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情報☆キック
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(雑誌『演劇ぶっく』は2016年9月より改題し、『えんぶ』となりました。)
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一夜のステージに輝く、誰もが人生の主人公という人間賛歌 『SHINE SHOW!』上演中!

とある複合オフィスビル内の会社の社員が、歌唱力を競うのど自慢カラオケ大会を舞台に、様々な想いを抱える“サラリーマン出場者”と、その舞台裏で、ショーマストゴーオンの精神で数々のトラブルを乗り切ろうとする運営スタッフの「たった1日に懸ける」物語『SHINE SHOW!』シャイン・ショウ!が日比谷のシアタークリエで上演中だ(9月4日まで。のち、9月15日~17日兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホールで上演)。

『SHINE SHOW!』は、日々仕事で苦しみ、理不尽な人間関係で悩み、時には涙し、喜びに歓喜する働く者たちが、年に一度の「のど自慢大会」に臨む華やかな舞台とバックステージのドラマとを交錯させながら、個性豊かなキャラクターたちが躍動する作品。脚本は、東京サンシャインボーイズの傑作『12人の優しい日本人』を2020年のコロナ禍でZoomを通して読み合わせる「12人の優しい日本人を読む会」で演出を手掛けた「アガリスクエンターテイメント」主宰の冨坂友。演出は東京サンシャインボーイズにて数々の作品を演出してきた山田和也。人生を少しだけ変える勇気と、明日への活力が、誰もが耳にしたことのある数々のナンバーが流れる舞台で展開されている。

【STORY】

真夏の夕暮れ時。オフィス街の一角にある複合オフィスビルの中庭には豪華な野外ステージが建てられ、派手な照明と爆音の中、音楽ライブが行われている。但し、それはただのライブではない。このビルにオフィスを構える様々なジャンルの企業に勤める会社員が参加し、歌唱力を競う夏のカラオケ大会なのだ。
今年も86組による予選大会を勝ち抜いた23組の出場者のなかから、この夜、栄えあるチャンピオンが決まる。毎年恒例となっているこのチャンピオン大会を成功させるべく、運営スタッフのチーフ鈴本真紀(朝夏まなと)は、インカムを駆使して各セクションに指示を出し続けていた。だが、相棒の運営スタッフ・加瀬貴久 (小越勇輝)は今年地方から赴任してきたばかりのビル管理会社の若手社員で、カラオケ大会の担当は初めてとあって、鈴本が当然やっていると思っていた確認作業も滞っている状態。しかも、この一夜の舞台に臨む和歌山翔(中川晃教)をはじめとした個性豊かな社員たちは、それぞれに全く異なる思惑を抱えていて、鈴本のもとには次から次へと様々なクレームや相談が持ち込まれて……

舞台に接してまず感じたのは、実によく考えられているという感嘆の念だった。脚本の冨坂友が主宰し、今回の作品にも多くの劇団員が出演している「アガリスクエンターテイメント」は、王道でウェルメイドなコメディを独自の理論で一捻り二捻りした作品を、“劇場でウケること”を重視して創作する、という旗を掲げている劇団で、一つの場所で巻き起こる事件や状況で笑わせるシチュエーションコメディを最も得意としている。と、「アガリスクエンターテイメント」とはどんな劇団なのか?を説明する公式サイトの文言が、そっくりそのままこの作品の破天荒な面白さを表現している。それほど、年に一度の「のどじまん大会」に懸ける人々を描いた、たった一夜の物語のなかで錯綜する人間模様の多彩さには、驚きと笑いと感動が詰まっている。特に、チャンピオン大会の出演者たちが、様々に言い立てる「こうしたい」或いは「こうしたくない」という要望やクレームの数々が、ひとつも荒唐無稽ではなく、いかにもリアルな真実味があり、実際に持ち込まれても全く不思議ではない説得力にあふれていてるのが効いている。それでいて、そのリアルに「演劇」であり「非日常」である舞台空間らしいカリカチュア、絶妙な塩梅での誇張が加わっていることで、その一つひとつが爆笑につながっていく。しかも、出演者たちだけではなく、パックステージを支える運営スタッフ、取材陣、企画運営の経費を考慮するそれぞれの立場の人たちが起こす騒動や、アクシデント、更には大会運営への情熱といった、ネガティブからポジティブまでのあらゆる出来事や感情が「これも伏線だったのか!」という気づきと共に、綺麗に回収されていくカタルシスには大きなものがあった。ここに作者の冨坂友の真骨頂があるし、非常に人の出入りが多く、舞台のあちこちで同時に様々な物事が進行していく物語を、鮮やかにさばいた山田和也のこれぞベテランの業の演出も際立った。

