『ドリル魂2024』まもなく開幕! 横内謙介・川原琴響・久我音寧・小多桜子 座談会
工事現場のエピソードをミュージカル化した横内謙介の『ドリル魂2024』が、9月7日〜15日、すみだパークシアター倉で上演される。作業音を音楽にダンスやアクロバットで魅せながら、現場で働く人間たちの魂を伝える「愛とガッツ」のミュージカルで、2007年に初演され、今回が三度目の上演となる。
今回の公演は、公益社団法人日本劇団協議会の「日本の演劇人を育てるプロジェクト」新進演劇人育成公演(俳優部門)として、オーディション選抜メンバーが中心となっているので、さまざまな出身のフレッシュな若手俳優たちが、舞台でその力を競い合うのも見どころの1つだ。
そんな作品で、建築現場で働く女性たち、ミサキ役の川原琴響、小梅役の久我音寧、エリ役の小多桜子という3人に、作・演出の横内謙介を囲んで、作品と役柄への取り組みを語ってもらった。
ニッカポッカの女子たちは絵になる!
──この作品ですが、2007年初演で、2010年に再演、今回が三演目です。
横内 2010年の公演は『ドリル魂─YOKOHAMAガチンコ編─』として、横浜の青少年センターで2年にわたって上演させてもらったんです。そこからずっと上演していなかったので14年ぶりになります。今回なぜこの作品かというと、扉座の研究所ももう28期になるんですが、この2〜3年、わりと楽しみな若い俳優たちが出て来て、とくにミュージカルのできる男優を育てたいと思っていたところなので、この『ドリル魂』は、それにぴったりだなと。なぜか今日の座談会は女子だけですが、それは作業着姿の女子のほうが絵になるかなと思ったからで(笑)。
──3人ともすごくカッコいいです。では1人ずつ紹介させてください。久我音寧さんは扉座の研究所出身で、6月の劇団公演『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』でも抜擢されていました。
横内 久我は高校在学中から扉座の研究所に来ていたんです。まだ20歳だっけ?
久我 はい、今年20歳になりました。私はバレエをずっと習っていたんですが、ミュージカルは今回初めてで、扉座の研究所では歌のレッスンもありましたが、とくにちゃんと勉強していたわけではないので、オーディションがあると知って、焦ってレッスンしました(笑)。いただいた小梅という役がとても可愛くてやり甲斐のある役なので、がんばらなくてはと思っています。
横内 うちの期待の若手なので、がんばってもらわないと(笑)。
──小梅は小さい頃から鳶の仕事に憧れていたのですね。
久我 兄が轟組の頭領で、小梅は最初は経理の仕事をしていたのですが、どうしても現場に出たいと兄に頼み込んで願いが叶います。
横内 久我は劇中でエアリアルをやります。エアリアルは初演から取り入れていて、小梅が髙い所に登るシーンはエアリアルで表現するので、久我にできるか指導の先生に見てもらったら、バレエをやっていたので形が綺麗だから大丈夫だと。
──エアリアルといえば布だけで空中パフォーマンスしたりするイメージですが、怖くないですか?
久我 私の場合はリングをくぐったり、逆さにぶら下がったりするんですが、高い所から見える景色が好きだし、パフォーマンスをすることがとても楽しいです(笑)。この作品のおかげでエアリアルに出会えて良かったと思っています。
「カラダを売るな、カラダを使え!」というキャッチコピー
──川原琴響さんはオーディション組です。
横内 彼女は茅野イサムが作った悪童会議という劇団の『夜曲─ノクターン─』に、ヒロインのサヨ役で出ていたんです。僕からは何も言わなかったのに、自分からオーディションを受けに来てくれて。2作続けて僕の戯曲に出てくれるのは嬉しいし、『夜曲』で茅野が教え育てたものを俺がちゃんと仕上げたいなと(笑)。
川原 茅野さんの『戯曲』への愛がすごくて、私も影響されて横内さんのほかの戯曲も読み、さらに興味を持ったところに、この作品のオーディションがあると聞いて、絶対受けようと思いました。
──演じるのはミサキ役で、自分を「ボク」と呼ぶ女子です。
横内 初演では男優が演じていた役を書き直したんです。今なら女子の「ボク」呼びも違和感ないからね。
──ミサキは轟組のあるモノを壊してしまうんですよね。
川原 そうなんです(笑)。親からの抑圧などがあって、発散できないモヤモヤみたいなものがあったんです。でも轟組と出会って成長していきます。
横内 昔はそういう場合、エネルギーを表に出して発散できる状況もあったけど、今はちょっと屈折した形で出てくるようになってて。そういう感じを出して欲しいなと思っています。
──そしてエリ役の小多桜子さん。
横内 この公演は日本劇団協議会の主催事業なので、まず一般オーディションより先に、日本劇団協議会に所属している劇団や団体からのオーディションをしたんです。小多さんは劇団ひまわりの所属で、今回のエリ役はちょっと難しい役ですが、彼女なら安心だなと。逸材です。
──オーディションを受けた経緯は?
