春の琴平で5年ぶりに待望の開幕!「こんぴら歌舞伎大芝居」製作発表レポート

中村鴈治郎 松本幸四郎 中村雀右衛門
 

4月の香川・琴平の町に、こんぴら歌舞伎がようやく帰ってくる!
四国の春の風物詩「こんぴら歌舞伎大芝居」は、国の重要文化財にも指定されている日本最古の本格的な芝居小屋である金丸座で、1985年に第1回公演が行われて以来、毎年全国から歌舞伎ファンが訪れる人気の公演だった。コロナ禍が始まった2020年4月からずっと中止が続いていたが、この4月5日に、5年ぶりに幕を開けることが決まった(21日まで、11日休演)。令和の大改修を経た、杮落としともなるおめでたい公演でもある。

出演者は、残念ながら中止となった第36回公演で、襲名披露公演をする予定であった松本幸四郎をはじめ、中村雀右衛門、中村鴈治郎のほか、中村亀鶴、中村壱太郎、大谷廣太郎、市川染五郎など。主要なメンバーは当時とほぼ変わらず、失われた時間を取り戻すかのような顔ぶれとなった。

演目は、第一部が『伊賀越道中双六 沼津』と『羽衣』の2作品。『沼津』では幸四郎が呉服屋十兵衛、鴈治郎が雲助平作、壱太郎がお米をつとめる。廻り舞台や客席を使った演出で、劇場が盛り上がりそうだ。『羽衣』では、雀右衛門が天女、染五郎が伯竜をつとめる。「かけすじ」と呼ばれる、宙乗りの仕掛けを使った演出が予定されている。第二部は『松竹梅湯島掛額(通称 お土砂)』と『教草吉原雀』。『お土砂』は、死者にかけると硬直がとけてぐにゃぐにゃになるという「お土砂」を使った、歌舞伎では珍しい喜劇。幸四郎が紅長、雀右衛門がおたけ、鴈治郎が武兵衛、壱太郎が八百屋お七、染五郎が吉三郎を演じる。お七の「人形振り」も見どころだ。『吉原雀』は、鳥売りの男女を鴈治郎と雀右衛門が、鳥刺し(鳥を獲る職業)を幸四郎がつとめる。普段よく上演されるのとは違った長唄のもので、こちらも珍しい舞台となりそうだ。

2月下旬、都内でこの製作発表記者会見が開催された。会見には、松本幸四郎、中村雀右衛門、中村鴈治郎の出演者をはじめ、琴平町長の片岡英樹、金刀比羅宮宮司の琴陵泰裕、松竹株式会社取締役副社長・演劇本部長の山根成之が出席。それぞれ挨拶の後、質疑応答が行われた。

【挨拶】
片岡英樹 琴平にようやく春がやってまいります。四国こんぴら歌舞伎大芝居が5年ぶりに復活開催できることに感謝申し上げます。ちょうど4年前、公演発表の1カ月後に新型コロナウイルスの関係で、急きょ中止の発表を断腸の思いで行ったことを思い出します。特に幸四郎丈は、本来なら襲名披露公演でしたが幻となってしまいました。コロナの4年間は、琴平にとって大変厳しい期間。その間、開催の見送りもさせていただきました。そして昨年コロナ感染対策の緩和から、ようやくこうして松本幸四郎丈、中村雀右衛門丈、中村鴈治郎丈を始め、豪華俳優の皆様方をお迎えして、一部二部ともに旧金毘羅大芝居にふさわしい演目をご用意いただき、他の劇場では味わえない、金丸座ならではの大芝居を楽しんでいただきたい。35年間(こんぴら歌舞伎を)継続してきて、当たり前のように春にあった歌舞伎がなくなったことで、改めてこの公演は琴平にとって大事だったんだなと感じた。この5年間、ホテルやお店を改修したりして、以前と町の風景が変わっており、コロナを乗り越えた琴平の町を楽しんでいただければ。こんぴら歌舞伎でしか味わえない、江戸時代の芝居小屋での江戸の歌舞伎の世界を、多くの皆様方にご堪能いただきたい。

琴陵泰裕 5年ぶりとなるこんぴら歌舞伎が、こうして無事開催できることが非常にありがたく思っております。皆様方がお越しいただいて、琴平の町が華やぐ光景は今でも忘れられない思い出ですし、私も幼稚園の頃からこの歌舞伎を見て育ってきた身です。どうぞこの貴重な機会に、またお越しいただけたらありがたく思います。

