三越創業350周年/KASSAY第15回公演『ジョルジュ&ミッシェル ショパンを創った、ふたり』間もなく開幕! 北翔海莉・愛月ひかる・平尾有衣・有賀沙織インタビュー

 
俳優の北翔海莉と愛月ひかる、ピアニストの平尾有衣が、演じ、語り、奏でる朗読劇『ジョルジュ&ミッシェル ショパンを創った、ふたり』が、2月3日・4日に三越劇場で上演される。

この作品は、朗読劇『ジョルジュ』として劇作家の斎藤憐が書き下ろし、佐藤信が演出、座・高円寺のレパートリー作品として、20年以上の長きにわたって愛されてきた。今回は全員女性による三越劇場バージョンとなり、タイトルも朗読劇『ジョルジュ&ミッシェル ショパンを創った、ふたり』として上演される。プロデューサーはKASSAYの主宰で郷土文化を創作劇として舞台化、数多く作品を発表してきた有賀沙織が務めている。

物語は、作曲家ショパンと作家ジョルジュ・サンドの愛と別れが、ジョルジュとその恋人で相談役でもあった弁護士ミッシェルとの間で交わされた往復書簡を中心に、ショパンの数々の名曲とともに描かれる。

出演者は、ジョルジュ・サンド役に2年前に宝塚歌劇団を退団、本作で初めて女性役を演じる愛月ひかる、弁護士ミッシェルには、元宝塚歌劇団男役トップスターで女優として活躍中の北翔海莉。そしてショパン役としてピアノを奏でるのは、東京藝術大学修士課程を修了後、国内外で活躍をするピアニストの平尾有衣。
 
この注目の舞台について、北翔海莉、愛月ひかる、平尾有衣、有賀沙織に語り合ってもらった。

平尾有衣、愛月ひかる、北翔海莉、有賀沙織


ショパン役も女性の「変奏曲」バージョン

──有賀さんがこの作品を上演しようと思ったきっかけは?

有賀 私が『ジョルジュ』を初めて観たのは2011年で、ジョルジュを渡辺美佐子さん、ミッシェルを松橋登さんが演じていらっしゃいました。とても素敵な作品でしたので戯曲を買ってずっと持っていたんです。そして昨年、三越劇場の担当の方から、私のこれまで上演してきた舞台を観てくださっていたとのことで、一緒に何か作りませんかと声をかけていただきました。それで今年が三越創業350年ということで、それにふさわしい舞台はどんなものがいいのだろうと考えていたとき、たまたま平尾有衣さんがやっていらっしゃる株式会社music&の企画「Music Museum」で、ベートーヴェンについての話と演奏をされているのを観て、10年前に観た『ジョルジュ』のことが結びついて、あんなふうにシンプルなかたちで上演してみようと思ったんです。

──三越劇場のクラシックな雰囲気にもちょうど合う内容ですね。

有賀 そうなんです。ただ1つ問題がありました。この作品のピアニストはショパン役も兼ねるので、これまでの上演ではいつも男性ピアニストが務めていらっしゃいました。でも戯曲を読み直してみたら、作者の斎藤憐さんが後書きで、「ひとつの台本が、その時々に集まった俳優さんやピアニストの方によって、いろんなふうに輝くのをはじめて体験した。これからも、数々の俳優さんやピアニストの方との出会いの場になってくれることを願っている」と書いていらしたので、演出の佐藤信さんに「ピアニストを女性にしてはいけませんか?」とご相談したんです。そうしたら佐藤さんが、「それなら思いきって全員女性でやってしまおう!」と提案してくださって、新しいかたち、変奏曲として『ジョルジュ&ミッシェル ショパンを創った、ふたり』(以下『ジョルジュ&ミッシェル』)が生まれることになったんです。それにこれは私の個人的な思いなのですが、これまでジョルジュはわりと年配の女優さんが演じてこられたのですが、私自身が44歳になって、それはジョルジュがショパンと別れた年齢なんです。また、私自身がこの数年というもの1人でいろいろ闘わなければいけないことが多くなって、そのための強さや情熱をジョルジュから学びたいと思ったことも、上演へのきっかけになりました。

──自分自身へのエールになればということですね。

有賀 はい。そしてその視点で見直したところ、戯曲の後半でジョルジュがショパンを振り切っていくところがあるんです。そこは二人の会話が噛み合わないかたちなので、最近はカットして上演されていたのですが、私は振り切るためにはその部分こそが必要だと考えまして、今回は復活させてくださいとお願いしました。

 
先輩を相手に初の女性役に挑む!
  
──出演の方々にもお話を伺います。北翔さんはオファーを受けていかがでした?

