扉座『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』横内謙介・山中崇史・長谷川純 インタビュー
劇団扉座が6月6日から16日まで、座・高円寺1にて『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』を上演する。
物語は、異常気象により桜の花が咲いてしまったハロウィンの翌朝、中年男・芝崎孝史(山中崇史)が自分のマンションで泥酔から目覚めるところから始まる。
この作品について、扉座主宰で作・演出の横内謙介は、「TVドラマ『相棒』の刑事役でお馴染みの劇団員・山中崇史の生涯の代表作となる予定の、可笑しくて哀しいセリフ劇を私のキャリアのすべてを賭けて書き上げて、本邦初演致します」とコメントを寄せている。
どのような新作公演になるのか、横内謙介と主演の山中崇史、そして今回ゲスト出演の長谷川純に話を聞いた。
劇団を長くやってきた面白さ
──本作の企画意図について、横内さんからお話しいただけますか。
横内 まず山中崇史ありきで書こうと思いました。実はこれまでも『いとしの儚』とか、彼の代表作と言えるものを何本も扉座でやってきたんです。でもそれらの作品は扉座以外でも上演されるようになって、崇史自身が年齢も重ねて来たので、彼の役はもっと若い人たちがやるようになっていくのだろうと思います。若大将だった山中崇史が、もう50歳を超えているということに最近気づいてちょっとびっくりしました(笑)。
山中 普通に歳をとっただけなんですけどね(笑)。
横内 そう、自分もそうだし、他の劇団員もみんな歳をとっているわけです(笑)。なので、彼に限らず劇団員たち一人ひとりに“大人の芝居”みたいなものを渡せたらいいなと思っているんです。それで今回順番として山中崇史で一本作りたいと思っています。
山中 ありがたいですね。
横内 歳をとったらとったなりの芝居があるというか、今のこの年齢のことを書きたいなと思っていて、それが劇団を長くやってきた面白さだなと思っています。だから今まで蓄積してきたものを投入するという意味で、私の経験と全力を尽くして作っています。それともう一つ、今回は1回も場面転換しない、時間や空間が飛ばないワンシチュエーションでやってみようと企んでいます。
──主人公の自宅であるマンションの一室を舞台に、いろいろな人が入れ代わり立ち代わりのコメディが繰り広げられますね。
横内 実は、35年前に書いた芝居で『ジプシー』という、演劇鑑賞会で全国を回ったりして劇団で一番上演回数の多い代表作があるんですけど、それは建築中のマンションの一室が舞台の話で、登場する若い夫婦の夫の名前が「芝崎孝史」なんですよ。今回の作品は、いよいよ人生の転機を迎えてマンションも売り払おうとしている「芝崎孝史」の話なんです。厳密に『ジプシー』に登場した彼を描いているわけではないですが、これも一つの劇団で長くやっているから成立していることかな、と思います。
──山中さんは、今回主演だと言われたときのお気持ちはいかがでしたか。
山中 ありがたいと思いましたし、嬉しかったですし、でも構えたりすることはなかったですね、怖くないというか。これまでも主演で書いていただいたことがありますし、今回の作品よりプレッシャーを感じながらやった公演もありましたが、本作は台本をいただいて読んでみたら、意外とすんなり「いけるぞ」という感じがしました。
──長谷川さんは今回ゲスト出演ということで、扉座に出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
長谷川 やはり率直に「嬉しい」という気持ちが一番でした。扉座のお芝居は、温かくて希望に満ちていて、楽しいだけじゃなくてメッセージ性もあって、どの世代にもちゃんと突き刺さるものがあるなと思っています。僕も扉座の舞台を観に行って「自分のやりたいことを明日からも頑張ってやっていこう」と元気もらったりしていました。そこに今回客演として参加させてもらえるというのは、何か夢みたいな感じですね。
凝縮感があって純度の高い上質なお芝居
──台本を読んだ感想と、役柄についてそれぞれ教えてください。
山中 僕の役は50代でちょうど転機を迎える男の役で、僕自身ほぼ同じような年齢で、やっぱり今ちょうど転機なんです。去年の4月に所属事務所が変わりまして、そのタイミングで「ここを転機にしよう」と強く思いました。「ここからいろんなことに挑戦していかなきゃ駄目だ」と思って、その一つとして、ちょっと大人の芝居をやっていきたいな、と。それは映像でも舞台でも、もう少し大人の俳優でいられるようになりたいな、とずいぶん前から思っていました。この作品の芝崎孝史と自分はすごく重なるところがあるので、自分が芝居しているかどうかわからなくなるぐらいまですり合わせたい、という目標を持って臨んでいます。
──長谷川さん演じる港公聖はなかなかインパクトのあるキャラクターです。
長谷川 僕自身も「渋い役者になりたい」ということは前々から思っていました。あと2年で40歳になりますが、まだまだ社会人としても役者としても経験が不足しているな、という思いが自分の中にあるんです。これまで様々なお仕事をやらせてもらってきて、でも自分が一番やりたいものは何だろうと考えたとき、それは「役者業」だったんですね。今回、しっかり一人前のプロの役者として認識してもらえるように、その第一歩を踏み出せたらいいなと思っています。そういう意味でもこの港公聖という役は、僕にとってのチャレンジでもあります。
