「失恋小町」第二回公演『朝謡の迷い子』速水映人・山本芳樹 インタビュー 

演劇ユニット「失恋小町」の第二回公演『朝謡の迷い子(あさうたいのまよいご)』が、9月13日〜18日、テアトルBONBONにて上演される。

「失恋小町」は、これまで様々な作品を企画・製作してきたプリエールが全面プロデュースして、2021 年に旗揚げ公演『灯りに集く虫の唄(あかりにすだくむしのうた)』を上演。梅沢武生劇団出身の速水映人が演じる「道子ママ」を中心に、 スナックみちくさに集まる人々の心温まる話は、コロナ禍で疲れた観客の心を癒す作品として評判を呼び、次回公演が待たれていた。

そして、いよいよ待望の第二回公演『朝謡の迷い子』が決定。ゲストに声優としても活躍する東地宏樹を迎え、更にパワーアップした舞台作りが期待されている。

【ものがたり】
都会の外れの路地裏に佇むスナックみちくさは、年齢不詳の「道子ママ」が一人で切り盛りしている。惚れっぽいママが最近気になっているのは、夜中のシャッター街で切なく歌う男。彼の声に感じるものがあり、ある日思わず声をかけた。
「いい声、してますね…」
孤独だった男にとって、道子のお節介は思いがけず心に響く優しさだった。
自分の居場所を見つけられず、もがきながら生きてきた男。そんな彼を追ってくるもう一人の男もまたもがいていた。そんな迷い子たちに朝は来るのか…。

今回の作品と役柄、そしてユニット「失恋小町」の中でのそれぞれの役割などについて、速水映人と山本芳樹、そしてプロデューサーの有本佳子にも話に加わってもらって、本作『朝謡の迷い子』の話をしてもらった。

速水映人 山本芳樹


コロナ禍の中で旗揚げしたユニット「失恋小町」

 
──まず「失恋小町」というユニットができた経緯から聞かせてください。
有本 きっかけは、コロナ禍で演劇の上演が難しい時期に、小人数でできる芝居ということで、ひとり芝居を自分で上演していた速水さんに脚本をお願いして、2021 年に『灯りに集く虫の唄(あかりにすだくむしのうた)』を上演したんです。それが旗揚げ公演となり、そのときに出演した速水さん、山本さん、古屋治男さんと大城智哉さん、この4人が「失恋小町」の固定メンバーです。
山本 劇団員と言っていいんじゃないの(笑)。
速水 劇団員ですね(笑)。
有本 大城くんは研究生かな(笑)。
──その第一回公演がお客様に好評だったことで、第二回公演『朝謡の迷い子』が上演されることになったわけですが、毎回、速水さんが書きたいものを書くという感じなのですか? 
速水 いえ、まずはプロデューサーの有本さんや芳樹さんと集まって、今回はこんな感じでいこうとか基本的なところを決めます。
──そこが決まればあとは書けてしまう?
速水 前回はどんどん書けたんですが、今回はやはり2作目ということで気負っていたのか、ちょっと時間がかかりました。
山本 今回は客演で東地(宏樹)さんが参加してくださっているので、それもあったんじゃない? 
速水 ありましたね。初めてご一緒するので、どういう立ち位置にしようとかすごく考えたので。
有本 とても素敵な役になってますね。
──そして、「失恋小町」の音楽を担当しているのが山本さんで、毎回、主題歌を作詞・作曲しているのですね。
山本 主題歌と、あと数曲、劇中で歌ったり、弾き語りをしています。
速水 全部オリジナルですから贅沢ですよね。