北翔 私は去年、宝塚のOGの人たちが出演した音楽朗読劇場『ショパンとリスト~出逢いと別れのエチュード~』という作品を観て、素敵だなと思っていたところに、この『ジョルジュ&ミッシェル』のお話をいただいて、ミッシェルはある意味でジョルジュを挟んで反対側の視点から見られる役なので、ぜひ演じてみたいなと。それに私自身、『海の上のピアニスト』という朗読劇では、ピアニストと自分が二人でひとりというような役を演じたのですが、そのとき舞台上にピアノがあって生演奏されることの素晴らしさを感じました。そして音と自分が一体化したときの何とも言えない神秘的な感覚がありました。ですから喜んでこのお話をお受けしました。

──ミッシェルという役柄についてはどう演じようと?

北翔 まず男性役ということで、私は宝塚を卒業してからもう7年も経つので、男役の演じ方もすっかり忘れかけていて、今さら男役?と思ったりもしたのですが(笑)。でもミッシェルという人は、とても包容力と寛大さのある男性で、ジョルジュの恋人でありつつ最終的にはショパンも含めて支えていくんです。そういう意味ではジョルジュへの愛はずっとブレない。そういう懐の大きさは、私が今の年齢になったからこそ表現できるのではないかと。そして、自分の幅をもう一つ広げる機会にできたらいいなと思いました。

──愛月さんはジョルジュ役で、今回初めて女性を演じます。

愛月 宝塚を退団して3年目になるのですが、ずっと女の人を演じるのを避けてきたんです。というか、自分の舞台生活は男役が好きで男役を演じることでしか考えられなかったので。今も女優になるということがしっくりきていないのですが、一度オーディオドラマで女性役として参加させていただいたとき、自分は女性役とか男性役とかに関係なく、結局は演じることが好きなんだなと実感したんです。でもいきなり女性の衣裳を着て男性を相手にお芝居するのは、まだ私にとってはハードルが高いし、そういう作品だったら受けていなかったと思います。でも朗読劇で、しかも相手役が宝塚時代からの先輩の北翔さんという安心感と、ジョルジュは男勝りで男装でも有名な人ですから、だったら私でもできるかなと。また、私は宝塚時代に『翼ある人びと—ブラームスとクララ・シューマン -』(14年、宙組)という公演でフランツ・リストを演じたのですが、そのとき資料をいろいろ調べて、リストとジョルジュが恋仲になったことも知っていたので、そのジョルジュを今回演じることにも不思議な繋がりを感じています。

 
言葉はウソをつけるけれど、音はウソをつけない
  
──そしてショパン役として舞台上でピアノを弾くのが平尾さんです。

平尾 お話をいただいたとき、最初はどういう意味なのかよくわからなかったんです。役として舞台に出させていただくのは初めてなので。でもショパンの役をやらせていただけるなんて! という喜びもあります。私は歴史ある音楽家たちの作品を皆さんに届けるのが自分の仕事だと思っているのですが、今、クラシック音楽というものを聴く方は限られていて、でもこうしてお芝居でショパンの音楽を届けられたら、もっと多くの方にクラシック音楽に触れていただける、ぜひ出演させていただこうと思いました。先ほど有賀さんのお話に出たmusic&の「Music Museum」は、作曲家のメッセージを物語風に私が解説して、その曲を弾くというものなんです。それをもう5年ぐらい定期的に続けていて、それを有賀さんが気に入ってくださって。

有賀 とてもお芝居的だったんです。そして平尾さんの言葉で衝撃的だったのが、「言葉はウソをつけるけれど、音はウソをつけない」と。その言葉通り、平尾さんは音で人の心や感情を想像しながら弾かれるんです。実は今回の作品について、ある方に『ジョルジュ&ミッシェル ショパンを創った、ふたり』とありますが、主役は?と尋ねられたことがありまして、そのとき「主役は音です」と答えたんです。みんなでこの作品を作っていくという意味では、「主役は音だ」という話を佐藤信さんともしていて、さらに佐藤さんは、座・高円寺の芸術監督を務められた方として、『ジョルジュ&ミッシェル ショパンを創った、ふたり』は、座・高円寺のレパートリーとは明確に違う、三越劇場バージョンとして新しく作りたいとおっしゃってくださいました。

北翔 平尾さんは小柄でちょっとひよわそうで(笑)、すみません。護ってあげたくなる感じで、ショパンのイメージがありますね。

愛月 私もそう思います。ジョルジュはショパンに対して母性的な部分もあるので、平尾さんの華奢で繊細な感じはそのままショパンですよね。

──ご本人の平尾さんはショパンについてのイメージは?

