全寮制男子高校で起きた難事件に挑む「ミステリ・ミュージカル『ルームメイトと謎解きを』」開幕!

劇団EXILEの小野塚勇人、ボーカルダンスグループ・原因は自分にある。の武藤潤、富永勇也が主演を務める「ミステリ・ミュージカル『ルームメイトと謎解きを』」が、11月18日東京・サンシャイン劇場で開幕した(26日まで)。

「ルームメイトと謎解きを」は、高校在学中に「無気力探偵面倒な事件、お断り」でデビューした注目の若手作家・楠谷佑原作による、全寮制男子校×本格ミステリ小説。正反対な性格を持つ少年ふたりのバディが、学内で起きた難事件を解決していくという、王道の「犯人当て」要素をたっぷり盛り込んだ作品で、今回の初ミュージカル化にあたり、脚本、演出をミュージカル、ストレート・プレイとジャンルを問わず数多くの作品を世に送り出し、『FACTORY GIRLS ~私が描く物語~』で第27回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞した板垣恭一。音楽に、いまやミュージカルシーンに欠かせぬ音楽家として大活躍を続けている桑原まこ、彼女の実妹でもあるジャズ音楽家の桑原あい姉妹という強力なスタッフ陣が集結。新進からベテランまで個性豊かなキャストも揃い、ミステリの世界が、エンターテイメントミュージカルとして舞台に登場した。

【STORY】
全寮制男子校である霧森学院の旧寮「あすなろ館」。昨年起きた“ある事件”のせいでほとんどの生徒が新寮に移ってしまい、今はたった6人の生徒しか入居していない。
そんなあすなろ館の住人の一人・兎川雛太(小野塚勇人/武藤潤Wキャスト)が2年に進級した始業式前日に、新たな入居者がやってくる。彼は、今年度から学院に編入してきた鷹宮絵愛(エチカ、富永勇也)で、動物にしか心を開いていない変人だが、優れた頭脳の持ち主だった。奇しくも同室になった二人は、最初は反発し合いながらも、次第にお互いを知り、心を許す友となっていく。
だがそんなある日、あすなろ館に向かう遊歩道の途中にある東屋で、学内で絶対的な権力を持つ生徒会長の湖城龍一郎(加藤良輔)が、何者かに殺害されるという大事件が起こる。しかも現場の状況から、犯行が可能なのはあすなろ館の住人だけだった。ことここに至る前、やはりあすなろ館の住人である2年生の園部圭(長江崚行)が、何者かに突き飛ばされ階段から転落する事故が起きていた為、傷害事件の疑いで学内を捜査していた霧森警察署の郷田警部補(鈴木壮麻)、室刑事(神澤直也)に加え、埼玉県警本部から千々石警部(青野紗穂)ら捜査チームも着任。厳戒態勢のなかで、湖城から目を付けられていた転入生のエチカは最有力容疑者とされてしまう。雛太はエチカの嫌疑を晴らすため、独自に聞き込み捜査を始めるが……

原作小説作者の楠谷佑が、「『ルームメイトと謎解きを』は、自分の大好きなものを詰め込んだ小説です」とコメントしている通り、この作品には観ていて思わずワクワクしてくるミステリ小説、青春小説、学園もの、等などの醍醐味がこれでもかと詰まっている。女子には決して足を踏み入れることができない全寮制男子高校という設定が、まず大人気ジャンルだし(女子が関われない世界でわちゃわちゃしている男子というのは本当に楽しそうで、独特の会話やスキンシップの眩しさは、ジェンダー論とは全く別次元の憧れを抱かせる)、そのごく限られた空間のなかで奮闘する明るい主人公と、ミステリアスな転入生。彼らに立ちはだかる絶対的権力を持っている生徒会長。そして、個性豊かな生徒たちという、良い意味のお約束ごとが全て含まれたなかで、殺人事件までが起こる。しかも、それが「名探偵全員を集めて『さて』と言う」の展開に至るという、何もかもがど真ん中ストレート。ここまで真っすぐに王道を貫くのはそう簡単なことではないだけに、とても懐かしい思いと、感嘆する思いの双方を感じた。