道子ママのスナックみちくさから生まれる物語

──この作品のキーパーソンとも言うべきスナックみちくさの「道子ママ」は、速水さんが女形で演じますが、ママはすごく惚れっぽいんですね。
速水 いい男を見るとすぐ惚れちゃうんです(笑)。今回は芳樹さん扮するストリートミュージシャンの春樹に一目惚れします。ただ春樹には捨ててきた過去があって。
山本 春樹は恵まれた環境で育って、親の敷いたレールの上で生きてきたんですけど、自分が本当にやりたいのは別のことで。いい年して自分の人生にまだ迷いがあるんです。
──そういう春樹や、道子ママの店に集まる人たちの人生が垣間見えるという物語ですが、スナックの名前のようにホッとする優しさがありますね。
速水 ひとり芝居のときから、昔の時代劇みたいに「どこか温かさを残す」ことを大事にしようと思っていました。ひとり芝居ではもっと夢みたいな物語を書いていたんですが、「失恋小町」で4人芝居になったとき、物語の世界を広げないといけないなと思って、プロデューサーや周りの人からいろんなアドバイスをしてもらったり、今の社会や現実を映すようなことも入れるようにしたんです。そのうえでどこかに人間の温かみみたいなところを残したいなと思いながら書いています。
──山本さんからみて速水さんの作品世界はいかがですか?
山本 映人くんの書いたものは前回に続いて2本目なんですが、彼自身の人間性からくる「えいとワールド」が出来あがりつつあるし、このあとももっとこの世界を広げていってほしいなと。それに僕は道子ママと必ず絡む役ですから、どんどんいろんな役柄を演じさせてもらいたいし、僕自身も、役者として映人くんの目指す世界観にもっと近づけるようになりたいと思っているんです。

「恋愛」ではなく「恋」をする道子ママ 

──コンビ2作目のおふたりですが、役者としてのお互いについて語っていただけますか?
速水 実はけっこう長い付き合いで、プリエールさんが制作した劇団道学先生の『あつ苦しい兄弟』(12年)で初めて出会って。
有本 あの公演では、劇団スタジオライフの山本さんと大衆演劇からの速水さんという2人がちょっと異色だったんです。それで気が合って仲良くなったのよね。
山本 もう11年前ですね。
速水 そのときから一緒に何かやりたいねという思いはあって、やっとそれが前回の「失恋小町」で実現したんです。
──作家として俳優・山本芳樹の魅力はいかがですか?
速水 道学先生の公演のあとちょっと間が空いていたんですが、前回の「失恋小町」の企画が決まってから、改めて芳樹さんの出ている公演とか、もちろん劇団の公演も観に行きました。そのなかで役者としての魅力だけでなく、歌を歌っているときの独特の雰囲気が素敵で、その魅力を再発見したという感じでした。それに「失恋小町」の前回公演のあとに観た舞台では儚げな部分が心に残ったので、今回は芳樹さんの哀愁みたいな部分も見せたいと思いました。さらに知った部分も増えてきたので、そこも本の中に入れ込んでいますし、これからまた違う役柄も書きたいですね。
有本 前回ではやさぐれたホストを演じていたのよね(笑)。
山本 (笑)昔はNO.1ホストだったのに、年齢が高くなって若いホストたちにどんどん追い越されていくから、やさぐれてしまって(笑)。最初のシーンが道子ママのスナックに酔っ払って入ってくるという(笑)。
有本 嫌なヤツでね(笑)。
山本 (笑)でも道子ママと出会ってママの話を聞いたりするうちに、やさぐれていた心がほぐれていくんです。
有本 ママの勢いがすごくて、絡んでもママのペースに引っ張り込まれるから、あ、言ってもしょうがねえな(笑)みたいになっていくのが、すごく面白かった。
──道子ママは惚れっぽいだけでなく、人のためについ動いてしまう人情家的なところがあるのかなと。今回の物語でも周りの人たちの人生をさりげなくフォローしてあげていますね。
山本 パワーありますよね。
有本 ママは最終的には「祭」がやりたいのよね。
速水 僕自身が学校の文化祭とか、みんなで一緒に何かをやるのが好きなんです。それで自分も元気になるので。今けっこう悲しいことやツライことが多い時代だから、シンプルに楽しんでもらいたいし、泣いて笑ってほっこりできるものが理想かなと思っているんです。
有本 それと、「失恋小町」のコンセプトは「恋」なんです。道子ママは惚れっぽいんですけど、「恋愛」じゃなくて「恋」なんです。好きになるけど結局ダメになる。それがいいんです。私自身がある年齢になって思うのは、人っていつでも「恋」をしているなと。ガツガツに前向きな恋愛ではなくて、ひっそり恋してひっそり破れるみたいな。そういう大人の「失恋」の話を速水さんに書いてほしいなと思っていたので。
速水 その話を聞いてすごく勉強になりました。ひとり芝居を書いているときはやはり男目線でしたから。そういう大人の女性の気持ちなどを聞いたことで、新しい目線が持てるようになったし、女性の考え方もいろいろ想像できるようになりました。そして「恋」ということで言えば、道子ママの恋はいつも成就しないんです。成就しそうになると寅さんじゃないですけど、ママのほうから離れてしまう。いつも逃げてしまうんです。ただ今回はさらに一歩進んで、ちゃんと傷ついてほしいというプロデューサーのオーダーがあって(笑)。
有本 ちゃんと恋をして、ちゃんと失恋しよう、というのが今回のテーマなんです(笑)。
速水 今までは失恋する前に逃げていたところがあったけど、今回はどうなりますか…

