7年間の集大成を歌舞伎座で!「十二月大歌舞伎」超歌舞伎 Powered by NTT『今昔饗宴千本桜』中村獅童・小川陽喜・小川夏幹 取材会レポート
2016年、幕張メッセのニコニコ超会議で、大人気バーチャル・シンガー初音ミクと歌舞伎のコラボレーションとして初めて超歌舞伎『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)』が上演された。NTTの最新テクノロジーを駆使して実現した歌舞伎と初音ミクのコラボレーションは、多方面に衝撃を与えた。
このプロジェクトを一度限りのものと思った人々は、ともすると少なくなかったのではないだろうか。だが、(特に初音ミク)ファンからの想像以上の支持を集めて、これまでにも『花街詞合鏡(くるわことばあわせかがみ)』(2017年幕張メッセ)、『積思花顔競(つもるおもいはなのかおみせ)』(2018年幕張メッセ)、『今昔饗宴千本桜』(2019年幕張メッセ・再演)、八月南座超歌舞伎『超歌舞伎のみかた』『お国山三 當世流歌舞伎踊』『今昔饗宴千本桜』(2019年)、『夏祭版 今昔饗宴千本桜』(2020年双方向オンライン配信)、『御伽草紙戀姿絵(おとぎぞうしこいのすがたえ)』(2021年幕張メッセ)、九月南座超歌舞伎『都染戯場彩』『御伽草紙戀姿絵』(2021年南座)、『永遠花誉功(とわのはなほまれのいさおし)』(2022年幕張メッセ)、超歌舞伎2022 Powered by NTT『超歌舞伎のみかた』『萬代春歌舞伎踊』『永遠花誉功』(2022年博多座・御園座・新橋演舞場・南座)、『御伽草紙戀姿絵』(2023年幕張メッセ)と、毎年公演を続けてきた。
そして、8年目を迎えた今年、12月3日から幕を開けた「十二月大歌舞伎」の第一部で超歌舞伎『今昔饗宴千本桜』がついに歌舞伎座で初めて上演される(26日まで、11日・19日は休演)。
出演者は、中村獅童をはじめ、澤村國矢、獅童一門の中村蝶紫などに加えて、今回は中村勘九郎、中村七之助も初参加する。中村屋の2人は、歌舞伎座版にあたって新たに加筆される「発端の場」がメインの登場場面だという。さらに、獅童の息子である小川陽喜、初お目見得となる小川夏幹にも注目したい。
11月中旬、都内で取材会が行われた。獅童は「正直に言うと、嬉しいという思いが一番強いですが、やはり歌舞伎座でやるにはちょっと異質な演目なので、賛否両論のご意見があるだろうとはわかっています。でも、伝統を守りつつ、革新を追求するという中村獅童の生き方を貫き通したい」と表情を引き締めた。
初演の時、歌舞伎座で公演ができることを想像していたかという質問には「中村獅童がなにか変わったことをやっているという見られ方もした。だからこそ、いずれは歌舞伎座でやって、超歌舞伎という1つのジャンルを本物にしたいと心のなかで思っていた」と答えた。新橋演舞場の公演で、歌舞伎座公演を発表した時の、客席が揺れるような反応、獅童の感極まったような、武者震いのような顔がふとよぎった。思いは現実のものとなり、今では超歌舞伎は獅童にとってのライフワークである。
その超歌舞伎を支えてくれる存在として、初音ミクのファンは欠かせない。「応援してくださる皆様、初音ミクさんのファンの方たちお一人お一人の思いがあったからこそ、歌舞伎座に繋がったのではないか」と感謝の思いを口にした。
公演に臨む心境については「僕が100%自信を持たなければいけないが、不安なところもある。だけどもうやるしかない。今まで7年間の歌舞伎座が集大成になればいい」と、今回が大きな節目となることを発表した。
超歌舞伎名物といえば、客席いっぱいに広がるペンライトの海。ペンライトのまばゆい光が会場を色とりどりに染め上げる光景は、なかなか圧巻である。南座や新橋演舞場に続き、歌舞伎座でもついにペンライトが光ることについて、獅童は「今まで見たことのない風景を歌舞伎座で作ってみたい。歌舞伎座であっても、よそ行きにならず、今まで我々がペンライトを大いに振って、お客様と一体となって盛り上がったことを、歌舞伎座でもやるところに意味がある」と語った。
2019年8月の南座公演を振り返って、長年歌舞伎を見慣れた和服姿の観客も初音ミクファンも、ともに盛り上がって、「お祭りみたいに楽しめた」という反響が自信にも繋がったと獅童は話す。「初音ミクさんの熱狂的なオタクの方が、10本くらいペンライトを持っているから、和服姿の方に貸してあげる光景を見た時に、オタクの方たちと古典歌舞伎ファンの方たちの心が通じたんだなと、なんともいえない嬉しさがあった」と笑った。