そんな作品を「社会派エンターテイメント」の旗を掲げ続ける板垣恭一がミュージカルの舞台に仕上げたことで、教育現場がとかく蓋をしがちな生徒同士の軋轢と、それによって起こる取り返しのつかない事態を、この作品のカラーから決して逸脱することなく、きちんと提示しているのが効いている。実は人生において、学校生活というのはそれほど長い期間ではない、と気づけるのは大人になっているからこそで、子供にとっては自分が生まれた家庭が世界の全てなのと同様、学生にとっては通っている学校が世界の全てであることもまた事実だ。そうした隔絶された世界で起きた、決して起きてはいけなかった出来事の顛末を、まるごとエンターテイメントのなかにくるみながら描けているのは、原作の持つ力と共に板垣の優れた構成力によるものだった。

何よりその手法がミュージカルで、様々に変わる状況のなか、論理的に事態を推理していく、説明していく部分が「歌」になることで、ドラマのテンポ感がグッとあがる利点が大きい。実際、想像以上に作中で歌っている時間が長い、膨大なミュージカルナンバーを擁した作劇になっているのだが、それらが桑原まこ、桑原あいによるオリジナル楽曲で綴られているから、それぞれの歌唱に無理がなく客席にいてノンストレスだったことが嬉しい。しかもドラマ終盤の山場には、絶大な歌唱力の持ち主であるミュージカル俳優が場を締める構成が、生演奏の贅沢さと共に心憎い。一方、若いキャストの多い座組に当銀大輔の振付がよくマッチしていて躍動感が続くし、基本的に学園のなかで起こる物語を、軽やかに転換させていく美術の乘峯雅寛、役柄が置かれている状況を明確にした、照明の三澤裕史の適格な仕事も光った。

そんななかで、初日に兎川雛太役を演じた小野塚勇人は、溌剌と元気いっぱいで、何に対しても真っ直ぐ、という雛太像にピッタリとハマっている。空手部の部活動シーンも含めて、舞台での動きが軽快で自分の感情に素直な、如何にも人好きのする主人公として舞台の中心にごく自然に位置することに成功していた。もう一人の雛太役・武藤潤がインフルエンザで、大変残念なことに初日から三日間降板となったが、小野塚が闊達に雛太を務め続ける舞台にエールを贈ると共に、武藤がどんな雛太を演じてくれるのかにも期待したい。

その雛太の前に現れる転校生の鷹宮絵愛(エチカ)役の富永勇也は、論理的でクールなエチカを、長身をちょっと斜に構えた立ち姿からよく表現している。容易に人に心を許さないミステリアスなエチカが動物を溺愛していたり、ある単純なことができず、いつも雛太の手をわずらわせているのは、もうこうした青春ドラマのツボ中のツボで、富永のビジュアルが加わったまさにギャップ萌え。二人が友情を結んでいく過程も丁寧に表現しているし、推理を披露する場が長いだけに、歌詞が明瞭なことも作品全体に良い影響を与えていた。

学内に警察が介入してくるきっかけを作る生物部の2年生・園部圭役の長江崚行は、どこか自信なさげで周りの反応に敏感なあまりおどおどしがち、という役作りが全体のなかでもひときわ印象に残る。これは登場人物全員、特にあすなろ館の住人たちにも言えることなのだが、作品がミステリで、誰が犯人なのか?を追う必要がある舞台のなかで、この存在感は貴重だった。

そのあすなる館の住人では、3年生で空手部部長兼寮長の有岡優介役の健人が、初登場時顧問の先生?と一瞬思ったほどの兄貴分感を醸し出し、全寮制高校のなかでの3年生、しかも寮長という立場の重みをくっきりと表現している。同じく3年生で、演劇部部長兼副寮長の志儀稔役の加藤将は、大作ミュージカルへの豊富な出演歴が生き、音楽のなかで芝居をする力が突出していて、明るい振る舞いと心にある鬱屈の落差もよく出ている。直接部活動をしているシーンこそないが「演劇部」であることが生きるスマッシュヒットな芝居もあり、関西弁の台詞も良いアクセントになっていた。

また、1年生の五月女唯哉役の横山賀三は、何故1年生なのにもう受験勉強に励んでいるのか?の理由が明かされる印象的な役柄を真摯に演じて、きちんと下級生感が出ているし、2年生の棗誠之助役の山野光は、作中唯一女子高校生と付き合っている描写がある役柄を、如何にもそれらしいモテキャラに作ったなかで、爆笑を誘う身体能力の高さに目を奪われる。同じく2年生の元村瞬役の松村優は、箸が転んでも可笑しいというのは、女子だけに使う言葉じゃないな、と思わせる明るいキャラクターで場を和ませた。