──横内さんから見た、山中さんと長谷川さんの魅力はどんなところでしょうか。
横内 長谷川くんは、風貌はちょっと強面じゃないですか。でも根は絶対優しい人だ、というのも感じるし、この雰囲気はうちの劇団のメンバーにはないものだから、座組の中に入ったときの異質感みたいなものを出してもらいたいですね。まずは見た目のインパクトから入って、そこから深みに進んで行く、みたいなことがうまくできるといいな、と思っています。崇史は、たとえマイナーコードっぽく作っても、絶対メジャーコードになってしまうところが彼の良さだろうと思います。今回の話も、深刻に捉えれば深刻な話なんですけど、それをどこかで明るく反転させる力が彼にはあって、深刻さと明るさを両立させられるところが彼の魅力として出て欲しいですね。
──作品の見どころや、楽しみにしていることを教えてください。
長谷川 ワンシチュエーションの作品は初めてなので、思いっきり楽しんでやりたいと思っています。僕の役は一見飛び道具的なキャラクターには見えるんですが、実は山中さん演じる芝崎孝史に大事なきっかけを与える役でもあるので、しっかりその役割を全うしたいです。扉座だけに、新しい扉が開けばいいな、なんて(笑)。ベタですいません。
山中 次から次へといろんなキャラクターが我が家を訪ねてくるんですが、一人ひとり個性的で面白いキャラクターを僕がプロレスのように受け止めていく、みたいな感じが楽しみです。これはお客さんにも楽しんでもらえると思いますので、ぜひ期待してほしいです。
横内 劇団公演としては久しぶりに10人以下の出演者で、2時間以内に収まる作品です。凝縮感みたいなものがありつつ、それでいて研ぎ澄まされて純度の高い、上質な感じのお芝居をお届けしようと思っています。あと、これは冗談ですが、この作品はミステリーでもあるので、『相棒』ではいつも他の誰かに事件を解決してもらっている刑事役の山中崇史が、ついに自分で事件を解決します(笑)!
■PROFILE■
よこうちけんすけ○東京都出身。1982年「善人会議」(現・扉座)を旗揚げ。以来オリジナル作品を発表し続け、スーパー歌舞伎や21世紀歌舞伎組の脚本をはじめ外部でも作・演出家として活躍。92年に岸田國士戯曲賞受賞。扉座以外は、スーパー歌舞伎II『ワンピース』(脚本・演出)、スーパー歌舞伎II『オグリ』(脚本)、パルコ・プロデュース『モダンボーイズ』(脚本)、坊っちゃん劇場『ジョンマイラブージョン万次郎と鉄の7年ー』、六月大歌舞伎第三部『日蓮』(脚本・演出)三月大歌舞伎『新・三国志』(脚本・演出)、『スマホを落としただけなのに』(脚本・演出)、明治座『隠し砦の三悪人』(脚本)、新橋演舞場・御園座『トンカツロック』(脚本・演出)など。
やまなかたかし○埼玉県出身。1995年劇団扉座入団。以来、劇団の中心的俳優として活躍中。最近の映像出演は、【映画】『太陽とボレロ』(水谷豊監督)、『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~(東映)、【TV】『孤独のグルメ Season9』(テレビ東京)、BS朝日時代劇シリーズ『無用庵隠居修行』、NHK-BS時代劇『雲霧仁左衛門5』、『相棒season22』(テレビ朝日)、『花咲舞が黙ってない』(第2話・日本テレビ)。最近の劇団出演作は『郵便屋さんちょっと2016』『郵便屋さんちょっと2017 P.S. I Love You』「新浄瑠璃『百鬼丸』~手塚治虫「どろろ」より~」『解体青茶婆』『ホテルカリフォルニア-私戯曲 県立厚木高校物語-』『神遊(こころがよい)―馬琴と崋山―』。
はせがわじゅん○東京都出身。1998年デビュー。タレントとしてバラエティ番組などで活躍するほか、俳優としてドラマや舞台で活躍中。主な出演作品は、【ドラマ】『渡る世間は鬼ばかり』シリーズ(TBS)『越路吹雪物語』(テレビ朝日)『やすらぎの刻~道~』(テレビ朝日)『一億円のさようなら』(NHK BSプレミアム )『私の正しいお兄ちゃん』(フジテレビ)、【舞台】『滝沢歌舞伎 2018』『山村美紗サスペンス 京都 都大路謎の花くらべ』『虎者 -NINJAPAN-2021』『恋ぶみ屋一葉 有頂天作家』など。
【公演情報】
劇団扉座第77回公演 『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』
作・演出:横内謙介
出演:山中崇史、岡森諦、鈴木利典、新原武、野田翔太、砂田桃子、藤田直美、久我音寧、ほか
客演:長谷川純
●6/6~16◎座・高円寺1
〈料金〉前売・当日共5,000円 学生券3,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※学生券は扉座でのみ取扱・当日学生証持参
★ミナクルステージ<6月6日(木)19:00の回>3,500円(前売・当日共)
〈お問い合わせ〉劇団扉座 03-3221-0530
〈公式サイト〉http://www.tobiraza.co.jp
【取材・文/久田絢子 撮影/中村嘉昭】