【ノゾエ征爾の「桜の島の野添酒店」】No.129「お選択」

もう今年最後のエッセイとは、信じがたいほどに早い。
12月にしてこの異常な暖かさが、より信じられなさに拍車をかけているのかもしれませんが、
あれも今年かこれも今年かと思い出していくと、一年ってなかなかにボリューミーである。
下半期はずっと身体の具合が悪かった気がする。
9月の頭にコロナにかかって以降、回復したりまた具合が悪くなったりを繰り返している。今現在も正直悪い。咳が続いていて、耳も奥でこもってる感じでよく聞こえない。高層階のエレベーターなどでよくなるあれだ。欠伸とかしたら治るのが本来だが、欠伸すれどもすれども一向に耳が通らないのだ。
下半期だけで何回病院に行ったことか。おかげでやめたり戻ったりしてたタバコも完全にやめれた気がする。
吸うのか吸わないのかどっちなのか。そんな曖昧な態度ではタバコに対しても随分と失礼だった気がする。
以前、宮沢章夫さんにも言われたことがあった。私が1日に吸う本数のその中途半端な少なさを聞いて、そんな吸いっぷりじゃかえってタバコに失礼だと。
そんな宮沢さんは当時は既にお身体の事情でタバコはやめられていたが、吸ってた頃は一日3箱いってたそうな。3箱くらい吸ってようやくタバコに対して示しがつくのだと。なんの示しかよくわからないが。
宮沢さんは、私は一作品でしか演出を受ける機会がなかったのだが(「ヒネミの商人」)、本当に言葉のチョイスのセンスが超越していたと思う。戯曲やエッセイなどでは言わずもがな、演出の言葉にいつもそれを感じたものだ。
そんなことを、先日、劇壇ガルバでの笠木泉さん演出の宮沢さん作品を拝見しながら、しみじみと思い出していた。
鎌田順也くんもそうだ。言葉のチョイスも演出のチョイスも、そしてキャストのチョイスも抜群だった。強烈に面白かった。
到底真似できない。そういう時、我々はそれを天才と呼ぶ。
 
「その男」も長年、天才だったはずだ。
その男の歌は、20年以上も第一線で、多くの人に親しまれ、国中で歌われ、日本中がもう「認めた」領域に達していたと言っていいと思う。
ただ、その日、ちょっとだけチョイスを誤った。いや、誤ったわけでもない、ズレた。ハマらなかったのだ。
その男は、その日のライブで、「今日はちょっと歌うよりもトーク多めにしたい」をチョイスした。
そしたら会場のファンがキレたそうな。
ついで全国で誹謗中傷というか賛否が渦巻いた。
実際のことは何も知らないので憶測で言ってはあれなのだが、
かわいそう。そればかりを思った。
ちょっと喜劇のような滑稽なものを感じて笑ってしまったりもしたが、
でもやっぱり、かわいそう。と。
もう20年以上も愛され続けて、誰もが彼の歌を耳にしてて、ライブもいつもやり続けてきてて、で、たまたまなんか、今日はちょっとおしゃべり多めでやりたいと思います!って、声高に言ったわけでもないとは思うが、
たまたまちょっとそういうチョイスをした。何十年の中でたった一回(かどうかも知らないが)。
それで国をあげてのブーイングとは、
これはもう逆にブチキレていいんじゃないかと思った。まさよしさんが。
漢字で書けば正義という字なのだろうか?
じゃないとしても、こんなの、正義もクソもあったもんじゃない。
なんか、最終的に腹を立てて終わるような感じになってしまいましたが、ここまでにします。
今年もどうもありがとうございました。
来年も、どういうエッセイなのか、はたまたどういう演劇をやるのか、チョイスを定めずにやっていこうと思いますが、みなさんが観たり読んだりしたくなるようなものが作れるよう、頑張れたらと思います。体調の快復も願いつつ。
よいお年を。

 
著者プロフィール

ノゾエ征爾
のぞえせいじ○1975年生。脚本家、演出家、俳優。はえぎわ主宰。青山学院大学在学中の1999年に「はえぎわ」を始動。以降全作品の作・演出を手がける。2011年の『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞を受賞。

【次回予定】

・はえぎわ×彩の国さいたま芸術劇場
「マクベス」
上演台本・演出:ノゾエ征爾
2023年2月17日より、シアターイースト、他
https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/98208/
 
・新国立劇場「デカローグ」
デカローグ1への出演。
2024年4月13日より、新国立劇場・小劇場にて
https://www.nntt.jac.go.jp/play/dekalog/

▼▼前回の連載はこちら▼▼
https://enbutown.com/joho/2023/11/15/nozoe128/

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