一方、前述した通り、こうした「学園もの」のお約束キャラクター、理事長の子息で、学園内で絶対的権力を持つ湖城龍一郎役の加藤良輔は、作品が求めたドラマを動かす重要なポジションとしての役割りを担い、何もかもが自分の思い通りになって当たり前と信じ込んでいる龍一郎をヒール感たっぷりに演じて気を吐いた。こちらもやや一昔前の教師像を連想させる体育教師・大河原先生の陳内将は、警察の介入を嫌い生徒たちに高圧的な態度を取ることが、ドラマに必要な要素となる役柄を熱量高く演じている。もうひと役重要な役柄を兼任しているので、変身の妙にも注目して欲しい。

カンパニーの唯一の女性キャストで、登場する女性役を全て演じる青野紗穂は、えっ?じゃあさっきの役柄も青野?と振り返って驚くほどの巧みな演じ分けを果たしていて、何より抜群の歌唱力が最も印象に残っていた「青野沙穂」という役者が、演技面でも高い充実を示していることを改めて知らしめた恰好。特にメインとなる千々石菫子警部役では、かなり遅い登場にもかかわらず、感情を一切露わにしないキリリとした演じぶりで場を浚った。

その千々石警部より先に、学内で捜査をしている郷田忍警部補の鈴木壮麻は、如何にも捜査は足でするものだ、と言いそうな現場一筋の警察官の真面目さが登場時点から匂い立つよう。既にミュージカル界の大ベテランだし、歌唱力も折り紙付きだが、近年は非常に個性的な役柄を演じることが多く、こうした実直なキャラクターはむしろ新鮮。ミステリものの山場である犯人当ての終盤まで、やや抑えた歌い方をしているのも全体にとっても、作品にとっても効果的で、カンパニーを底から支える存在になっていた。

また、郷田警部とバディを組む室刑事の神澤直也は、繊細で柔らかい雰囲気が学内に警察がいることの威圧感を薄め、生徒たちが心を開きやすい雰囲気を出しているし、あすなろ館の管理人、平木康臣役の半澤昇からは、教師とはまた違うポジションで生徒たちの面倒をみている管理人の温かさがよく伝わってきた。理科教師で生物部顧問・財津先生役の森山晶之も、ミステリのポイント、ポイトンで重要な台詞を言っている役柄をインパクト強く見せてくれたし、学生役を掛け持つ吉村健洋、大崎聖奈、光由も、それぞれに大きな働き場があり、その瞬間は舞台の中心になるのが、板垣作品ならではで、三人がその作劇によく応えている。男性キャストがほとんどのなかで相当な負荷だろう、スゥイングの須田拓未の存在も頼もしい。

全体に俳優たちの生き生きした演技と共に、全てが学院内というある種の閉鎖空間が舞台表現によくあい、「ミステリ×ミュージカル」の意外な親和性の高さを感じさせる魅力的な舞台になっている。

【公演情報】
ミステリ・ミュージカル
『ルームメイトと謎解きを』
原作:楠谷 佑 「ルームメイトと謎解きを」(ポプラ社刊)
脚本・作詞・演出:板垣恭一
音楽:桑原まこ 桑原あい
出演:小野塚勇人〈劇団EXILE〉/武藤潤〈原因は自分にある。〉(Wキャスト) 富永勇也
長江崚行 健人 加藤将 横山賀三 山野光 松村優
加藤良輔 陳内将 青野紗穂/鈴木壮麻
神澤直也 半澤昇 森山晶之 吉村健洋 大崎聖奈 光由 須田拓未(スゥイング)
11/18~26◎東京公演 サンシャイン劇場
〈料金〉平日席種
・S席(非売品オリジナル双眼鏡付き):9,800円
・S席:8,800円
・前方サイドシート(S席):8,800円
・A席:7,800円
・ルームメイト席(ペア席):A席2枚ペアで8,000円
・U-18チケット:5,000円
〈料金〉土日祝席種
・S席(非売品オリジナル双眼鏡付き):10,800円
・S席:9,800円
・前方サイドシート(S席):9,800円
・A席:8,800円
・ルームメイト席(ペア席):A席2枚ペアで10,000円
・U-18チケット:5,000円〈お問い合わせ〉公演事務局 https://supportform.jp/event(平日10:00~17:00)
〈公式サイト〉https://musical-roommate.com/ 
〈公式X〉 @musical_meitoki”

【取材・文/橘涼香 撮影/曳野若菜】

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