中でも意義深いのは、こうしたひとつの劇団が得意とする世界を、シアタークリエという日本のブロードウェイとも称される日比谷界隈のど真ん中に位置する劇場が、更にミュージカルシーンの顔というべき人材を投入して、ある意味異種格闘技的な魅力満載の舞台を構築したことだ。こうした例えるならば「小劇場」「グランドミュージカル」「2.5次元」等々の表現で無意識に区分けされている「演劇」というワンダーランドが、その境をなくしていくことは演劇界の未来にとって大きな意義があるし、この作品ひとつで言うとしても、普段ミュージカルを主に観ている観客と、「アガリスクエンターテイメント」を好んで観ている観客が、互いの良さを知る絶好の機会になった。しかも、舞台がカラオケ大会なことが大きな妙味を生んでいて、ミュージカル俳優たちが普段はなかなか聞くことのできないポップスの名曲を本気で熱唱してくれるだけで、なんだかもうまる儲けの気持ちになる。その上にある種刹那的な、通常のミュージカルシーンではできにくいだろう笑いのツボが投入されることにも違和感がなく、この『SHINE SHOW!』にしかない楽しさがあふれる様が、大笑いしながらふっと涙してもいる思いにつながった。

そんな作品で、ほぼ出ずっぱり、喋りっぱなし、駆け回りっぱなしのカラオケ大会運営スタッフチーフ鈴本真紀役の朝夏まなとは、颯爽としたパンツスーツ姿がよく似合い、息つく暇もなく持ち込まれる問題に対処し、絶妙な説得力でトラブルを収めていくキビキビとした演技で魅了する。この姿は、こんな上司がいたらどれほど頼もしいだろうと素直に思わせるし、その頑張りの根底に年に一度ののどじまん「カラオケ大会」に寄せる、大きな愛があることが、ただ仕事だから頑張るというだけではない鈴本の人間的な魅力も表現していた。それがラストまで目が離せない存在として、群像劇の舞台の核を担っている。

カラオケ大会運営スタッフを務めるのは今年がはじめてという加瀬貴久役の小越勇輝は、冒頭から役に立たないならせめて邪魔をするなと、思わず鈴本に感情移入していくきっかけを作るキャラクターを軽やかに演じつつ、この一夜で加瀬という青年が如何に成長していくかもきちんと見せていて頼もしい。それがクライマックスに向かう作劇の大きな力になっていて、小越の変化の表現が印象的だった。

実は有名アイドルグループの元メンバーで、スキャンダルで活動辞退をして以来会社員をしている琴浦あかね役の花乃まりあは、アイドル生活とは決別したものの、あまりにアイドル扱いされなさすぎて承認欲求が満たされないあかねのアンビバレンツを、思い切りのよい演技で魅せてくれる。そのなんとも拗れた表現が捧腹絶倒で、可憐な容姿と高い演技力を持ち合わせる花乃の持ち味が役柄によく生きた。彼女の愚痴をいやいや聞かされ続ける警備員・浅見保の淺越岳人の、ぶっきら棒な態度のなかににじむ味わい。カラオケ大会を取材にくるTVSTVの女子アナ多田ちひろの榎並夕起の、彼女の側からすれば悪意のない素直な喜びとのコントラストとのなかで、あかねが弾ける歌唱シーンも必見だ。

 
上司の命令でカラオケ大会に出ることになったものの、同僚に仕事のしわ寄せがいくのを気にして辞退しようとする気弱な社員・鐘巻良雄役の木内健人は、こんなに笑いに特化できる人だったとは!と驚かされる振り切りぶりで惹きつける。所謂気にしいの性格が、負のスパイラルにハマっていく様が突き抜けた最後に、それこそカラオケではよほど歌唱力に自信がないと歌えたものではないレミオロメンの『粉雪』を熱唱。だから鐘巻役は木内だったか、と納得の歌声で魅了する。