『今昔饗宴千本桜』がきっかけで、歌舞伎の名作古典である『義経千本桜』を観にいった初音ミクファンもいるという。獅童は「一見奇抜なことをやっていそうですが、歌舞伎の醍醐味である踊りや立廻りなどがすべて盛り込まれているのが超歌舞伎。基本は古典歌舞伎にのっとっている。奇抜なのは、最後に僕がお客様を煽ることです」とニヤリ。初めて歌舞伎座に足を運ぶであろうファンに向けては「もちろん、いつもながらの格好で来てほしい。初音ミクさんの法被を着てくる方が多いんですよ。あの方たちが大勢客席にいらっしゃると、本当に安心するんです(笑)。最初の「口上」は、お客様を眺めながら、その日その日の気持ちをストレートに伝えています。長くなると最長で45分のこともありました(笑)。今回は他にも演目があるので、心してやりたい」と語った。
今回、若い頃から同じ舞台にも立っている勘九郎、七之助が出演することについて「僕たちも出ると言ってくれて嬉しかったし、自分たちが出ることでお弟子さんたちの役が格下げになることはよしてくれと言ってくれたと、後から聞いた」と、その心遣いに胸を熱くした。「歌舞伎界もどんどん変わっていかなきゃいけない。どうしていくのがいいのか、コロナ禍でいろいろ考えるなかで、お弟子さんたちがこれからもっと活躍できる歌舞伎界になればいいという思いも、超歌舞伎に込められています」と真剣に話す。2019年の南座公演から「リミテッド・バージョン」として、獅童が脇に回り、國矢や蝶紫、獅一などが大きな役を演じる日を設けていることは、その最たるものである。
前回に続いて、超歌舞伎へは2回目の出演となる陽喜くんと、今回が記念すべき初お目見得となる夏幹くんの役どころについては「陽喜は狐の精(と陽櫻丸)で、なっちゃん(夏幹)は夏櫻(なつおう)丸。最後のクライマックスでは、陽喜と一緒に花道で派手に見得をきる演出があるので、本人は気持ちがいいんじゃないかな」と、少しだけうらやましそうに(?)語った。
会見後の囲み取材では、陽喜くんと夏幹くんも登場。「おがわなつきです!」という夏幹くんの元気な挨拶に、お兄ちゃんがすかさずペンライトで「よろずや~!」と大向こうを入れる場面も。質問にしっかり答える夏幹くん、そのまわりをマイペースにうろちょろする陽喜くん、そこにつっこむ獅童という、微笑ましい光景が繰り広げられた。息子たちついて「とにかく今は歌舞伎が楽しくてしょうがないので、歌舞伎座で初お目見得させていただけて、非常に嬉しい。感謝の気持ちを忘れず、楽まで病気をせず、のびのび楽しくやってもらいたい」と父の顔を見せた。
初演から超歌舞伎になくてはならないNTTの技術もどんどん進化している。たとえば、もう一人の獅童をバーチャルで作り出した「ツイン獅童」は、前回は「超歌舞伎のみかた」のコーナーでも登場している。また、Kirari!という、舞台上で演じる俳優の姿だけを切り取って別の場所に映し出すことで、まるで分身の術を使ったように見せる技術。そして、PSZ技術を使った、耳を塞がないイヤホンをイヤホンガイドで導入する。このイヤホンを使うと、生の声や音は聞こえるため、芝居の臨場感や熱気をしっかり感じつつ、イヤホンからの音が空から降ってくるような感覚で聞けるという。超歌舞伎のある第一部に限らず、「十二月大歌舞伎」のすべての部で導入されるため、興味がある人はぜひこの新感覚を体験してほしい。
俳優やスタッフはもちろん、NTTの技術者チームとも手を携えて歩んできた、超歌舞伎7年間の集大成。小川夏幹の初お目見得でもあり、きっと忘れられない公演になるだろう。超歌舞伎をずっと見守ってきた人も、まだ超歌舞伎を体験したことがない人も、師走の歌舞伎座へ、若い歌舞伎俳優の第一歩とペンライトの海を目撃しに行ってみてはいかがだろうか。
【公演情報】
歌舞伎座新開場十周年「十二月大歌舞伎」
●2023年12月3日(日)~26日(火)◎歌舞伎座(東京都中央区銀座4-12-15)
■上演演目
超歌舞伎 Powered by NTT『今昔饗宴千本桜』
中村獅童 初音ミク宙乗り相勤め申し候 ほか
■チケット発売中
チケットホン松竹 0570-000-489(午前10時~午後5時)
チケットWeb松竹(24時間受付)
■『今昔饗宴千本桜』出演者
佐藤四郎兵衛忠信 中村獅童
美玖姫 初音ミク
蝶の精 中村種之助
陽櫻丸/狐の精 小川陽喜
夏櫻丸 初お目見得 小川夏幹(獅童次男)
初音の前 中村蝶紫
青龍の精 澤村國矢
頭取 市川青虎
神女舞鶴姫 中村七之助
朱雀の尊 中村勘九郎
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/846
【取材・文/内河 文 写真/(C)松竹】