ミュージカル『生きる』まもなく開幕! 平方元基・上原理生インタビュー
世界に誇れる作品のなかで、それぞれの小説家を生きたい
黒澤明監督が1952年に発表した映画「生きる」を原作に、世界初のミュージカル化として、2018年に市村正親、鹿賀丈史のWキャストによる主演で初演され、「国産ミュージカルの記念碑」と絶賛されたミュージカル『生きる』が、更なる進化を遂げて、9月7日に新国立劇場 中劇場で初日を迎える。(24日まで、そののち大阪公演あり)
日本を代表する演出家の宮本亞門、日本におけるオリジナルミュージカル創作を牽引する高橋知伽江、そして本年度トニー賞でオーケストラ編曲賞にノミネートされるなど、今もっともブロードウェイが注目する作曲家のジェイソン・ハウランドの3人がタッグを組む強力なスタッフ陣と、市村、鹿賀のオリジナルキャストが今回も集結。作品を更なる高みへと導いていく。
そんな作品に、市村、鹿賀が演じる主人公・渡辺勘治に「人生の楽しみを教えてやろう」と夜の街に連れ出す「小説家」役としてWキャストで初参加する平方元基と上原理生が、日本のオリジナルミュージカルに感じる可能性や、互いの魅力を語ってくれた「えんぶ8月号」のインタビューを別バージョンの写真とともにご紹介する。
『生きる』に色がついている!
──まず、作品について感じている魅力からを教えてください。
平方 初演を客席から観させていただいたのですが、モノクロ映画を観ていたので、幕が開いてまず「あ、『生きる』に色がついている!」と思いました。しかも、僕たちが普段立たせてもらっているミュージカルの舞台は、圧倒的に海外の街並みの中が多いんですよね。でも『生きる』は日本が舞台になっていて、しかも昭和27年。戦争が終わってまだ7年しか経っていないという雰囲気があふれているなかで物語が展開して、音楽もスーッと響いてくる。こんな風に日本を舞台にしたオリジナルミュージカルができるんだ、すごく素敵だな、楽しい! と思って観ていました。
上原 僕は再演を観させていただいたんですが、シンプルな装置のなかで、黒澤明監督が撮った作品の、元々の脚本の力を生かして、とても丁寧に三次元の舞台にしている。これは世界に誇れる日本のミュージカルだと思いました。
平方 そう、海外に持っていける作品だよね。僕が出させていただいたブロードウェイミュージカルの『メリリー・ウィー・ロール・アロング』のナンバーのなかで「クロサワ」って出てくるんだよ。
上原 そうなんだ!
平方 うん、「クロサワ」だけで通じるくらい、日本の巨匠として世界的に知名度もあって、作品もたくさん知られていることを考えると、いま日本からアジア圏に出ていく作品は少しずつ出てきているけど、『生きる』は、ヨーロッパやアメリカ、色々なところで上演できる可能性を持った作品だよね。
上原 「いつかやれたらいいね」という夢としての話ではなくて、現実として世界に出ていくことが考えられるなと、本当に思う。
──そんな作品で、今回演じる「小説家」役についてはどうですか?
平方 この役柄って、演じる一人ひとりの役者によって、変わってきていい役だと思うんです。もちろんストーリーテラーでもありますから、お客様と物語の受け渡しをする、というところは明確にしないといけないとは思いますが、市村正親さん、鹿賀丈史さんという魅力的な大先輩が、それぞれの渡辺勘治として存在してくださることで、実際に僕が何を感じていくか、まずそれを大事にしたいです。お二人と共演できるって、俳優人生においてそう何度も訪れる機会ではないと思うので、稽古からの時間、瞬間、瞬間を大切にしていきたいです。
上原 もう元ちゃん(平方)の言う通りで、組み合わせが変わることで、感じることもまた変わってくると思いますし、舞台にいっても、昨日と全く同じということは絶対にないですから、一回、一回を大切に務めたいです。小説家役は真面目にコツコツと仕事に生きてきた渡辺勘治とは、正反対の世界にいるアウトローだと思うのですが、黒澤さんが脚本のト書きに「メフィストフェレスのような男」と書かれていたという記事を読んで「あ、それかな?」と思って。いまゲーテの『ファウスト』を読んでいるんですが、そこからアプローチをしていけたらいいなと思っています。
イメージの異なる二人が同じ役を演じる楽しみ
──今回Wキャストで同じ役を演じるお二人ですが、俳優としてお互いの魅力をどう感じていますか?
上原 12年ぶりにWキャストで一緒にやるのですが、その間全く共演もなかったんですよ。もちろん元ちゃんが活躍している舞台は観てきたけど、自分はなかなかやらないであろう役をやっているから。
平方 え? そうかな?