がんばっている人たちのための優しい時間

──すごく切ない恋の話になりそうなので、山本さんの主題歌もひときわ注目ですね。
山本 せっかくこういうカッコいい作品なので、歌でも何かを感じていただけるものを届けられたらと思っています。ただタイトルが、今回も意味深で(笑)。『朝謡の迷い子』ってすごく良いんですけど、イメージする世界が大すぎて、最初はどうすればいいんだろうと(笑)。でも1本、糸のようなものが見えればあとはバーッと出来るので。
有本 意外な感じのものが出来ましたね。もっとドヨーンとしたのが来るかなと思ったら、意外と明るい感じで。
山本 内容はどうしても、「どこに行けばいいか迷っている」みたいなものにはなるんですけど、それをマイナーではなく、と思ったんです。
有本 その主題歌に速水さんがまた内容を合わせていく作業があって、相乗効果で作品がいいほうに進んでいってますよね。
速水 芳樹さんの音楽は作品作りの大きな力になってます。しかも歌まで歌ってくれるし、このシリーズの魅力の1つですよね。
──このシリーズもプリエールの企画ですが、おふたりから見たプリエール作品の魅力とは? 
速水 お客さんのためにエンタメの部分を大事にしていますよね。いわゆる自己満足では作らないというのは、すごく大きな部分かなと。
山本 そして、どれも温かくて優しいですね。観終わって暗い気持ちにならないのは大事だし、それは愛があるからで。作品についても出演者についてもそうで、ものを作ることへの愛をすごく感じますね。
有本 ちょっと話がずれるかもしれませんが、道子ママのところに集まる人たちは、ただ仲が良いだけではないんです。1人1人が傷つきながらもがんばって生きてきたし、今もがんばっている人たちで、でも今日ぐらいはちょっと愚痴を言ってもいいかなと、優しい時間をそこで過ごす。人間ってちゃんと自立して生きているからこそ人にも優しくできるんですよね。そういう人たちの話をこれからも届けていければと思っています。
──最後に改めて、公演を観てくださる方々へアピールをいただけますか。
速水 第二作目の「失恋小町」ですが、初めての方にはこんな世界があったのかと楽しんでいただけるものにしたいと思っています。プロデューサーをはじめ愛のあるスタッフ、キャストで届けますので、ぜひ元気になりにいらしてください。  
山本 作品自体も、温かくてほっこりして優しい世界です。コロナ禍で疲れた心が少しでも元気になるようなものを届けたいとがんばりました。音楽も良いものを作りましたので楽しみにしていてください。それからこれは「ぽけふぇす(※)」参加の作品でもあるので、「祭」を一緒に盛り上げていただければ嬉しいです。

山本芳樹 速水映人

【公演情報】
「ぽけふぇす」参加作品
失恋小町第二回公演『朝謡(あさうたい)の迷い子』
脚本:はやみえいと
演出:みさきかおる
主題歌:山本芳樹
出演:山本芳樹(Studio Life) 速水映人
東地宏樹 古屋治男 大城智哉
●9/13~18◎テアトル BONBON(中野区中野 3-22-8) 
〈料金〉一般:前売 5,000 円 当日 5,300 円/22 歳以下[入場時身分証提示]:前売 4,000 円 当日 4,300 円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈一般発売日〉2023年 8 月 17 日(木)
〈チケット取扱〉
カンフェティ http://www.confetti-web.com/mushinouta   0120-240-540
チケットぴあ https://t.pia.jp(P コード 520-792)
※ぽけふぇす内3作を観られるお得な共通券「ぽけぱす」の販売あり。詳細はポケットスクエアHPにて
〈公演に関する問合せ〉プリエール 03-5942-9025 (土日祝を除く 11:00~18:00)
 
(※)「ぽけふぇす」2023年8月21日~9月18日
中野のポケットスクエアにて開催されている演劇フェスティバル
〈公式サイト〉https://www.pocketsquare.jp/

■クレジット
取材・文/榊原和子 撮影/白木淳也

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