【出演者挨拶】
松本幸四郎 忘れもしません。こんぴら(歌舞伎)は大丈夫だろうと会見をして、その後ついに中止になったことから止まっていました。それが今回、琴平町をはじめ、皆さんがこんぴら歌舞伎を復活していただいたことは本当にありがたい。また、大改修の杮落としということで、新たな始まりの公演に参加させていただき本当に嬉しい。今回させていただくのは『沼津』の十兵衛。これも前回行くはずだった時の3月に、父(松本白鸚)の平作で、歌舞伎座でつとめることになっており、舞台稽古まで行きましたが、公演が中心になり、願いが叶いませんでした。今回初役で、やっと皆さんに見ていただく日が来た、特別な狂言です。(二代目中村)吉右衛門の叔父に教えていただいた十兵衛でもあります。『お土砂』も本当に楽しいお芝居で、金丸座でなければできないことを皆さんに相談しながら、楽しい時間を過ごしていただくようにつとめたい。最後は『吉原雀』にも出させていただき、4演目中3演目をつとめさせていただきます。金丸座でたくさんの舞台で汗をかく、こんな楽しみなことはない。今回やっと初めて大きな声で「皆さん、春の琴平町に旅に行きませんか」と言える時が来たなという思いです。ぜひとも金丸座、琴平町を楽しんでいただきたい。金丸座でお待ちしております。

中村雀右衛門 2016年に中村雀右衛門を襲名させていただいた時、金丸座でも襲名公演をさせていただきました。その後、幸四郎さんのご襲名の時に参加させていただく予定でしたが、残念ながら中止になり、寂しいなと思っていました。この復活で、私も参加させていただけることは嬉しい。今回は『羽衣』、『お土砂』のおたけ、(『吉原雀』の)鳥売りで、父(四代目雀右衛門)は何回となく勤めましたが、私は初役でわくわくしております。同時に、花道の上を1人で宙乗りするのは今回が初めて。わりと高いところも嫌いじゃないので、できるだけ上で暴れて、お客様に楽しんでいただければと期待しております(笑)。振付の藤間宗家にいろいろと工夫していただけると思いますので、楽しんでいただけるのでは。おたけは、前に播磨屋のお兄様(二代目吉右衛門)が『お土砂』をなさった時につとめさせていただきました。私の父も、自分より若い方の相手役をずいぶん多くさせていただき、今回幸四郎さんの相手役をさせていただけるのは、父から繋がったうちの伝統じゃないかと思います。最後の鳥売りは、『吉原雀』に雀とついていて、雀右衛門なので、それにちなんでいることもあるかと思います。このような風情のある踊りを、鴈治郎さんと一緒にさせていただけるのは本当に何十年ぶりで、とても楽しみ。精一杯つとめさせていただきますので、ぜひとも多くのお客様に足を運んでいただければ幸いです。

中村鴈治郎 私も襲名以来の出演で、8年も空いたとはとても思えません。20年4月は、3月は、私は国立劇場(の出演予定)で、舞台稽古もしましたが、すべての公演が中止。世の中でこんなことがあり得るのかと一番衝撃を受けた時でした。琴平の公演は、お稽古すらできずに終わってしまった。私の中ではコロナが終わって、こうやって行けるんだという新たな気持ちでおります。客席がひしめき合い、肩を寄せ合って見れる状況でも歌舞伎が楽しめる、そういう光景が舞台からも見れることは大変嬉しい。琴平の町は変わっていることでしょうし、良くなっているでしょう。観光地ですので、そのなかで芝居ができて、1人でも多くの方に来ていただいて、町も歌舞伎の公演も盛り上がることが何より。公演としては、まず『沼津』の平作です。うちは代々、十兵衛ばかりなので、十兵衛をやろうと思っていたところに、父(四代目坂田藤十郎)の十兵衛で平作をやらないかと言われ、平作ねえ…と思いましたが、(十八代目中村)勘三郎の兄さんが平作をやっているのを見ていたので、受けたら、それから逆に平作しか来なくなりました(笑)。「いつか私も十兵衛をやらせてくれ」というアピールのつもりでも、平作をやらせていただきます。『お土砂』も出させていただきます。『吉原雀』は、皆さんがご覧になったものとは全然違って、どうも大変らしいです。引抜いて、ぶっ返って、立廻りもあります。いい年になってきました。雀右衛門兄さんと、ある程度体に鞭打ってつとめさせていただきます。琴平町が盛り上がって、楽しいこんぴら歌舞伎の時期が来ればいいなと思っております。

【質疑応答】
──地元の人にとっては歌舞伎が来ないと春が来ないと言われるほど、ずっと待ち望んだ歌舞伎。地元の方にメッセージを。またこんぴら歌舞伎の印象は?