小多 大学4年のときにコロナ禍が始まって、卒業してからこういう仕事をしたくても場所も機会もないし、どうしようかと2年ぐらいモヤモヤしていたんです。そんなところにこのお話があって、横内さんに直接学べるんだ!と思って飛びつきました。
──エリはワケありの女性でちょっと難しい役ですね。
横内 この作品のキャッチコピーに「カラダを売るな、カラダを使え!」という言葉があるんだけど、エリはカラダを売ってた女性なんです。
──そうなった原因を含め、エリのような女性をどう思いますか?
小多 わかるというか共感できる部分もあります。今はSNSがあることで他人と自分を比較しやすくなっていて、自分よりお金を沢山持っていたり、良い服を着たり、良い暮らしが出来ている人を目にしやすくなっていることで、劣等感を感じたり、無理な背伸びをしてしまう。でもエリはそういう自分から脱出したくて轟組に入ったことで、現場で汗をかいて得たものは、お金では得られないものがあると気づけたのかなと。それが観ている方たちにちゃんと伝わればいいなと思っています。
実はコンセプチュアルでファッショナブルな作品
──背景になっている建築現場は命の危険もあるし、重労働ですね。でも人間の暮らしにとって必要で大切なものを作る仕事なので、生き甲斐とか手応えはあるでしょうね。
横内 文字通り建てて築くわけですから。劇中でもコンクリートと闘ったり、鉄と闘ったり、建設のパフォーマンスをしていて、舞台上に実際のビルは建たないけど、そのパフォーマンスから「建築」とか「建設」という言葉のメタファーのようなもの、別の何かが見えてくるといいなと思っているんです。今も美しい建物が例えば爆撃などでどんどん瓦礫にされている現実がある。でもその瓦礫の中から人はまた建設していく。それには哲学も思想も必要なわけで。そう考えるとこの作品は実はコンセプチュアルなんじゃないかと。それに現場の作業服って結構ファッション性もあるんです。ニッカボッカとか外国の最新ファッションに似てたりするし、地下足袋なんかも外国で人気らしい(笑)。この3人もそうだけど、最近の若い人たちはスタイルが良いから、ニッカボッカもダボシャツもカッコよく着こなしてます。
──ファッションだけでなく、職人ならではの生き方もカッコいいですね。元請けが耐震構造偽装をしていたとき、現場の轟組の職人気質が、違法建築から建物を救います。
横内 初演時に違法建築問題が騒がれていたので話に入れたんですけど、コンピュータで描いた図面だと素人をゴマカせるんです。でも熟練した職人なら鉄骨の数が足らないとわかる。今はそれをできる職人さんも少なくなりましたが。
──やはり現場での経験の積み重ねは大事ですね。
横内 それは演劇にも言えることで、形ができるまでの過程とか基礎工事をちゃんとやらないとだめなんです。手を抜けばすぐバレてしまう(笑)。
若い人しか出来ない「愛とガッツのミュージカル」
──皆さんは轟組ならぬ横内組の現場にいるわけですが、横内組の良いところを語ってください。
小多 今回、扉座ユースの方々が半分ぐらいいらっしゃるんですが、その方々と話していると初心に帰るというか、皆さん演劇への愛が深くてそこに感動するんです。それと横内さんの言ってくださる言葉とかアドバイスが、難しいんですけどそれを消化していくのが楽しいです。これから先も自分に課題を与えながら、どんどん成長していきたいと思っています。
川原 稽古の最初の頃、まだ役も決まってないとき、1分半オーディションというのを全員でやったんです。工事現場の中でのシチュエーションを自分で考えて、何をやってもいいというので、最初はヒーッって感じだったんですけど(笑)、ものすごく考えて、どんなふうに工事現場にいるんだろうというところから入って、自分がどういうふうに存在したいかを考えて、横内さんや皆さんの前でやってみたんです。そのときの経験がすごく貴重で、これからはもっと自分から率先してそういうことをやっていこうと思いました。
久我 今回は横内さんが作詞もされてて、曲だけじゃなくてその言葉に込めた意味とかを考えながら踊るし歌うわけですが、私がミュージカルが初めてだからかもしれませんが、すごく歌詞から感じるものが多いなと。
──言葉がメロディに乗ることですごいメッセージ性を持ったりしますね。
久我 そう思います。
横内 僕はミュージカルはやっと10本目ぐらいだし、これはとくに初期の頃の作品だったからまだまだなんだけど。でも作曲が長谷川雅大さんだから、そこは大きい(笑)。それに全部有名ミュージカルのパロディにしてあって、あるナンバーは『ロッキー・ホラー・ショー』を参考にしてとか、そういう遊び心も入れてあるんです。
小多 この作品って、今『ロッキー・ホラー・ショー』とおっしゃったようにショー的な要素が強いなと思いました。ただ、エリのソロはザ・ミュージカルですね。
横内 そこは完璧にオリジナルだから、ガチです(笑)。歌える人じゃないと難しい曲で、カラダが汚れていると思っている人が綺麗な心を歌うシーンだから、踊りものびやかにクラシカルにというプランなんです。だから逆にほかのシーンではそんなに綺麗に見せなくてもいいという、そういう難しい役だからオーディションで見つかるかちょっと心配していたけど。小多さんにはぜひこの役を次のキャリアへのステップにしてほしいですね。
──川原さんはミュージカルはいかがですか?