テナント企業である老舗レコード会社・ロイヤルレコードの取締役・定岡敏律役の石坂勇は、このイベントを長年支援している謂わばVIPとして、鈴本や加瀬、広告会社社員の黒川義人役の伊藤圭太が最も大切にしなければならない招待客。ところが、カラオケ大会出場者の一人、音尾圭介役の増本尚が、決勝のパフォーマンスの場で、定岡を口撃しようとしていることがわかり……という、因縁の関係は、作品のなかでもひとつの大きな山場。定岡の石坂も、音尾の増本も互いに主張していることはわからないでもない、と思わせるだけにハラハラもさせて、それぞれ個性を発揮。特に石坂はもっと簡単にノリノリになれるはずのリズム感を、巧みに封印しているのが、鮮やかにリズムを刻む増本との対比を生む効果になっているし、黒川役の伊藤のできるだけ責任を取りたくない立ち居振る舞いもリアルだ。

やはり上司の命令で出場させられてしまった新人の女子社員で、実は有名Vtuberの中の人なために、絶対に身バレできないと大会辞退を懇願する笛木里穂役の栗原沙也加は、たいしたことないんですけど…と言いながら、自分が如何に人気者かも主張している笛木の複雑な自己顕示欲を的確に表現して笑わせる。この大会が好き過ぎて、上司に内緒で裏方をしている秋野仁美役の前田友里子の細かい芝居の面白さも絶妙に絡んできて、栗原が広瀬香美の『ロマンスの神様』を本気の歌唱で聞かせる場につながった。

大会の司会者山田しゅんいち役の西村直人は、鈴本からの「引き延ばして」「巻いて」「変更ありです」「さっきの変更は取り消しで」等々、次々とインカムで入ってくる依頼をアドリブでこなしていく様が、まるで本当にいまそこで起こっているかのように感じさせる、華と可笑しみのある演技力が圧巻。MCのパートナー彩木みどり役の鹿島ゆきこも、西村との丁々発止を悠々とこなしていて、二人の関係性も面白く見せてくれた。

長渕剛愛にあふれた、このカラオケ大会の名物出場者、弦田継俊役の久ヶ沢徹は、普段はテナント企業の外資系証券会社の支社長であり、このイベントだけはとびっきり弾けるという役柄、つまりはこの『SHINE SHOW!』のテーマを担っている存在を滋味深く見せている。大会のゲスト歌手として招かれた大島しげお役の山下雷舞と、長渕愛について意見をたたかわせるシーンは、お互いが自説を信じて曲げない思いの深さがよく出ていて、ストーリーの重要なポジションをよく果たした。

そして、カラオケ大会出場者で、付き合って2年の交際相手に歌と共にプロポーズをしようと計画している和歌山翔役の中川晃教が、常々「中川晃教というジャンル」と感じさせる絶大な存在感を、普通の会社員のなかに落とし込んでいる様には、それだけで目が離せない魅力がある。交際相手の小出由梨役の柳美稀の、個性派だらけのキャスト陣のなかにあっての楚々とした美しさも目立ち、あろうことか歌唱曲がかぶっているやはり大会出場者で、由梨の元彼真嶋隆詞役の斉藤コータが繰り出す、作り笑いと内心が全く異なる暗闘も見どころ。そこから、これも名曲中の名曲スピッツの『楓』の、中川ここにありの歌唱には思わず拝みたいような気持になった。

また、大会を取材にきているライターの井荻剛役を矢吹ジャンプに代って務める三原一太の活躍と、スイングで支える大和田あずさも含めたキャストの充実が、スピード感にあふれた細かい場面を積み重ねて怒涛のように進んでいく物語を支えていて、誰もが等しく、たった一度の人生を「主人公」として生きている人生賛歌が、大きな笑いのなかから感動と共にこぼれ出てくる舞台になっている。

【公演情報】
『SHINE SHOW!』シャイン・ショウ!
作:冨坂友(アガリスクエンターテイメント)
演出:山田和也
出演:
朝夏まなと
小越勇輝 花乃まりあ 木内健人 石坂勇 増本尚
柳美稀 栗原沙也加 西村直人 久ヶ沢徹/中川晃教
●8/18~9/4◎日比谷・シアタークリエ
〈料金〉11,000 円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ TEL 03-3201-7777
東宝ナビザーブ https://stage.toho-navi.com/
●9/15~17◎兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホール
〈お問い合わせ〉芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/shine_show/

【取材・文・撮影/橘涼香】

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