平尾 確かに外見も女性的な要素がある人ですが、その中にものすごく強くて熱い炎のようなものを持っている。音楽家としては魅力的ですが、精神状態にすごく波があるので、お付き合いしたらたいへんじゃないかと。

全員 (笑)。

平尾 でもそれをそのまま曲にして書き残してくれたので、今、素晴らしい作品として私たちに前にあるわけです。

 
悲しいときにショパンの優しい曲で癒される
 
──今回、「英雄ポロネーズ」や「別れの曲」、「革命」をはじめ劇中で沢山の曲が演奏されますが、皆さんにとって思い出深い曲は?

北翔 私は宝塚時代に『ザ・クラシック-I LOVE CHOPIN-』(06年・宙組公演)というレビューに出演していて、タイトル通り全曲がショパンなので、どの曲を聴いてもそのレビューの場面が浮かんできます。

愛月 すごく懐かしいです。私がまだ入団する前に上演された作品ですが印象に強く残っています。

北翔 きっとあの作品をご覧になっているお客様も今回いらっしゃると思うので、いろいろ思い出されるのではないでしょうか。1つ1つの曲が、こういう背景があって作られたのだと、改めてストーリーを知ったうえで聴かれると、さらにショパンの素晴らしさが伝わるのではないかと思います。

平尾 私はどの曲も好きなのですが、「英雄ポロネーズ」はショパンの故郷ポーランドへの思いがこもっていて、何回弾いても震えるような、ショパンが迫ってくるような、私にとっては特別な曲です。

有賀 私は「子守唄」が好きです。悲しいときに優しい曲で癒されるというか、ちょっと考え込んでしまったりしたときに聴くと、戻ってこられるというかすごく救われるんです。ショパンが一番しんどいときに書いたのではないか、そんな気がしています。そういう意味では今、地震をはじめたいへんな時期ですからぜひ聴いていただきたい曲です

 
出来ないものはない上級生の背中を見ながら
  
──ちょっと話が変わりますが、北翔さんと愛月さんは宝塚時代は宙組で一緒でしたね。お互いについても話していただきたいのですが。

北翔 7年ぐらい一緒の組で、でも新人公演で私の役をやったことはなかったのよね?

愛月 そうなんです。ですから直接教えていただく機会はあまりなかったのですが、でも『銀ちゃんの恋』(10年、全国ツアー)や、北翔さん主演の『記者と皇帝』(11年、宝塚バウホール)という小人数の公演でもご一緒できたことで、すごく勉強になりました。歌やお芝居はもちろん、ダンスも日舞も出来ないものはないという上級生でしたから。

北翔 愛月さんはとにかくこのスタイルで華があるから、宙組に入ってきたときから目立っていました。スター候補生でどんどん役も大きくなっていって、新人公演で主役を演じるようになったり、その成長過程をそばで見ていて楽しかったです。そして私は専科に異動して、そのあと星組に異動したのですが、その同じルートを何年かして愛月さんもたどっているんですよね。そういう意味では私の退団後もこういう人がいてくれれば頼もしいし、安心だなと思っていました。

愛月 私も専科へのお話があったとき、北翔さんも専科に行かれて、いろいろな組で北翔さんしか出来ない大事な役どころで活躍されていたなと。でも自分にそれができるかどうか最初は不安もあったのですが、それまでと違う環境に身を置いたことは、良い意味で自分が変わるきっかけになりました。たぶんそのまま宙組にいたらずっと下級生意識が抜けなかったと思います。1人の愛月ひかるという役者としての自分を意識するようになったので、苦しい時期でしたがあの時期があってよかったなと今は思っています。

──そういうおふたりをまた一緒の舞台で観られるのは、観客としてもとても幸せです。有賀さんや平尾さんは宝塚出身の方との仕事は?

有賀 KASSAY公演の『面影小町伝』(22年)という作品に、蓮城まことさんと彩凪翔さんに出ていただきました。アイドルの祖と言ってもいい江戸時代の美しい娘の役で、元男役のおふたりに日本物の娘役の鬘をかぶっていただいて(笑)。宝塚出身の方は歌も踊りも出来る方ばかりですし、舞台が華やぎますね。

平尾 私は共演させていただくのは初めてで、おふたりとも背が高くてスタイルがいいし、なによりもオーラが違います! 私もおふたりからエネルギーをいただいてショパン役をがんばろうと思っています。

 
苦難の時代の中で一筋の光を届ける作品に
  
──では最後にこの作品のアピールをお願いします。

平尾 この作品は、ジョルジュとミッシェルがショパンを包み込んでいるような感覚の舞台で、その中で聴くショパンは、いつもとは違ったものに聴こえると思います。それを私も楽しみにしていますし、会場の方々にも楽しんでいただければと思っています。