幸四郎 金丸座では、とにかく外の音が聞こえるんですよね。小鳥の声や雨の音が聞こえたりするなかでお芝居をすることに、すごく衝撃を受けた印象で、本当に金丸座でないとできない経験。それをいつもすごく楽しみに伺っています。食べることに関しては、うどんは必ず行きますが、始まる前の稽古中にようやく行けるぐらいで、大体おいしいところが(午後)2時ぐらいまでとか、もうちょっと働いてくれるといいんですけど…(笑)。今回初めて休演日があるので、それをどう使うか…。(出演は)何年かに1回ですが、行けば「ただいま」「おかえりなさい」と言われるような温かな関係で、とても大好きなところです。本当によくぞ待っていていただいた、頑張って生き抜いていただいたんだなという思いです。

──『沼津』は、1987年の第3回に白鸚さんが十兵衛をされている。それを今回やることについては?

幸四郎 当時は橋(瀬戸大橋)がありませんでしたから、まだ船で、先(十七代目)の中村屋のおじさま(勘三郎)の平作で、父が(十兵衛を)やられたというのは、ことあるごとに出てくる話です。同じ景色を見て、父と同じ役をできることは、これだけ特別なお芝居はないので、金丸座で舞台に立った時に何を感じるだろうと、すごく楽しみでもあり、すごく緊張しております。

──琴平の町や金丸座への思いを、雀右衛門さんと鴈治郎さんにも伺えますか。

雀右衛門 金丸座では、以前父と『二人道成寺』をさせていただきました。その折に、花道と仮花道を両方使いました。私は仮花道で、よくモデルさんがやると(ランウェイで)「触らないでください」という注意書きがありますが、金丸座ですと、必然的に(衣裳の)裾がお客様の肩に当たることになり、いいのかな?と思っていたら、後からお客様に「ああやって近くで感じることはなかなかなくて、とてもいい思い出になった」と伺いました。それぐらい舞台とお客様の距離が本当に近い劇場なのだとつくづく感じた。琴平は、季節が合えば桜が満開で、本当に綺麗な町並みで、お客様も心豊かになって帰っていただける町。幸四郎さんも言っておられましたが、うどん巡りもあって、それがうまくいけば本当に美味しいうどんを、とってもリーズナブルに、東京では考えられないようなお値段で食べられて、今の私のお財布にはぴったりという感じです(笑)。

鴈治郎 町がどうなっているか、本当に楽しみばかりです。商店街の門の肉屋のコロッケはまだ売っているんだろうかとか(笑)。先ほど幸四郎さんもお話しましたが、休演日があります。こんぴらの奥社の一番奥、そのてっぺんの少し手前ぐらいだったか、父と母(扇千景)の名前の入った部分があり、それをずいぶん見に行っていません。8年の間に父も母も亡くなったので、それを見に行ってこようかなと思います。果たして息が続くのかどうか(笑)。それから、琴平の方々も久々に顔が見れて、その間、いろいろなものを送っていただいたり、そのお返しをしなきゃいけないなと思いますし、本当に楽しみの一言に尽きます。

──改めて、町に大芝居がやってくる意義、町の盛り上がりは?

片岡 平成31年4月まで35回ずっと続いていました。ある意味、毎年当たり前のように4月にこんぴら歌舞伎があったということは、それが1つの春の琴平の町のスタートだった。それがなくなって、もちろんコロナの中なので町民の皆さんも仕方がないかなというのは、1年くらいはありましたが、4年も5年も空くとさすがに、特に去年は5月にコロナが緩和になり、その以前から国際便も飛んでインバウンドのお客様も町内に増えてきているなか、なぜ歌舞伎をやらないんだと言われました。ひと月ふた月じゃできませんが、町の方は4月に歌舞伎がないことが一番淋しいなと。当たり前のものがないことに、ようやく地元の皆さんも気づき、俳優の皆様方もお楽しみいただけるように、関係の皆さんが1ヶ月お越しいただけることを、町民の皆さんがお待ちしております。

──地方の芝居小屋で公演をかけることへの思いは?

