは、シェイクスピア『ハムレット』の言葉と、シューベルトの歌曲集『冬の旅』。 ハムレットが発する台詞に、松本隆による日本語訳詞で歌われる『冬の旅』が呼応し、やがて二人の言葉や動き、記憶までもが重なり始める。まるで「外面」と「内面」、一人の人間から分かれた二つの魂のように――。
さらに、失われた愛や記憶を身体で表現するダンサーたちと、舞台上で奏でられるピアノがその世界に交錯。 台詞、歌、音楽、ダンスが溶け合い、二つの古典に刻まれた孤独と喪失、そして「生きることへの逡巡」を、シェイクスピアの言葉とシューベルトの音楽が、一つの精神世界へと融合して現代の劇空間に立ち上がる。
【コメント】
[訳詞] 松本隆
30年ほど前に初めてシューベルトの『冬の旅』に日本語の詞をつけたとき、目指したのは翻訳や対訳ではなく、日本語としてすっと頭に入り、心ですぐに反応できる歌にすることでした。
『冬の旅』は、絶望の物語です。けれど、絶望というのは決して醜いものではなく、意外といいものであり、深く、美しいもの。今の日本の『冬』のような時代を生き抜くためにこそ、そういう徹底した美意識が必要なんじゃないかと思っています。
[台本監修] 河合祥一郎
シューベルトの『冬の旅』が、こんなにも『ハムレット』とぴたりと重なるなんて、驚きです! シューベルトを通して見ると、ハムレットはどんな新たな顔を見せてくれるのでしょうか?
東出昌大さんのハムレットに大きな期待が高まります。首藤康之さんの演出・振付で、栗原英雄さんの歌唱と重なりあい、新たな化学反応を経たハムレットの誕生に立ち会えるとは! 今からとてもワクワクしています!!
[演出・振付] 首藤康之
もともとシューベルトの『冬の旅』は多くの振付家が舞踊作品として発表しており、楽曲自体はよく存じ上げていました。ただ松本隆さんの訳詞があることは全く知らなくて。それを読んだ時、また別の感動が湧き出てくるような感覚がありました。やはり言葉というのはとても雄弁ですし、この詞の中に松本さんの人生観すら感じる。今回はとにかくこの言葉を大切に。ただ言葉を直接舞踊にするというのは、すごくナンセンスなことだと思うので、東出昌大さんと栗原英雄さんが演じるふたりの“心の旅”と言いますか。その内面を、ダンサーたちの身体で表せたらいいなと思っています。僕がこの作品で一番伝えたいと思っているのは、“生と死”というのは絶対にひとりのものではない、ということです。もちろん人というのはひとりで生まれ、ひとりで死んでいくものですが、生きる人がいるから死ぬ人がいて、その逆も然り。それをハムレットと作曲家のふたりは、劇中で共感していくのではないかなと。その上でどんなことがあっても前に進んでいくことが本当の強さであり、美しさである。そういったものが作品を通して見えてくればいいなと。ぜひお客様には自分自身の内面の旅をする友達を、この作品から見つけていただけたら
嬉しいです。
東出昌大
シューベルトの『冬の旅』と、松本隆さんの訳詞、そして首藤康之さんの演出。それを聞いた時、私自身全く観たことがない、やったことがない舞台が現出されるんだろうなと思いました。そんなプロジェクトに携われるなら、ぜひやりたいなと。なによりプロデューサーのおふたりが、この世界の先輩として心から尊敬する、常に本物を追い求めている方々なんですね。であるならば、自分がハムレットになる、ということにも本物を求められている。この作品の軸になるようなパフォーマンスをしなければ、と思いを新たにしています。ただやること自体は難しいですが、僕の中では単純明快。とにかくいいものを作るんだという気持ちですし、このおふたりに声をかけてもらった以上はただやるだけ。「To be, or not to be」ではなく、「To be, or to be」ですね(笑)。そして本物という点では、共演の栗原英雄さんはもう圧倒的な本物。その圧倒的なパフォーマンスの風圧によろめいているようでは全く意味がないので、僕は僕で青二才なりの本物を求めつつ、共に上がっていけたらいいなという気持ちです。非常に魅力あふれる、今までに観たことがない舞台表現になると思います。ぜひ劇場に足をお運びください。
栗原英雄
非常にチャレンジングな企画だと思いましたが、最初は頭の中が「?」でいっぱいでした。シューベルトの『冬の旅』に、松本隆さんの訳詞が加わり、さらにシェイクスピアの『ハムレット』も絡んでくる。僕が歌う曲数もかなり多かったので、「これは無理ではないか……」というのが正直なところでした。でも実際にやれたら絶対に面白くなると思いましたし、僕にとっても非常に大きなチャレンジ。チャレンジというのは大概苦しいのですが、楽にやれるものなんてつまらないですから。どうすればこの作曲家の生の声として、彼が抱えている苦悩や悲しみを、音楽に乗せて表現することができるのか。非常に難しい課題だとはいますが、これからの稽古で掴んでいけたらと思っています。東出昌大さんとは初めてご一緒しますが、彼がハムレットをやると聞いてすごくしっくりきました。近年では珍しい、二枚目ではなく“一枚目”の俳優さん。その場にスッと立っているだけで、その人物になれるというか。小賢しいことをせずとも。逆に僕は、そちらをやらなくてはいけないのかもしれませんが……(笑)。観客の皆さんを不思議な世界へとお連れしたいと思います。ぜひ僕たちと一緒に楽しみましょう。
【公演情報】
『ハムレット、冬の旅 HAMLET’S WINTER』
原作:ウィリアム・シェイクスピア 「ハムレット」(河合祥一郎訳 増補改訂版 新訳「ハムレット」角川文庫)より
作曲:フランツ・シューベルト
作詞:ヴィルヘルム・ミュラー
訳詞:松本隆
台本監修:河合祥一郎
演出・振付:首藤康之
音楽監督・演奏:斎藤龍
出演:東出昌大 栗原英雄 渡辺理恵 高橋慈生 松野乃知
●11/20~30◎東京公演 新国立劇場 小劇場
●12/12・13◎大阪公演 サンケイホールブリーゼ
〈公式サイト〉https://tspnet.co.jp/hamletfuyu/