上原 だって恋する役とかさ、親子の情愛とか色々やっているでしょう? 俺、恋に落ちるってあんまりないのよ。
平方 確かに理生は革命しているイメージ!
上原 でしょう? 本当にないんだよ、恋するって。『1789─バスティーユの恋人たち』で、ソニンとちょっとあったくらい。
平方 観た、観た! でも、言われてみれば確かにそうか。その『1789』も革命家だしね。
上原 そうそう。まぁ、最近は革命を鎮圧しているんだけどさ(笑)。だけど元ちゃんは恋する二枚目もやれるし、ちょっと三の線の入ったコメディもやれる。そういう俺にないものを持っていて、更に幅のある役者なのが素敵だなといつも思う。俺、コメディもほとんどないから。
平方 理生もコメディ絶対やれるんだけどな(笑)。でも、そういう戦う男のイメージがあるのは、理生じゃないとダメだという役がちゃんとあるっていうことなんだよね。同じ台詞を言って、同じ振付をやってくれれば誰でもいいよ、じゃなくてこの作品のこの役は理生にしか任せられないっていう。そこがすごく素敵だと思うし、歌に関してはもう言うまでもなくて、歌う喜びが爆発しているから、「こんな人とWキャストでやるのか?」って、最初は本当にめげたもん。その魅力だけでも十分なのに、ちゃんと情緒的なものも歌っていて、自分のやりたいことだけにとどまらずに挑戦している俳優さんなのも信頼できる。
上原 ちょっと照れる(笑)。
平方 まぁね(笑)。
上原 とは言え、そういう二人が12年経って同じ役をまたWキャストでやると、いったいどうなるのか? は面白いよね。
平方 ビジュアル撮影の時から、もう理生には濃い影があったから。理生和装好きでしょう? 楽屋でも浴衣を着ているくらいだから、着慣れている感があって似合ってるなと思った。僕は着方からわからなくて、もうそこから勉強させてもらって。
上原 いや、元ちゃんすごく小粋な感じが出てたよ。この役は売れない小説家で、間違っても文豪になっちゃいけないんだけど、俺どっちかと言うと、そっちに行きそうで(笑)。
平方 金持ってそうだもんね(笑)。
上原 そこは気をつけないといけない(笑)。
平方 でも、本当にお互い全く違う小説家になりそうだし、人としてどう生きるか? を投げかけている、派手さはないけど、いまの時代にとても大切なものが詰まった作品だから、頑張りたいね。
上原 その派手すぎないというところ、静かな力技が素晴らしいし、次の一歩を踏み出す力を得られる作品だと思うので、色々な組み合わせで観てもらいたいね。
平方 是非何度も劇場にいらしてください! お待ちしています!
【プロフィール】
ひらかたげんき〇福岡県出身。2008年連続ドラマ『スクラップ・ティーチャー~教師再生~』でデビュー。2011年ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』ティボルト役でミュージカルデビュー後、数々のミュージカル作品で重要な役柄を次々に演じ、活躍の場を広げている。近年の主な出演作品に『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』『マドモアゼル・モーツァルト』『王家の紋章』『メリリー・ウィー・ロール・アロング』『ローマの休日』『エリザベート』などがある。
うえはらりお〇東京都出身。東京藝術大声楽科卒業。2011年、ミュージカル『レ・ミゼラブル』でデビュー以降、確かな歌唱力と骨太な存在感でミュージカルを中心に活躍。またバリトン歌手としても活動を続けている。近年の主な出演作品に『ミス・サイゴン』『フィスト・オブ・ノースター 北斗の拳』『レ・ミゼラブル』『マリー・アントワネット』『ピアフ』『1789~バスティーユの恋人たち~』『スカーレット・ピンパーネル』などがある。
【公演情報】
Daiwa House presents
ミュージカル『生きる』
原作◇黒澤明 監督作品「生きる」
作曲&編曲◇ジェイソン・ハウランド
脚本&歌詞◇高橋知伽江
演出◇宮本亞門
出演◇市村正親/鹿賀丈史(Wキャスト) 村井良大 平方元基/上原理生(Wキャスト) 高野菜々(音楽座ミュージカル)実咲凜音 福井晶一 鶴見辰吾 ほか
9/7~24◎東京・新国立劇場 中劇場
〈お問い合わせ〉ホリプロチケットセンター03-3490-4949(平日11:00‐18:00/土日祝休)
9/29〜10/1◎大阪・梅田芸術劇場メインホール
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3800(10:00‐18:00)
〈公式サイト〉https://horipro-stage.jp/stage/ikiru2023/
【文◇橘涼香 撮影◇中田智章 スタイリスト◇八木啓紀(平方)、岡本愛香(上原) ヘアメイク◇真知子(平方)、yuto (上原)】