壮大なプロジェクト『デカローグ』に出演! 仙名彩世インタビュー

「トリコロール」三部作、『ふたりのベロニカ』で知られるポーランド出身の世界的映画監督クシシュトフ・キェシロフスキ。彼が遺した、20世紀の傑作『デカローグ』全10話を完全舞台化するという、新国立劇場の刺激的なプログラムがスタートした。

『デカローグ』は旧約聖書の十戒をモチーフに 1980 年代のポーランド、ワルシャワのとある団地に住む人々を描いた十篇の連作集。人間を裁き断罪するのではなく、人間を不完全な存在として認め、その迷いや弱さを含めて向き合うことが描かれた作品は、人への根源的な肯定と愛の眼差しで溢れている。

そんな十篇の物語の、デカローグ6「ある愛に関する物語」(演出・上村聡史)に出演するのが仙名彩世。友人の母親と暮らし地元の郵便局に勤めている19歳の孤児トメクが、向かいに住む30代の魅力的な女性マグダに心惹かれ、その生活を日々望遠鏡で覗き見ていたことから転がっていく物語のなかで、仙名はマグダという女性をどう演じるのか。

壮大なスケールのプログラム全体への思いと共に、仙名が作品に向かう思いを聞いた(※取材は稽古開始前に行われました)

役柄の人間臭い部分を見つけ出したい

──非常に大がかりなプロジェクトですが、まず、このプロジェクト全体にはどんな印象を持たれていますか?

これだけの長い期間に、ひとつのシリーズを全編上演するというのは、なかなかできないことだと思うので、まず本当にすごいプロジェクトですし、私自身がそれに関わらせていただけることをとても光栄に思っています。

──ひとつ一つが独立した物語でありつつ、全体がリンクしていくというのも、観劇の楽しみが増しますね。

今回は自分が出演する作品とそのほかの作品に繋がりがあるということなので、演じる上でもとても良い機会ですから、「デカローグ1」から全部観たいなと思っています。

──そのなかで、仙名さんがご出演になるのがデカローグ6 「ある愛に関する物語」ですが、物語自体にはどんな印象を?

最初に小説から拝読し、その後映画を拝見したのですが、小説にまずとても引き込まれましたし、さらに映画が本当に素晴らしかったです。まるで本当に隣で起きていることを見ているかのような臨場感もありますし、登場人物のちょっとした動きからも、感じ取れるものがとても多いんです。それでいて、観ている側に想像の余白も与えてくれるので、色々なことを考えながら観ることもできて、すごいものを観た、という気持ちになりました。

──演じるマグダ役についてはいかがですか?

自立していてエネルギッシュで魅力的な人だと思います。その反面とても孤独で無理をしてしまっている所があり、自分で自分に耐えられなくなる時もある マグダが何のきっかけで「愛」を信じられなくなったのか、戯曲のなかには直接書かれていない、彼女の生きてきた変遷を自分のなかで想像しながら役を創っていきたいです。あとは、マグダは絵を描いている芸術家の女性なのですが、私自身にはそういうセンスが全くないので(笑)。

──宝塚歌劇団時代から、髪型やアクセサリー作りのセンスが素晴らしいという定評があった方ですから、そんなことはないと思います!

いえいえ、画才は本当になくて!ただ、美術館に行って絵を観ることはとても好きなので、できる限りそうした時間を増やして、常に芸術と触れ合っている女性を、私の中で創り上げられたらなと思っています。

──そうした役作りのアプローチで、常に大事にされていることはありますか?

人って誰しも、ある意味情けなかったり、不器用だったり、人間臭い部分があると思うんですね。そうしたところを見つけ出して、愛すべき愚かさが描き出せたらいいなと思っていて。どのお役に向き合う時にも、はじめは役の人物を100%愛せるかどうか?に、不安を感じたりもするのですが、一人ひとりがまぎれもなく自分の人生の主人公ですし、誰かにとっての大切な人なので、どんなお役であっても、大切にされるべき人なんだと感じながら演じたいと思っています。

自分にないものが宿っていく面白さ

──お稽古で楽しみにしていることはなんですか?

ストレートプレイ作品に出演するのがはじめてなので、当然歌稽古もありませんから、お芝居の稽古に没頭する日々になっていくと思うんです。その時間にはきっとすごく苦しいこともあると思いますが、その苦しい時間も喜びとして取り組めるようにしていきたいなと思っていて。共演の皆様もとても穏やかで素敵な方たちですので、実りある楽しいお稽古場になるのではないかと思っています。

──これまでずっとミュージカル作品に出演されてきて、いまおっしゃった歌稽古、ダンスの振付なども多くこなされてきたと思いますが、そのなかで芝居のお稽古に臨むときに、心がけていらしたことは?

やっぱり、役の人物としてずっとその場に居続けるというのは、すごく難しいことだと思っています。でも稽古を重ねていくなかで、相手からかけてもらう言葉ですとか、交わす台詞のやりとりから、普段の自分とはまるで違う感情が生まれてくることがたくさんあって。普段の私はそれほど感情の起伏が激しい方ではないので、お芝居のなかで湧き上がってきた強い感情がとてもリアルに感じられると、すごく面白いなといつも思います。自分の中にないものが、自分の中に宿っている感覚というか。ですから、相手から受け取る様々な刺激であったり、それに対して自分が示す反応を素直に受け入れるようにといつも心がけています。

──そうした、稽古に臨むにあたって、役作りについてあらかじめ準備をしていかれる方ですか?