愛月 舞台上で女性を演じさせていただくのは初めてなので、観ている方たちにすんなり受け止めていただけるように、ジョルジュ・サンドになりきりたいと思っています。先ほど有賀さんが「音が主役」とおっしゃられたその言葉が素敵だなと思いましたから、朗読劇ならではの「読むことで伝える」ことを大事に、皆様の耳にちゃんと届くように表現したいと思っています。

北翔 まず三越創業350年という記念の年に、三越劇場に出演できることが嬉しいです。私はこの劇場には和物でしか出たことがないので、今回は洋服での出演が楽しみです。そしてなによりも生のピアノで聴く音楽、生の舞台もそうですが、生であることの素晴らしさはなにものにも代えがたいと思っています。今回のこのキャスト、スタッフで作り上げる舞台は、ほかでは絶対に観られない素晴らしいものになると思っていますし、成功させたいです。

有賀 衣裳もアーティストのKiNGさんが今回もまたがんばって、この作品にふさわしいグレードの高いものを用意してくださっています。ただ平尾さんだけはピアノを弾きやすいものでないとダメなので、ご自身の素敵なドレスで登場されます。ほかのスタッフの皆さんも三越創業350年ということで、それぞれ力を入れてくださっています。でも、今このときも世界では戦争がありますし、日本でも大きな災害があって、本当にたいへんな時代ですが、その中でも希望の光というものが生まれてくると信じたいです。ショパンやジョルジュの生きた時代も革命や戦いの時代でした。演出の佐藤信さんもそのことを話されていて、「劇場に来られたことだけで拍手」とおっしゃっていましたが、苦難の時代の中で一筋の光を届ける作品になればと思っています。

平尾有衣、愛月ひかる、北翔海莉、有賀沙織


■PROFILE■
あるがさおり○脚本家・プロデューサー。KASSAY合同会社代表。幼少期より演劇、ミュージカルに親しみ、学業と医療機関や事業会社勤務を継続しながら、東宝演劇部の活動の中で脚本執筆の手ほどきを受け、東京大学大学院人文社会学研究科文化資源学教室修士課程では、文化経営学を学び、これまでにないプロデューサーのあり方を打ち出している。2007年10月、石川県小松市での小学校の朗読劇の上演を機会にKASSAY(カッサイ)を立ち上げ、地域発の作品づくりを行い、その後、伝統芸能・新劇・商業演劇・宝塚歌劇・大衆演劇・舞踊など、多様な芸のエッセンスを生かしながら、多様な演劇人とのコラボレーションを行っている。過去の作品に『やすな』『直実』『吉良きらきら』『振り返れば、道』『うらみ葛の葉』『面影小町伝』『ふたりの老女』がある。 

ほくしょうかいり○1998年宝塚歌劇団に84期生として入団。宙組『シトラスの風』で初舞台。2015年 5月11日付で星組へ組替えし、星組トップスターに就任。16年 11月20日『桜華に舞え』、『ロマンス!! (Romance)』の千秋楽をもって、宝塚歌劇団を退団。退団後は、舞台を中心に活躍中。主な作品に、ミュージカル『パジャマゲーム』、『ふたり阿国』、『うたかたのオペラ』など。

あいづきひかる○2007年 宝塚歌劇団に93期生として入団。星組『さくら/シークレットハンター』で初舞台、その後、宙組に配属。14年『SANCTUARY(サンクチュアリ)』で宝塚バウホール公演初主演。18年『不滅の棘』にて東上公演初主演。19年 専科を経て星組へ異動。21年12月『柳生忍法始/モアー・ダンディズム!』の千秋楽をもって、宝塚歌劇団を退団。退団後は、22年シアタークリエにて『ファンタスティックス』(エル・ガヨ役)出演。

ひらおゆい○東京藝術大学、同大学院修士課程修了。ドイツで度々研鑽を積む。全日本学生音楽コンクール東京大会第2位。日本演奏家コンクールグランプリ。ウィーン国立音大セミナーコンクール第2位。2019年「音のアトリエ Piacharm (現:株式会社music&)」創設。公演『Piacharm Music Museum®』をはじめ、クラシック音楽をより身近に感じてもらうことを目的とした活動を行っている。

【公演情報】
三越創業350周年/KASSAY 第15回公演
『ジョルジュ&ミッシェル ショパンを創った、ふたり』
作:斎藤憐
構成・演出:佐藤信
プロデューサー:有賀沙織
出演:北翔海莉 愛月ひかる 平尾有衣
●2/3・4◎三越劇場
〈料金〉10,000円(全席指定・税込)
〈チケット取扱〉
三越劇場 0120-03-9354(10時~18時)
https://mitsukoshi.mistore.jp/bunka/theater/
カンフェティチケットセンター 0120-240-540(平日10時~18時)
https://www.confetti-web.com/george-and-michel
〈KASSAY 公式サイト〉https://kassay-stage.com/
 

■クレジット
取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀

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