山根 とにかくコロナウイルスと生のお芝居の相性は本当によくないですよね。映像とかならウイルスの影響はそんなに受けなくなりましたが、生の演劇は、やっぱり今でも体調が悪くなって休まれて、今日は代役だという連絡は、報道でもご存知だと思います。その意味では、松竹のなかではなかなか終わらず、今も万全の体制でやっていますが、それでもやっぱり影響がある。歌舞伎座や南座のような、楽屋や舞台でも非常に(空間に)余裕があるところでもそうなので、こんぴらのようなお芝居小屋は非常にデリケートで、運営なさる町の方にとっては、すごい努力なんだろうなと思います。この3月から少しずつ、平成中村座ですとか、中村屋さんのご兄弟(中村勘九郎・七之助)が、地方の芝居でも本当に短期間ですがなさろうとしている。我々の思いは一緒で、そういうことが普通にできることが(コロナからの)復興だと思いますので、その意味では、琴平は非常に意義の高い公演だと思います。

――今回、幸四郎さんと鴈治郎さんは親子共演。それぞれご子息の成長ぶりは?

幸四郎 よく「イケメンですよね」と言われますが、僕も言われてたんだっていう…(笑)。襲名してからが大きな大きなスタートで、それから舞台を本当に多く出させていただくようになり始めた段階です。初めての経験ばかりで、できないことをできるようになることばかりなので、たくさん舞台に立ち、たくさんいろんなものを吸収してほしい。

鴈治郎 止まったら死んでしまうんじゃないかというくらい、回遊魚のように、ずっと動き回っています。本当に誰の子なんでしょうか(笑)。こんぴらのような小屋でやることも、間違いなく好きだと思います。なかなか芝居でも共演することはないですが、今度のお米は壱太郎も元々やりたいと言っていた役で、お米と平作で、久々にガッツリ組める、相手役として息子がいる形になるかと思います。彼の成長どうこうと言っても、今さらいちいち思うこともないですが、本当に染五郎君はすごい。何でも吸収していて、見るごとに素晴らしい。まだまだ体も成長する時期でしょうし、ずっと僕らも楽しみな役者さんの1人です。壱太郎は、お米もそうですが、『お土砂』も江戸の芝居ですが、彼もいろんなものを経験して、馴染んでくれればいいと思いますし、四国という土地柄に馴染みもありますから、彼も大変楽しみにしているでしょうし、親子で一緒に行けることは大変に楽しみです。

【公演情報】
令和の大改修 杮落とし「第三十七回四国こんぴら歌舞伎大芝居」
劇場:旧金毘羅大芝居(金丸座)(香川県仲多度郡琴平町乙1241)
日程:令和6年4月5日(金)~21日(日)〈休演11日(木)〉

■上演演目
第一部
一、『伊賀越道中双六 沼津』
雲助平作 中村鴈治郎
娘お米 中村壱太郎
荷持安兵衛 市川染五郎
池添孫八 中村亀鶴
呉服屋十兵衛 松本幸四郎
二、『羽衣』
天女 中村雀右衛門
伯竜 市川染五郎
第二部
一、『松竹梅湯島掛額』
紅屋長兵衛 松本幸四郎
八百屋お七 中村壱太郎
小姓吉三郎 市川染五郎
長沼六郎 中村吉之丞
同宿了念 大谷廣太郎
月和上人 松本錦吾
若党十内 中村亀鶴
釜屋武兵衛 中村鴈治郎
お七母おたけ 中村雀右衛門
二、『教草吉原雀』
鳥売りの女実は雀の精 中村雀右衛門
鳥刺し実は鷹狩の侍 松本幸四郎
鳥売りの男実は雀の精 中村鴈治郎
■出演者
松本幸四郎 中村雀右衛門 中村鴈治郎 中村亀鶴 中村壱太郎 大谷廣太郎 市川染五郎 中村吉之丞 松本錦吾 ほか
〈料金〉A席 16,000 円 B席 12,000 円 特別席 20,000 円(税込)
〈公演サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/play/859

【取材・文/内河 文 写真/(C)松竹】

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