歴史背景を調べたりなどの準備はしなくてはいけないと思っていますが、役作りそのものについては、演出家や共演者の皆さんとのやりとりをしながら、稽古場で深めていくことの方が多いかなと思います。私一人の考えでは至らないことも多いですし、自分のなかであまりガチガチ固めすぎず、その時々、その場で起こったことに柔軟に反応できる自分でいたいなと思っています。

新しい出会いを求めながら生きている

──仙名さんは宝塚ご卒業後、非常に多彩な作品に出演されている印象が強いですが、できるだけ幅広い作風のものや、役柄を演じたいという気持ちがおありになるのですか?

卒業してから、再演で同じ役を演じるという機会はまだなくて。もちろんいずれそうした機会をいただけることがあるのであれば、是非挑戦したいと思っているのですが、いまは新しい作品の中に身を置くことによって自分の可能性を探れることに魅力を感じていて。新しい出会いをいつも求めながら生きているなぁ、と思います。

──やはり新しい出会いがあるごとに、ご自身のなかに新たなものを発見されたり、蓄積されていくという感覚でしょうか?

そうなんです。私は本当に人が好きなので、新たな現場で、新しい出会いがあることがとても楽しいんです。舞台の話ももちろんですが、何気ない普段の会話からも新たな発見がたくさんあって。人と人との輪が広がっていくことで「あぁ、私生きてる!」って思えるんです。ですから今回の作品などは、シリーズを通して非常にたくさんの方々が関わっていらっしゃるので、楽しみで仕方がないです

──制作発表会見は壮観でしたものね。あれだけ大人数が揃われる会見って、そうはないんじゃないかという。

とても圧倒されましたし、それだけにもちろん怖さもあります。私で通用するんだろうか、稽古で全くできなくて凹むんじゃないかな、とも思います。ただ、それはどの現場に行く時にも感じる怖さでもありますし、今回 もきっと素晴らしい時間になるのではないかと期待しています。

──素敵な出会いがたくさんある現場になるのではないかと拝察しますが、この作品はもちろんですし、今後仙名さんがそうした新たな出会いとして、やってみたいなと思われているジャンルですとか、お仕事などはありますか?

声の仕事に興味があります。役を演じることだけでなくて、ナレーションですとか、私のいまのこの声を使って、ある意味自分を出していけるお仕事に携われたらいいなと。自己肯定ってすごく大切ですけれども、自分で自分を認めてあげるって、実はとても難しいことでもあるので、お仕事のなかでも、演じることともうひとつ、いまの自分自身として表現するということができたら、また新しい感覚を得られるんじゃないかなと思うので、夢として持っています。

──そうした機会に、また新しい仙名さんに出会えるのを楽しみにしていますが、まずはこの新国立劇場でなければできないだろうと思える、大きなスケールの舞台で生きる仙名さんを楽しみにしている方たちにメッセージをいただけますか?

私自身はデカローグ6「ある愛に関する物語」に精一杯取り組むのみなのですが、本当にどの物語も素晴らしく、味わい深い作品になっています。ぜひ、登場人物たちの人生の一部を近くで見つめていただけたらと思います。10の物語が全て終わるまでこの作品の旅は続いていきます。お得なセット券などのご用意もありますので、是非1~10までをひとつの作品としてお楽しみいただけたら嬉しいです。最後まで私も一緒に見守っていきたいと思います。

 《プロフィール》せんなあやせ〇宮城県出身。2008年宝塚歌劇団入団、花組に配属。17年花組トップ娘役となり、『ポーの一族』『あかねさす紫の花』など話題作、また宝塚歌劇団を代表する作品でヒロイン務めた。19年退団後はミュージカルを中心に多くの作品で活躍中。近年の主な出演作品に『ミス・サイゴン』『ジェーン・エア』『20年後のあなたに会いたくて』『五番目のサリー~The Fast Sally~』『GREAT PRETENDER』『ゴヤ─GOYA─』などがある。

【公演情報】

『デカローグ5・6』[プログラムC]

原作:クシシュトフ・キェシロフスキ/クシシュトフ・ピェシェヴィチ

翻訳:久山宏一

上演台本:須貝英

演出:小川絵梨子/上村聡史

出演:

デカローグ5 「ある殺人に関する物語」

福崎那由他 渋谷謙人 寺十吾/斉藤直樹 内田健介 名越志保 田中 亨 坂本慶介/亀田佳明

デカローグ6 「ある愛に関する物語」

仙名彩世 田中 亨/寺十吾 名越志保 斉藤直樹 内田健介/亀田佳明

●5/18~6/2◎新国立劇場 小劇場

〈料金〉A席7,700円 B席3,300円(税込)

〈お問い合わせ〉新国立劇場ボックスオフィス 03-5352-9999(10-18時。休館日を除き年中無休)

デカローグ1~10までのお得なセット券あり

〈公式サイト〉https://www.nntt.jac.go.jp/play/dekalog/

【取材・文/橘涼香 撮影/山崎伸康】

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