川原 小さいころからミュージカルをやっていて特に歌が好きです。
横内 なにしろ、ちびっこのど自慢で優勝した人だから。
川原 (笑)。
横内 この作品ではあまり実力を発揮するところがないのが残念だけど。
川原 ミサキはみんなに歌われる側なんですよね(笑)。
──では最後に観てくださる方へのメッセージをお願いします。
横内 昔、東京キッドブラザースなどがやっていたミュージカルって、情熱とか熱さをぶつけて、洗練されてないし技術もなくて、力まかせというか、でもああいうある意味泥臭いものをやりたかったんです。若い人しか出来ないミュージカル。今、稽古場が冷房を入れてても全然効かないという(笑)。
小多 そういう熱を(笑)感じにきていただけたら嬉しいです。
川原 「愛とガッツのミュージカル」がんばります!
久我 ミサキのように日常に不満とか葛藤のある人は、私たちのパワーで元気にしますので、ぜひ観にきてください!
横内 ここにいる女子だけでなく、男子も人材が揃っています。ぜひこれからのミュージカルスターを発見しにきてください。
■PROFILE■
よこうちけんすけ○東京都出身。1982年「善人会議」(現・扉座)を旗揚げ。以来オリジナル作品を発表し続け、スーパー歌舞伎や21世紀歌舞伎組の脚本をはじめ外部でも作・演出家として活躍。92年に岸田國士戯曲賞受賞。扉座以外は、スーパー歌舞伎II『ワンピース』(脚本・演出)、スーパー歌舞伎II『オグリ』(脚本)、パルコ・プロデュース『モダンボーイズ』(脚本)、坊っちゃん劇場『ジョンマイラブージョン万次郎と鉄の7年ー』、歌舞伎『日蓮』(脚本・演出)歌舞伎『新・三国志』(脚本・演出)、『スマホを落としただけなのに』(脚本・演出)、明治座『隠し砦の三悪人』(脚本)、新橋演舞場『トンカツロック』(脚本・演出)など。
かわはらことね○2002年生まれ。児童劇団「大きな夢」出身。最近の出演舞台は、24年悪童会議 第二回公演ミュージカル『夜曲〜ノクターン〜』、22年cube 25th presents 音楽劇『夜来香ラプソディ』、21年ミュージカル『浜村渚の計算ノート』東京芸術祭2021『野外劇 ロミオとジュリエット イン プレイハウス』など。
くがねね○2004年生まれ。新国立劇場バレエ研修所予科12期、2022年扉座研究所入所。最近の出演舞台は、24年扉座第77回公演『ハロウィンの夜に咲いた桜の樹の下で』扉座サテライト『リボンの騎士2024-県立鷲尾高校演劇部奮闘記-』20年新国立劇場バレエ団公演『ドン・キホーテ』など。
こださくらこ○1999年生まれ。出演作品は、最近の出演舞台は、24年ブロードウェイミュージカル『WHERE’S CHARLEY?チャーリーはどこだ!』、23年劇団TipTapブロードウェイミュージカル『High Fidelity』、22年ミュージカル『春のめざめ』、18年ミュージカル座『ひめゆり』など。本年11月にシアター代官山でミュージカル『You Know Me~あなたとの旅~』出演予定。
【公演情報】
公益社団法人日本劇団協議会
「日本の演劇人を育てるプロジェクト」新進演劇人育成公演(俳優部門)
『ドリル魂2024』
作・作詞・演出:横内謙介
出演:アイザワアイ 相星功生 彌永拓志(育成対象者) 川原琴響(キューブ) 唐木翼弥(育成対象者) 久我音寧(育成対象者) 黒田智紀 小多桜子(劇団ひまわり・育成対象者) 執行巧真(育成対象者) 白倉基陽(SET) 髙木静流(育成対象者) 高田遼太郎 田中悠貴 土岐倫太郎(育成対象者) 冨川智加 永瀬結愛(サムライプロモーション) 野田よつば(AADP) 焙煎功一(SET・成対象者) 花渕 嶺 原田優司 バリオス アリアナ 挽田悠誠 三橋マーヤ小春(AADP) 光由(イッツフォーリーズ・育成対象者) 守 敦也(育成対象者)/犬飼淳治 井上珠美
●9/7~15◎すみだパークシアター倉
〈料金〉前売5,500円 当日6,000円 学生券3,500円[当日要学生証](全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈チケット問い合わせ〉扉座 03-3221-0530
〈扉座公式サイト〉http://www.tobiraza.co.jp
【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】